2010年04月21日

第33講 ムン・ディ動詞と順接

日本語

@たくさんの本を読んで、勉強できる子になりました。
A海水を汲んできます。
B今日は頭が痛くて、どうしようもありません。
C昼飯はここで食べてから帰ってね。
D薬を飲んでから、水は飲もうか。

うちなあぐち

@ちゃさきいぬ書物(しゅむちゆ読(ゆ)でぃ、出来(でぃき)やあなとおいびいん。
A潮水汲(うすみじく)でぃ、来(ち)ゃあびいん。
B今日(ちゅう)や頭(ちぶる)ぬ病(や)でぃ、ふしがりやびらん。
C朝飯(あさばん)のお、くまんじ食(か)でぃから、戻(むどぅ)りよお。
D薬(くすい)や飲(ぬ)でぃから、水(みじ)え飲(ぬ)まな。

【解説】
 動詞終止形がムン、否定(未然形+否定助動詞)がマン、接続態がディの形をしている動詞をムン・ディ動詞と言います。但し、ムン・ディ動詞は首里語では上の形がそれぞれ、ヌン、マン、ディとなります。また、「済むん(済む、良い)」も終止形はムン動詞と同じ形ですが、接続態が二種類あります(済でぃ、済むてぃ)ので、厳密に言えば、このグループには属しません。強いて入れるとすれば、グループ内の変則動詞として扱う事になるでしょう。「済むん」については第34講参照。

例文@「ちゃっさきい」は「多く、沢山」という意味。「いちゃっさきい」という言い方もあります。「出来やあ」は「出来る人」の意味から転じて、「良く出来る子・人」、「頭の良い子・人」等の意味としても使われます。概ね首里以南ではdとrの区別をしない事が多いので、「りきやあ」とも言います。
例文B 沖縄語の「やむん」というのは日本語の「病む」に対応する語ですが、「痛い」という意味もあります。
例文C「あさばん」は今の昼飯の事。朝食は「すていむてぃむん」はじめ「すてぃむてぃい」、「してぃみてぃい」、「ひてぃみてぃい」等の変形があります。その丁寧語は「すてぃむてぃぶん」。昔は日に二食しか食べなかったといわれ、早めの食事を「朝飯」と言い、遅めの食事を「ゆうばん(夕飯)」と言ったといいます。後から付け足して摂るようになった朝食は「朝」を意味する「すてぃむてぃ」に「むん(飯)」を付けて造語したのでしょうか。
例文D 「飲まな」の「な」は勧誘等を表わす終助詞で未然形に付き、「行かな」、「遊ばな」で「行こうよ」、「遊ぼうよ」等の意味となります。「くすい薬や」は首里語では「くせ薬え」。参考附録「ヤ系係助詞一覧」。
 
 なお、右の接続と同じ意味を表わす別形は、文例順に、
読まあま、読まあに、読まあい、汲まあま、汲まあに、汲まあい、病まあま、病まあに、病まあい、食まあま、食まあに、食まあい、飲まあま、飲まあに、飲まあい。

【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語文に直しなさい。
@太郎は腕を組んで考えました。
Aお客は靴を履いて外出しました。
B赤子は顔をしかめて、泣いています。
Cバナナが熟んで、その房が垂れ下がっています。

答え:
@太郎(たるう)や腕組(うでぃく)でぃ、考(かんげ)えやびたん。
A客(うちゃく)お、靴履(ふやく)でぃ、出(ん)じやびたん。
(出じみそおちゃん。目上)
B赤(あか)ん子(ぐぁ)あ、わじゃでぃ、泣(な)ちょおいびいん。
C芭蕉実(ばさない)ぬ熟(ん)でぃ、うぬ房(ふさ)ぬ垂(た)い下(さ)がとおいびいん。

2010年04月16日

第32講 ダ行ジュン・ディ動詞と順接

日本語

@もう、寝て、良い夢でも見てみましょうよ。
A日差しが強いので、帽子を被って、外出しました。
B打ち紙は燃やしてから、手を合わせましょうよ。
C母はにこにこ笑って、僕をみていた。
D子供が障子紙を破って、親に叱られた。

うちなあぐち

@なあ、寝(に)んてぃ、良(い)い夢(いみ)やてぃん、見(ん)ち見(な)あびらな。
A太陽(でぃだ、でぃいだ)ぬ強(ちゅう)さぬ、帽子(ぼうし)被(か)んてぃ、出(ん)じやびたん。
B打(う)ち紙(かび)え、炙(あん)てぃから、手(てぃい)やうさあさびらな。
Cあんまあや、笑(われ)えかんてぃ、我(わん)、見(ん)ちょおたん。
D童(わらび)ぬ明(あ)かい紙(かび)、破(やん)てぃ、親(をぅや)なかいぬらあったん。

【解説】
 動詞終止形がジュン、否定(未然形+否定を表わす助動詞)がダン、接続態がティの形をした動詞をダ行ジュン・ディ動詞と言います。

例文@「見(な)あびらな」は「見(ん)だな」(「見(ぬ)うん」の丁寧の未然形+な)の丁寧形です。さらに丁寧助動詞「びいん」は未然形(びいん→びら)になっています。「見あびら」ここでは、補助動詞であり、「見る」という意味がない事は、日本語の場合も同じです(=見てみる)。「な」は勧誘等を表わす終助詞です。補助動詞については第88〜89講参照。
例文B「打ち紙」は後生のお金です。仏壇前で炙る事によって、ご先祖さまに「仕送り」します。仏壇に手を合わせるに来る親戚は、たいていは打ち紙一枚を持参して、仏壇主に預けます。「あん炙じゅん」は「あぶじゅん」とも言います。「手うさあすん」はここでは「仏壇に手を合わせる」という意味です。沖縄では「火ヌ神」や聖地備え付けの香炉等に対しては、通常「をぅがむん(うがむん)」と言いますが、仏前の場合は、「てぃい手うさあすん」が普通のようです。
例文C「笑えかんじゅん」は、多くは「われ笑えかんてぃぐぁあ小すん」であり、例文の形ではあまり使いません。
例文D 障子は日本古語では「明かり障子」(『古語辞典』小学館)です。「明かい」の部分が沖縄語になったわけです。日本語語尾の「り」が琉球語音では「い」に変わります。例:しゅい首里、むい森、とぅう通い、うまちいお祭り等。
右の接続と同じ意味を表わす別形は、文例順に、寝んじゃあま、寝んじゃあに、寝んじゃあい、被じゃあま、被じゃあに、被じゃあい、炙じゃあま、炙じゃあに、炙じゃあい、笑えかんじゃあま、笑えかんじゃあに、笑えかんじゃあい、破じゃあま、破じゃあに、破じゃあい。

●ダ行ジュン・ティ動詞例: 寝んじゅん(寝る)、被じゅん(被る)、炙じゅん(炙る、燃やす)、破じゅん(破る)、ふぃちやんじゅん(誘惑などして堕落させる、悪へ誘う)、取いやんじゅん(しくじる、失敗する)、笑えかんじゅん(にこにこ笑う)等で少ないです。概ね日本語動詞の語尾が「-ぶる」となるものが対応するようです。

 
【応用問題】
 次の沖縄語文を日本語文に直しなさい。
@一夜(ちゅゆる)お、寝(てぃ)んてぃから、考(かんげ)えらな。
Aむんじゅる笠被(がさかん)てぃ、舞(も)うやびたん。
B手(てぃい)あんてぃ、温(ぬく)たまたん。
C試験(しきん)取(とぅ)いやんてぃ、童(わらび)え、泣(な)ちょおたん。
Dあぬ男(ゐきふぁ)あ、女(ゐなぐ)ふぃちやんてぃ、肝病(ちむや)まちょおん。
答え:
@一晩は、寝てから考えようかな。
Aむんじゅる笠を被って、踊った。
B手を火にかざして、温まった。
C試験に失敗して、子供は泣いていました。
Dあの男は、女を堕落させて、胸を痛めている。

2010年04月06日

第31講 ブン・ディ動詞と順接

日本語

@おじいさんが転んで、ひざを痛めました。
A冬になると、宮古にサシバが飛んできます。
B服は畳んで、仕舞いましょう。
C川には大きな桃が浮かんで、流れています。
D二人は生涯の愛の契りを結び結婚しました。

うちなあぐち

@御主前(うしゅめえ、うすめえ)ぬ転(くる)でぃ、ちんし、やまちぇえみせえん。
A冬(ふゆ)ないねえ、宮古(なあく)んかいサシバぬ飛(とぅ)でぃ来(ち)ゃあびいん。
B衣(ちん)のお、たくでぃ、かじみやびら。
C川(かあら)んかいや、まぎ桃(むむ)ぬ浮(う)かでぃ、流(なが)りとおいびいん。
D二人(たい)や、生(い)ちみとぅとぅうみ思(うみ)がなさすんでぃぬ契(ちじ)り結(むし)でぃ、にいびちさびたん。

【解説】
 動詞終止形がブン、否定(未然形+否定を表わす助動詞)がバン、接続態がディの形をしている動詞をバ行ブン・ディ動詞と言います。日本語動詞の終止形語尾が「飛ぶ」等のように「ぶ」であるものが基本的には対応します。「運ぶ」のように、終止形後尾が「ぶ」でありながら、該当しないものや、「畳む」のように、終止形語尾「む」でありながら該当するのもあります。それらは元々、動詞自体が互いに対応関係にないからです。

例文@ 沖縄語では、日本語の目的を表わす助詞「を」に対応する語を用いませんので、「ちんし やまちぇえみせえん」となります。文語では「ゆ」を使う事があります。
例文B 「衣のお」は「衣や」でも良いです。「衣」に付く係助詞は、語尾が「ん」ですので、「や」または「のお」となり、それぞれ「ちんや」、「ちのお」となります。ヤ系係助詞については、附録「ヤ系係助詞一覧」を参照。
 
 右の接続の別形は文例順に、
転だあま、転だあに、転だあい、飛だあま、飛だあに、飛だあい、たくだあま、たくだあに、たくだあい、浮かだあま、浮かだあに、浮かだあい、結だあま、結だあに、結だあい。

●バ行ブン・ディ動詞の例:呼ぶん(呼ぶ)、むたぶん(弄ぶ)、並ぶん(並ぶ)、滅ぶん(滅ぶ)等、概ね、日本語動詞の語尾が「-ぶ」となるものが対応します。

 
【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語文になおしなさい。
@おばあさんも呼んで来てね。
A皆、そこに並んで、ごらん。
B琉球が滅んでも、琉球人は居る。
Cあら、そんなにまで、この虫をもてあそんで。
D誰にも見られないように、忍んで来てちょうだい。

答え:
@婆前(はあめえ)ん呼(ゆ)でぃ、来(く)うよお。
A皆(んな)、くまんかい並(な)らでぃんでぃ(並《な》でんでぃ)。
B琉球(るうちゅう)ぬ滅(ふる)でぃん、琉球人や居(をぅ)ん。
Cあい、あんすかなあんでぃん、うぬ虫(むし)むたでぃ
D誰(たあ)にん(誰なかいん)、見(ん)だらんねえし、忍(しぬ)でぃ、参(いも)り。(参れえ。めんそおり。)




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