2011年06月21日

第59講 命令形の表現

日本語

@ 早く、こっちへ来い。
A 庭のバラに水をかけろ。
B そんな事は自分でやれ。
C みんな、沖縄語を使ってくれたまえ。
D どうか、みんなで、助けてください。

うちなあぐち

@ 早(ふぇえ)くなあ、くまんかい来(く)う。(く来うわ、く来わ)
A 庭(なあ)ぬ長春(ちょうしゅん)ぬんかい、水(みじ)かきり。(かきりわ、かきれえ)
B うんな事(くと)お自(どぅう)し、し。(しわ、せえ)
C 皆(んな)、沖縄語使(うちなあぐちちか)いみそおれえ。
                   (使いみそおりわ、使いみそおり)
D どうでぃん、皆(んな)し、助(たし)きてぃ、取(とぅ)らし。(取らしわ、取らせえ)

【解説】
 動詞や助動詞の命令形には二つの形があります。
(1)口語では多くは命令形の語尾音が助詞「え」を伴う事によってエ段音になり、
(2)助詞「え」を伴わない文語における場合、口語において助詞「わ」を伴う場合そして接続文が続く場合はイ段音(参考第60講)になります。
 口語においては、多くは「え」と「わ」の二種類の助詞が付きます。
 「わ」が付く場合の命令形の形は原則として語尾は「イ段音」になり、
 「え」が付く場合のそれは、命令形の本来の語尾であるイ段音が「え」につられて、エ段音に変化します。
 但し、「行き+んでぃ+言ちゃん」(行けと言った)のように、命令形に文が接続する場合は、「本来の形」に戻ります(次講)。

例文@「来ゅうん」の命令形は、本来は「く」または「くう」ですが、慣用的に助詞「わ」とセットになり、「くわ」「くうわ」等となります。「わ」はエ段に付く事もあります。例:「せえわ(しなさい)」、「食めえわ(食べなさい)」、等。
例文A ラ行ユン動詞の場合の命令形は「かきゆん→かきり」と「ゆん」の部分が「り」になります。
例文B スン動詞の場合は「し」、「しわ」、「せえ」となります。
例文C「みせえん」「たぼうゆん」等は夫々、「みそおり」、「たぼうり」となります。
  
【応用問題】
 次の太字の命令文を助詞「わ」及び「え」を使う命令文に直しなさい。
@ 汝(やあ)よ、うぬ長(なが)さる爪(ちみ)、詰(ち)みり
A うぬ髭(ふぃじ)え、風儀(ふうじ)ん無(ね)えらんくとぅ、剃(す)り
B 妻(とぅじ)とぅめいねえ、家建(やあた)てぃり
C 意地(いじ)ぬ出(ん)じらあ、手(てぃい)引(ふぃ、ひ)き
D なあ、くまぬ家(やあ)から出(ん)じてぃ、行(い)き
答え:
@ 詰みりわ。詰みれえ。
A 剃りわ。剃れえ。
B 家建てぃりわ。家建てぃれえ。
C 手引きわ。手引けえ。
D 行きわ。行けえ。

日本語意訳:
@君よ、その長い爪を切れ。
Aその髭はみっともないから剃れ。
B結婚したら家を建てよ。
C意地がでたら、手を引け。(糸満の諺、意訳:頭にきた時は、手を出すな) 
Dもう、ここの家から出て行け。

【めんそおり考】観光客でも知っている「めんそおれえ」は「めんそおり」の砕け言葉で、「め+みそおり」という複合語の変形です。「め」については諸説ありますが、「召」ではないでしょうか。『沖縄語辞典』は全体を一語として扱っています。これを「めんそおれえ」を最上級の敬語である「いめんせえいびり」に変えようにも最早、動かざる如、山の如しです。

2011年05月20日

第58講 禁止の表現U「―しないで」

日本語

@ 痒くても、頭は掻かないで。
A 人前では、お金の計算はしないで。
B 親の脛をかじらないで。
C 夜は爪は切らないで。
D 背中は痛いから、揉まないで。
E そんな事は言わないで。

うちなあぐち

@ いい痒(ごう)さてぃん、頭(ちぶる)お、掻(か)くなけえ。(掻かんけえ
A 人(ちゅ)ぬ前(めえ)んじえ、銭(じん)ぬさんみんやすなけえ。(さんけえ
B 親(をぅや)ぬむぬおかかじんなけえ。(かかじらんけえ
C 夜(ゆる)お、爪(ちみ)え、詰(ち)みゆなけえ。(詰みらんけえ
D 背中(ながに)え、痛(や)むくとぅ、みみぐなけえ。(みみがんけえ
E うんな事(くと)お、言(ゆ)なけえ。(言《い》ゃんけえ、言《い》らんけえ

【解説】
 前講の禁止形に「けえ」を付ける場合の例です。多く使われる形であり、「けえ」は感情を表わす助詞の一つと考えられますが、元々は動詞語尾又は終助詞「き」と助詞「え」のニ語から成っている可能性もあります。文章語の「地の文」には基本的には、感情を表わす助詞等は使用しませんので、この形の文はどちらかといえば、「話し言葉における形」だと言えます。また例文の( )内のように、「否定の形」に「けえ」を付ける形も多く使用されています。民謡歌詞等ではまだ前者が優勢ですが、実際の会話では地域差を考慮しても( )内の例が優勢のような感じがします。

例文B 「かかじんなけえ」の「ん」は「かかじゆなけえ」の「ゆ」が撥音便化したものです。
例文C 「詰みゆなけえ」は「詰みゆん」の「ゆ」が撥音便化しない例です。
例文D 「みみじゅん(揉む)」には「いじめる」の意味もあります。

●組踊における禁止形例:琉球語を基調とする組踊脚本でも、左記例のように統一されているわけではありませんが、その理由として、韻を踏む事(字数調整)を優先した事も一因であると考えられます。
大川敵討:「念遣(にんじぇけ)す(シ)るな」、「気遣(きじけぇ)す(シ)るな」、「勘違ひ(イ)す(シ)るな」、「言ふな」、「短気(たんち)す(シ)るな」、「油断(ゆだん)す(シ)るな」等。
銘苅子:「ど(ドゥ)く泣くな」、「足(あし)まろびす(シ)るな」、「油断すな」、「友(どぅし)む(ム)つれ(チリ)す(シ)るな」、「気遣ばす(シ)るな」等。
護佐丸敵討:「油断するな」
執心鐘入:「麁相(すそ)ども(ドゥン)思(うむ)ふ(ウ)な」、「油断す(シ)るな」、「沙汰(さた)も(ン)す(シ)るな」、「気にかかて(ティ)いくな」、「わ身(み)も(ン)怨(うら)みるな」等。
女物狂:「無理になばくるな」、「約束(やくすく)よ(ユ)違(たご)ふ(ウ)な」、「偽(いちわい)り(イ)よ(ユ)す(シ)るな」、「この(クヌ)世(ゆ)までと(マディトゥ)思(む)な」等。
万歳敵討:「我(わ)が名(な)ども(ドゥン)言(ゆ)ふ(ウ)な」等。
 
【応用問題】
 次の禁止形文を「けえ」を使う文に直し、さらに「否定形+けえ」の文に直しなさい。
@ うぬ事(くと)お、はっぷがす
A 今日(ちゅう)やわじん
B むんじゅる平笠(ふぃらがさ)被(かぶ)るよ。(古典「ムンジュル節」)
C いそうさぬばあやわじゃむ
答え:
@ うぬ事お、はっぷがすなけえ(はっぷがさんけえ)。
A 今日やわじんなけえ。(わじらんけえ
B むんじゅる平笠被るなけえ。(被んだんけえ
C いそうさぬばあやわじゃむなけえ。(わじゃまんけえ)。

日本語意訳:
@その事は暴露しないで。
A今日は怒らないで。
Bムンジュル平笠は被るな。
Cうれしい時はしかめっ面をしないで。

2011年05月02日

第57講 禁止の表現T 「―するな」

日本語

@ 手だけは、縛るな。
A あの人は、呼ぶな。
B 箒では、掃くな。
C この海岸は、危ないから、泳ぐな。
D 夫婦喧嘩はするな。

うちなあぐち

@ 手(てぃい)びけんや、縛(たば)る
A あぬっ人(ちゅ)お、呼(ゆ)ぶ
B 箒(ほうち)しえ、掃(ほ)うく
C くぬ海端(うみばた)あ、うかあさくとぅ、泳(ゐい)ぐ
D 夫婦(みいとぅんだ)煽合(おおええ)や、す。(「煽合については第97講の「註」参考」)

【解説】
 動詞活用の形の中でも禁止の形は、日本語の禁止の形に近いといえます。禁止を表わす終助詞(副詞とする説もある)「な」自体が同じです。但し実際は、動詞によって、幾つかの変形があります。例えば、「とぅ取な」は、実際は「とぅ取んな」、「とぅ取るな」という言い方の方が優勢です。「すな(するな)」も「するな(古くは『しるな』)」の言い方もあります。これらが日本語の影響なのか、あるいは 一部の地方の言い方が広まったものかはっきりしません。
 また、ここで紹介した禁止形に、口語では、さらに終助詞「けえ」のついた「―すなけえ」の言い方に倣い、否定を表わす形に助詞(副詞説あり)「けえ」をつける「取らんけえ」という言い方も優勢です。この形は今や動詞の一つの形として無視できません(第58講参考)。この「けえ」については次講参照。

文例B 「箒しえ」は「箒なかいや」とも言います。
文例D 「すん」は首里語では「しゅん」です。「夫婦」を表わす「みいとぅんだ」と兄弟姉妹を指す「うとぅざんだ」(又は、「うとぅだんだ」)の語尾部分「んだ」は「一対」または「親密な組み合わせ」を表わす語だと考えられます。
その他の動詞の例は次の応用問題をご参照ください。

  
【応用問題】
 次の沖縄語文の( )内の動詞を禁止の形に直しなさい。
@ ちゃっさ、皮(かあ)ぬゐいごうさてぃん、(掻《か》ちゅん)。
A 井水(かあみじ)え、うぬまあまあや、(飲《ぬ》むん、註)。
B 酒(さき)え、飲(ぬ)でぃん、煙草(たばく)お、(吹《ふ》ちゅん)。
C くぬ包丁(ほうちゃあ)や、鈍(なま)りてぃん、今(なま)あ、(研《とぅ》じゅん)。
D なましばい(註)ぬ出(ん)じとおるばあや、(しだすん)。

@ ちゃっさ、皮ぬゐいごうさてぃん、掻く
A 井水え、うぬまあまあや、飲む
B 酒え、飲でぃん、煙草お、吹く
C くぬ包丁や、鈍りてぃん、今あ、研ぐ
D なましばいぬ出じとおるばあや、しだす(註)。

註:「飲むん」は首里語では「飲ぬん」。「なましばい」は「脂汗」。「しだすん」は「磨く、化粧する」等の意味。

日本語意訳:
@いくら、皮膚が痒くても掻くな。
A井戸水はそのままでは飲むな。
B酒は飲んでも煙草は吸うな。
Cこの包丁は鈍っても、今は研ぐな。
D脂汗をかいているときは化粧するな。




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