2010年05月24日

第35講 チュウン動詞と接続

日本語

@ここに来てみてください。
A家に来て、ご飯を食べました。
B友だちが来て、挨拶をしました。

うちなあぐち

@くまんかい来(ち)、なあびれえ。
A家(やあ)んかい、むぬ食(か)なびたん。
B友(どぅし)ぬ、挨拶(いぇえさち)さびたん。

【解説】
 動詞「来ゅうん」は、終止形がチュウン、否定形がクウン、接続態がチの形をしています。『沖縄語辞典』には「不規則」と表示されています。この形をとるのは「来ゅうん」だけです。地方によっては、否定形が「来らん」の形もある事から、古い形は「来ゆん」とラ行ユン・ティ活の仲間でした。古い形を残すと思われる糸満語(首里語をはじめとする多くの中南部語のchがその古音であるkのままである)では「くうん」の形となり、首里那覇語系の否定の形と表面的には同じです(実際の糸満語では抑揚が微妙に異なるので糸満人には区別できるそうです)。
 なお、一部に、「ちゅ来うん」の表記も見受けられますが、本書において「来ゅうん」としているのは、前述のように、古い形が「来ゆん」で本来、「来」と「ゅ」が別々の音であるためです。その事は活用によって、「来ゅ―」(終止形)、「来ゃ―」(直接過去)、「来ょー」(進行)、「来ぇ―」(完了保存)等と変形をしている事からも分かります。同じ「拗音」でも「とぅ取ゆん」、「とぅ飛ぶん」、「でぃ出来ゆん」、「くぃ呉ゆん」等の固定音とは全く違うのです。
 また、「来ゅうん」の関連語に「はっち来ゅうん」がありますが、「来てしまう」と意味です。「―してしまう」という意味の副詞は、多くは動詞の前に付く「けえ-」ですが、「来ゅうん」の場合は「はっ」が付きます。

文例@ 「来なあびれえ」の「なあびれえ」(「見あびれえ」はそれ自体あまり意味のない補助動詞です(参考第88〜89講)。非丁寧文は「ち来んでえ」です。なお、「ん見じゅん」を補助動詞にした「ちん来見じゅん」(来てみる)という語句の丁寧文である「来見じゃびいん」はあまり使われません。また、例文と同じ意味の「来なあびり」は済まし言葉です。
文例A 「むぬ(物)」には、「物」の他に、「食べ物」、「道理」、「仕事」等の意味があります。ここでは「食べ物」のことです。「むぬん分からん」は「物事(道理)を知らない」、「むぬそおん」は「仕事していて、手が塞がっている」の意味。また「むぬゆむん」は「おしゃべりする」ですが、その受動の形「むぬゆまりゆん」は俄然、意味合いが異なり、「噂される、陰口を叩かれる」等の意味となります。

 なお、以下は、右の接続と同じ意味を表わす別形で、例文順に、
 来ゃあま、来ゃあに、来ゃあい。
 
【応用問題】
 次の沖縄語文を日本語文に直しなさい。
@童連(わらびそ)うてぃ来(ち)、とぅらせえ。
A太郎(たるう)や沖縄(うちなあ)んかい戻(むどぅ)てぃ来(ち)、仕事(しぐとぅ、しくち)そおん。
B朝(あさ)あ、早々(ふぇえべえ)とぅ来(ち)、あ茶小(ちゃあぐぁあ)やてぃん飲(ぬ)みよお。
答え:
@子供を連れて来てください。
A太郎は沖縄に戻って来て、仕事をしています。
B朝は早々と、来て、お茶でも飲んでよ。

2010年05月05日

第34講 シムン動詞と順接

日本語

@何もかも済んで、ほっとしてます。
A家造りが済んでから、お祝いはしましょうね。
B*それでも、良いと、思っているのか。
C*それでも良いなら、貰え。

うちなあぐち

@何(ぬう)んくぃん、済(し)でぃ、うみなあくなとおいびいん。
A家造(やあじゅく)いや、済(し)でぃから、祝儀(しゅうじ、すうじ)えさびらやあ。
B*あんしん、済(し)むんでぃ、思(うみ、うむ)てぃる居(をぅ)んなあ。
C*うりやてぃん済(し)むてぃから、得(い)いれえ。
 
【解説】
 この動詞は意味から説明しなければなりません。口語においては、多くは、「良い」「結構だ」「かまわない」という意味で使われる事から、動詞「済むん」は前講のムン・ディ動詞(前講)の一つ(終止形「済むん」(首里語では「済ぬん」)です。否定形(未然形+否定を表わす助動詞)が「済まん」、接続態は、「済でぃ」)。
 ところが、接続態「済でぃ」は、実際には日本語の「済んで」という使い方をする場合のみに使われます。その他の意味で「済でぃ」が使用される事は、少なくとも私の世代では希で、別の語で代用されているのが現実です。
 たとえば、例文@だと、「何くぃん、終わてぃ」もしくは「何んくぃん、済まち」になります。また、例文Aだと、「家造いや、済まちから」または「家造いや終わちから」等となります。ちなみに、「済まち」は「済ますん」(スン・チ動詞)の接続態であって、「済むん」のそれではありません。ただ、例文BやCは、「済む」という意味以外に使われる形で、例文Bの「済むんでぃ」の「でぃ」は接続態を意味する動詞の一部ではなく接続助詞の「でぃ」です。同じく例文Cの「済むてぃ」の「てぃ」も接続態というより、接続助詞の可能性があります。
 このように、日本語の「済む」という意味以外に使われる場合は、「済でぃ」という接続態は、用いられないと考えた方がでしょう。例文が少ないのも、その実態の反映です。ムン・ディ動詞とは別にシムン動詞としている次第です。なお、例文Cの「済むてぃから」は「良いのであれば」という意味の慣用句です。

注@ 『沖縄語辞典』(殆どは首里語)には、活用については「=man、=di」とのみ掲載されています。例文Bにある「済むんでぃ」はこれまで説明した接続形(補助連用形の)文構造とは別のもので、「済むん+でぃ」と分解され、「でぃ」は動詞の一部ではなく、明らかな接続助詞です(もっとも、沖縄語の接続態語尾は日本語では、「接続助詞」なのですが…)。本講の場合は他講の例文表示とは異なっていますが、参考と比較のために例示しおきました。

【応用問題】
 次の沖縄語文を「済むん」を使う文に直しなさい。
@なあ、何(ぬう)しん、構(かま)あんでぃい言ちゃん。
A覚(うび)いらんてぃん、良(ゆ)たさんでぃさ。
B夜(ゆう)ゆっくぁちん(註)、構(かま)あんでぃぬ事(くとぅ)やんどお。

答え:
@何しん、済むんでぃ言ちゃん。
A覚いらんてぃん、済むんでぃさ。
B夜ゆっくぁちん、済むんでぃぬ事やんどお。

日本語訳:
@何をしてもかまわないと言った。
A行かなくても、良いんだとさ。
B日が暮れも、構わないとの事だ。

註:「夜ゆっくぁすん」は厳密には「夜を更けさす」という意味ですが、「何かしている途中で、日が暮れてしまう」場合に使います。慣用句として覚えましょう。




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