第62講 直接過去と間接過去の疑問文

日本語

@ 私がこれを取ってはいけないと、言ったか。
A 私がこれを取ってはいけないと言ったのか。
B 姉さんは学校に行けと、言いよったか。
C 君が電灯を消したのか。
D 彼が火を消したのか。(消しよったのか)
E あの子も、もう大人になったか。
F あの子にも、そのような計算ができたのか。
G あの頃も、今のように雨が降ったか。
H あの頃も、今のように雨が降りよったか。
I 君は昨日はどこへ行ったか。
J 君の友だちはどこへ行きよったか。
K おじいさんはどうやって、歩いたか。
L おばあさんはどのようにして、歩きよったか。
M 君はこの間は、何をしたか。
N 君の弟はあそこで、何をしよったか。

うちなあぐち

@ 我(わあ)がくりえ、取(とぅ)てえならんでぃ、言(い)ちみ。直
A 我がるくりえ、取てえならんでぃ、言(ゆ)るい。間
B 姉(あばあ)や、学校(ぐぁっこう)んかい行(い)きんでぃ言(ゆ)み。間
C 汝(やあ)がる電灯(でぃんとう)消(ちゃ)あちるい。直
D 彼(あり)がる火消(ふぃいちゃ)あするい。間
E あぬ童(わらび)ん、なあ、大人(うふっちゅ)成(な)たみ。(×てぃみ)直
F あぬ童ぬん、うんなさんみんぬ成ゆみ。間
G うんにいん、今(なま)ぬ如(ぐとぅ)、雨(あみ)ぬ降(ふ)み。直
H うんにいん、今ぬ如、雨ぬふ降ゆみ。間
I 汝(やあ)みえ、昨日(ちぬう)や、まあんかい、行(ん)じが。直
J 汝友(やあどぅし)え、まあんかい、行(い)ちゅが。間
K 御主前(うすめえ、うしゅめえ)や、ちゃあし、歩(あ)っちが。直
L 婆前(はあめえ)や、如何(ちゃ)ぬ風儀(ふうじい)し、歩っちゅが。間
M 汝(やあ)や、くね間(えだ)あ、何(ぬう)さが。(しが)直
N 汝弟(やあうっと)お、あまんじ、何(ぬう)すが。間

【解説】
 例文@〜Hは特定の状況やのものを尋ねる場合、また例文I〜Nはいつ、どこで、誰が、何を、どのように等を尋ねる疑問(疑問文については第1〜11講参照)ですが、特に過去疑問文から分かる事は直接過去と間接過去の使い方が必ずしも、固定的なルールがあるわけではないという事です。
 直接過去と間接過去という表現はあくまで、表現者の考えの中にある「主観的」なものなのです。自分の動作の過去表現でも、話し相手に対して、自分の事を(客観化して)尋ねる場面等では文例Aのように、間接過去文(疑問文)を使う場合もあります。
 なお、例文Eの(× )は実際には使わない形であり、直接過去助動詞の一部「ゃ」を表示するためのものです。

例文I 「汝めえ」は「汝(やあ)」の別形である「汝み(汝身?)」に係助詞「え」が付いたもので地方で多く使用されます。

【応用問題】
 次の疑問文を間接過去の疑問文に直しなさい。直せない場合は「不可」と表示しなさい。
@ 汝(やあ)やくぬ包丁(ほうちゃあ)や、研(とぅ)じゃみ
A 彼(あり)え、何(ぬう)しいが、来(ち)ゃが
B 汝(やあ)弟(うっとぅ)ん昨日(ちぬう)ぬ芝居見(しばいん)ちゃみ
C あぬ二才(にいあせえ)達(たあ)ん、くまんかい来(ち)ゃみ
D 童(わら)ん達(ちゃあ)や、まあんかい、ふぃん逃ぎたが(てぃゃが)。
答え:
@ 不可 (意味的におかしくなるから)
A 彼え、何しいが、ち来ちゅうたが
B 汝弟ん、昨日ぬ芝居、ん見じゅたみ(「見(ぬ)うたみ」)。
C あぬ二才達ん、くまんかい、ち来ゅうたみ
D 童ん達や、まんかい逃ぎゆたが(ふぃん逃ぎいたが)。

日本語意訳:
@君はこの包丁は研いだか。
A彼は何しに来たか。
B君の弟は昨日、芝居を見たか。
Cあの青年もここへ来たか。
D子供たちはどこへ逃げたか。

第61講 直接過去と間接過去T(概略)

日本語

@ 昨日、私は遊びに行った。
  昨日、彼は那覇に行った(行きよった)
A このあいだ、凧を飛ばした。
  あの子はバッタを飛ばした(飛ばしよった)。
B 私は給料を貰って直ぐに、計算をした。
  彼も計算をした(しよった)。
C 私は彼の事で、笑った。
  子ども達はみんな笑った(笑いよった)。
D 朝は、私たちは、コーヒーを飲んだ。
  彼らはジュースを飲んだ(飲みよった)。

うちなあぐち

@ 昨日(ちぬう)、我(わん)ねえ、遊(あし)びいが、行(ん)じゃん。直
     彼(あり)え、那覇(なあふぁ)んかい行(い)ちゅたん。間
A くねえだ、ぶうぶう凧(だく)、飛(とぅ)ばちゃん。直
      あぬ童(わらび)え、せえ、飛(とぅ)ばすたん。間
B 我(わん)ねえ、手間得(てぃまい)いてぃ直(ちゃあ)き、計算(さんみん)さん(しゃん)(しちゃん)。直
     彼(あり)ん計算(さんみしん)すたん。間
C 我(わん)ねえ、彼(あり)が事(くとぅ)なかい、笑(わら)たん。(×笑てぃゃん)直
     童(わら)ん達(ちゃあ)や、諸(むる)、笑(わら)いたん(わら笑ゆたん)間
D 朝(あさ)あ、我(わ)っ達(たあ)や、コーヒー飲(ぬ)だん。(×でぃゃん)直
     あっ達(たあ)や、ジュース飲(ぬ)むたん(飲ぬたん)。間
  
【解説】
 沖縄語の過去表現には、直接表現(直接過去助動詞「(ゃ)ん」を使う)と間接表現(間接過去助動詞「たん」を使う)の二通りあります。話し手自身の過去表現については直接表現を使います。
 他人や動植物および自然が主体となる過去表現の場合であっても、話し手の「直接的な体験の感覚」で表現する場合は直接表現を用います。
 間接過去表現は他人や動植物及び自然が主体となる行為の過去について客観的に表現する場合に使います。
 逆に自己の過去表現であっても「夢の中の自分」等、特殊な場面では間接過去表現にする事もあります。
例:「我ねえ海んじうぶきゆたん(私は海で溺れよった)」等。
 なお例文B、Cの( )内は実際に使われる形ではなく動詞連用形に吸収されて、文に表われない直接過去助動詞の一部「ゃ」を表示するためのものです。
疑問形における過去の表現は「汝や、物食だんなあ」等と相手の立場に立つ直接表現がなされます。

例文A スン・チ動詞における例です。他例:(終止、直説過去過、間接過去の順に)為すん→為ちゃん→為すたん等。
例文B スン・シ動詞における例です。他例:運転すん→運転さん→運転すたん等。
例文C ユン系動詞(イン系動詞)における例です。他例:開きゆん→開きたん→開きゆたん(開きいたん)等。
例文D ムン・ディ動詞(首里語では「ヌン・ディ動詞」)における例です。他例:読むん→読だん→読むたん等。
  
【応用問題】
 次の文を間接過去表現にしなさい。答えは( )内です。
@ ちゃっさきいぬ犬(いん)ぬ寄(ゆ)てぃ、来(ち)ゃん。(ち来ゅうたん
A 御主前(うしゅめえ、うすめえ)や、どぅく、暑(あち)さぬ、クーラー、点(ち)きた。(点きいたん、点きゆたん
B 父(すう)や、童(わらび)んかい、書物(しゅむち)読(ゆ)でぃ、聞(ち)かちゃん。(聞かすたん
C 風(かじ)ぬ吹(ふ)ち、雨(あみ)ぬ降(ふ)た。(降いたん、降ゆたん
D うんな事(くと)お、すなんでぃ、あんまあぬ言(い)ちゃん。(言《ゆ》たん

日本語意訳:
@たくさんの犬がやってきた。
Aおじいさんは、とても暑いのでクーラーを点けた。
B父は子どもに本を読んで聞かした。
C風が吹き雨が降った。
Dそんな事はするなと母が言った。

第60講 命令の表現U「命令文+接続文」

日本語

@ 彼女に彼の事は諦めてと、言ってみて。
A あの虹を見てごらんと、母は言った。
B 津波だぞ、早く逃げろと、友が叫んだ。
C 借金は払えとの通知がきています。
D 車は用心して運転せよと、叱られました。

うちなあぐち

@ 彼女(あり)んかい彼(あり)が事(くと)お、思(うみ)い切(ち)りんでぃ、言(い)ちんでえ。
A あぬ虹(のうじ)見(ん)ち見(ん)でぃんでぃ、あんまあぬ言(ゆ)たん。
B しがり波(なみ)どおい、早(ふぇえ)く、逃(ふぃん)ぎりんでぃ、友(どぅし)ぬ叫(あ)びたん。
C うっかあ払(はら)りんでぃぬ知(し)らしぬ来(ち)ょおいびいん。
D 車(くるま)あ、心得(くくり)てぃ、歩(あ)っかしんでぃ、ぬらありやびたん。

【解説】
 この講は命令文というよりは、接続文(第21〜22講)ですが、独立して取り上げたのは、命令文から接続する場合の命令形は、「本来」の形を見せるという事を示すためです。
 例文@ 「彼」、「彼女」は沖縄語で何れも「あり」です。「思い切ゆん」は、日本語から受けるニュアンスとは異なり、「断念する」、「諦める」の意味になります。「言ち んでえ」の「んでえ」は日本語の「みて」と同じで、補助動詞(第88〜89講)であり且つその命令形の形です。

例文A 「あんまあぬ」の「ぬ」は日本語の概ね格助詞「が」に対応します。長い文では所属や所有を表わす助詞「ぬ」と紛らわしくなる事がありますので、現代沖縄語の文章語では適度に「が」で代用してもよいと思います。ちなみに「が」は、沖縄語では所有を表わす助詞としても使われますので、格助詞との区別は文脈からする事になります。例:「彼(あり)が物(むん)」、「我(わあ)が言(ゆ)し(私のいう事)」。
例文B「しがり波どおい」の「い」は語気を強める語です。良く聞く例:「唐船(とうしん)どおい(唐船だよ)」、「ふぃいとぅどおい(イルカだぞ)」等。
例文C「うっか」は「借金」や「負債」の事です。「債(せえ)」とも言います。
例文D「心得てぃ」は動詞「心得(くくり)ゆん」の接続態で「気をつける」、「用心する」等の意味で日本語の「心得る」と少し意味合いスが違います。「すう(父)」を男性の名に接尾語のように付けると、「○○さん、○○氏」等の意味になります。

参考:「お食べ」という意味の「てえわ」は、命令形しかない特殊な慣用句です。主には老女等が目下の者に対して使う語だったようですが、今ではすっかり、「かめえ」に置き換わっています。
  
【応用問】
 次の文で太字の部分を本来の形に直しなさい。
@ 御香(うこう)、点(とぅぶ)せえんでぃ、頼(たぬ)まりやびたん。
A まじゅん、連(そう)てぃ行(い)けえんち、ふんでえそおいびいん。
B うぬ童(わらび)え、う菓子(くぁあし)、呉(くぃ)れえんでぃち、じいかじん無(ね)えん。
C 雨降(あみふ)らちたぼうれえんでぃ、御(ぐ)いすうんぬきやびたん。
D くぬ兎(うさじ)、かちみとおけえんでぃぬ事(くとぅ)やいびいたん。
答え:
@ とぅぶ点し。
A い行き。
B くぃ呉り。
C たぼうり。
D かちみとおき。

日本語意訳: 
@線香を点してと頼まれました。
A一緒に連れて行けと駄々をこねています。
Bその子はお菓子を呉れろと言って聞かない。
C雨を降らし給えとお祈り言葉を言いました。
Dこの兎を掴んでおけとの事でした。



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