2017年07月29日

第191講「負き・負きゆん」に関する慣用句・言い回し1

うちなあぐち

@ 薬負(くすいま)きする事(くとぅ)んあくとぅ、薬(くすい)や良(い)いむん悪(や)なむんやん。
A 夏負(なちま)きんさんぐうとぅう、たんきみそおりよ。
B 今(なま)あ、どぅく物(むん)ぬまんでぃ、銭(じん)ぬどぅ負(ま)きとおる
C 長雨(ながあみ)ぬ節(しち)ねえ、作(つく)いむづくいん、水負(みじま)きする事(くとぅ)んあん。
D 雨頼(あみたる)がきとおたる昔(んかし)え、干上(ひゃあ)い負(ま)きする事(くとぅ)あたん。
E 櫨負(はじま)きしいねえ櫨枝(ゆだ)んかい石(いし)くんち物退(むんぬき)とぅしちゃん。
F 昔(んかし)え、弟負(うっとぅま)きんでぃちんあたしが、今(なま)あ聞(ち)かん。
G まっふっくぁんじ、畑仕口(はるしくち)しいねえ、日負(ふぃいま)きすんどお。

日本語

@ 薬の副作用等もあるし、薬は良し悪しである。
A 夏痩せ等しないように、ご自愛ください。
B 現代はあまりにも品数が多く、買う金の方が足りない
C 梅雨の季節には、作物が水枯れする事もある。
D 雨頼みだった昔は旱魃で作物がダメになる事もあった。
E 櫨被れしたら、櫨の枝に石を括りつけ厄払いとした。
F 昔はおとみづわりというものもあったが今は聞かない。
G 真夏の真昼に農作業をすると、日射病等になるぞ。

【解説】
 この講の慣用句・言い回しについては、「勝ち負き」、「負き戦」等、特に説明を要しない語句および別講で取り上げた「言い負まかすん」等についは省略させていただきます。

例文@「薬負き」は「薬の副作用」、「薬によって引き起こされる様々な薬害」の意味。首里語では「薬や」は「薬(くせ)え」。
例文A「夏負き」は「夏の暑さで食欲がなくなって痩せたり体調不良になったりする事」で「ふみち負き」も同じ意味。
例文B「銭ぬ負きゆん」は「市場や店の商品が多すぎて有金では変えない状況を自虐的に比喩した句」です。
例文C「水負き」は「農作物が水枯れする事」の意味の他、「他郷の水に合わないで体調を崩す事」の意味もあります。
例文D「干上い負き」は「旱で作物が枯れる事」。ほぼ同じ意味で「太陽負(てぃいだま)き」もあります。なお、地方では「干上い」より「さあい」の方が多く使われている感があります。
例文E「櫨負き」は「櫨アレルギーによって引き起こされる皮膚疾患」。アレルギー系皮膚疾患を意味する「負き」には、この他、「漆負(うるしま)き(漆被れ)」、「人肥(ちゅぐぇえ)負(ま)き(人糞被れ)」、「いいふ負き(泥濘被れ)」等もあります。
例文F「弟負き」は「乳児にいる母親が次の子を妊娠して悪阻になるため、乳児が弱る事」の意味で、「弟見痩がり」とも言います。
例文G「日負き」は「日射病」や「日焼け」する事の意味です。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に箇条文の太字部分に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(干上い負き、銭ぬどぅ負きとおる、日負き、夏負き、水負き)。

@ かわてぃ、暑(あち)さる夏(なち)え、熱気負(ふみっちま)きし、物(むぬ)ん美味(まあ)くんねえん。
A 川(かあ)から大水(うふみじ)ぬ流(なが)りてぃ来(ち)ゃあに、庭(なあ)ぬ花木(はなぎ)ん水腐(みじぐさ)りけえそおん。
B ありくり買うりんでぃ、孫ぬあぎまあちょおしが、銭(じん)ぬ足(た)らん。
C 今度(くんど)お餓死年(がしどぅし)がやら、雨(あみ)ん降(ふ)らな、作(つく)い物(むぬ)ん何(ぬう)んならんなとおん。
D 彼(あり)え、地黒(ぢいぐる)うやくとぅ、太陽(てぃいだ)負(ま)きしん、分(わ)からん。
答え:
@ 夏負き
A 水負き。
B 銭ぬどぅ負きとおる。
C 干上い負きそおん。
D 日負き。

日本語意訳
@とりわけ、暑い夏は心身が弱って食欲もない。
A川が氾濫して、庭の花木も水枯れしてしまった。
Bあれこれ買えと、孫にせがまれているが、金が足りない
C今年は旱魃なのか、雨も降らないし、作物はダメになった
D彼は地黒なので、日焼けしても分らない。

2017年07月14日

第190講「拝むん・拝み」に関する慣用句・言い回しV

うちなあぐち

@ 尊(とうとう)前(めえ)拝(をぅが)みえ、清(ちゅ)ら拝みしんでぃ、言(い)らっとおん。
A 井戸(かあ)拝(をぅが)みん、年頭(にんとう)拝んぬ一(てぃい)ちやいびいん。
B 耳(みみ)ぬ根(にい)ゆ開(あ)きてぃ、みしく、聞(ち)ち拝(をぅが)み(忠臣)。
C 御腰(みくし、みしい)拝(をぅが)んやくとぅんでぃち、気遣(ちぢけ)えばしするな。
D 御内裏(うゑえだい)拝(をぅが)ぬんなてぃ、今(なま)からや楽(らく)ゆ誇(ふく)やびら。
E 嶋里(しまさとぅ)ん拝(をぅが)でぃ、取(とぅい)位(くれえ)ん、孵(し)でぃてぃ(忠臣)。
F 物呉(むぬくぃ)ゆしどぅ我(わ)が御主(うしゅう)、拝(をぅが)でぃ孵(し)でぃやびら
G わ身(み)や按司(あじ)しゅいゆ、拝(をぅが)でぃ遊(あし)ば(まりをどり)。

日本語

@ 祖先拝みぬかりなく、祈願せよと言われている。
A 井戸参拝年始の参拝の一つです。
B 耳の穴を開いて、丁寧に、拝聴しなさい
C 貴人の腰揉みだからといって、気遣いなどしなくてよい。
D 官職も拝命し、これからは安楽を喜びましょう。
E ご領地も拝受し、位階(官職)も賜り。
F 食わせる者こそ我が王様、敬い申し上げます
G 私は按司様にお供仕り、楽しもう
  
【解説】
「忠臣」は組鳥「忠臣蔵身替の巻」から、「まりをどり」は舞謡「まりをどり」から借用したものです。

例文@「尊前拝み」は「祖霊神を拝む事」、「祖先崇拝(供養)」。「清ら拝み」は「ぬかりなく、ちゃんと拝む事」。
例文A「井戸拝み」は「自然の湧水所」で聖地の一つです。「年頭拝ん」は「年頭祈願」。文例には紹介していませんが、「初(はち)拝(をぅが)み」は本来、「生涯で初めての拝み」の意味ですが、「年頭拝ん」との混同も見られます。
例文B「聞ち拝むん」は「拝聴する」の意味。組踊「忠臣身替の巻」から借用。
例文C「御腰拝ん」は「(貴人の)腰揉み(按摩)をする事」。普通は「腰叩(くしたた)ち」を使います。
例文D「御内裏拝ん」は「官職を拝命する事」、「仕官」の意味。
例文E「嶋里拝むん」はここでは「領地を拝受する」の意味です。
例文F「拝でぃ、孵でぃやびら」は「ご尊敬申し上げます」。
例文G「拝でぃ遊ば」は文脈から「お側に仕えて楽しもう」。「按司しゅい」の「しゅい」は『沖縄語辞典』では発音は「すい」、当て字は「添」、意味は「―様」。なお、同辞典では単語としては集録されていませんので「?azisui」参照のこと。「おもろさうし」注釈では「治める者」、「支配者」という意味があるとして「襲い」、「畏」等を当てています。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に箇条文の太字部分を「拝むん」を使う文に直しなさい。
(御酌拝でぃ、今帰仁拝み、聞ち拝み、清ら拝み、社長職拝でぃ)

@ 我(わ)っ達(たあ)や、今度(くんど)お、今帰(なち)仁(じん)御廻(うまあ)いんかい当(あ)たとおびいん。
A 御願事(うぐぁんぐと)お、だてんさんでえ、御願不足(ぶすく)んでぃ言(い)らりんどお。
B 御酌(うしゃく)し呉(くぃ)みそおち、畏(うす)りぬ当(あ)たやびらん。
C 社長職(しゃちょうしゅく)、孵(し)でぃやびてぃ、たたあしい冥加(のうが)やいびいん。
D 鳴(な)い物(むん)、習(なら)ゆるばあや、良(ゆ)う聞(ち)かんでえ、取(とぅ)い覚(うび)難(がた)なさん。
答え:
@ 今帰仁拝み。
A 清ら拝み。
B 御酌拝でぃ。
C 社長職拝でぃ。
D 聞ち拝ま。

日本語訳
@私たちは今年は今帰仁拝みをする番に当たっています。
A祈願・供養事はぬかりなくやらないと、祈願不足と言われるよ。
Bお酌を頂き、勿体無(の)うございます。
C社長職を拝命し身に余る光栄です。
D楽器を習う場合は、よく聞かないと、習得し難い。

2017年07月04日

第189講「拝むん・拝み」に関する慣用句・言い回しU

うちなあぐち

@ 今(なま)ぬ暇(まあど)お、親切(しんじち)拝(をぅが)でぃ、三拝(にふぇえ)どぅ拝みやびる
A 拝(をぅが)まっとおんでぃちん知(し)らな、ゆくん、あめえとおん。
B あいとお、くれえ、拝(をぅが)ん遠(どぅう)さいびいんさい。
C 御側(うすば)拝(をぅが)でぃ、くりやかぬ果報事(かふぐとぅ)や無(ね)えやびらん。
D 実(じゅん)に、組踊(くみをぅどぅい)や拝(をぅが)ん事(ぐとぅ)やいびいんやあさい。
E あんせえ、御行逢(ういちぇえ)え拝(をぅが)でぃ、御(うん)ちゅう拝(をぅが)なびら。
F 心付(くくるぢく)く者(むぬ)や肝留(ちむとぅ)みてぃ拝(をぅが)み(組踊「孝行之巻」より)。
G なあ拝所(うがんじゅ)んかいや、いいくる、拝(をぅが)ん毛(もう)(野)んあん。

日本語

@ この度は、お世話になりありがとうございます
A 煽てられているとも知らず、余計、付け上がっている。
B これこれは、御無沙汰いたしております
C お側にお仕えでき、これ以上、幸せな事はありません。
D 本当に、組踊は見応えがありますね。
E では、お会いして、ご機嫌をおとりしましょう。
F 我と思う者は、真剣にご覧あれ
G 各拝所(はいしょ)には、多くの場合、拝所広場もある。

【解説】
 「拝むん」は慣用的に固定した意味がある場合と、文脈から判断する場合があります。

例文@「親切(しんじち)拝むん」は「世話をして頂く」。「しんじち」は「親切」、「真心」、「誠実」等の意味の他に、転じて「世話」の意味。ちなみに、「世話(しわ)」は「心配」に転じています。「三拝拝むん」は「感謝致す」、「ありがとうございます」。
例文A「拝まっとおん」は「拝むん」の受動進行形で、「甘く見られている」、「煽てられている」の意味。
例文B「拝ん遠さん」は「御無沙汰している」の意味です。
例文C「御側拝むん」は「(貴人の)お側に仕える」の意味です。
例文D「拝事」は「見事、見応えあるもの」の意味の他、「嘲笑の対象」にも言います。
例文E「御行逢拝むん」は「お会いする」、「御面会する」。「御ちゅう拝むん」は「ご機嫌をとる」。
例文F組踊「孝行之巻」から借用。ここでの「拝み」は文脈(大蛇を鎮める為の餌食を募る立て札を村人らに説明する場面)から「ご覧あれ」です。
例文G「拝所」は「神を祭ってある所」で集落等にある小さなものは「拝(をぅがん)」。「拝ん毛」は「拝所広場」。なお、宗教的には「御願(うぐぁん)」は主に「祈る行為」について、「拝」は「拝む行為」の他、「聖地」、「拝所」について言いますが、同じ意味とする説(『沖縄語辞典』等)もあります。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に箇条文の太字部分を「拝むん」を使う文に直しなさい。
(にふぇえどぅ拝びやびる、見い遠さい、拝ん事、拝まってぃ、お側拝でぃ)

@ 今迄(なままでぃ)、御育(うすだ)てぃし呉(くぃ)みそおち、にふぇえでえびる
A 彼(あり)ぬ肝高(ちむだかゐなぐ)女ぬ御(うん)ちゅう拝(をぅが)んそおし(せ)え、見(み)い物(むん)やっさあ。
B 思里(うみさとぅ)ぬ御側寄(うすばゆ)いんなてぃ、百(むむ)果報(がふう)やいびいん。
C 見(み)い遠(どぅう)さいびいしが、まあんかい居(をぅ)みせえびいたが。
D 彼(あり)え、どぅく、褒(ふ)みらり強(ぢゅう)さぬ、却(けえ)てえ、何(ぬう)んならんなとおん。
答え:
@ にふぇえどぅ拝みやびる。
A 拝ん事。
B 御側拝でぃ。
C 御拝ん遠さい。
D 拝まってぃ。

日本語訳
@今まで、生活を援助していただきありがとうございます。
A彼が高慢ちきな女の機嫌とりをしているのは見物だな。
B彼氏のお側を居れて大変幸せです。
Cお久し振りですが、どこにいらしたのですか。
D彼は褒め殺しされて、却って、役立たずになってしまった。



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