2010年02月03日

第24講 カ行チュン・チ(ジ・ヂ)動詞と接続

日本語

@私は、今から歩いて行きます。
 行く。行くよ。行くぞ。
A庭は掃いてから、床は拭いてね。
Bあの人を助けに行ってください。
C野菜は炒めて食べましょう。
D記事を書いて、疲れた。

うちなあぐち

@我(わん)ねえ、今(なま)から、歩(あ)っ、来(ち)ゃあびいん。
 来(ち)ゅうん。来(ち)ゅうさ。来(ちゅ)ゅうんどお。
A庭(なあ)や掃(ほ)うから、床(ゆか)あ拭(ふ)きよお。
Bあぬっ人(ちゅ)、助(たし)きいが、行(ん)、取(とぅ)らしえ。
Cやせえ野菜やい炒り、か食なびら(食ま(や)びら)。
D記事書(ちじか)、くだんてぃたん。

【解説】
 動詞が動詞等の用言に接続する形は日本語では連用形ですが、沖縄語では「か食みい欲しゃん」等の連用形とは別に、動詞から動詞や接続助詞等へ接続する場合は専用の形があります。この形を接続態(補助連用形、以下略)と言います。沖縄語ではその終止形、接続態及び否定形(未然形+否定助動詞「ん」)の「形」によって動詞の種類が分類できます。本講の例文で使った動詞はすべてカ行チュン・チ(ジ)動詞(註)という種類で、終止形がチュン、接続形がチ(註)、否定形がカンとなります。『沖縄語辞典』(国語国立研究所、以下略)にはすべての動詞について否定形と接続態の形が表示されています。例:haNcun (=kan、=ti)。本書のひらがな表記では「はんちゅん」、「(―かん、―てぃ)」となります。同辞典における記号「=」は語幹(haN、はん)を表わします。

註:否定(未然形+否定を表わす助動詞「ん」)の形の「カン」がカ行であること、終止形が「チュン」、接続態が「チ(一部は「ジ・ヂ」)」である事から、カ行チュン・チ動詞といいます。
この接続は次の様に別の形もあります。例文順に、歩っちゃあま、歩っちゃあに、歩っちゃあい、掃うちゃあま、掃うちゃあに、掃うちゃあい、行じゃあま、行じゃあに、行じゃあい、炒りちゃあま、炒りちゃあに、炒りちゃあい、書ちゃあま、書ちゃあに、書ちゃあい。
註:カ行チュン・チ動詞の中、接続態が「ジ」になるものを「カ行チュン・ジ(ヂ)活用動詞」と言います。「行ちゅん」が該当しますが数が少ないためチュン・チ動詞と一緒に扱う事もあります。附録動詞活用表では別立てにしてあります。
  
【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語文に直しなさい。
@風が吹き、雨が降った。
Aたまには民謡を聴いてみる。
B警察が泥棒を連行して行った。
C豆腐を炒めて食べる。
D家が揺れ、電灯が消えた。

答え:
@風(かじ)ぬ吹(ふ)、雨(あみ)ぬ降(ふ)たん。
Aまるけえてえ、端唄(ふぁあうた)、聴(ち)んじゅん。
B警察(きいさち)ぬ盗人(ぬすどぅ)、すび、行(ん)じゃん。
C豆腐(とうふ)、炒(いり)、食(か)むん。
D家(やあ)ぬゐい、電灯(でぃんとう)ぬ消(ち)ゃあたん。

【第94講関連話題】
 小那覇舞天の糸満語を主にした漫談、「世界漫遊記」に次のような場面があります。「あまぬふぃいらあ、いがたあてんぶすんかい、うちかいびいさやあ、いがたあてんぶすお、みいらんかあみいらかあなるか、だてんやいびいん」(あそこのゴキブリを我々の臍に乗っけますとねえ、我々の臍が見えなくなるぐらい大きいです)。

2010年02月03日

第23講 接続「―したり、―たりする」

日本語

@沖縄語の文章を読んだり、書いたりできる。
A明かりが点いたり、消えたりしています。
B行ったり、来たりしても良いですよ。
C戸を開けたり閉めたり、しないでおくれ。
Dこの猫は、時々、逃げたりもする。

うちなあぐち

@うちなあぐちぬ文章、読(ゆ)だ、書(か)ちゃなゆん。
A明(あ)かがいぬ点(ち)ちゃ、消(ち)ゃあたそおいびいん。
B行(ん)じゃ、来(ち)ゃしん、済(し)まびいんどお。
Cはしる開(あ)きた、閉(く)うた、しんそおらんけえ。目上
Dくぬ猫(まやあ)や、まるけえてぃ、逃(ふぃん)ぎたんすん。

【解説】
 日本語の「―したり」という語句は、沖縄語では「―(さ)い」となります。日本語の文末尾にくる「り」は、沖縄語では、rが脱落し「い」となります(例:通り→通い、くすり→くすい、森→むい、雨降り→雨降い。例外は「霧」、「無理」等)。但し、沖縄語は語尾の「り」を嫌うかと思えば、そうでもありません。例えば、沖縄語である「あがり(東)」、「いり(西)」等。あくまでも、日本語(ほぼ開音)から沖縄語(ほぼ合音)へ変換される場合のみの現象だといえます。同様に語中や語尾の「わ」はwが脱落し「あ」に変換されます。例 あわ泡→ああ、かわ川→かあ、おきなわ沖縄→うちなあ等。
「読だい」等例文中の「動詞+い」は動詞から派生した名詞であるかのように振舞っているため、再度動詞化するには、「なゆん(できる、なる)」とか「すん(する)」を添える必要があります。右の例文はすべて再動詞化したものです。
なお、「受け答え」を意味する「言ちゃいはんちゃい」も本講で言う接続文の一種です。人によっては畳語として分類する人もいますが、畳語はあくまで、語調を考慮して意味のない語句をくっ付けたものでなので、「いちゃい、はんちゃい」のように前語後語共に意味を持つ語句も全て畳語だという事になれば、「読だい書ちゃい」の類まで畳語だという事になってしまいます。畳語の例:(後部の語は意味のないもの)「ゆんたくひんたく(お喋り)」、「ゆったいくぁったい(ゆたり)」、「ゆながたさながた(夜通し)」、「しこういむこうい(支度)」、「たっくぁいむっくぁい(やたらとくっつきあいする様)」、「まちぶいかあぶい(纏わりつく様)」等。

例文@ 「なゆん」はここでは「できる」の意味です。
例文D 「逃げたりも」における係助詞「も」は沖縄語では「ん」となります。「あれも、これも」は「ありん、くりん」。

沖縄冗語に次のようなものがあります。
「あぬバソスお、何CCやが?」、「あぬバソスお、止まてえCC(しいしい)」

【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語文に直しなさい。
@上ったり、降りたりして、疲れているよ。
Aあれしたり、これしたりで、忙しい。
Bあまり、飲んだり、食べたりしたら、太るよ。
C朝は、支度したり、何したりで、てんてこまいさ。
D夜通し、歌ったり、踊ったりしていたよ。

答え:
@上(ぬぶ)た、降(う)りたし、くたんでぃとおっさあ。
Aありさ、くりさし、忙(いちゅ)なさん。
Bどぅく、飲(ぬ)だ、食(くぁ)たしいねえ、肥(くぇ)えゆんどお。
C朝(あさ)あ、しこうた、何(ぬう)さし、むさげえゆさ。
D夜長(ゆなが)とぅ、歌(うた)た、舞(もう)たそおたんどお。

2010年02月03日

第22講 接続の「-という」を表わす「-でぃち」、「-んち」

日本語

@叔母は踊りを教えようと、頑張っています。
A何故、あの子は泣いているの。
Bあの子は歯が痛いと、泣いています。
Cあの服は高いからと、買わなかった。
D今日は良い天気だと、おじいさんは喜んでいます。

うちなあぐち

@叔母(をぅば)まあや、踊(をぅどぅ)い習(なら)あすんでぃち、うみはまとおみせえん。目上
A何(ぬう)んでぃち、あぬ童(わらび)え、泣(な)ちょおが。
Bあぬ童(わらび)え、歯(はあ)ぬ痛(や)むんでぃち、泣ちょおいびいん。
Cあぬ衣(ちん)のお、高(たか)さんでぃち、買(こ)うらんたん。
D今日(ちゅう)や、良(い)いわあちちやんでぃち、御主前(うすめえ、うしゅめえ)や、
 いそうさしんそうちょおん(-そおみせえん)。目上

【解説】
 前回の「んでぃ」が日本語の引用を表わす「と」に対応するのに対し、「んでぃち」は、「と+言って」の意味で、「言」が略されている形です。「んでぃ言ち」と略さない形もあります。他に、「んでぃいちゃあい」、「んでぃいちゃあに」及び「んでぃいちゃあま」のバリエーションもあります。極めつけは、「んち」です。「でぃ」も「言」も略されていながら、「と言って」の意味です。これらがすべての語が、狭い沖縄に混在しています。なお、前語の語尾が「ん」である場合に何れかの「ん」が略され、「でぃち」となるのは、「んでぃ」の場合と同じです。
例文A 日本語の「なぜ」は、沖縄語では、「ぬう何が」、「ぬ何が」ですが、「ぬう何んでぃち」や「ぬう何んち」も多く使われます。「何が何んでぃち」と「何」を重ねる言い回しも実は普通かつ頻繁に使われます。

例文B 「泣ちょおん」は動詞の進行(第67、68、70講等)の形です。
例文C 「衣」などのように、語尾が「ん」となる名詞に付く係助詞(日本語の「は」に対応)は、「や」または「のお」となります。「のお」を使う場合は、前語の語尾「ん(n)」が係助詞「のお(no)」に音吸収されて、「ちのお」となります。日本語の「―は」に対応する係助詞は沖縄語では前語の語尾音によって使い分けられます。「や」はどの語尾音にも使える基本形ですので「のお」、「あ」、「え」等は代表名「や」の名からヤ系係助詞(附録参照)と呼ばれています。

【応用問題】次の沖縄語文を「(ん)でぃち」を使う文に直しなさい。
@道(みち)広(ふぃる)くなすんでぃちゃあい、普請(ぶしん)そおん。
A靴(ふや)くむん(註)でぃちゃあま、ふぃらきとおん。
B得(い)い欲(ぶ)しゃんち、取(とぅ)いすう奪(ばあ)けえそおん。
C悪(や)なむんやんでぃちゃあに、うっちゃん投(な)ぎたん。
D早(ふぇえ)く、決(ち)わみゆんち、打(う)ち合(ゃ)しいそおん。

答え:
@道広くなすんでぃち、普請そおん。
A靴くむんでぃち、ふぃらきとおん。
B得い欲しゃんでぃち、取いすう奪けえそおん。
C悪なむんやんでぃち、うっちゃん投ぎたん。
D早く決わみゆんでぃち、打ち合しいそおん。

註:「くむん(履く)」は首里語では「くぬん」。「打ち合あしい」の「合」のルビは小文字の「ゃ」なので要注意。

日本語意訳
@道を広くしようと、工事している。
A靴を履こうと、しゃがんでいる。
B欲しいと、奪い合いをしている。
C不良品だと、投げ捨てた。
D早く決めようと、相談している。




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