2010年01月31日

第6講 名詞に付く疑問詞「い」

日本語

@怠けていても、賃金は同じかい。
Aもう、いいかい、おじいさん。
B散らかっているいるのは、彼の部屋か。
Cパソコンというのは、これか。
D新垣というはあなたの名前かい。

うちなあぐち

@油断(ゆだん)そおてぃん、手間(てぃま)あ同(い)ぬむん
Aなあ、とう、うすめえ、御主前(うしゅめえ)。
Bやまがりとおしえ、彼(あり)が座(ざあ)
Cパソコンんでぃしえ、くり
D新垣(あらかちい)んでぃしえ、うんじゅが名(なあ)

【解説】
 前講にあるように名詞に直接付く疑問詞「い」は地方では、一部が慣用的に使われている他はあまり使われていません。多くは名詞とこの疑問詞「い」の間に存在動詞を介在させる言い方「―やみ」(存在動詞「やん」+疑問助詞「み」)が使われます。後者の方が発音が明確でもあります。本講で扱う「い」は「―やみ」に比べると軽い疑問であり、存在動詞を略する事で、その丁寧な言い方(丁寧文)も定かでなく、柔らかい表現をする「なあ」や感嘆詞「てえ」を付ける事ができない窮屈な表現となります。日本語訳としては軽い疑問を表わす「―かい」が適切かもしれません。

例文@ 「油断」は「油断」という意味の他、「怠慢」という意味にも転用されています。
例文B 「やまがりとおん」は「やまがりゆん」の進行形です。「やまがりゆん」は『沖縄語辞典』にはありませんが、「やま(野生、野蛮等)」から「やまちりゆん(混乱する、収拾がつかなくなる等)」と関係ある語です。
例文C 「パソコンでぃしえ」は厳密には「パソコン んでぃしえ」となりますが、「ん」の連続をさけた表記にしてあります。
例文D 「新垣」は平民は「あらかちい」と語尾を引っ張り、士族は「あらかち」と語尾を短く言ったとの事です。平民しかいない現代ですが、私たち平民は今でも語尾を伸ばして言います。例えば、私(比嘉清)は、小学校の頃から現代に至るまで、同級仲間から呼ばれる場合は性は「ふぃざあ」、名は「きよしい」なのです。
  
【応用問題】
 次の文を疑問助詞「い」を用いる文に直しなさい。
@変気(ふぃんち)そおしえ、あぬ童(わらび)どぅやんなあ。
A病院(びょういん)や養生(ようじょう)(註1)する所(とぅくる、とぅくま)どぅやみ。
Bなあ、済(し)むみ、あんまあ。
C今度(くんどぅ)お、世(ゆ)果報(がふう)やんてえ。
D良(ゆ)う燃(め)えゆしえ、木薪(きだむん)どぅやんなあ。(註2)

答え:
@変気そおしえ、あぬ童
A病院や養生する所
Bなあ、とお、あんまあ。
C今度お世果報
D良う、燃えゆしえ木薪

日本語意訳:
@だだをこねているのはあの子かね。
A病院は治療するところかい。
Bもういいかいお母さん。
C今年は豊作かね。
D良く燃えるのは薪かい。

註1:「養生」は「治療」という意味に転化しています。註2:「木薪」は『沖縄語辞典』にはありません。

2010年01月30日

第5講 過去文における否定疑問助詞「み」と返事

日本語

@テレビは、安くなかったですか。
Aはい、安くなかったです。
Bはい、安くなかった。
Cはい、安くなかったよ。
Dうん、安くなかったさ。
Eうん、安くなかったなあ。

うちなあぐち

@テレビえ、安(や)っさあ ねえやびらんた
Aうううう、安っさあ ねえやびらんたん。
Bいいいい、安っさあ ねえらんたん。
Cいいいい、安っさあ ねえらんたんどお。
Dいいいい、安っさあ ねえらんたさ。
Eいいいい、安っさあ ねえらんたっさあ。

解説】
過去文において否定疑問を表わす助詞として「み」が使われます。現在文における疑問助詞は、実は否定助動詞「ん」と本来の疑問助詞「み」が音韻結合して「に」になったものです。例えば、「食まに(食べないか)」は「食まん+み」の「ん+み」が「に」になったのです。これらについては第2講参照。
はるか古代に日本語と分かれた沖縄語ですが、現在の日本語にはない言語習慣が沖縄語にはあります。否定疑問文に対する返事の「はい」と「いいえ」が日本語とは逆になる事です。日本語では質問の否定を肯定するから、返事は「はい」になりますが、沖縄語では、質問内容が肯定であろうが否定であろうが、答える内容が否定である場合は、「うううう(いいえ)」や「いいいい(いいえ)」等を使います。

【応用問題】
次の日本語文を沖縄語で表わしなさい。

@会社には行きませんでしたか。
A会社には行かなかったか。
Bええ、会社には行きませんでした。
Cええ、会社には行かなかった。
Dええ、会社には行かなかったよ。

答え:
@会社(くぁいしゃ)んかいや、行(い)ちゃびらんたみ。
 会社んかいや、めんそおらんたみ。目上
 会社んかいや、めんせえびらんたみ。目上丁寧
 会社んかいや、もうらんたみ。目上
 会社んかいや、もうやびらんたみ。目上丁寧
A会社んかいや、行かんたみ。
Bうううう、会社んかいや、行ちゃびらんたん。
Cいいいい、会社んかいや 行かんたん。
Dいいいい、会社んかいや 行かんたんどお。

2010年01月30日

第4講 否定疑問助詞「に」

日本語

@明日は、盆入りじゃないですか。
Aそうです、盆入りです。
Bそうだよ、盆入りだよ。
Cそうだ、盆入りだよな。
Dそれは、あなたのものじゃないですか。
Eさあ、私の物ではありません。

うちなあぐち

@明日(あちゃ)あ、御迎(うんけ)えやあいびら
Aやいびいん、御迎えやいびいん。
Bやんどお、御迎えやんどお。
Cやさ、御迎えやっさあ。
Dうりえ、うんじゅが物(むぬ)おあいびら
Eしら(註)、我物(わあむん)のおあいびらん。

【解説】
「―じゃないのか」「―ではないか」と、否定の疑問文となっている場合は疑問助詞「に」を使います。日本語では、疑問詞は、一括して、「か」が使われるのに対して、沖縄語では、第1講から見てきたように、疑問文の種類によって、「が」「み」「い」「に」等と、使用する疑問助詞を使い分けます。ローマ字表記(音素表記)におけるこの「に」の取扱いについては、第2講をご参照ください。

例文@ 「御迎え」は、「祖先を御迎え」するという意味で、「盆入り」に当たります。
例文@〜A、D〜Eは丁寧文で、Bは非丁寧文でかつ感嘆詞「どお」が付く例です。「どお」は概ね、日本語の「よ」に対応します。
例文C 「やさ」の「さ」は感嘆詞です。「さあ」は「さ」の伸ばし音ではなく、「だな」、「だよ」、「よ」等に対応する感嘆詞です。この場合、前語の語尾が促音便になります。ここでは「やん」の「ん」が促音便「っ」になっています。
例文@、D 丁寧かつ疑問助詞「に」を使う例です。
例文B、C 非丁寧文かつ文末に感嘆詞を使う例です。
例文E 「しら(註)」は軽い否定を表わす感嘆詞で概ね日本語の「さあ」等に対応します。

【応用問題】
次の日本語文を沖縄語に直しなさい。
@あそこへ、行きませんか。
Aあそこへ、行かないか。
B行きます。(行く、行くよ。)
C今日は暑くないですか。
D今日は暑くないか。
E暑いです。(暑い、暑いさ。)

答え:
@あまんかい、行ちゃびら
Aあまんかい、行か
B行ちゃびいん。(行ちゅん、行ちゅんどお。)
C今日(ちゅう)や暑(あち)さあ無(ね)えやびら
D今日や暑さあ無えら
E暑さいびいん。(暑さん、暑さっさあ。)

註:「しら」は「しらなあ」とも言います。前者が日本語の「さあ」に対応するなら、後者は「さあもう」等に対応します。「知らん」からきた感嘆詞なのでしょうか。『沖縄語辞典』にはないようです。



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