2010年02月16日

第27講 スン・チ動詞とスン・シ動詞の補足

日本語

@その子はやりたい放題して、良い子じゃない。
A姪子は喜んで、芝居を見に行った。
B僕は立ちっぱなしで、こむらがえりしている。
C嫁は男の子を産んで、ほっとしている。
D芋は蒸してこそ、食べるのである。

うちなあぐち

@うぬ童(わらび)え、しい欲(ぶ)しゃふんでえし、しょうんいらん。
A姪子(みいっくぁ)あ、いしょうさし、芝居見(しばいん)じいが、い行ちゅたん。
B我(わん)ねえ、ちゃあ立(た)っちいし、くんだああがやあそおん。
C嫁(ゆみ)え、男(ゐきが)ん子(ぐぁ)産(な)ち、うみなあくなとおん。
D芋(んむ)お、蒸(ん)ぶちどぅ、食(か)むる。

【解説】
 この講は第25、26講で説明したスン・チ動詞とスン・シ動詞を直接比較するためのものです。

●スン・シ動詞:例文@〜B。終止形語尾が「-すん」、語幹が単独で名詞になりえるもの。
●スン・チ動詞:例文C〜D。右以外のスン動詞で、日本語動詞の語尾部分が概ね「―す」になる動詞及び使役を表わし、語尾部分が「-せる」になる動詞に対応する沖縄語動詞がそれに該当します。
例文@ 「しい欲さふんでえ」の「ふんでえ」は「我儘。駄々をこねる」の意味。「とぅ取いぶ欲さふんでえ」は「取りたい放題」、「―欲さふんでえ」は「―し放題」の意味。「しょうん(そう)いらん」の「しょう(そう)」は「人の性、知恵、賢さ」等を指して言います。直訳は「性 も 入ってない」です。

例文C 「産すん」は、少し前まで、日本語でも「子を為す」という使い方がありました(司馬遼太郎の歴史小説等)。
 
【応用問題】
 次の動詞の接続態の形を示しその動詞の種類を答えなさい。例:くぁっくぁ隠すん→隠ち。スン・チ動詞。
@かあ乾らかすん。(乾かす)
Aちゃあ、む待っちいすん。(持ち続ける)
Bわじらすん。(怒らす)
Cふぃんち変気すん。(不機嫌になる)
Dや悪なしいすん。(ダメなやり方をする)

答え;
@乾らかち。スン・チ動詞
Aちゃあ、待っちいし。スン・シ動詞
Bわじらち。スン・チ動詞
C変気し。スン・シ動詞
D悪なしいし。スン・シ動詞

2010年02月04日

第26講 スン・シ動詞(スン・シチ動詞)と接続

日本語

@私は沖縄で仕事をして、暮らしています。
A男は彼女を妻にして、満足していた。
B弟は兄と勝負して、負けた。
C私たちは沖縄語を疎かにしてきた。
D子供らはプールで潜って、遊んでいる。

うちなあぐち

@我(わん)ねえ、沖縄(うちなあ)んじ、仕事(しくち)し(しち)、暮(く)らちょおいびいん。
A男(ゐきが)あ、彼女(あり)、妻(とぅじ)し(しち)、肝(ちむ)ふじょおたん。
B弟(うっと)お、兄(しいざ)とぅ勝負(しゅうぶ)し(しち)、負(ま)きたん。
Cいがろうや、沖縄語(うちなあぐち)、粗相(すそうん)し(しち)、来(ち)ゃん。
D童(わら)ん達(ちゃあ)や、プールんじ、潜(しい)みし(しち)、遊(あし)どおん。

【解説】
 終止形がスン、否定(未然形+否定を表わす助動詞)がサン、接続態がシの形をしている動詞をスン・シ動詞(接続態がシチになる地方では、スン・シチ動詞)と言います。さらに、うるま市(与勝、石川等)、東風平等南部の一部及び北部の一部の地方等では、ハ行ハン・チ動詞となります(すなわち、終止形がフン、否定がハン、接続がチとなります)。
 前講でも既述した通り、日本語の「名詞+する」に対応する動詞は、首里語の一部では、まだ「しゅん」のままのものもありますが、多くは、「すん」に移行していると考えられる事から、ここでは「すん」とします。なお、『沖縄語辞典』では、「すん」は「不規則」として扱われており、否定形、接続態が示されておらず、該当する例文もありません。
前講の「スン・チ動詞」(参前講)とは語尾部分(すん)が似ているだけです。日本語の「―をする」や「(名詞=語幹)する」(例えば「運転する」)に対応する動詞が本講の「スン(シュン)・シ」動詞)です。
 この接続態の別形は例文順に、仕事さあま、仕事さあに、仕事さあい、妻さあま、妻さあに、妻さあい、勝負さあま、勝負さあに、勝負さあい、すそんさあま、すそおんさあに、すそおんさあい、潜みさあま、潜みさあに、潜みさあい。
スン・チ動詞とスン・シ動詞の区別法は、第25講を参照してください。
  
【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語に直しなさい。
@母は手枕して、寝ていらっしゃる。
A彼は父と相談して、帰った。
B女たちはおしゃべりして、笑っていた。
C子供たちは、腹をすかして、しゃがんでいる。
Dお婆さんは寒さで家に縮こもっている。

答え:
@あんまあや、手枕(てぃいまっくぁ)、寝(に)んとおみせえん。
A彼(あり)え、父(すう)とぅ物相談(むぬそうだん)、帰(けえ)たん。
B女(ゐなぐ)ん達(ちゃあ)や、ゆんたく、笑(わら)とおたん。
C童(わら)ん達(ちゃあ)や、やあさ、ふぃらきとおん。
D婆前(はあめえ)や、寒(ふぃ)いさ曲(ま)がい、家篭(やあぐ)まいそおん。

2010年02月03日

第25講 スン・チ動詞と接続

日本語

@古い家を壊して、新しい家を建てました。
A子供を起こして、学校に行かした。
B大事なものは隠して置きました。
C木を倒して、道を造ってある。
D火を燃やして、温まりました。

うちなあぐち

E古家(ふるやあ)壊(くう)、新家(みいやあ)、建(た)てぃやびたん。
F童起(わらびう)く、学校(ぐぁっこう)んかい、行(い)かちゃん。
Gあたらさるむのぬお、隠(くぁっくぁ)、置(う)ちぇえいびいん。
H木倒(きいとお)、道造(みちちゅく)てえん。
I火燃(ふぃいめ)え、温(ぬく)たまやびたん。
  
【解説】
 終止形がスン、否定の形がサン、接続態がチの形になる動詞をスン・チ動詞と言います。「壊す」、「起こす」、「隠す」等、語尾が「す」となっている日本語動詞の殆どがこれに対応します。日本語では「する」動詞も「す」動詞も接続態は「して」という形になりますが、沖縄語ではそれぞれシ、チと別形になります。スン・チ動詞は、うるま市(与勝、石川等)、東風平等南部の一部及び北部の一部の地方ではハ行ハン・チ動詞となります(すなわち、終止形がフン、否定がハン、接続がチとなります)。
日本語の「名詞+する」に対応する動詞は、本来の首里語では「しゅん」ですが、殆どは、「すん」に移行していると考えられる事から、ここでは「すん」とします(拙書『実践うちなあぐち教本』に同様の説明をしています)。
 なお、この接続態の別形は例文順に、壊うちゃあま、壊ちゃあに、壊ちゃあい、起くちゃあま、起くちゃあに、起くちゃあい、隠ちゃあま、隠ちゃあに、隠ちゃあい、倒ちゃあま、倒ちゃあに、倒ちゃあい、燃えちゃあま、燃えちゃあに、燃えちゃあい。
スン・チ動詞の例:あだあすん(どなりつける)、くる懲すん(懲らす)、たぬかすん(たぶらかす、誘惑する)、まあすん(回す、亡くなる)、みんぐぁすん(濁す)、か食ますん(食べさす)等使役を表わす動詞は殆どこのグループに入ります。

スン・シ動詞とスン・ティ動詞の区別は左記のように行ないます。
●スン・シ動詞例:終止形語尾がスン、語幹が単独で名詞になりえる語(例:や悪なあ叫びいすん、やあさすん、だんぱち断髪すん)や日本語動詞の語尾部分が「―する」になる動詞に対応する沖縄語動詞(例:掃除する→そう掃じ除すん、得する→とぅく得すん)等。
●スン・チ動詞例:右以外のスン動詞で、日本語動詞の語尾部分が概ね「-す」になる動詞や使役動詞、語尾部分が「-せる」になる動詞に対応する沖縄語動詞(例:倒す→とお倒すん、歩かせる→あ歩っかすん、持たせる→む持ったすん等)です。
註:スン・シ動詞が『沖縄語辞典』で接尾辞扱いされているのは、語幹が名詞(動名詞含む)と組み合わせて用いられるからですが、単独で用いる例として、「あんせえ、すみ(それでは、やるか)、「なあ、さんどお(もう、しないよ)」等。

 
【応用問題】
次の日本語を沖縄語に直しなさい。
@部屋を明るくしてください。
Aお金を落としてしまいました。
B病気は治してから、頑張ればよい。
C借金を返して、ほっとしているよ。
Dどうか、雨を降らして賜れ。

答え:
@座(ざあ)、明(あ)かがら、呉(くぃ)みそおり。目上
A銭(じん)、落(う)とぅ、ねえやびらん。
B病(やんめえ)や治(のう)から、うみはまれえ済(し)むん。
Cうっか返(けえ)、うみなあくなとおさ。
Dどうでぃん、雨降(あみふ)ら、たぼうり。




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