2010年02月02日

第15講 「―だから」を表わす「―やくとぅ」

日本語

@彼は医者だから、病気を治せる。
A彼は医者でいらっしゃるから、病気を治せます。
Bこれは、毒だから、食べられない。
Cこの本は、好きでないから、読まない。
Dこの本は、好きでありませんから、読みません。
Eだから、言ったじゃないか。
Fだから、やるなと言っただろ。
G「君はまたも、失敗したわけ」。「だからよ」。

うちなあぐち

@彼(あり)え医者(いしゃ)やくとぅ、病治(やんめえのお)しゆすん。
A彼え医者やみせえくとぅ、病治しいすん。目上
Bくりえ、毒(どぅく)やくとぅ、食(か)まらん。
Cくぬ書物(しゅむち)えましえあらんくとぅ、読(ゆ)まん。
Dくぬ書物えましえあいびらんくとぅ読なびらん。
Eやくとぅ、言(い)ちゃのお あらに。
Fやくとぅ、さんけえんでぃ言ちゃのおあらに。
G「汝(いゃあ)やまたん、しい破(や)んたるばあ」。「やくとぅよ」。

【解説】
 日本語の「だから」が「だ」と「から」から成るように、沖縄語の「やくとぅ」も「や」と前講で説明した「くとぅ」から成ります。「や」は「やん」を終止形とする存在動詞(日本語の形容動詞にほぼ対応する)です。前講では「くとぅ」が動詞や形容詞に付く場合を、今講は存在動詞に付く場合について説明しています。存在動詞については第50講、63講、64講等を参照。

例文Dの「読なびらん」は主には首里や那覇等で見受けられ、地方では「読まびらん」、「読まやびらん」もあります。
例文Fの「さんけえ」は「すなけえ」とも言います。
例文Hの「やくとぅよ(だからよ)」と言えば、喧嘩に発展しそうな会話でも切り上げさせる効果があります。
 
 首里では「読む」の終止形は「読ぬん」で那覇語系では「読むん」(マ行で変化)ですが、丁寧表現になったとたん、都市部等では那覇語系でさえ首里語の影響で一部がナ行に変化します。参附録「沖縄語におけるマ行とナ行の混在」。

【応用問題】次の沖縄語文を日本語文に直しなさい。
@彼(あり)え、えらびんちゅ選手やくとぅ、ふぃさ足ぬぐるさん。
Aくぬ実(ない)や値高(でえだかあ)やいびいくとぅ、買(こ)うやびらん。
Bくぬ問題(むんでえ)や出来(でぃき、りき)やあ、あらんくとぅ分(わ)からん。
Cあぬっ人(ちゅ)お、う年寄(とぅす)いやみせえくとぅ、白毛(しらぎ)ぬ生(み)いとおいびいん。

答え:
@彼は、選手だから、足が速い。
Aこの果物は高いから、買いません。
Bこの問題は優等生じゃないから、分かりません。
Cあの人は、お年寄りでいらっしゃるから、白毛が生えています。

  
【第20講関連話題の日本語意訳】「さあさあ、ぴょんと登場いたしましたのは、泊前道の塩屋のばあちゃんでなのでありますがね。待ちかねていた五月四日の爬竜舟競争も、いよいよ今日になってしまい、あ〜らもう、爬竜舟競争の鉦もコンコン鳴ったりするもんだから、ほんとにもう、朝からこのばあちゃんたちは、居ても立っても、寝ても逆立ちしても居られないのだから、嫁のカマドゥウを連れて、爬竜舟競争を見物しに行かねばならないのですわよ。あのねええ、カマドゥウよ、カマドゥウったら」。(第13講からの日本語訳)

2010年02月01日

第14講 「―から」「―だから」を表わす「―くとぅ」

日本語

@今、行くから待っていてください。
A今から行くから待っていて。
B明日、行くから待っていてね。
C今日は暑いので、クーラーを点けるさ。
D珍しいから、持って帰ります。
E頭が痛いから、病院に行くよ。
Fこの服は、汚れているので、洗濯しようね。

うちなあぐち

@今来(なまち)ゅうくとぅ待(ま)っちょおちみそおれえ。目上
A今(なま)から、来(ち)ゅうくとぅ待(ま)っちょおけえ。
B明日(あちゃ)、来(ち)ゅうくとぅ待(ま)っちょおけえ。
C今日(ちゅう)や、暑(あち)さくとぅクーラー点(ち)きゆさ。
D珍(みじ)らさくとぅ、持(む)っち帰(けえ)やびいん。
E頭病(ちぶるや)んすくとぅ、病院(ぼうい)ぬんかい行(い)ちゅんどお。
Fくぬ衣(ちん)のお、汚(ゆぐ)りとおくとぅ、洗(あら)やびらやあ。

【解説】日本語の「―するから、―」、「―ので、―」、「―だから」は沖縄語では、「―くとぅ、―」となります。文例@、B及びF動詞進行の形については、第67〜68講等を参照してください。例文@で目上文は、「待っちょおてぃくぃみそおり」、「待っちょおてぃくぃみそおれえ」もあります。例文Aの別バージョンとしては、「待ちょおれえ」、その「すまし言葉」である「待っちょおり」もあります。さらに感嘆詞「よ」を付ければ「待っちょおりよ」となります。「習い沖縄語」は単調化されている可能性があるので、「聞く沖縄語」に対応できるよう、様々なバージョン(言い方)に慣れましょう。

*沖縄語の面白い常識 文例@〜Bにあるように、日本語が「行く」になっているのに対し、沖縄語では、「来る」になります。沖縄語では、「行く」の感覚が逆になります。「私も行っていい?」は、「わん我にん、ち来ん、し済むん?」となります。
  
【応用問題】
 次の日本文を沖縄語に直しなさい。
@酒を飲むから、酔うのです。
A勉強しないから、何も理解できない。
B野菜が安かったから、買いました。
C名護は、遠いから、行きませんでした。

答え:
@酒飲(さきぬ)むくとぅ、酔(ゐ)いやびいん。
 酒飲むくとぅどぅ、酔いやびいる。(係り結び)
A勉強(びんちょう)さんくとぅ、何(ぬう)ん 分(わ)からん。
B野菜(やせえ)ぬ安(や)っさたくとぅ、買(こ)うやびたん。
C名護(なぐ)お、遠(とぅ)うさくとぅ、行(い)ちゃびらんたん。

【話題 沖縄語の単調化?】NHKが一九四八年から六〇年代にかけて、収録した各地のしまくとぅでは、「くぃみそおり」が一部「とぅらしんそおり」になっています。地方ではむしろ、この言い方が普通でしたが、沖縄語を教授する人に首里や那覇の人が多いため、その方向への単純化とハイカラ化が進行してしまっているのが現状です。中には、習ったものと違うという理由で、地方的言い回しを否定する極端なケースも見られます。言語の単純化(様式化)とハイカラ化は、戦後の日本語にも見受けられる現象ですが、本土では、田舎的言い方を否定する事はありません。なお、応用問題にある過去文については、第61〜67講等をご参照ください。

2010年02月01日

第13講 「―しに、行く」を表わす「―(し)いが、行ちゅん」

日本語

@生徒は学校へ勉強しに行く。
A先生は勉強を教えにいらっしゃる。
B友だちが本を借りに来ます。
C映画館へ映画を見に行くよ。
Dじゃあ、私は用事しに出かけるさ。
Eご飯、食べにお出で。
F薪、取りに来てよ。
G母は傘を置きに、家に戻られた。

うちなあぐち

@生徒(しいと)お学校(ぐぁっこう)んかい勉強(びんちょう)しいが、行(い)ちゅん。
A先生(しんしい)や、勉強(びんちょう)習(なら)あしいが、めんせえん。目上
Bどぅしぬ、書物(しゅむち)借(か)いが来(ち)ゃあびいん。
C映画館(いいがくぁ)ぬんかい影踊(かあがあをぅどぃ)い見(ん)じいが行(い)ちゅんどお。
Dあんせえ、我(わん)ねえ、用事(ゆうし)しいが、行(い)ちゅさ。
Eむん食(か)みいが、来(く)わ。
F薪(たむん)、取(とぅ)いが、来(く)うよお。
Gあんまあや 傘置(かさう)ちいが、家(やあ)んかい戻(むどぅ)いみそおちゃん。目上

【解説】
「―しに、行く・来る」の表現は、沖縄語では、「―しいが、行ちゅん・来ゅうん」となります。日本語の助詞「に」に対応する部分(助詞)が「が」になるだけです。この文は、主には、「行ちゅん」、「来ゅうん」、「めんせえん(目上)」、「戻ゆん」、「帰ゆん」、「もうゆん(目上)」等の動詞に対して用いられますが、現代風に「あんまあや 童んかい行逢いが、大阪んかい、飛だん(母は子供に逢いに、大阪に飛んだ)」等の表現も可能です。
また、次の応用問題のように、「―しに」等のように、文を打ち切る表現も、それに感嘆詞を付ける表現も日本語と同じです。次の応用問題文には過去文もありますが、過去文については第61〜67講をご参照ください。

【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語で表現しなさい。
@どちらへ お出かけですか。
Aどちらへ お出かけでございますか。
Bお買い物しにです。
Cあら、どちらへ。
D買い物しに よ。

答え:
@まあんかい やいびいが
Aまあんかい やみせえが。目上
Bまあんかい やみせ(い)えびいが。目上丁寧
C買(こう)い物(むん)しいが、やいびいん。
Dあい、まあんかい?
E買い物しいが てえ。

  
【第20講関連話題】小那覇舞天の漫談に「塩屋ぬぱあぱあ」というのがあります。小那覇版ですが、「どぅんせえ」という語句を語呂合として遊んでいます。「とおたり、ぷっとぅかち、跳(とぅ)んじたるむのお、泊前道(とぅまいめえみち)、塩屋(すうやあ)ぬぱあぱあどぅやいびいしがたり。待(ま)待ちそおたる五月(ぐんぐぁち)四日(ゆっか)ぬ爬竜(はありい)勝負(しゅうぶ)ん今日(ちゅう)けえなてぃ、あいええとお、朝からは爬竜鉦(はありいがに)んコンコン鳴(な)いどぅんするむんどぅんやいどぅんしいどぅんするむんどぅんやいどぅんしいどぅんせえ、とおなあ、くぬぱあぱあたあや、居(い)ちん立(た)っちん寝(に)んてぃん逆立(さかだ)ちしん居(をぅ)ららんむんぬ、嫁(ゆみ)ぬカマドゥウ連(そ)うやあに、爬竜(はありい)見(に)い見(に)いが行(い)きわるないびいさたり。いぇええ、カマドゥウよう、カマドゥウ」(小那覇舞天「塩屋ぬぱあぱあ」より)。日本語意訳は39頁。

【話題-三味線の表記】復帰後頃から大方は「三味線」を「三線」と表記するようになりましたが、沖縄語では「み味」が「ん」に変形する事や三味線の別称に「さみしな」がある事等から筆者は、いまだに古典的表記をしてます。参46頁等。




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