2017年10月13日

第197講「回すん」に関する慣用句・言い回しU

うちなあぐち

@ 今(なま)ぬ暇(まあど)お隠(くぁっき)回(まあ)いさんようい、引(ふぃ)ち回(まあ)さんでえならん。
A にじりえ、どぅく、押(う)し回(まあ)しいねえ、壊(くう)りゆんどお。
B 手回(てぃまわ)しぬ行(ん)じょおる事(くと)お、隠(かく)しい回(まあ)しいそおたん。
C やま山羊(ふぃいざあ)や、ちゃっさ、追(ゐ)い回(まあ)ちん、掴(かち)みららん。
D 祝儀(しゅうじ)ぬ案内(あんねえ)や村端(むらはじ)しから、うしい回(まあ)すし(せ)えまし。
E 人抜(ちゅぬ)じゃあや取(とぅ)い回(まあ)し回(まあ)し、騙(だま)すくとぅ心得(くくるい)りよお。
F 彼(あり)えちゃっさ追(ゐ)い付(ち)き回付(まあち)きし、頼(たぬ)でぃん、応(うう)じらん。
G いちゃんだん、遠回(とぅうまあい)いすしやか、くん切(ち)り道(みち)、行(い)かな。

日本語

@ 今度こそ、逃げ回らず、攻撃に備えなければならない。
A 螺旋はあまり、ねじ込んだら壊れるぞ。
B 生活が楽になっている事ひた隠しに隠していた。
C 野性の山羊は、いくら、追い回しても捕獲できない。
D お祝いの案内は村の端から順序良く回るのが良い。
E 詐欺師は手をかえ品を変え、騙すから用心してよ。
F 彼はいくら、つけ回して頼んでも、応じない。
G 無為に遠回りするより、近道しようじゃないか。

【解説】
「言い回らすん」(言い紛らす、誤魔化す、やり過ごす)は第一講参照してください。

例文@「隠回い」は「隠れまわる事」、「逃げ回る事」の意味。「逃ぎ回い」もほぼ同じ意味です。「引ち回すん」は「攻撃しようと、或いは攻撃に備えて身構える」の意味。一部の地方では「加護する」、「見守る」等の意味もあります。
例文A「押し回すん」は「ねじ込む」、「押し回す」、「締め回す」の意味。
例文B「手回し」は「手回し」、「手配」、「生活が楽になる事」。「隠し回しい」は「ひたすら隠して」の意味の副詞。
例文C「追い回す」は「追い回す」。その名詞は「追(ゐ)い回せ(まあ)合(え)」。
例文D「うしい回すん」は「順序良く回る」、「順繰り回る」の意味ですが、「回りを囲む」の意味もあります。その名詞形「うしい回しい」には「順繰り」、「持ち回り」の意味があります。また地方では「うしい回(まあ)るう」、「うしい回(まあ)とぅう」等の変形もあります。後者には「盆・正月に親戚廻りをする事」の意味もあります。
例文E「取い回し回し」は「手を変え品を変え」、「あの手この手」の意味の副詞。
例文F「追い付き回付き」は「つけまわして」、「ストーカーして」の意味の副詞。
例文G「遠回い」は「遠回り」。「遠回らし」は使役的意味合いがありますが、意味はほぼ同じです。本来は日本語の「遠回しに言う」という意味では用いません。「くん切り道」は実際は「道」ではなく、通過できる「場所」の意味です。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に箇条文の太字部分に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(手回し、引ち回さっとおん、隠回い、引ち回さっとおたん、隠し回しいそおたん)。

@ うぬっ子ぬ尻引ち前引ちすくとぅ、母や物すがいんならん。
A 童(わらび)ぬばすお親(をぅや)ぬ手(てぃ)がねえ、さんぱあし、逃(ふぃん)ぎ回(まあ)いどぅそおたる。
B 人お諸、うやふじなかい、引ちゃさっとおん
C 母や父ぬ病やる事お、百隠し隠ちょおたん
D 根引ち祝儀え何んくぃいん、前予にてぃ、手配いそおきよお。
答え:
@ 追い付き回付き。
A 隠き回い。
B 引ち回さっとおん。
C 隠し回しいそおたん。
D 手回し。

日本語意訳
@その子が付き纏うから、母は料理もできない。
A子供の頃は親の手伝いをするのが嫌で逃げ回っていた。
B孫が出世するのを見守っている。
C母は父が病気であることをひらすら隠していた。
D結婚祝いは(必要なものは)何もかも事前に手配していてよ。

2017年10月03日

第196講「回すん」に関する慣用句・言い回しT

うちなあぐち

@ 悪(や)な片降(かたぶ)いや!くりかあぬ畑(はたき)えびけん降(ふ)い回(まあ)ち取(とぅ)らち。
A いちゃんだん、バット振(ふ)い回(まあ)ちん、球(たま)んかいや当(あ)たらん。
B 木(きい)、掘(ふ)い取(とぅ)ゆるばあや堀(ふ)い回(まあ)さんでえ、根切(にいち)ゆんどお。
C 儲(もう)きてぃ叶(かな)あや、繰(く)い回(まあ)ちどぅ暮(く)らし方(がた)んそおる。
D 玉(たま)ぬ割(わ)りぬある所(とぅくる)お、踏(く)ん回(まあ)ち、歩(あ)っけえ。
E 大切(てえしち)な書物(しゅむち)え後(あとぅ)々(あとぅ)ぬ為(たみ)、取(とぅ)い回(まあ)ちょおかんでえならん。
F 戦(いくさ)ぬばす沖縄(うちなあ)や米(アミリカ)戦船(いくさぶに)なかい囲(か)に回(まあ)さっとおたん。
G ちゃっさ、あぎ回(まあ)ちん、ないるうっさどぅないる。

日本語

@ 嫌なスコールだ!この辺の畑だけ、降り残して
A やたらに、バットを振り回しても球には当たらない。
B 木を掘り起こす場合は、周りから堀らないと根を切るぞ。
C その日暮らしの労働者は、やり繰りして生活をしている。
D ガラス欠片のある所は、踏まないように避けて歩け。
E 大事な本は、後々のために取っておかなければならない。
F 戦争のとき、沖縄は米艦隊に取り囲まれていた
G どんなに急かしても、出来る分しか出来ないのである。

【解説】
 「回すん」は「亡あすん(人の死)」との混同を裂けるため、単独ではあまり用いず、代わりに「みんぐぁすん」を用いますが、慣用句では「回(まあ)すん」を用います。

例文@「降い回すん」は「(雨が部分的に降って)降り残す」、「振っているのにその場には降らない」の意味。
例文A「振り回すん」は「振り回す」振り翳す」の意味。例文@の「降い回すん」、例文Bの「掘い回すん」が大方の地方で下げ(低音)出し平音であるのに対し、「振い回すん」は「上げ(高音)出し」です。
例文B「堀(彫)い回すん」は「周囲から掘(彫)る」の意味。
例文C「繰い回すん」は「やり繰りする」、「融通する」の意味。「繰い回しい(やりくり、融通)」はその名詞です。
例文D「踏ん回すん」は「踏まないように避ける」の意味。
例文E「取い回すん」は「(後々の為に)とっておく」。「キープしておく」の意味。
例文F「囲に回すん」は「取り囲む」、「包囲する」の意味。
例文G「あぎ回すん」は「急かす」の意味。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に箇条文の太字部分に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(囲に回すん、取い回ちょおき、踏ん回さんてぃん、囲に回ちゃちょおき、繰い回ち)。

@ 銭小(じんぐぁあ)、いふぃやてぃん、いらあち取(とぅ)らさんがやあ。
A うぬ鶏(とぅい)ぬ逃(ふぃん)ぎらんねえし、囲(かく)どおきよお。
B 要(い)り用(ゆう)無(ね)えらんなてぃん、昔物(んかしむぬ)お、取(とぅ)てぃ置(う)ちょおきよお。
C 空足(からびしゃあ)あらんでえ、何(ぬう)、踏(く)だみてぃん、支(ちけ)え無(ね)えらん。
D 彫(ふ)い物(むん)や、側(すば)ふぃらから彫(ふ)てぃんじゃあにどぅ、作(つく)ゆる。
答え:
@ 繰い回ち。
A 囲に回ちょおき。
B 取い回ちょおき。
C 踏い回さんてぃん。
D 彫い回ち。

日本語意訳
@お金を少しでも融通してもらえないかな。
Aその鶏が逃げないように取り囲んでおいてよ。
B必要がなくなっても、古物は取って置いてね。
C裸足でなければ、何を踏んでも、差し支えない。
D彫り物は周囲から彫っていって作るのである。

2017年09月24日

弟195講「果報」に関する慣用句・言い回し

うちなあぐち

@ あった果報(くぁふう)ぬ付(ち)ち、汝(なあ)や、あんし、果報者(くぁふうむん)やる。
A 籤引(くじふぃ)ちゅるばあや「当(あ)たい果報(がふう)」でぃち、うんぬきれえ。
B あんしいねえ、当(あ)てぃ果報(がふう)、拝(をぅが)むるばあんあさ。
C 慌(あわ)てぃらんようい、後勝(あとぅまさい)い果報(がふう)んでぃ思(うむ)てぃ待(ま)てぃ。
D 去年(くず)お、餓死年(がしどぅし)やたしが、今度(くんど)お世(ゆ)果報年(がふどぅし)やいぎさん。
E 思(うみ)ん子(ぐぁ)ん良(い)い仕口(しくち)拝(をぅが)でぃ、しでぃ果報(がほう)なとおいびいん。
F 彼(あり)が子(くぁ)あ、勝(まさ)い果報(がふう)なやあに、成功(せいこう)そおん。
G あい、来(ち)、取(とぅ)らち、果報(かふう)しどお、なあ。

日本語

@ 思いも寄らない幸運を掴み、貴方は何て幸せ者なんだ。
A 籤を引く場合は「当たりますように」と唱えなさい。
B そしたら、当選の幸運に恵まれる場合もあるよ。
C 慌てずに、後の方が有利だと信じて待て。
D 去年は飢饉だったが、今年は豊年のようだ。
E わが子も良い仕事に就く事ができ、有り難い事です。
F 彼の子は優れた運気に恵まれ一人前に成長している。
G あら、来てくれて、ほんと、ありがとうね。

【解説】
 「果報(くぁふう)」は「かふう」とも言い、「幸運」、「果報」の意味です。他語とも組み合わせは、概ね慣用的に定着しています。百果報(多くの幸せ)、命果報(助かった幸運)、百果報(御多幸)は「百」および「命」の講をご参照ください。

例文@「あった果報」は「僥倖」、「突然降って湧いた幸福」、「思いがけない幸福」。文語は「あた果報」。その地方語である「あたい果報」(又は「あたいが報」)には例文Aの意味もあります。「果報者」は「幸せ者」。「あった」は「突然」。
例文A「あたいがふう」は一部地方では「当選・合格しますように」と唱える文句ですが、例文@の意味もあります。
例文B「当てぃ果報」は「当選・合格等の幸運」の意味です。
例文C「後勝い果報」は「後の方が勝る事」、「後の方が有利である事」等の意味です。
例文D「世果報年」は「ゆがふうどぅし」とも言い「豊年」の意味。「世果報」、「弥勒世果報」も同じ。古語は「あま世(ゆう)」。
例文E「しでぃ果報」は「しどぅがふう」とも言い、平民の女性語で「ありがたいものを頂くこと」の意味ですが、「感謝」、「謝礼」の意味もあります。首里では同じく女性語で「妊娠」(授かり物)の意味で使います。
例文F「勝い果報」は「優れた運気に恵まれている事」の意味です。
例文G「果報し」は目下に対して言う「ありがとう」の意味かつ軽い「感謝の意」を表わします。「どお」、「や」(いずれも日本語の「ね」)等の感嘆詞を付けますが、言い切りの形も使います。「田舎言葉」という説もあります。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に箇条文の太字部分に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(果報者、当てぃ果報ぬある、後勝い果報、しでぃ果報でえびる、世果報年やくとぅ)。

@ 今(なま)ぬまあどお美味(まあ)さむん、贈(うく)てぃ呉(くぃ)みそおち、三拝(にふぇえ)でえびる
A 今度(くんど)お、ふくりとおくとぅ、何(ぬう)ぬ心配(しわ)ん無(ね)えやびらん。
B 良(い)い妻(とぅじ)とぅめえてぃ、汝(やあ)や、んずみてぃ、報人(ふうにん)やさ。
C 初物(はちむん)やかん、後(あとぅ)ぬ物(む)ぬんかいどぅ、ましやし(せ)ぬある事(くとぅ)ぬあん。
D かわてぃ、籤(くじ)柔(やふぁ)らさる人(ちゅ)ぬ居(をぅ)る訳(わけ)えあらん。
答え:
@ しでぃ果報でえびる。
A 世果報年やくとぅ。
B 果報者。
C 後勝い果報。
D 当てぃ果報ぬある。

日本語意訳
@今回は美味しい物を贈って頂きありがとうございます。
A今年は豊作なので何の心配もいりません。
B良い妻を娶り、君はとても幸せ者だよ。
C初物より後の方に良いものがある事がある。
D特に、籤が当たりやすい人がいるわけではない。



先頭頁 71