2017年06月30日

第188講「拝むん・拝み」に関する慣用句・言い回しT

うちなあぐち

@ 親(うや)がなしから'暇(いとぅま)ん拝(をぅが)まびたい今日(ちゅう)どぅ遊(あし)ばりる(泊)。
A ううさり、みせえる事(くとぅ)、諸(むる)、拝(をぅが)どぅうやびいん
B 親(うや)がなし、仰(うゐい)し事(ぐとぅ)拝(をぅが)でぃ、他所島(ゆすじま)に渡(わた)やびたん(泊)。
C とおあんせえ、また、明日(あちゃ)拝(をぅが)なびらやあさい。
D 今日(ちゅう)ぬ一時(いっとぅちゃ)やれえ、拝(をぅが)まりみせえん
E あまぬ御主人(ぐしゅじん)、う供拝(とぅむをぅが)でぃ来(く)わ(泊)。
F 波(なみ)ぬ声(くぃい)ん止(とぅ)まり、首里(しゅい)天加那(てぃんじゃな)志(しい)、美(み)御面(うんち)拝(をぅが)ま(ナビ)。
G 年上(しいざ)んかいや「今日(ちゅう)拝(をぅが)なびら」んでぃる言(い)やびいる。

日本語

@ ご両親から休暇も頂いたし、遊べるは今日だけです。
A はい、おっしゃる事は全て、承知いたしました
B 親から拝命し、他所島に渡り(赴任)しました。
C ではまた、明日、お目にかかりましょうね。
D 本日の少しの間なら、ご面会いただけます
E むこうの御主人様を御案内申し上げてくれ。
F 波の音も止まれ、国王様の御機嫌を伺いましょう
G 年上には「今日拝なびら」と言うのです。

【解説】
 「拝むん」(首里語は「拝ぬん」)は応用の広い豊かな謙譲語です。「(神仏を)拝む、祈願する」の意味の他に「拝命する」、「拝見する」、「拝聴する」、「(貴人の行為等を)承る」、「頂く」、「頂戴する」、「仕える」、「侍る」、「機嫌をとる」等の意味があります。士族言葉に対する「照れ」等もあって、日常会話では殆ど使用されませんが、思い切って使用したいものです。なお、未然形の丁寧語には「-なびら」(主に首里語系)と「-まびら」の双方があります。例文中の(泊)は芝居『泊阿嘉』より、(ナビ)は恩納ナビの琉歌から引用し、原文の意味を損なわないように口音で編集した文です。

例文@「暇拝むん」は「暇を頂く」。なお「暇拝まびら」は文脈にもよりますが「では失礼致します」の意味になります。
例文A「拝どおやびん」は「承知致しました」。その古語は「拝留(うぐぁんちゅ)みゆん」で、その古音は「うぐぁんとぅみゆん」。
例文B「仰し事拝むん」は「ご命令・ご指示を賜る」の意味です。
例文C「明日拝なびら」は「また明日お会い致しましょう」、「今日はこれで失礼致します」等の意味となります。
例文D「拝まりみせえん」は「お会いできます」、「御面会できます」の意味です。
例文E「う供拝むん」は「ご同行願う」、「お連れする」、「ご案内仕る」等の意味になります。
例文F「美御面拝むん」は「(貴人の)ご機嫌を伺う」の意味です。「みゅんち」は「うんちゅう(顔色、機嫌)」の敬語。
例文G「今日拝なびら」は「今日(ちゅう)」(こんにちは)の目上に対する敬語で、日本語には直接、対応する語句はありません。
 
【応用問題】
 例文・解説文を参考に箇条文の太字部分を「拝むん」を使う文に直しなさい。
(お供拝でぃくわ、暇拝むん、分かやびたん、拝まりみそおらに、寄し事拝でぃどぅ)。

@ 親(をぅや)ぬ寄(ゆ)し事(ぐとぅ)、聞(ち)ちどぅ、物(むぬ)ん知(し)ゆる。
A 旅(たび)んかい行(い)ちゅるむんやれえ、ゆりい得(い)いらんでえないびらん。
B とお、あんせえ、また明日(あちゃ)やあさい。
C 如(ちゃ)何(あ)がな、あまぬ方(かた)んかい、行(い)ち会(あ)あららに
D うんじゅが御主前(うすめえ)、我(わ)っ達(たあ)家迄(いかやあ)え、御仕(うんちけ)えしんそおれえ
答え:
@ 寄し事拝でぃどぅ。
A 暇拝なびらんでえ。
B 明日拝なびら。
C あまぬ御方、拝まらに。
D 御供拝でぃ来ゃあびれえ。

日本語意訳
@親の訓えを頂いてこそ、道理も分かるのである。
A旅行に行くのであれば、休暇を貰わないばならない。
Bでは又、明日。
Cどうにか、むこうの方々にお会いできませんか。
Dあなたの祖父を私どもの家迄、ご案内なさい。

2017年06月12日

第187講「尻(ちび、しり)」に関する慣用句・言い回しV

うちなあぐち

@ 祝儀座(しゅうじざあ)んじ、酒(さき)注(ち)じゅるばあや、いいくる尻(ちび)躙(にじ)りいすん。
A 歩(あ)っちゆする童小(わらびぐぁあ)ん尻(ちび)すんちゃあし遊(あし)ぶる事(くとぅ)んあん。
B 大道(うふみち)んぜえ尻(しり)いん、見(ん)じゃあ見じゃあし、みしく歩(あ)っき。
C 悪(や)なすがいしいねえ、尻垂帯(ちびたいううび)んでぃ言(い)らりいんどお。
D 夫婦(みいとぅんだ)あ甕(かあみ)ぬ尻一(ちびてぃいち)ち。
E 兄(しいざあ)あ尻(ちび)らあさしが、弟(うっとぅ)お尻(ちび)ふぎばあきやん。
F 尻固(ちびかた)まやあなたい尻(ちび)ぬまあい脱(ぬ)がちゃい、にりとおん。
G 尻肉(ちびじり)ぬ痛(や)まさんねえし、尻敷(ちびし)ちなんかい座(い)ら。

日本語

@ 祝いの座で酒を注ぐ場合は、大抵、膝行する
A 歩ける幼児でも、にじって遊ぶ事がある。
B 大通りでは、後方も見ながら、注意して歩け。
C 駄目な衣裳を纏うと、だらしない格好と言われるぞ。
D 夫婦は(死後、)同じ骨壷に収められるものである。
E 兄はきびきびしているが、弟は締まりがない者である。
F 便秘になったり、脱腸したり、厭だ。
G を痛めないように、敷物に座ろう。
  
【解説】
 尻たんだ(臀、たぶら、肉体の太っている部分)。尻さじらあ(尻が痩せて骨が出ている者)。尻ぬまあい(直腸、尻の穴等)。尻ぬみい(尻の穴)。尻塔頭(尻の尖った者)等については単語として扱い紹介を省きます。

例文@「尻(ちび)躙(にじ)りい」「いざる事」、「にじる事」の意味です。
例文A「尻すんちゃあ」は「尻を引きずる」の意味ですが特に幼児が「にじる事」又「後締めをしない事また者」の意味。その動詞は「尻すんちゅん」です。
例文B「尻い」は「後」、「後方」の意味ですが、「後(しりい)」の可能性もあります。
例文C「尻垂い」は「尻肉が垂れている事」。「尻垂帯」は「尻まで垂れ下がった帯」の意味で「だらしない」、「締りがない」の意味になります。男について言います。
例文D「甕ぬ尻一ち」は「(死後)同じ甕(骨壷)に入れる事」、「死後一緒になる」意味の「諺」です。
例文E「尻らあさん」は「かいがいしい」、「(動きや働き振りが)てきぱきしている」。転じて「素晴らしい」の意味。但し、「素晴らしい」の意味での「ちびらあさん」は「尻」とは関係ないとの考えもあります。
例文F「尻固まやあ」は「便秘」また「オオバキ(植物)」の意味もあります。オオバキはユウナ等と共に、トイレットペーパーの代用でした。「尻ぬまあい」は「直腸」。「尻ぬまあい脱がすん」で「脱腸する」の意味
例文G「尻じり」は「尻肉」、「尻敷ちな」は「尻に敷くもの」つまり「茣蓙」等「敷物」の意味です。
  
【応用問題】
 例文・解説文を参考に箇条文の太字部分に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(尻固まやあ、尻(ちび)躙(にじ)りい、尻らあさん、尻口ぬあたらん、尻垂帯風儀やん)。

@ 汝(やあ)衣(ちん)着(ち)い体形(たなり)え、風儀(ふうじ)ん無(ね)えらん
A 二才(にいせえ)達(たあ)ぬ爬龍(はありい)ぬ漕(くう)うじい様(よう)や、見事(みぐとぅ)やん
B ちしとおれえ、ズビンぬ葉(ふぁあ、はあ)、煎(し)じてぃ飲(ぬ)めえ。
C 彼(あり)え尻(ちび)すんちゃあんでぃち勘(かん)違(ちげ)えさっとおん。
D 女弟(ゐなぐうっと)お畳座(たたんざあ)ぬ蝿(ふぇえ)追(ゐい)い放(ほう)ゆんでぃち、尻(ちび)すんちゃあそおたん。
答え:
@ 尻垂帯風儀やん。
A 尻らあさん。
B 尻固まやあなとおれえ。
C 尻ふぎばあき。
D 尻(ちび)躙(にじ)りい。

日本語意訳
@君の服の着こなしはみっともない。
A青年達のハーリーの漕ぐ様は素晴らしい。
B便秘しているならスビンの葉を煎じて飲め。
C彼は締りがないと勘違いされている。
D妹は畳座の蝿を追い払おうと、にじり動いていた。

2017年05月31日

第186講「尻(ちび)」に関する慣用句・言い回しU

うちなあぐち

@ 子(くぁ)ん達(ちゃあ)や親(をぅや)ぬ家(やあ)んじ尻(ちび)ゆらりてぃ、又(また)尻長(ちびなが)さんあん。
A 彼(あり)え我(わあ)が尻尖(ちびとぅが)やあやくとぅんでぃち目(みい)ぬ尻(ちび)しん見(ん)だん
B とお、今迄(なままでぃ)、言(い)ちゃる事(くとぅ)、尻(ちび)括(くん)ち取(とぅ)らし。
C 尻(ちび)軽(が)っさる人(ちゅ)お尻(ちび)重(んぶ)うとお変(か)わてぃ片時(かたとぅち)ん尻(ちび)平(ふぃら)きらん
D 主(すう)や子(くぁ)ぬ尻(ちび)拭(ぬぐ)やあしみらってぃ、にりとおいぎさん。
E 尻(ちび)たっとぅうしいねえ、測(はか)やあ虫(むし)ぬ如(ぐとぅ)どぅある。
F 尻(ちび)退(し)んちゃあし後(あとぅ)、とおなたれえ、尻抜(ちぶぬ)ぎけえそおん
G 彼(あり)が尻(ちび)引(ふぃ)ち前(めえ)引ちすくとぅ、我(わん)ねえ座(いい)尻んちかんさ。

日本語

@ 子供たちは実家でだらだら過ごし、また長居もする。
A 彼は私が怠け者だからといって、軽蔑して無視している
B さて、今まで発言した事の総括してくれたまえ、。
C 気軽に動く者不精者とは違い片時も腰を下さない
D 親は子の失敗の後始末をさせられて、呆れているようだ。
E うつ伏せになって尻を持ち上げたら、尺取虫のようだ。
F 後退りした後、終には、こっそり逃げてしまった
G 彼が身辺をうろうろするから、私は落ち着けないのさ。

【解説】
例文@「尻ゆらりゆん」は「無駄に過ごす」。その名詞形「ゆらりやあ」は「無駄に過ごす人」。「尻長さん」は「長居する」。その名詞形「尻長」は「長居」、「尻長あ」は「長居する者」の意となります。

例文A「尻尖やあ」は「(座って)尻を曲げて尖らしている者」の意味。転じて「怠けている者」の意味です。「目ぬ尻」は「まなじり」。「目ぬ尻しん見だん」は「ほんの一寸も見ない」の意味。転じて「(軽蔑して)無視する」の意味です。
例文B「尻括じゅん」は「締め括る」、「総括する」等の意味。他に琉歌等の「下句を歌う」の意味もあります。
例文C「尻軽っさん」は「てきぱき働く(動く)」。「尻」に格助詞「の」が付く場合の前講の例文Gとは意味が違います。「尻重う」は「腰が重く動こうとしない者」、「不精者」等の意味。「尻平きゆん」は「腰を下す」の意味。
例文D「尻拭やあ」は「後始末をする者」、「結論」、「トイレットペーパー」等の意味。「尻拭ゆん」はその動詞です。
例文E「尻たっとぅう」は「うつ伏せになって尻を上に持ち上げている状態」を言います。
例文F「尻退んちゃあ」は「後退りする事」。その動詞は「尻(ちび)退(し)んちゅん」です。「尻抜ぎ」は「(器の)底が抜ける事」、「こっそり逃げる事」の意味です。次講の「尻(ちび)擂(す)んちゅん」との違いに注意してください。
例文G「尻引ち前引ち」は「身辺をうろうろすること」。「座(い)い尻(ちび)んちかん」は「座る場所を暖める暇もない様子」から転じて「落ち着かない様子」の意味になります。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に箇条文の太字部分に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(尻ぬ目しん見だん、尻重う、尻引ち前引ち、座尻んちかん、尻長さん)。

@ じんぶん腐(くさ)らあや、まあぬ会社(くぁいしゃ)んかいん居(をぅ)ん。
A 人(ちゅ)なかい、うすまさ、かかい縋(しが)いさってぃ、仕口(しくち)んならぬ。
B 七月(シチグァチ)ぬ親戚(ゑえか)巡(みぐ)いぬばあや長居(ながいい)する人(ちゅ)お、いきらさん。
C 儲(もう)き尽(ずく)んかい目(みい)ん振上(ふや)ぎらんでぃんさん人(ちゅ)ん居(をぅ)ん。
D 子(くぁ)ん達(ちゃあ)ぬ後々(あとぅあとぅ)ぬ事(くとぅ)、考(かんげ)えいねえ、肝(ちむ)んやしまらん
答え:
@ 尻重う。
A 尻引ち前引ち。
B 尻長さる。
C 目ぬ尻しん見だん。
D 座尻んちかん。

日本語意訳
@怠け者はどこの会社にもいる。
A人に酷く付き纏われたら仕事もできない。
B盆の親戚巡りで長居する人は少ない。
C儲け事に目を向けようとしない人もいる。
D子供たちの将来の事を考えると落ち着かない。



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