2011年09月02日

第65講 目上語の直接過去と間接過去

日本語

@ お婆さんは三味線が鳴ったら、踊りました。
A 父も三味線が鳴ったので、踊りました。
B おじいさんも御祝いしにいらっしゃいました。
C 先生も集会にいらっしゃいました。
D あのお方が学問を教えてくださいました。
E 聴衆は私の言うことを聞いて呉れました。
F あなた方のお母さんはお元気でしたよね。
G 私の叔父は、以前は医者でいらっしゃいました。

うちなあぐち

@ ぱあぱあや、三味線(さんしん)ぬ鳴(な)たれえ、舞(もう)いみそおちゃん。直
A 父(すう)ん三味線ぬ鳴たくとぅ舞いみせえ(い)たん。間
B 御主前(うすめえ、うしゅめえ)ん、祝儀(しゅうじ、すうじ)しいが、もうちゃん。直
C 先生(しんしい)ん、揃(すり)いんかい、もういたん(もうゆたん)。間
D あぬっ人(ちゅ)ぬ墨習(しみなら)あち、うたびみそおちゃん。直
E ぐすうようや、我(わあ)が言(ゆ)し聴(ち)ちうたびみせえたん。間
F 汝(い)っ達(たあ)母(あんまあ)や、かなっとおみせえたんどおやあ。間
G 我(わ)っ達(たあ)叔父(をぅざ)さあや、前(めえ)や、医者(いしゃ)やらりいたん。間

【解説】
 目上語の直接過去と間接過去の形です。使い方は通常の動詞における場合と同じように、「意味的」に使い分けます。
 なお、「呉ゆん」の目上語である「たぼうゆん」は、実際には接続態、命令形、未然形(否定文など)以外は殆ど用いられませので、例文表示はしていませんが、直接過去は「たぼうたん」、間接過去は「たぼうゆたん(たぼういたん)」となります。
 また、「たびゆん(賜う)」も文語のみで、使用例は殆どない事から、例文表示はしていませんが、直接過去は「たびたん」、間接過去は「たびゆたん」となります。

例文@ 目上語「みせえん」の場合の例。みせえん(終止形)、みせえたん(直接)、みせえいたん(間接)
例文A「もうゆん(もういん)」の場合の例。もうゆん(もういん)、もうちゃん、もうゆたん(もういたん)。
例文D「うたびみせえん」の場合の例。うたびみせえん、うたびみそうちゃん、うたびみせえ(い)たん。
例文F「やみせえん」は存在動詞「やん」の連用形「や」に「みせえん」が付いた形です。「みせえん」自体には直接過去と間接過去の別がありますが、存在動詞が主ですので見かけ上は間接過去のみとなります。
例文G「やらりいん」の意味は「やみせえん」と同じ。存在動詞「やん」の連用形に目上語「らりいん」が付いたものです。都市部では用いられてないようです。存在動詞が主ですので直接過去と間接過去の別はありません。なお、「をぅざさあ(「伯叔父」)の呼びかけ言葉は「うんちゅう」、「うふうんちゅう(伯父)」、「うんちゅうぐぁあ(叔父)」等。
  
【応用問題】
 次の間接過去を直接過去に直しなさい。不可の場合はその旨、記しなさい。
@ 我(わ)っ達(たあ)うじふじ御主前(うしゅめえ)や、武士(ぶし)やみせえたんどお。
A 社長や皆(んな)んかい高手間(たかでぃま)呉(くぃ)てぃうたびせえたん
B 姉(あばあ)がまあさコーヒー支(し)しこうてぃ、呉(くぃ)みせえたん
C 婆前(はあめえ)や、ゆかいうっさ、歩(あ)っちみせえたさ。
D 父(すう)友(どぅし)ん達(ちゃあ)ぬ、いちゃっさきい、もうゆたん
答え:
@ 不可(主な動詞が存在動詞なので)
A うたびみそうちゃん。
B 呉みそおちゃん。
C 歩っちみそおちゃさ。
D もうちゃん。

日本語訳:@私達の従祖父は腕利きでいらっしゃいましたよ。A社長は皆に高給を支給なさいました。B姉がおいしいコーヒーをつくってくれました。Cおばあさんはかなり歩かれましたよ。D父の友だちも大勢いらっしゃいました。

2011年08月10日

第64講 存在動詞の過去表現

日本語

@ 彼も若い頃は、とても、勇敢だったよ。
A このテレビは案外、安物だった。
B 首里城の御内原は年中、風が強い所だったって。
C あそこのエイサー仲間は指笛が上手だったな。
D 君の夫も青年会では一人前の男だったよ。

うちなあぐち

@ 彼(あり)ん若(わか)さいにいや、でえじな、意地(いじ)ゃあやたんどお。
A くぬテレビえ思(うみ)いぬ外(ふか)、値(でえ)安(やし)いどぅやたる
B 御城(うぐしく)ぬ御内原(ううちばる)お、年中(にんじゅう)、風所(かじどぅくる)やたんでぃ。
C あまぬエイサーしんかあ、指吹(いいびふ)ちぬ上手(じょうじ)やたっさあ。
D 汝夫(やあうとぅ)ん青年会(しんにいくぁい)於(をぅ)とおてえ、ぞおま男(ゐきが)やたんどお。

【解説】
 存在動詞(第6講等)「やん(日本語の「―だ、―である」(にほぼ対応))の過去表現です。一応動詞という呼称になっていますが、動植物等の物体が主体的に動作する事を表わす語ではなく、存在する状態を表わす事から存在動詞と呼称しています。そのため、過去表現には動詞のように直接過去や間接過去の別はありません。左記は存在動詞の過去文、丁寧文及び否定文の形です。
 終止形「やん」、過去形(連用形+過去助動詞)「やたん」、丁寧形(連用形+丁寧助動詞)「や+いびいん(又は「ややびいん」)」、その過去形「やいびいたん(又は『ややびいたん』)」、否定形(未然形+否定を表わす助動詞)「あらん」、否定の過去形(未然形+否定を表わす助動詞+過去を表わす助動詞)「あらんたん」。その丁寧文は、「あいびらん(又は『あやびらん』)」、その過去形「あいびらんたん(又は『あやびらんたん』)」。

文例@ 「意地ゃあ」は「大胆な者」、「肝っ玉の大きい者」等の意味があり、転じて「勇者、勇敢な者」。
文例A 「値安い(安物)」の対語は「値高(でえだかあ)」。強調助詞「どぅ」があるため「やたん」は連体形「やたる」で結びます。
例文B 「御内原」は首里城に勤務する女官(ぐしくんちゅ)の仕事場でした。「風所」は始終、強い風が吹く場所の事です。
文例C 「エイサーしんか」の「しんか」は「臣下」から転じた「仲間」、「家族」の意味です。動詞、形容詞、存在動詞および助動詞に感嘆詞の「さ」が付く場合は、それらの語尾「ん」は促音便化又は略されます。例:「―やっさあ」、「ふぃるまさっさあ」、「読むたっさあ」、「やいびいっさあ」等。
文例D 「ぞおま」は「規格(上の)」、「標準(的)」の意味。ここでは「ちゃんとした」、「一人前」等の意味です。
  
【応用問題】
 次の文の( )の中に適切な語句を下の《 》内から選んで入れなさい。《やたくとぅ、やたん、やたる、やたしが、やたっ》 

@那覇(なあふぁ)っす所(とぅくる)お、昔(んかし)え、浮島(うちしま)どぅ(     )。 Aくねえだ来(ち)ゃる大風(ううかじ)え、でえじな強(ちゅう)ばあ(    )。
Bあぬっ人(ちゅ)お、どぅく、何(ぬう)ん分(わ)からぬう(    )、目空張(みいんなば)いさん。
Cあまぬ品(しな)あ、むる諸値高(でえだか)あどぅ(    )さあ。
D昔(んかし)え、水(みじ)え、いちゃんだどぅ(     )、今(なま)あ、銭(じん)しどぅこ買(こ)うゆる。
答え:
@ やたる
A やたん
B やたくとぅ
C やたっ
D やたしが

日本語意訳:
@那覇という所は昔は浮島なのでした。
Aこの前来た台風はとても強いやつだった。
Bあの人はあまりにも無知なので唖然とした。
Cあそこの品は全部、高いものだったさ。
D昔は水は只だったのに、今は金で買うのだ。

2011年07月25日

第63講 丁寧文の直接過去と間接過去

日本語

@ ユタが君の事をそのように、明かしました。
A ユタが母の事をそのように、明かしました。
B 私は食べ運がありました。
C 母は食べ運がありました。
D 私たちは、もう、別れてしまいました。
E 彼ら二人は、もう、別れてしまいました。
F 皆で、この土地を平らにしました。
G ここは農地にしようと、平らにしました。

うちなあぐち

@ ユタが汝事(やあくとぅ)、あんし、明(あ)かさびたん。直
A ユタがあんまあ事(くとぅ)、あんし、明かさびいたん。間
B 我(わん)ねえ食(くぇ)え報(ぶう)ぬあいびたん。直
C 母(あんまあ)や、食え報ぬあいびいたん。間
D 我(わ)ったあや、なあ、けえ、あかりやびたん。直
E あったあ二人(たい)や、なあ、けえ、あかりやびいたん。間
F 皆(んな)し、くぬ地(ぢい)、とおみやびたん。直
G くまあ畑(はたき)んかい成すんでぃ、とおみやびいたん。間

【解説】
 丁寧助動詞「やびいん」の直接過去は「やびたん」、間接過去文は「やびいたん」となります。例文@の「さびたん」は「しやびたん」から「しゃびたん(首里語)」を経て「さびたん」になりました。以下は「やいびいん」を終止形→直接過去→間接過去の順に示したものです。
 やびいん(又は「いびいん」)→やびたん(ゃびたん、いびたん、びたん)→やびいたん(いびいたん)
 なお、存在動詞「やん(である、だ)」の場合は直接と間接の別がなく「やたん」となります。普通文についても、間接過去しかないと考えてもよいでしょう。又、存在しか表さない動詞「あん」や「居ん」も間接過去しかありません。

例文@ 「明かすん」は「解き明かす」という意味で、特にユタなどが霊視した現象を依頼者等に告げる事を言います。
例文A 「喰(くぇ)え報(ぶう)」は「食べ運」の事で、「報(ふう)」は良い意味での「報い」を意味します。「報ぬ無えらん」は「運が悪い」という意味になります。
例文B 「あかりゆん」は物が「離れる」とか、家畜が乳離れする等の意味ですが、男女の別れにも用います。普通は「別りゆん」ともいいます。離婚については、「ぬちゅん」が一般的です。
例文C 「皆」は「諸(むる、ぶる、ぶうる)」を多く使います。例:「諸っさし、行かな」は「みんなで行こうではないか」。

  
【応用問題】
  次の過去文を丁寧文に直しなさい。
@ 我(わ)っ達(たあ)姉(あばあ)ん、なあ、立身(でぃっしん、りっしん)さん(しちゃん)どお。(註)
A 昨日(ちぬう)ぬ大風(ううかじ)え、でえじな、強(ちゅう)さたん。
B 先生(しんしい)ぬ話(はなし)、聴(ち)ち、良(ゆ)う、分(わ)かたん。
C 嫁(ゆみ)え、直(ちゃあ)き、湯吹(ゆうふ)かちゃん。
D 女(ゐなぐ)ん達(ちゃあ)や驚(うどぅる)ち、わっとぅかすたん。
答え:
@ 我っ達姉ん、なあ、立身さびたんどお。直
A 昨日ぬ大風え、でえじな、強さいびいたん。間
B 先生ぬ話聴ち、良う、分かやびたん。直
C 嫁え、直き、湯吹かさびたん。直
D 女ん達や驚ち、わっとぅかさびいたん。間

日本語意訳:
@私どもの姉も、もう嫁にゆきましたよ。
A昨日の台風はとても強かったです。
B先生の話を聴いて、良く分かりました。
C嫁は直ぐに、湯を沸かしました。
D女性達は驚いて、わっと泣き出しました。

註:「立身」は日本語の「立身」という意味の他に「嫁ぐ」等の意味があります。




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