2010年02月01日

第9講 疑問・感嘆詞「がや(や)」

日本語

@あれは、何でしょうか。
Aあれは、何だろうか。
Bさあ、きっと、飛行機ではないでしょうか。
Cさあ、きっと、飛行機ではないか。
Dあの人は、誰なのでしょうか。
E校長でいらっしゃるのでしょうか。
Fあの子は、どこの誰だろうか。
Gあの子は、あんたんち隣の太郎君じゃないのか。
Hメールは、来ているだろうかね。
I今年の冬は、寒いだろうかね。

うちなあぐち

@ありえ、何(ぬう)やいびいがや
Aありえ、何やがや
B知(し)ら、いやでぃん、飛行機(ひこうち)え、あいびらんがや
C知ら、いやでぃん、飛行機えあらんがや
Dあぬっ人(ちゅ)お、誰(たあ)やみせえがや。目上
E校長(こうちょう)先生(しいんしい)どぅやみせえがや。目上
Fあぬ童(わらび)え、まあぬ誰(たあ)やがや
Gあぬ童え、いったあ隣(とぅない)ぬ太郎(たるう)やあらんがや
Hメールお、来(ち)ょおがやあ
I今度(くんどぅ)ぬ冬(ふゆ)お、ふぃいさがやあ

【解説】
 「がや」は「がやあ」ともなります。文末に感嘆詞「や(日本語の「ね」に近い)」を付ける場合は、「がやあや」となります。疑問を表わすというより、前回の「が―ら」と同じように、本来は推量を表わしますが、疑問文として使われる事は、「が―ら」用法より多いと思われます。
両者の違いを強いて言えば、「が―ら」が疑問文の代用となる場合、婉曲表現になるのに対し、「がや(あ)」は柔らかい疑問を表わすと言えるでしょうか。使い分ける事に神経を使う必要はありません。
また、文中に強調を表わす「どぅ(またはその清音「る」)」があっても、疑問詞「い」を用いず、そのまま「がや」が使われます(感嘆詞優先の法則)。この場合の「どぅ、る」は日本語の「―なの」と訳した方がよいでしょう。例、沖縄語「くりどぅやがやあ」→日本語「これなのだろうか」。
一部の都市部辺りでは、「何やがや(何かな)」の「や」を用いず、「何がや」となる事があります。この「や」は日本語の形容動詞に近い存在動詞です。
  
【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語文に直しなさい。
@魚と肉のどれがいいのでしょうか。
A魚が良いのでしょうか。
B魚と肉とどれが良いか。
C魚がよいだろう(よいのではなかろうか)。
D魚がよいだろうね(よいのではなかろうかね)。

答え:
@魚(いゆ)とぅ肉(しし)とお、何(じ)るお、ましやいびいが。
A魚お、ましえ、あいびらんがや
B魚とぅ肉とお、何ろるお、ましやが。
C魚お、ましえ、あらんがやあ
D魚お、ましえ、あらんがやあや

註:「しし」は家畜等の食用のものを言いますが、「にく肉」は人間の肉にも食用肉も言います。調理用の精肉には特に「あったみ」と言います。関連語に「ぶた豚あったみ」(豚肉)、「ちぬ角あったみ」(牛肉)、「やまあったみ」(猪肉)、「ましし」(赤肉)「あんだ油じし」(脂肪、但しこれは『沖縄語辞典』にはない)」等があります。

2010年02月01日

第8講 疑問と推量の助詞「が―ら」

日本語

@もう、秋になったのでしょうか。
Aもう、秋になったのだろうか。
Bあの人は、誰でしょう(か)。
Cあの人は、誰だろう(か)。
D兄はいらっしゃるでしょうか。
E弟は来るだろうか。
F外は涼しいでしょうか。
 外は涼しいだろうか。
G母はどこにいらっしゃるのだろう。
Hあの子はどこへ 行くのだろう。

うちなあぐち

@なあ、秋(あち)んかい なとおいびい
Aなあ、秋んかい なとお
Bあぬっ人(ちゅ)お、誰(たあ)やいびい。丁寧
あぬっ人お、誰やみせえ。目上
あぬっ人お、誰やんせえ。目上
Cあぬっ人(ちゅ)お、誰(たあ)がやら
D兄(しいざ)あ、めんせえ(さびい)。目上
E弟(うっと)お、来(ち)い
F外(ふか)あ、しださあいびい
 外あ、しださ
Gあんまあや、まあんかいめんせえ。目上
Hあぬ童(わらび)え、まあんかい行(い)ちゅ

【解説】
 例文のような文構造を「が―ら」用法とます。「ら」は疑問助詞として扱われる場合もありますが、基本的には話し相手に返事を求めず、話し手の推量に止まるので推量助詞といえます。但し、この「ら」と疑問助詞「が」をセットで用いると、文全体が疑問文となります。ドアの向こうでノックがして、内側から、「誰がやら(どなたかしら)」と尋ねる場合等もそうです。もちろん、通常の「誰やが」を使ってもよいのですが、尋ねてみても、外に誰も居ない場合もあります。こんな場合は本講の「が―ら」文を用いる方が婉曲的で柔らかい尋ね方になります。なお、「ら」は「らあ」となる場合もあります。

【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語文で表わしなさい。
@何がどうなっているのか、分かりません。
A彼女は君の事を、覚えているだろうか。
B彼らは、何をして良いのやら、分からないとさ。
Cあの人は、今何をしてるのだろうねえ。

答え:
@何(ぬう)何(ぬう)なとおらあ、分(わ)からびらん(註)。
 何ぬ如何(ちゃあ)なとおらあ、分かやびらん(註)。
A彼女(あり)え、汝事(いゃあくとぅ)、覚(うび)いてぃ、居(をぅ)
B彼(あ)っ達(たあ)や何(ぬう)し、済(し)むらあ、分(わ)からんでぃさ。
Cあぬっ人(ちゅ)お今(なま)あ、何(ぬう)そおらあやあ。

註:回答文の@及びAは慣用句として覚えた方がよさそうです。

【関連話題】糸満の民謡「白浜節」の歌詞に「我や白浜ぬ枯り松がやゆら」(私は白浜の枯れ松なのだろうか)」というのがありますが、「やゆら」は「やら」の文語です。

2010年02月01日

弟7講 過去に対する疑問助詞「い」

日本語

@昼前なのにもう昼食を済ましたか。
A不機嫌だったのに、もう機嫌を直してしまったか。
Bあそこの家には熟したバナナの実も多くあったか。
C思いっきり遊んで来ましたか。
D今日の芝居は楽しかったか。
Eそれで、それはそうだったのか。
F皆さん、いらっしゃっていますか。
Gご飯はおいしかったですか。

うちなあぐち

@若(わか)昼間(ふぃるま)どぅやしが、いいな、朝飯(あさばん)うちゅ食(くぁ)てぃ
A変気(ふぃんち)ぷうぷうそうたるむぬ、なあ肝(ちむ)けえ直(のお)ち
Bあまぬ家(やあ)んかいや熟(ん)どおる芭蕉実(ばさない)んまんどおてぃ
C思(うみ)いが如(ぐとぅ)、遊(あし)でぃ来(ち)ゃあびてぃ
D今日(ちゅう)ぬ芝居(しばい)や、いしょうさてぃ?。
Eあんし、うりえ、あんどぅ、やてぃ?。
F諸(むる、むうる、ぶる)、めんそうち?。
G物(むぬ)のお旨(まあ)さいびいてぃ

【解説】
「い」を使う疑問が強調助動詞「どぅ、る」を使用する文や名詞等に付けて使われる事は、第3講、第6講で取り上げた通りですが、本講は過去文において使われる場合についての例です。

◆用言過去文に付く疑問助詞「い」の使われ方と留意点。
1.動詞等の用言に付く場合は進行文であっても、過去の動作や状態に対して問う場合に用いられます。
2.「い」が付く事により動詞音が変化する事があります(註)。この用言に「い」を付ける用法は首里・那覇等で優勢で、「とうい(いいかい)」、「起きみそおちい(おはようございます)」等の一部の慣用的言い回し以外は地方では劣勢です。
例文@「くぁ食てぃい」という言い切り文で、「食べてしまったか」と過去の動作について尋ねる文となります。以下も同様ですので略します。 「朝飯」は日本語の「昼食」の事です(74頁の例文説明参考)。「うちゅ食ゆん」の「うちゅ」は「―してします」の意味の副詞です。
註:「い」を付ける前語尾がイ段音であるために、この「い」自体が脱落して(接続態に似る)用いられる事も多くあります。その場合は、語尾を尻上がりか強く発音します。

例文C 「思いが如」は「うみ思いち切っとぅ」とも言います。

  
【応用問題】
次の過去文を「い」を用いる疑問文に直しなさい。
@うぬ話(はなし)え実(じゅん)に、やたみ。
Aうぬ早(ふぇえ)く、起(う)きみそおちゃんなあ。
Bうんじゅが子(くぁ)あ、なあ、大(ま)ぎくなとおみ。
Cか食むせしえ、何(ぬう)ん、無(ね)えらんどぅ、あたんなあ。
Dむる、諸(むうる)、めんそおちょおいびいたみ。

答え:
@うぬ話え、実に、やてぃい。
Aうぬ早く、起きみそおちい。
Bうんじゅが子あ、なあ、大ぎくなてぃい。
C食むしえ、何ん、無えらんどぅ、あてぃい。
D諸、めんそおちょおいびいてぃい。

日本語意訳:
@その話は本当だったか。
A早くも、起きましたか(「起きみそおちい」は単独では慣用的に「おはようございます」の意味として使用されています)。
Bあなたの子は、もう大きくなったかい。
C食べる物は何もなかったのか。
Dみなさん、いらっしゃっていましたか。



先頭頁 71