第185講「尻(ちび)」に関する慣用句・言い回しT

うちなあぐち

@ 尻(ちび)ちちいしやあに、尻ぬぐっすい、痛(や)まちゃん。
A 彼(あり)が話(はなしい)や通(とぅう)ち、尻(ちび)ん切(ち)りらんしが、如何(ちゃあ)がなとおが。
B 今度(くんどぅ)ぬ長(なが)でえや尻(ちび)どぅなとおいびいたる。
C 親(をぅや)ぬ家(やあ)んじ(ぜ)え、すしん無(ね)えらな、尻費(ちびだ)ありどぅそおる。
D 叫(あ)びい強(じゅう)さる人(ちゅ)お、する内(うち)、尻口(ちびくち)ぬあたらんなゆん。
E 先(ま)じ(ぜ)え、彼(あ)っ達(たあ)、後尻追(あとぃちびうう)うてぃ尻探(ちびさぐ)てぃんだな。
F 尻(ちび)ん無(ね)えん人(ちゅ)んかい尻(ちび)糞(くす)うんでぃ言(ゆ)るばあんあん。
G 尻(ちび)ぬ軽(が)っさしぬ当(あ)たり前(めえ)あらんし(せ)え昔(んかし)ん今(なま)ん同(い)ぬむん。

日本語

@ 餅をついて、尾てい骨を痛めた。
A 彼の発言は何時も煮え切らないが、どうなっているんだ。
B 今年の長距離競争はビリ(最語尾)でした。
C 実家ではする事がなく、長座して時間を潰すばかりだ。
D 喋り過ぎる人は、いずれ、辻褄が合わなくなる。
E 先ずは彼らを尾行して探りを入れてみよう。
F 後始末をしない者無責任者'''と言いう場合もある。
G 尻軽が普通でないことは昔も今も同じ。

【解説】
 「尻(ちび)」は日本語では「尻(しり)」ですが、「結末」、「始末」、「器の底」、「文末」等の意味に転用され、その慣用句・言い回しは日本語とは大きく異なります。地域によっては「尻の穴を意味する『まい』『まあい』がその意味になります。
例文@「尻ちちいしいゆん」は「尻餅をつく」。「尻ぬぐっすい」は「尾?骨」の意で「尻垂(ちびた)いぐっすい」とも言います。
例文A「尻ん切りらん」は「煮え切らない」、「曖昧である」等の意味です。
例文B最後尾という意味の「尻」と同じ意味の卑語、「尻糞(ちびくす)う」には例文Fに見るように、「後始末をしない者」、「無責任」という意味もあります。
例文C「尻費あり」は「長く座って無駄に時間を潰す事」。「費(だ)あり」は「何かに心身や時間等を(無駄に)費やす事」。
例文D「尻口ぬ合たらん」は「辻褄が合わない」、「矛盾する」の意味。「ああきゆん」。
例文E「尻探ゆん」は「(密かに)探りをいれる」の意味。「尻探い」はその名詞形です。
例文F「尻ん無え(ら)ん」は「後始末をしない」の意味で「尻ぬ無え(ら)ん」とも言います。「尻糞う」は例文B「ビリ」の意味の他、「後始末をしない者」、「無責任」の意味があります。後者を「尻拭らぬう」とも言います。
例文G「尻ぬ軽っさん」は「(女が)浮気である」の意味です。次講の「尻軽っさん(てきぱきと働く)」とは意味が異なります。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に箇条文の太字部分に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(尻ん切りらん、尻探ゆん、尻費あり、尻口ぬあたらん、尻糞う)。

@ 汝(い)っ達(たあ)が言し(せ)え、あいゆかん、ああきとおしが、実(じゅん)にやみ。
A 政治(しいじ)さあ達(たあ)ぬ人(ちゅ)ぬ話(ばなしい)や、いいくる、切(ち)り端(ふぁ)ん無(ね)えらん
B 尻拭(ちびぬぐ)いさん者(むん)、頼(たる)がきたい、腰当(くしゃ)てぃさんし(え)えまし。
C 控(ふぃけ)えぬ選手(いえらびんちゅ)おベンチんじ、暇(ふぃま)だありびけえそおん。
D 実否(じっぴ)ぬ事(くと)お、窺(うかが)がてぃ見(ん)んだでえ分(わ)からん。
答え:
@ 尻口ぬあたらん。
A 尻ん切りらん。
B 尻糞う。
C 尻費あり。
D 尻探てぃ。

日本語意訳
@君らの言う事はとても矛盾しているが、本当なのか。
A政治家の話は大抵曖昧である。
B無責任な者を頼ったり後ろ楯にしない方がよい。
C控えの選手はベンチで退屈している。
D真偽については探って見なければ分らない。

第184講「銭(じん、しん)」に関する慣用句・言い回しV

うちなあぐち

@ 芝(しば)居(い)ぬ門賃(むんちん)やれえ、前銭(めえじん)ぬどぅ安(やっ)さる。
A 銭事(じんぐとぅ)し思(うみ)い病(やみい)しいねえ、性(し)持(むち)ち迄(までぃ)んけえ変(か)わゆん。
B 交界銭(くげえじん)銭捨(じんしてぃ)てぃ事(ぐとぅ)がやら、為(たみ)なゆるむんがやら。
C 銭抜(じんぬ)がさってぃ、模合(むええ)ぬ掛(か)き銭(し)ぬん払(はれ)えゆさんなとおん。
D 得(い)いり銭(じん)、取(とぅ)らすんでぃち、銀行(じんこう)んじ、銭(じん)変(け)えやびたん
E うぬ銭(じん)入(い)り目(み)え、実(じち)え、銭(じん)使(ぢけ)えぬ粗(あら)さる故(ゆい)どぅやたる。
F 銭(じん)いみやあんかいや銭や引(ふぃ)っちりびっちりどぅ払(はら)ゆる。
G 銭(じ)のお銭使(じんぢけ)えどぅやる、銭呉(じんくぃ)やあとお友(どぅし)え、すなけえ。

日本語

@ 芝居の入場料なら前金の方が安い。
A 金銭事で思い悩むと、性格まで変わってしまう。
B 交際費は浪費なのか、有効なものなのか。
C 金を横取りされて、模合の掛け金も払えなくなった。
D お小遣いを上げようと、銀行で両替しました
E その多多出費は、実は金遣いが粗い所為であった。
F 借金取りには、借金は小刻みにしか返済しない。
G 金は大切に使うものだ金をばら撒く奴の友になるな。

【解説】
 「銭」に纏わる諺も多くあります。一つに「銭ぬ無えん沙汰や(ぬ)馬ぬ糞心」というのがありますが、「解釈」は二通りあります。一つには「長い間貧乏をしていると馬の糞のように腐ってしまう」。二つに「蹴り蹴りままに転でぃ行ちゅさ」という文句を付け足して、「金の無いというのは馬の糞のようなものだ、蹴れば蹴られるままに転がっていく」。

例文@「前銭」は「前金」。
例文A「銭事」は「金銭事」。
例文B「公界銭」は「交際費」「銭捨てぃ事」、「無駄遣い」等の意味。
例文C「銭抜がすん」は「金を横取りする」。「掛き銭」は「(模合・保険などの)掛け金」。
例文D「得いり銭」は「小遣い」、「お年玉」等の意味で、「得いい銭」とも言います。「銭変えゆん」は「両替をする」。
例文E「銭入り目」は「出費が多い事」、「費用がかかる事」の意味。「銭遣え」は「金遣い」の意味。
例文F「銭いみやあ」は「借金取り」。「いみゆん」は「催促する」、「請求する」の意味。「銭引っちりびっちり払ゆん」は「金を小刻みに払う」。
例文G「銭のお銭遣え」は「金は大切に使うもの」という意味の慣用句。「銭呉やあ」は「やたらと金をばら撒く人」。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に箇条文の太字部分に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(銭のお銭使え、銭入り目、得いり銭、引っちりびっちり払ゆし、銭捨てぃ事)。

@ 童(わら)ん達(ちゃあ)ぬ得(い)いたる銭小(じんぐぁあ)や、あったに無(ね)えらんなゆん。
A 公界(くげえ)すしん、また、銭費(じんてえ)えし事(ぐとぅ)やいびいさ。
B うっかあ、小(くう)てんなあ払(ばら)ゆしどぅまし(せ)えあらに。
C いちゃんだん銭呉(じんくぃ)ゆる事(くとぅ)やかん銭(じん)だありな事お無(ね)えん。
D 銭のお、あたらささし、使ゆるむぬ。
答え:
@ 得いり銭。
A 銭入り目。
B 引っちりびっちり払ゆしどぅ。
C 銭捨てぃ事。
D 銭のお銭使え。

日本語訳
@子供たちのお小遣いは、あっという間に無くなる。
A大勢招いて御馳走するのは出費が嵩むものですよ。
B借金は少しづつ返せば良いではないか。
C無駄に金をばら撒く事より浪費な事はない。
D金は大切に使うもの。

注:「正銭」は「本物のお金」という意味ではなく、旧銭(鉄銭一厘)に対して「新銭」の「一厘銭」という意味です。また、「固銭(くふぁじん)」は旧18銭の別称です。

第183講「銭(じん)」に関する慣用句・言い回しU

うちなあぐち

@ 纏(まる)ち銭(じん)ぬあれえ、銭箱(じんばく)添(し)いじい銭蔵(じんくら)んかい、かじみしが。
A 銭高(じんだか)計算(さんみん)し見(ん)ちゃれえ、銭(じん)ぬふぎとおる事(くとぅ)ぬ分(わ)かたん。
B 銭五十(じんぐんじゅう)ん、銭持(じんむ)ちん、同(い、ゆ)ぬ如(ぐとぅ)、銭抱(じんだ)ちゅる癖(くし)ぬあん。
C 昔(んかし)え小(ぐ)ま銭(じん)や銭縄(じんなあ)んかい通(とぅう)ち、銭袋(じんぶくる)お使(ちか)あらんたん。
D 銭(じん)ぶらありそおる時(ばあ)や募銭(ぬちじん)し、しがりゆる事(くとぅ)んあん。
E 端物銭(はむんじん)やてぃん、貯(た)みいねえ、大銭(うふじ)ぬんかいなゆん。
F 前(めえ)や銭腰(じんくし)掛(か)きとおたしが、今(なま)あ引(ふぃ)っちゃてぃるうそおん。
G 買(こ)い物(むん)する時(ばあ)や、返(けえ)し銭(じ)ぬんさんみんしから、払(ばら)り。

日本語

@ 纏まった大金があれば、金庫ごと金蔵に保管するのに。
A 金額を計算してみたら、欠損している事が分かった。
B 守銭奴金持ちも、同じように金を隠し持つ癖がある。
C 昔は小銭銭縄に通し、財布は使わなかった。
D お金が不足している時は醵金して、工面する事もある。
E はした金でも、貯めれば、大金になる。
F 以前は金を鼻にかけていたが、今は借金三昧している。
G 買い物をする場合は、つり銭を計算してから払え。

【説明】
 「紙幣」は「紙銭(かびじん)」で、その卑語「紙銭(かみじ)なあ」を多く使います。「硬貨」は「鉄銭(かにじん)」、卑語は「鉄銭(かにじ)なあ」。

例文@「纏(丸)ち銭」は「纏まった金」、「大金」の意味で、「纏(丸)し銭」とも言います。「銭箱」は「金庫」、「銭箱」の意味の他、転じて「稼ぎの良い商品等(ドル箱)」、「稼ぎの良い女郎(尾類)」にも言います。「銭蔵」は「金蔵(倉)」。
例文A「銭高」は「金額」。「銭ぬふぎゆん」は「帳簿に穴が空く(つまり欠損する)」の意味。
例文B「銭五十」は「(たかが)五十銭も惜しむ」という意味合いから「けちんぼ」、「守銭奴」の意味。「銭持ち」は「金持ち」の意味。その卑語である「銭持ちゃあ」を多く使います。「銭抱ちゅん」は「お金を隠し持つ」の意味に用います。
例文C「小ま銭(又は「小(ぐ)な-」)」は「小銭(こぜに)」。「銭縄」は「穴の空いた小銭を通す紐の類」。「銭袋」は「巾着」や「財布」の事で「銭入りい」、「銭入りやあ」とも言います。
例文D「銭ぶらあり」は「お金不足」。「募銭」は「お金を募ること」で「募銭すん」はその動詞。
例文E「端物銭」は「はした金」。「大銭」は「高額紙幣」又は「大金」の意味。地方では「まぎ銭」とも言います。
例文F「銭腰掛きゆん」は「お金を鼻にかける」。「引っちゃてぃるう」は「引き上げる」、「一時的に(金銭などを)借りる」の意味の動詞「引っちゃてぃゆん」の名詞形で「しょっちゅう借金している者」の意味に転じています。
例文G「返し銭」は「つり銭」、「おつり」、又は「戻し金」の意味で単に「返(けえ)し」という場合もあります。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に箇条文の太字部分に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(銭ぶらありし、纏ち銭ぬありわる、銭高、銭腰掛きてぃ、募銭し)

@ 銭募(じんぬ)ちゃあしいし迄(までぃ)、議員(じい)ぬんかい立(た)っちゃん。
A 近頃(ちかぐる)お銭持(じんむ)ちやんでぃち、うせえゆる人(ちゅ)お居(をぅ)らん。
B 銭(じん)ぬはがなさぬ、思(うみ)いちっとぅ、買(こ)おい物(むん)ぬんならん。
C 銭(じ)ぬん大概(てえげえ)、多(うほお)くありわる、ゆちふぁぬあんでぃ言(ゆ)る。
D 御殿(うどぅん)、売(う)ゆる値(でえ)(代)や、大親(うふや)ぬどぅ分(わ)かやびいる。
答え:
@ 募銭し。
A 銭腰掛きゆる。
B 銭ぶらありし。
C 纏ち銭ぬありわる。
D 銭高。

日本語意訳
@醵金してまで議員に立候補した。
A最近は金持ちだからと威張る人はいない。
Bお金不足で、思い切って、買い物もできない。
Cお金もある程度多く持ってこそゆとりがあるというのである。
D士族屋敷を売却する金額は執事が知っています。



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