2010年10月14日

「第47講 接続文「―だのに(―なのに、―ものを)」

日本語

@ 日が落ちたので、もう誰も来ないよ。
A 高離島は苦労を知らせる所なので、二度と行くものか。
B 気分が悪いので、少し、休みましょうよ。
C 誰も掃き掃除しないから、庭は汚れっぱなしです。
D 働かないのに、手間賃が貰えるものか。

うちなあぐち

@ てぃだ、てぃいだ太陽ぬう落てぃとおるむぬ、なあたあ誰んく来うんさ。
A たかはなりじま高離島やむぬし物知らしどぅくる所やるむぬ、又とぅい行ちゅみ。
B あんまさるむぬ、ちゅてえや、ゆく憩とおちゃびらな。
C たあ誰んほう掃ちかちさんむぬ、なあ庭やちゃあゆぐ汚いそおいびいん。
D あがかんむぬ、てぃま手間ぬい得いらりいみ。

【解説】
 やや文語的ではありますが、口語でも多く使われている表現です。主には「―むぬ」が多く使われますが、口ごもったように聞こえないように、力強く発音する「―むんぬ」という変形もあります。「物」や「者」が「むん」ともなるように、この「むぬ」もまた「むん」とも言います。この表現は第14講「―くとぅ」や第15講のような「―やくとぅ」で代用する事もできます。

例文A 古典民謡「高離節」の歌詞には「高離島や、ものしらしどころ、にや、もの知やべたん、わたちたぼうれ」とあります。口語(合音)で書き直すと、「高離島や、むぬ知らしどぅくる、なあ、むぬ知やびたん、渡ちたぼうり」(日本語訳は、「高離島は(苦労を)知らせるところ、もう、(十分苦労するという事が)分かりました。(どうか、本島に)渡して(帰して)ください。」。「知やべたん」は「知ゆん」の丁寧文をさらに過去文にしたものですが、近年は「分かやびたん」が一般的となりました。
例文C「掃ちかち」の「かち」は作業のこと。「ちゃあ―」は「―し続ける」の意味の副詞で、日本語とは逆に動詞の前に付ます。次はその「ちゃあ」との複合語です。「ちゃああびい(喋りっぱなし)」、「ちゃあ頑丈(ずっと元気)」、「ちゃあしい(し続け)」等。同じ発音で「ちゃあ如何」もありますが、文章では文脈で、話し言葉では抑揚で区別できます。前者は下げ声(音)で、後者は上げ声です。後者の例:「ちゃあすが(どうするか)」、「ちゃあやが(どうなのか)」、「ちゃあん成らん(どうしようもない)」等。
例文D 「あがちゅん」は「労働する」「はかどる」等の意味があります。

【応用問題】
 次の沖縄語文を「むぬ、むんぬ」または「むん」(何れも同じ意味)を使って言い換えなさい。
@ 目光(みいふぃちゃ)らさくとぅ戸閉(はしるく)うやびたん。
A 昇(ぬぶ)たい降(う)りたいぬあんまさぬ荷(にい)やかやあさらん。
B クーラーん点(ち)きらんくとぅ寝(に)んだりいんなあ。
C うぬふぃいらあやはごうさぬ触(さあ)らりやびらん。
D 良(い)い監督(くぁんとぅく)ぬ加護(かぐ)さみとおくとぅ優勝すしえ当(あ)たい前(めえ)。
答え:
@ 目光らさるむんぬ、戸閉うやびたん。
A 昇たい降りたいぬあんまさるむん、荷やかやあさらん。
B クーラーん点きらんむんぬ、寝んだりいんなあ。
C うぬふぃいらあやはごうさるむん、触らりやびらん。
D 良い監督ぬ加護さみとおるむぬ、優勝すしえ当たい前。

日本語意訳:
@まぶしいから戸を閉めました。
A昇り降りがきついのでその荷物は運べない。
Bクーラーも点けないのに眠れるものかねえ。
Cそのゴキブリは汚いので触れません。
D良い監督が指導しているんだもの、優勝するのは当然。

2010年09月28日

第46講 接続文「―しないと、―」V

日本語

@ 酒はたっぷり注がないと不平を言われるよ。
A 行き慣れないと道に迷うよ。
B 空気を読まないと嫌われます。
C 無愛想にしなければ美人ですけど。
D 結婚しないと一人前じゃない。

うちなあぐち

@ 酒(さき)えじぱっとぅ注(ち)がんあれえ(あいねえ)、じいぐいさりんどお。
A 行(い)ちい慣(な)りらんあれえ(あいねえ)、道(みち)ざあまなゆしが。
B ざあん無(ね)えらんあれえ(あいねえ)、はごうささりやびいん。
C かまじし喰(く)うらんあれえ(あいねえ)、清(ちゅ)ら影(かあぎ)やみせえしが。
D 妻(とぅじ)んとぅめえらんあれえ(あいねえ)、一人前(、いちにんめえ、ちゅなみ人並)あらん。

【解説】
 前44講および第45講と同じ意味の文型です。
 「あれえ」の「れえ」は、第19講で紹介した条件や仮定を表わす「れえ」と同じものです。「あ」は「あん(有る)」の連用形でもあり条件形でもあります(ちなみに条件形は「あり、あ」)。例文の( )内は、同じく「あん」の連用形の別形「あい」に仮定を表わす「ねえ」を付けた文で、意味は「あれえ」と全く同じです。しかし、「あん」の条件形「あ」に仮定を表わす「れえ」が付いたものとも考えられます。

例文@ 「じいぐい(不平)」に関連語に「じいぐいひゃあぐい(不平たらたら)」、「じいぐやあ」、「じいぐいむん」(いずれも、不平を言う者)」等があります。
例文A 「道ざあまなゆん(道に迷う)」は慣用句として覚えましょう。
例文C 無愛想な人の事を「かまじさあ」と言います。
 次の別形は、この文に強調助詞「どぅ+ん」を使う場合と、さらにそれが約まった形です。(「どぅ」が強調助詞で、「ん」は日本語の「も」に対応する係助詞です。)「どぅ」は前の語を強調する助詞ですが、この場合は強調というより語調を整えたり(間を取る)する意味合いの方が強いかもしれません。
例文と同じ意味の別形は、例文順に、注がんどぅんあれえ(注がんだらあ)、慣りらんどぅんあれえ(慣りらんだらあ)、無えらんどぅんあれえ(無えらんだらあ)、喰うらんどぅんあれえ(喰うらんだらあ)、とぅめえらんどぅんあれえ(とぅめえらんだらあ)。
  
【応用問題】
 次の沖縄語文を「だらあ」を使う文に直しなさい。
@ 戸開(はしるあ)きらんあれえ、息(いち)切(じ)りゆんどお。
A 地(じい)や、とおみらんあれえ、家(やあ)や、建(た)てぃららん。
B 気(ち)がきらんあれえ、試験(しきん・)ぬんかい、掛(か)かやびらんどお。
C 早(ふぇえ)く、温(ぬく)たまらんあれえ、冷(ふぃず)ずるかんじゃあ回(まあ)ゆしが。
D 良(ゆ)う、噛(か)なあち、食(か)まんあれえ、肥(くぇ)えゆんどお。
答え:
@ 戸開きらんだらあ、息切りゆんどお。
A 地や、とおみらんだらあ、家や建てぃららん。
B 気がきらんだらあ、試験ぬんかい掛かやびらんどお。
C 早く温たまらんだらあ、冷ずるかんじゃあ回ゆしが。
D 良う、噛なあち、食まんだらあ、肥えゆんどお。

日本語訳:
@戸を開けないと、息苦しいよお。
A地面は均さないと、家は建てられない。
B精を出さないと、試験は受かりませんよ。
C早く温まらないと、悪寒に見舞われるけど。
D良く噛んで食べないと、太るぞ。

2010年08月27日

第45講 接続文「―ないと、―」U

日本語

@ 草は枯らさないと、燃えないよ。
A かがまないと、床下は覗けません。
B 絵は、よほどの興味が無いと、描けません。
C 包帯で巻いておかないと、しみて痛むよ。
D しっかりしないと、お灸を据えられることになるけど。

うちなあぐち

@ 草(くさ)あ枯(か)らさんとお、燃(め)えらんどお。
A 屈(かが)まらんとお、床下(ゆかさ)あ、すう見(みい)やないびらん。
B 絵(いい)や、すうまんとお、描(か)ちゆさびらん。
C 包帯(ほうてえ)し、巻(ま)ちょおかんとお、すうむんどお。
D しょう入(い)らんとお、灸(やあちゅう)、焼(や)かりいしが。

【解説】
 接続文「―しないと、―」の意味の別の構文です。「とお」を使用する接続は本島中部辺りでは前講同様に使用頻度は多いですが、『沖縄語辞典』には語句や使用例等がありません。
例文A 「床下」は「ゆかしちゃ」ではなく「ゆかさ」となります。
例文B「すうむん」は「夢中になる、大いに興味がある」等の意味の動詞です。「すうみ」は「興味」という意味の名詞です。

例文C ここの「すうむん」は例文Bの「すうむん」と同音・同抑揚(上げ声)ですが、「染みる、染みて痛む」等の意味を持つ別の動詞です。首里語は何れも「すうぬん」。
例文D 「しょう」については、189頁の例文Cに関する記事を参考。

【応用問題】
 次の沖縄語文を「んでえ、でえ」(第44講参照)を使う文に直しなさい。答えは下欄です。
@ うぬ茶(ちゃあ)や早(ふぇえ)く、飲(ぬ)まんとお、温(ぬる)っくぃゆんどお。
A 大叫(うふあ)びいさんとお、聞(ち)ちいぐりさいびいんどお。
B 急(いす)がんとお、夜(ゆう)ぬけえ、ゆっくぃゆしが。
C 座(ざあ)や華(はね)えかさんとお、面白(うむ)くん無(ね)えらんどお。
D うぬ水(みじ)え、ゆてぃらんとお、けえ、あんでぃゆんどお。
答え:
@ うぬ茶や、早く飲まんでえ、温っくぃゆんどお。
A 大叫びいさんでえ、聞ちいぐりさいびいんどお。
B 急がんでえ、夜ぬけえ、ゆっくぃゆしが。
C 座や華えかさんでえ、面白くん無えらんどお。
D うぬ水え、ゆてぃらんでえ、けえ、あんでぃゆんどお。

日本語訳:
@そのお茶は早く飲まないと、温んでしまうよ。
A大声で喋らないと、聞きづらいですよ。
B急がないと、夜が更けてしまうけど。
C座は賑やかにしないと、面白くないよ。
Dその水はこぼさないと、溢れてしまうよ。

【沖縄語のN音】沖縄語には三通りのN音があります。ローマ字表記をしている『沖縄語辞典』は工夫を施しています。本来のn音はn、主に開音の「い、う、お、ゆ」等に由来する音は?N(例?Nmu「芋」)、又主に開音のマ行等に由来する音はn(例Nni「胸」)で表記しています。ひらがな表記では全て「ん」としか表記できないのが悩ましいです。



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