2010年12月15日

第50講 「―である(やん)」と「―でない(あらん)」

日本語

@ あそこの家は、今日は七夜のお祝いです。
A あの家主は悪い人ではありません。
B 親は三味線弾きですが、子は何でもありません。
C ここは与那城ではなく、屋慶名という所だ。
D 給料は会社にとっては出費であり、労働者にとっては収入である。

うちなあぐち

@ あまぬ家(やあ)や、今日(ちゅう)や、満産(まんさん)祝儀(しゅうじ)やいびいん
A あぬ家(やあ)ぬ主(ぬうし)え、悪(や)なむんやあいびらん
B 親(をぅや)あ、三味線(さみしな)、弾(ひ)ちゃあやみせえしが、子(くぁ)あ、何(ぬう)んあらん
C くまあ、与那城(ゆなぐしく)やあらん、屋慶名(やきな)す所(とぅくる)どぅやる
D 手間(てぃま)あ、会社(くぁいしゃ)にとぅてえ出(ん)じる前(めえ)やい、あがちゃあにとぅてえ入(い)り前(めえ)やん

【解説】
 日本語の「―だ、―である」は沖縄語では「―やん」です。その丁寧語は「―やいびいん」、目上語は「―やみせえん」となります。文中に強調を表わす助詞「どぅ」やその清音「る」がある場合はそれを受けて、それぞれの連体形、「―やる」、「―やいびいる」、「―やみせえる」で結びます。「係り結び」については第3講参照。
 前講にあるように、「やん」の否定の形は「―あらん(又あらぬ)」となります。「あらん」は、見かけは「あん(ある)」の未然形に否定助動詞が付いている形ですが、「あん」の否定ではありません。「あん」の否定は「ね無えん」又は「無えらん」です。参考:前講。「あらぬ」は「あらん」の「古い形」で、今でも使用される言い方なのですが、「あらん」が圧倒的に多く用いられています。
なお、「やん」や「あらん」の過去形はそれぞれ「やたん」、「あらんたん」と間接過去(第61〜65講)のみになります。「あらん」は「違う」という意味にも用いられます。例:くりえ、あらん(「これは違う」、あらんどお(違うよ)。あねえ、あらん(そうじゃない、そうではない)等。

例文@ 「すうじ、しゅうじ」は「祝儀」から転用した沖縄語で「祝い事」を表わします。
例文A 「やみせえん」は存在動詞「やん」の連用形「や」に目上語(尊敬語)である「みせえん」が付いたものです。目上語については第51講等参照。
例文C 「出じる前」は「出じり前」また「出じふぁ」とも言います。「入りみ目」は「出費」という意味です。
例文D 「―あらんあい」は「―でないし」と接続文が続く用法です。ちなみに、「やん」に接続文が続く場合は「―やい」となります。例:「くりんやい、ありんやん」(これでもあるし、あれでもある)。参考23講。
 
【応用問題】
次の沖縄語を日本語文に直しなさい。
@ ありえ、星(ふし)え、あらん、飛行機(ひこうち)どぅやる。
A あらぬ、あらぬ、うりえ、しょうむんやあらぬ
B 今(なま)あ、なあだ、秋(あち)え、あらん、夏(なち)どぅやる。
C はんたぬ上(ゐい)や、風所(かじどぅくる)んやい、すじ所(どぅくる)んやん
D あぬ女(ゐなぐ)お、うんじゅがたちなあかどぅやるい。
答え:
@ あれは、星ではない、飛行機だ。
A 違う違う、それは本物ではない。
B 今はまだ秋ではない、夏なのである。
C 崖の上は風が強い所でもあるし、涼しい所でもある。
D あの女性は、あんたのつれあい(配偶者)なのか。

2010年11月21日

第49講「ある(あん)」と「ない(ねえん)」

日本語

@ あの人は知恵がありますが、情がありません。
(知恵はあるが、情は無い)
A あの女は器量は悪いけど、ハートはあるよ。
器量は悪いですけど、ハートはありますよ。
B あんたんちは田んぼは無いけど、畑はあるかい。
    ありませんが、畑はありますか。

うちなあぐち

@ あぬっ人(ちゅ)お、じんぶんのお、しが情(なさき)え、
  無(ね)えやびらん。(じんぶんのお、しが情え無えん
A あぬ女(ゐなぐ)お、影(かあぎ)え、無(ね)えらんしが、肝(ちむ)おあんどお。
影え無えやびらんしが、肝おあいびいさ。
B いったあや、田(たあ)ぶっくぁあ、無(ね)えんしが、畑(はたき)えみ。
     無えやびらんしが、畑(はる)お、あいびいみ。

【解説】
 日本語の「ある」は「あん」で、丁寧語は「あいびいん」です。日本語の「無い」は「無えん」又は「無えらん」です。丁寧は何れも普通は「無えやびらん」ですが、「無え(い)びらん」とする人もいます。沖縄語の「無えん」は未然形の形をした「無え+らん」があります。未然形に否定を表わす「ん」を付けて「無えらん」としても、否定の否定で肯定の意味になるわけでなく、意味は同じです。したがって、何も未然形の形である必要はないと思うのですが、その差は何なのでしょか。慣用句として捉えましょう。また、「あらん」と「あいびらん」はあたかも「あん」とその丁寧語の「あいびいん」の否定の形であるかのような形をしていますが、実際は「やん(である、だ)とその丁寧語「やいびいん(です)」の否定語なのです。これについては、第50講で扱います。

例文@「じんぶん」は「知恵」の他に、「思慮分別」、「常識」等の意味ですが、「存分」という説もあります。数多くの転用語を持つ沖縄語の事ですから、あながち否定はできません。
例文B 「やあ(君、汝)」の複数形である「いったあ」は「やあ」の丁寧な言い方でもあります。「うんじゅ」は目上語(敬語)です。ここは、日本語の「君」に対応する「汝(やあ、いやあ)」でも間違いではありませんが、丁寧に言う場合は例文のように「いったあ」を使います。

【応用問題】次の沖縄語文を日本語文に直しなさい。
@ あまんかい、憩(ゆく)い処(どぅくる)ぬあいびいみ。
A あまんかいや無(ね)えやびらん。くまんかいあいびいん
B やあ汝や千円(しんいん)ぬんちょおん持(む)っちぇえ無(ね)えらんどぅみ。
C あぬっ子(くぁ)あ、聞(ち)ち分(わ)きん、無(ね)えらん
D 沖縄(うちなあ)んかいんい戦前(いくさめえ)や、軽便(けえびん)ぬたしが、今(なま)あ無(ね)えらん
答え:
@ あそこに休憩所はありますか。
A あそこには、ありません。ここにあります。
B 君は千円さえも持って無いのか。
C あの子は聞き分けもない。
D 沖縄にも戦前には軽便鉄道があったが今は無い。
  
【損しない知識】日本語文では過去形で表わす文を、沖縄語に直訳すると変な沖縄語になる事があります。例えば、「独立した言語」を「独立さる言語」と直訳すれば、「んん?」等と、ちょっと首を傾げられますが、「独立そおる言語(独立している言語)」と進行形で訳せば、何の問題もなく通じます。特に日本語を訳する場合に感じるのは、沖縄語は案外論理性のある言語だという事です。

2010年10月30日

第48講 比較の表現「―より、―」

日本語

@ 塩より酢を摂った方がよいです。
A 船が揺れるより飛行機が揺れる方が怖い。
B 美しいものよりしっかりしたものが良い。
C 見るより、踊れ。
D 車に乗って行くより、歩いて行った方が健康に良い。

うちなあぐち

@ 塩(まあす)やか、酢物食(しいむんか)むしえ、ましやいびいん。
A 船(ふに)ぬ、く返(げえ)ゆしやか、飛行機(ひこうち)ぬ、く返(げえ)ゆしえ、怖(うとぅる)さん。
B ちゅらさしやか、しょうらさしえ、ましやん。
C 見(ん)だやか、舞(も)うり。
D 車乗(くるまぬ)ゆしやか、歩(あ)っちゅしえ、胴(どぅう)がな、かなやびいん。

【解説】
 この「やか」について『沖縄語辞典』には「老人はゆかjukaという」の記述があります。地域によっては、「へえか」、「ゆいか」となります。「やかあ」もありますが、これの語末の「あ」はヤ系係助詞です。当然、「あ」の代わり「や」を用いた「やかや」もあります。「やかん」の「ん」は日本語の並列を表わす助詞「も」に対応する助詞ですから、「よりも」の意味になります。この「やか」は、通常は名詞(用言を名詞化した語を含む)に付きますが、例文Cのように、直接動詞に付く場合は未然形に付きます。
「やかあ」、「やかや」、「やかん」を用いる例を右の例文に応用するとそれぞれ、次の通りになります。
@塩やかあ、A船ぬくげえゆしやかや、Bちゅらさしやかん等。

例文A 「しょうらさん」は一部地方では「そうらさん」。「立派な、ちゃんとした、しっかりした」等の意味になります。形容詞基本形の語尾に「し」を付けると形容名詞となります。「ちゅらさ」も同じ形容名詞ですが、この方は「美しさ」という意味になります。
例文C 「見だ やか」は「やか」が動詞に付く場合の形です。
例文D 動詞から派生した名詞に付く場合の形です。「行ちゅん(行く)」の基本形語尾に「し」を付ければ、動名詞「行ちゅし」になります。「胴がな かなゆん(体が丈夫である)」は「胴がら かなゆん」とも言います。「胴がな」は単独では用いる事は稀で、例文のように「かなゆん(かなう、丈夫だ)」との組み合わせで用います。
  
【応用問題】
 次の沖縄語文を「やかん」を使う文に直しなさい。
@ 肉ゆかん、魚多く、食み(わ)。
A 夏ぬ暑さへえかあや冬ぬ寒さあ凌じい易っささ。
B クーラー点きらやか窓開きらな。
C 曲ぐりとおる(註)っ人ゆいかん真っとうばなっ人おまし。
D いちゃんだし買うらやか銭出じゃち買うらな。
答え:
@ 肉(しし)やかん、魚(いゆ)多(うふ)く食(か)み(わ)。
A 夏(なち)ぬ暑(あち)さやかん、冬(ふゆ)ぬ寒(ふぃい)さあ、凌(しぬ)じい易(や)っささ。
B クーラー点(ち)きらやかん、引(ふぃ)ち戸(どぅ)開(あ)きらな。
C 曲(ま)ぐりとおるっ人(ちゅ)やかん、真(ま)っとうばなっ人(ちゅ)おまし。
D いちゃんだし買(こ)うらやかん、銭出(じんん)じゃち買うらな。

日本語訳:
@肉よりも魚を多くたべよ。
A夏の暑さよりは冬の寒さは凌ぎやすいよ。
Bクーラーを点けるより窓を開けようじゃないか。
C道理をわきまえない人よりも実直な人こそ良い。
D只で買うより金を出して買った方が良い。

註:「曲ぐりゆん」は「道義をわきまえない」等の意味。派生語に「まぐりむん者(わからずや、道義をわきまえない者)」、「まぐらあ(前語と同じ意味)」等




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