第53講 目上語V「―御賜る(うたみびせえん)」

日本語

@ 知事は、お休みになっておられます。
A どうか、ご寵愛たまわりまください。
B 私の家族を見守りたまえ。
C 皆様、私が申し上げるお話をお聞きくださいませ。
D 結婚式にご出席賜り、大変ありがとうございます。

うちなあぐち

@ 知事(ちじ)え、憩(ゆく)いみそおち、うたびみせえん
A どうでぃん、思愛(うみがなさ)みそおち、うたびみそおり
B 我(わ)っ達家組(たあやあぐな)、見(みい)守(まん)んどおってぃ、うたびみそおり
C 御(ぐ)すうよう、我(わあ)がうんぬきゆる話(はなし)、うんぬかみそうちうたびそおり
D にいびちぬ御祝(うゆえ)えんかい、めんそおちうたびみそおち、いっぺえ、にふぇえで(い)えびる。

【解説】
 「うたびみせえん」は「御賜みせえん」と表記すれば意味が分かります。「たびゆん(賜びゆん)」に「御」が付いた語句なのですが、「たびゆん」はが口語では用いられませんので、この「うたびみせえん」という複合語があたかも一つの語であるかのようです。
 前講の「みせえん」同様、丁寧語「いびいん」が付き、「うたびみせえ(い)びいん」と成る事も多いです。( )内の「い」は都市部辺りでは、多くは略されますが地方では健在です。この語句は「呉ゆん」の目上語である「呉みせえん」よりも上級の敬語です。単に目上の相手に使うのでなく、階級的要素が加わり、上級の者に対して使う場合に用いるようです。
 階級のない現代では「うたびみせえん」は一般的な会話ではあまり使用されなくなっています。話し言葉においては、多くは「お願い事」に使いますので、「うたびみせえびり」や「うたびみせえびれえ」という命令形を覚えておけば通常は事足ります。文章語として使用したい方は例文Dの程度に(「―うたびみそおち、―」)程度に使用できれば良いと思います。
 とはいえ、日本語でも商用文や大衆を面前にした演説調の挨拶に、「武家言葉」が用いられているように、この「うたびみせえん」も同様な状況で使用される事が期待されます。なお、「うたびみそうり」にも「うたびみそうれえ」という砕け言葉があります。

例文A 「思愛さ」は「思い愛する事」、「肝愛さ」は「心から愛する事」。
例文B 「御火ぬ神がなし」は「火ぬ神がなし」や「御尊(ううとうとぅ)加那志(がなしい)」でも良いです。「家組」は「家人数(やあにんず)」とも言います。
例文C 「うんぬきゆん(申し上げる)」は「言ん」の謙譲語です。「うんにゅきゆん」とも言います。「うんぬかみそち」は「うんぬかゆん(お聞きになる=「聞く」の敬語)」に「みせえん」が付いた接続態です。「うんぬかゆん」は「うんにゅかゆん」とも言います。

【応用問題】
 次の対目上語を「うたびみせえん」を使って書き変えなさい。
@ 首相や沖縄(うちなあ)んかいめんそおちょおいびいん。
A 去年(くず)お見(み)い考(かんげ)えし呉(うぃ)みそおちにふぇえでえびる。
B 来年(やあん)ん、う葉書書(はがきか)ち呉(くぃ)みせえびり。
答え:
@ 首相や沖縄んかいめんそおちうたびみせえん。
A 去年お見い考えし、うたびみそおちにふぇえでえびる。
B 来年ん、葉書書ち、うたびみせえびり

日本語訳(意訳):
@首相は沖縄にいらっしゃっています。
A昨年はお世話になりありがとうございます。
B来年もお葉書をお書きになってくださいませ。

第52講 目上語U「―なさいます」「―(で)いらっしゃいます」を表わす「―みせえいびいん

日本語

@ おじいさん、気をつけて、歩いてくださいね。
A お婆さん、早目に、お越しくださいね。
B あそこのお母様はすっかり、お痩せになってしまっていますね。
C こちらの叔父さまは、医者でいらっしゃいます。
D あの家の主人は今はお忙しいです。

うちなあぐち

@ たんめえ、ゆう良し、あ歩っちみせえ(い)びりよおたい。
A ぱあぱあ、ふぇえべえ早々とぅ、いめんせえ(い)びりよお。
B あまぬあやあめえ前や、けえようがりとおみせえ(い)びいんやあ。
C くまぬをぅざ叔父さあや、いしゃ医者やみせえ(い)びいん
D あぬやあ家ぬぬうし・主え、なま今あ、いちゅな忙さみせえ(い)びいん

【解説】
 前講の目上語「みせえん」に丁寧語「やびいん」が付く場合の用法です。日本語に訳せば、「なさいます」や「いらっしゃいます」等となります。身内の目上に対しては、「みせえん」で十分ですが、そうでない場合はこの用法を用いる方が無難でしょう。必ずしも明確な基準がありません。また、大衆を面前にした挨拶や演説等の場合もこの用法を使う事が望まれます。
「やびいん」の「や」が前語尾音によって、「ゃ」や「い」になったり、あるいは略されたりしますが、「みせえん」に付く場合の多くは略されます。例文で「や」の変形である「い」を( )で括っているのは略される事が多いためです。

例文@ 「良うし」は直訳すれば「良くし(て)」ですが、ここでは「気をつけて」の意味です。「たんめえ」は「うしゅめえ(又うすめえ)とも言います。「みせえん」の命令形は「みそおり」また「みそおれえ」ですが、丁寧語を付けると「みせえ(い)びり」と、丁寧語の方を命令形にします。「みせえびれえ」も使う事は使いますが、多くは前者を使います。
例文A 「ぱあぱあ」は「はあめえ(婆前)」とも言います。「いめんせえびり」(いらっしゃいませ))は「めんせえびり」でもよいですが、前者がより敬語となります。ちなみに、「めんそおれ」は日本語では「いらっしゃい」の意味であり、「いらっしゃいませ」にするには、この「いめんせえびり」が適切です(参127頁の「めんそおり考」)。
例文B 「あやあ」は、ゆかっちゅう(士族)言葉で「母親」の意味です。庶民語は「あんまあ」です。
  
【応用問題】
 次の沖縄語文を丁寧語を使う文に直しなさい。
@ あぬっ人おまあぬ学校ぬ先生やみせえが。
A まち屋ぬ主や、銭ぬさんみん、しみせえん。
B 女ん達やゆんたくすしが、好ちやみせえん。
C 旨あさむんや、ようんなあ、うさがみそおり。
D あぬ女お、今ん、若さみせえんやあ。
答え:
@ あぬっ人(ちゅ)お、まあぬ学校(ぐぁっこう)ぬ先生(しんしい)やみせえ(い)びいが。
A まちやぬ主(すう)や、銭(じん)ぬさんみん、しみせえ(い)びいん。
B 女(ゐなぐ)ん達(ちゃあ)や、ゆんたくすしが好(し)ちやみせえ(い)びいん
C 旨(ま)あさむんや、ようなあ、うさがみせえ(い)びり
D あぬ女(ゐなぐ)お、今(なま)ん、若(わか)さみせえ(い)びいんやあ。

日本語意訳:
@あの方はどこの学校の先生でいらっしゃいますか。
Aお店の主人はお金の計算をなされます。
B女たちはおしゃべりをするのがお好きでいらっしいます。
C美味しいものはゆっくりお上がりくださいませ。
Dあの女性は今もお若くいらっしゃいますね。

第51講 目上語T「―なさる」「―いらっしゃる」を表わす「―みせえん」

日本語

@ あのお方は、どなたでいらっしゃいますか。
A あのお方は、校長先生でいらっしゃいます。
B あなたがたの伯母は、なんて、美しいのでしょう。
C 伯母の母も、また美人でいらっしゃいました。
D どうぞ、この御馳走を頂いてください。
E お魚は、要りませんか(いかがでしょうか)。
F お母さんは、何をお持ちですか。
G 母は大事な瓶水を持っているのです。

うちなあぐち

@ あぬっ人(ちゅ)お、誰(たあ)やみせえが。
A あぬっ人お、校長(こうちょう)先生(しんしい)やみせえん
B いったあ伯母(をぅば)まあや、あんし、ちゅらさみせえる
C 伯母まあぬ女(ゐなぐ)ぬ親(をぅや)ん、ちゅらかあぎやみせえたん。
D どうでぃん、くぬくぁっちい、うさがてぃ呉(くぃ)みそおり
E 魚買(いゆこ)ういみそおれえ(買うんそおり)。
F あんまあや、何(ぬう)持(む)っちょおみせえが。
G あんまあや、あたら瓶水(びんしい)どぅ持(む)ちょおみせえる

【解説】
 目上に対する敬語には基本的には4通り(本講〜56講)ありますが、本講では「みせえん」を紹介します。「みせえん」は、話題の対象になっている目上の人物に対して用います。丁寧文との違いは日本語の場合と概ね同じです。「みせえん」は単独で用いる場合は、「言う」、「食べる」等の意味の敬語ですが、動詞に付いて助動詞になる場合は、「なさる」、「でいらっしゃる」の意味となります。「みせえん」はどの用言に付くかによって意味が次の三つに分かれます。
@目上の存在状態を示す存在動詞に、
A目上の動作に対する動詞に、
B目上を形容する形容詞に付いて、
それぞれ、「―でいらっしゃる」、「―なさる」、「―(し)くいらっしゃる」等の意味になります。なお、「めんせえん」は、「みせえん」の語頭に「め召」がついた語です(これには多種の解釈があります)。関連127頁「めんそおり考」参考。

文例@、A及びC 「みせえん」が存在動詞に付く場合の例です。
文例B 形容詞に付く場合の例です。
文例D 動詞に付く場合の例です。「うさがゆん」とういう動詞自体も「食べる」の敬語です。「呉みそおり」自体は「呉り(呉れ)」の敬語(目上)ですが、動詞に続く場合は、「―してください」という意味の助動詞になります。なお、「呉り」を介せず、直接動詞に付く場合の同じ意味の別形は、うさがみそおり、うさがいみそおり、うさがみそおれえ。  

 さて、目上語は目上の動作や状態について使うのですが、目上の者の身体の部位(髪、手足、爪等)についてはどうなのでしょうか。文中で、対象となっている身体の部位が主語になっている場合は次の例文のように、丁寧語で十分でしょう。例:御主前ぬ手や長さいびいんやあ(お爺さんの手は長いですね)。
 
【応用問題】
 次の文を目上語「みせえん」を使って次の文を直しなさい。
@ あら、おばあさん、お元気でいらっしゃいますか。
A おばあさんは、いつも、お若くていらっしますね。
B どうぞ、この廊下をお通りください。
C 母は今、裏座でお休みなさっています。
D お客様はあちらに行かれてください。
答え:
@ あいな、ぱあぱあ、かなあっとお(御頑丈《うがんじゅう》や)みせえみ
A ぱあぱあや、いちん、若(わか)さみせえんやあ。
B どうでぃん、くぬ縁(いいん)から、う通(とぅう)いみそおり
C あんまあや、今(なま)あ、裏座(くちゃ)んじ、憩(ゆく)とおみせえん
D 客(うちゃく)お、あまんかい、めんそおり




先頭頁 71