2010年02月01日

第12講 「―したい」を表わす「―欲しゃん」

日本語

@ご馳走を食べたいです。
A魚を食べたい。
B旨いもんが食べたいよ。
C旨いもんが食べたいなあ。
Dコーヒーを飲みたいね。
E海に行きたい。
F沖縄語を習いたい。

うちなあぐち

@くぁっちい、か食みい欲(ぶ)しゃいびいん
A魚食(いゆか)みい欲(ぶ)しゃん。
B旨(まあ)さむんぬ食(か)みい欲(ぶ)しゃんどお。
C旨さむんぬ食みい欲しゃっさあ。
Dコーヒー飲(ぬ)みい欲しゃんやあ。
E海(うみ)んかい 行(い)ちい欲しゃん。
Fうちなあぐち 習(なれ)え(い)欲しゃん。

【解説】
「―したい」は日本語では、動詞連用形に助動詞「たい」を付けて表わしますが、沖縄語では動詞連用形に形容詞「欲しゃん」を付けて表わします。形容詞語尾は古風な「―しゃん」と「ちゅらさん」のような「さん」が混在していますが、地方では区別の明確さが失われているきらいがあります。筆者の場合は、明らかな場合を除いて、「さん」に統一しています。
日本語の目的を表わす助詞「を」に対応する助詞が口語沖縄語にはありません。沖縄語の文語では、「ゆ」(表記は「よ」の場合もありますが、発音はやはり「ユ」)がありますが、口語では殆ど用いません。
【関連話題】明治十三年に、琉球人に日本語を教えるために沖縄県が出版した教科書『沖縄對話』に、「テガミ カチテーンデ ウムトウヤビーン(日本語=手紙ヲ 認メタクゴザイマス)」(上之巻 学校之部 第二回より)というのがあります(「手紙 書ちてえんでぃ 思とおやびいん」)。「書きたい」は、「書ちい欲しゃん」ですが、『沖縄對話』では、「書ちてえ」等と日本語を琉球音に訛らせただけになっています。沖縄語については、表現も表記も適当なところがあります。

  
【応用問題】
次の日本語文を沖縄語文に直しなさい。
@本を読みたいです。
A家に帰りたいね。
B爪を切りたいよ。

答え:
@書物(しゅむち)読(ゆ)みい欲(ぶ)しゃいびいん。
A家(やあ)んかい帰(けえ)い欲(ぶ)しゃんやあ。
B爪詰(ちみち)みい欲(ぶ)しゃんどお。
  
【復習問題】次の疑問文の( )内に適切な助詞を記入しなさい。
@山(やま)んかい 行(い)ちい欲(ぶ)しゃ( )。
A汝(いゃあ)や 何(ぬう)、持(む)っちゅ( )。
Bやあさどぅ ある( )。
Cジュース 飲(ぬ)ま( )。
D彼(あり)え、独(どぅう)一人者(ちゅいむん)が、や( )。

答え:
@(み) (山に行きたいか。)
A(が) (君は何を持つか。)
B(い) (お腹が空いているのか。)
C(に) (ジュースを飲まないか。)
D(ら) (彼は独身なのだろうか。)

2010年02月01日

第11講 疑問・感嘆詞「―くとぅ」と尻揚げ疑問

日本語

@どちらへお出かけで?
A家にです。
Bどこへ行くの。
C家に。
Dどこへ、お出かけるつもりで?
E那覇の市場にです。
Fお菓子を食べます?。
G結構です。
Hお菓子を食べる?
I結構(だ)。

うちなあぐち

@まあんかい、やいびいくとぅ
A家(やあ)んかい、やいびいん。
Bまあんかい、やくとぅ
C家んかい。
Dまあんかい(でぃ)ち、やいびいくとぅ
E那覇(なあふぁ)ぬ市場(まち)んかいち やいびいん。
F菓子(くぁあし)、食(か)なびいん?
G済(し)まびいさ。
H菓子、食(か)むん?
I済(し)むさ。

【解説】
@「やくとぅ」は、「―だから、―」という意味を表わす接続助詞ですが、言い切りの形で、行為の動機や状態の原因を尋ねる文を作ります。この「くとぅ(だから)」を用いる疑問文もどき言い方は、現在のうちなあヤマトゥグチにも持ち込まれています。例えば、「あんた、どこにだから?」、「どこにだからが」等の言い方です。
 このような奇妙な疑問文もあれば、例文F、Hのように、英語や日本語のように、疑問助詞等を用いず、単に文尾を尻上がり抑揚にするだけでも広い意味での疑問文とする事ができます。
例文D 「まあんかいち」は「まあんかいでぃち」の略で、話し言葉では多用されています。
例文F 「食なびいん」は、首里語を起源とする「変形(マ行がナ行に変化)」(附録「沖縄語におけるマ行とナ行の混在語」参考)であり、地域によっては「食まびいん」、「食まやびいん」と変形及び約まる前の形になります。「食むん」の場合は首里では「食ぬん」となります。

  
【応用問題】
次の沖縄語文を日本語に直しなさい。

@くれりえ、何(ぬう)やいびいくとぅ
A童(わらび)ぬ得(い)いりむんやいびいさ。
Bくれりえ、何(ぬう)やくとぅ
C童ぬ得いりむんやさ。
Dあい、まあんかい?
E親(をぅや)ぬ家(やあ)んかい。
F走合(はあえ)え勝負(しゅうぶ)お、一番やたん?
Gうううう(註)、おうとうどぅやたる。

答え:
@何ですか、これは。
A子供のおもちゃですよ。
B何だ、これは。
C子供のおもちゃさ。
Dあら、どちらへ?
E実家に。
Fかけっこは、一番だった?
Gいいえ、びりだった。

註:「うううう」については、第2講参照。

2010年02月01日

第10講 感嘆詞・助詞「なあ」

日本語

@あの畑は、あなたのものなんですか(ね)。
Aはい、あの畑は私のなんです。
Bあの畑は、君のものなの?。
Cええ、僕のだよ。
D本を読んでいるのですか(ね)。
E違います、漫画を読んでいるのですよ。
Fこの花は、きれくないですか。
Gそうですね、きれいです。

うちなあぐち

@あぬ畑(はる)お、うんじゅがむんどぅやいびいんなあ
Aうう、我(わあ)むん どぅやいびいる(でえびる)。
Bあぬ畑お、汝(いゃあ)むんどぅやんなあ
Cいい、我むんやさ。
D書物(しゅむち)どぅ読(ゆ)どおみせえびいんなあ。目上丁寧
 書物どぅ読どおみせえんなあ。目上
 書物どぅ読どおいびいんなあ。丁寧
Eあいびらん、漫画どぅ読どおいびいんどお。
Fくぬ花(はな)あ、ちゅらさあ ねえやびらんなあ
 くぬ花あ、ちゅらくお、ねえやびらんなあ
Gやいびいんやあ、ちゅらさいびいん。

【解説】
文末に助詞「なあ、な」を使う場合は柔らな疑問文を表わします。概ね日本語の「―ね」に対応するので、助詞というより、疑問を表わす感嘆詞という見方もできます。「なあ」を使う疑問文は強調を表わす係り結び用法(「どぅ、る―連体形」)であっても、疑問助詞は「い」ではなく「なあ、な」のままとなります。また、例文Dの3行目にあるように、文中に強調を表わす「どぅ、る」が使われている場合でも、文末に「どお」等の感嘆助詞をつける場合は動詞や形容詞等は連体形で結ばれる事はありません。(感嘆詞等優先の法則)

例文A 返事する相手が同等又は目下の場合は「いい」。
例文D 「書物」は首里語では「しゅむち」、地方によっては「しむち」、「すむち」。
 
【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語文に直しなさい。
@このパソコンは壊れているのですか(ね)。
Aええ、壊れています。
B家までは、遠いですか。
C家までは、遠いのかい。
Dはい、遠いですよ。
Eいいえ、近いよ。
Fもう、行くの。
Gもう、行くよ。
Hもう、行こうね。

答え:
@くぬパソコンや、壊(くう)りてぃどぅ居(をぅ)いびいんなあ。
Aうう(又は「いい」)、壊りとおいびいん。
B家(やあ)までえ、遠(とぅう)さいびいんなあ。
C家までえ、遠さんなあ。
Dうう、遠さいびいん。
Eいいいい、近(ちか)さんどお。対等目下等
Fなあ、行(い)ちゅんなあ。
Gなあ、行ちゅんどお。(なあ、行ちゅさ)
Hなあ、行かい(註)。

註 例文Hの最後の「なあ、行かい」の「い」は動詞や助動詞の未然形に付いて意思を表わす感嘆助詞です。例:「か食まい」(食べようね)、「ゆ呼ばい」(呼ぼうね)、「くまい」(履こうね)、「ち点きらい」(点けようね)等。



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