2010年02月02日

第21講 接続の「-(である)と、-」を表わす「-(ん)でぃ」

日本語

@もうすぐ、冬になると父は言った。
 父はおっしゃった。
A孫はありがとうと叫んだ。
Bおじいさんは、デイゴの花は美しいと褒めた。
 褒められた。
Cこれが僕の新車だと自慢した。
D病気が治ったと、母は笑った。
 母は笑いました。

うちなあぐち

@なあやがてぃ、冬んかいなゆんでぃ、父(すう)や、言(い)ちゃん。
 父やみそおちゃん。
A孫(んまが)あ、にふぇえでえびるんでぃ、叫(あ)びたん。
B御主前(うすめえ、うしゅめえ)やディグぬ花(はな)あ、ちゅらさんでぃ、褒(ふ)みたん。
 褒みみそうちゃん。目上
Cくりがる我(わあ)新車(みいぐるま)やんでぃ、自慢(じまん)さん。
D病(やんめえ)ぬ治(のお)たんでぃ、あんまあや、笑(わら)たん。
 笑いみそうちゃん。目上
  
【解説】
 日本語の引用を表わす助詞「と」には沖縄語では「んでぃ」が対応します。但し、前語の語尾が「ん」である場合は、例文@BCDのように、「んでぃ」「ん」と連続するので略されます。「ん」が略された「でぃ」を用いても「んでぃ」の意味で用いられます。組踊りでは「むで」または「んで」と表記されます。発音は現代と同じく「ンディ」です。例:「大川の按司の国々の按司部討たんで、あらざらん事は―」(大川敵討)。「取付けて降参しめらむで、おの思ん子養てあん」。
註 組踊は日本語音(ほぼ開音=完全に日本語音と一致するわけではない)で表記されていますが、演じられる場合は、琉球語音で発音されている事は組踊を鑑賞して分かる通りです。本書の書き言葉については「はじめに」をご参照ください。なお、「んでぃ」とほぼ同じ意味を表わす「んでぃち」は第22講で扱います。

例文@「おっしゃる」は「みせえん」ですが、「言みせえん」でも良いです。「みせえん」は「食べる」「言う」等の目上語です。
例文A 「あ叫びゆん」は「叫ぶ」の意味ですが、「言う」の意味にも使われます。 
例文C 「じまん自慢」の他に「どぅううやめえ(自敬めえ)」という語がありますが、この文の場合は「自慢」(沖縄語化している)が適切かと思われます。自慢癖のある人の事を「じまなあ(自慢なあ)」と言います。
例文D 「病気」は「やんめえ」ですが、「びょうち病気」も沖縄語化(但し、上品な言葉)しています。

【応用問題】
次の日本語を沖縄語文に直しなさい。
@太郎は三味線を習っていると、話しています。
A太陽は今、落ちようと、しています。
Bビールを買って来いと、叔父が言い付けた。
C君は誰だと、僕は叫んだ。
Dすると、君は僕の従弟だと、答えた。

答え:
@太郎(たるう)や、三(さ)味(ん)線(しん)、習(なら)とおんでぃ、話(はなし)そおん。
A太陽(でぃだ)あ、今(なま)、落(う)てぃらんでぃ、そおん。
Bビール買(こ)うてぃ来(く)わんでぃ、叔父(をぅざ)さあぬ言(い)い付(ち)きたん。
C汝(いゃあ)や、誰(たあ)やがんでぃ、我(わん)ねえ叫(あ)びたん。
Dあんされえ、汝(いゃあ)や、我従弟(わあいちく)やんでぃ、応(いれえ)えたん。

2010年02月02日

第20講 「-であるなら」を表わす「どぅんやれえ(やらあ)」、「やいどぅんせえ(さあ)」(文の強調)

日本語

@晴れるものなら、晴れ着を着るのだが。
A晴れるなら、晴れ着を着るのだが。
Bおいしいものなら、 食べます。
Cまだ 子供なら、分からないでしょう。
D暑ければ、冷たい物を飲むのだが。
 暑くもあれば、冷たいものでも飲むけど。

うちなあぐち

@晴りいるむんどぅんやれえ(らあ)、上衣着(わあじ)ゆしが。
A晴りいどぅんせえ(さあ)、上衣着ゆしが。
Bまあさむんやいどぅんせえ(さあ)、食(か)なびいん。
Cなまわらび童やいどぅんせえ(さあ)、分かやびらん筈(はじ)。
  なま  童やいどぅんせえ、分からん筈やいびいん。
D暑(あち)さいどぅんせえ(さあ)、冷(ふぃ)じゅるむん、飲(ぬ)むしが。
 暑さどぅんあれえ、冷(ふぃ)じゅるむん飲むしが。

【解説】
 本講の表現は第19講の表現で代用できる言い回しが殆どです。前講の「―なら、―れば」(「―れえ、―らあ」)の強調の形です。強調体を用いなくても会話は成立します。 例えば例文@は「晴りいねえ、上衣着ゆしが」でも良いです。しかし、話者にはこの用法は淡白すぎます。「どぅんせえ」はいわば「あじく味濃うたあ」の表現です。
 さて、日本語の「―ものなら」にはニュアンス的に「―なら」に強調がかかっています。これに対応する沖縄語は「―どぅんせえ(さあ)」、「―どぅんあれえ」等です。使用されている「どぅ」は強調を表わす助詞です。「どぅ」は基本的にはどの語にもくっ付く性質があります。例文中の( )内の語は前の語と入れ替え可能な語です。

例文@ 名詞(「むん」)には「どぅんやれえ(らあ)」が付きます。但し、名詞に存在動詞が後続する場合は例文B、Cのようになります。
例文A 動詞及び形容詞には「どぅんせえ(さあ)」が付きます。
例文B 存在動詞「やん」の連用形「やい」の後に「どぅんせえ(さあ)」が付きます。前述の例文@の項を参考してください。例文B及びCも同じく存在動詞を介して名詞に付く例です。
例文D 形容詞に付く場合の例ですが、用例の違いに注意してください。一行目は形容詞連用形に付く場合で、二行目は形容名詞に付いています。

   
【応用問題】
 次の沖縄語文を例文を参考に「どぅんさあ」等を使う別の言い方に直しなさい。
@言(ゆ)るむんやれえ、くりがる、ちびらあさる。
A怪我(註)ぬ治いねえ、ましやしがる。
Bながにぬ痒さいどぅんせえ、妻んかい掻かせえ。
Cあくびしいねえ、兄なかい ぬらありいんどお。
D明日あ、にいびち祝儀やるむぬ行きわるないる。

答え:
@言(い)いどぅんせえ、くりがるちびらあさる。
E怪我(きが)ぬ治(のお)ゆるむんどぅんやれえ、ましやしがる。
Fながにぬ痒(こう)さどぅんあれえ、妻(とぅじ)んかい掻(か)かせえ。
G欠伸(あくび)しいどぅんさあ、兄(やっちい)なかいぬらありんどお。
H明日(あちゃ)あにいびち祝儀(しゅうじ)やいどぅんせえ、行(い)きわるないる。

日本語意訳:
@言うなれば、これこそ素晴らしいのだ。
A怪我が治ればよいのだが。
B背中が痒いのなら妻に掻いてもらえ。
C欠伸しようものなら、兄に怒られるぞ。
D明日は結婚祝いなので、行かねばならない。

註:「きが怪我」は「けが(負傷)」の意味の他に「被害・損害」の意味にも転じています。「怪我人」は「怪我人・被害者」。

2010年02月02日

第19講 仮定・条件を表わす「らあ、れえ」

日本語

@よろしければ、一緒に、行きましょう。
Aよければ、一緒に、行こう。
B立つなら、立て。
C美しければ、良いのだ。
D美しければ良い。
E楽器なら、三味線(註)が好きです。
F今日の夕飯はできれば、豆腐ちゃんぷるうが良いのではないですか。
G(そう)だったら、もう、やらない。

うちなあぐち

@良(ゆ)たさいびいらあ(れえ)、まじゅん、行(い)ちゃびら。
A良たさらあ(れえ)、まじゅん、行か。
B立っちゅらあ(れえ)、立てぃ。
Cちゅらさらあ(れえ)、済(し)みいどぅする。
Dちゅらされえ(らあ)、済むん。
E鳴物(ないむん)やれえ(らあ)、三味線(さんしん)や、ましやいびいん。
 鳴物やれえ三味線どぅ、ましやいびいる。係り結び
F今日(ちゅう)ぬ夕飯(ゆうばん)や、ないれえ(らあ)、豆腐(とうふ)ちゃんぷるうや、ましえあいびらに。
G(あん)やらあ(れえ)、なあ、さん。

  
【解説】
 糸満のことわざ「手ぬ出じらあ―」も「らあ」が使われていますが、「れえ」もかなり使われています。特に、文例Dにあるように、動詞「なゆん(ないん)」に付く場合は、語呂から殆ど「れえ」使いになります。この場合、「ないれえ」の「い」が脱落し「なれえ」ともなります。「らあ」は前頁にあるように日本語「らば」の変形(合音)です。

文例@ 「行ちゃびら」、「行か」等、動詞や助動詞の未然形の言いきりで「勧誘」の意味になります。例:「食ま」(食べよう)、「歩っか」(歩こう)、「とぅめえら」(求めよう、探そう)等。
文例B 日本語の「良い」は、沖縄語では普通は「済むん」となります。「良たさん」でも構いません。
文例C 日本語では形容動詞を付けないのが普通ですが(あるいは形容動詞が略されているのか?)、沖縄語は必ず存在動詞(「やん」の「や」)を付け、「楽器+や+れえ」としなければなりません。例:「君なら→汝やれえ」。
文例D 沖縄語の「なゆん」には、日本語の「成る」という意味もありますが、「できる」の意味にも使います。組踊に「出来た、出来た」というセリフがありますが、口語では「なとおん、なとおん」です。
文例E 「やらあ」は「あんやらあ」の「あん」が略されています。存在動詞「やん」が名詞や代名詞に付くのは普通ですが、「やらあ」のように、代名詞が略される用法もあります。係り結びについては第3講参考。
  
【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語に直しなさい。
@この魚を食べるなら、あげますよ。
A来るなら、今、来い。
B頭が痛いなら、この薬を飲んでください。目上で
C拝むなら、ちゃんと、拝んでね。
D庭木なら、黒木が良いよ。

答え:
@くぬ魚(いゆ)、食(か)むらあ、うさぎやびいさ。
A来(ち)ゅうらあ、今(なま)、来(く)わ。
B頭(ちぶる)ぬ やむらあ、くぬ薬飲(くすいぬ)でぃ呉(くぃ)みそおり。
C拝(うが)むらあ、ちゅら拝み、しよお。
D庭木(なあぎい)やれえ、黒木(くるち)え、ましどう。


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