2011年11月07日

第68講 進行形の丁寧文及び目上語

日本語

@ 姉さんは一日中、着飾っています。
  姉さんは一日中、着飾っていました。
A サトウキビの葉が燃えて、煙っています。
  サトウキビの葉が燃えて、煙っていました。
B あそこの井戸の水は濁っています。
  あそこの井戸の水は濁っていました。
C 暑いけど、長い時間、我慢しています。
  暑いけど、長い時間、我慢していました。
D あの畑は耕さないから、荒れてしまっています。
  あの畑は耕さないから、荒れてしまっていました。

うちなあぐち

@ 姉(あばあ)やふぃっちい、美(ちゅ)らすがいみそうちょおん
  姉やふぃっちい、美らすがいみそうちょおたん
A をぅうじ葉(ばあ)ぬ燃(め)えてぃ、煙(きぶ)とおいびいん
  をぅうじ葉ぬ燃えてぃ、煙とおびいたん
B あまぬ井戸水(かあみじ)え、みんぐぃとおいびん
  あまぬ井戸水え、みんぐぃとおいびいたん
C 暑(あち)さしが、長(なげ)えさ、にじとおいびいん
  暑さしが、長えさ、にじとおいびいたん
D あぬ畑(はる)おくなさんくとぅ、さぼうりとおいびいん
  あぬ畑おくなさんくとぅ、さぼうりとおいびいたん

【解説】進行形とその過去形の丁寧および目上語の形です。例文は文型を比較しやすくするために、丁寧及び目上語以外は前講と同じにしました。
例文@ 右の文が進行形の目上文で、左の文が過去進行形の目上文です。なお、この文型には次の通り、別形があります。例文順に、ちゅらすがいしんそうちょおん。ちゅらすがいしんそうちょおたん。ちゅらすがいそおみせえん。ちゅらすがいそおみせ(い)えたん。また、( )内の「い」は略される傾向にあります。
例文A 右の文が進行形の丁寧文で、左が過去進行形の丁寧文です。以下同様です。
  
【応用問題】
 次の文を丁寧又は目上語文に直しなさい。
@ 汝っ達や、新聞のお何取とおが。
A 我っ達や、琉球新報ん沖縄タイムスん取とおん。
B たんかあぬ兄や七十余てぃん、仕事歩っちょおん。
C 夏え暑さくとぅ、家ぬ戸お諸わい開きらっとおん。
D 夕陰成たれえ、風え凪りとおん。
答え:
@ 汝(い)っ達(たあ)や新聞(しんぶ)のお何取(ぬうとぅ)とおみせえ(いびいが)が。
A わ我っ達や琉球新報ん沖縄タイムスん取(とぅ)とおいびいん。
B たんかあぬ兄(やっちい)や七十余(ななじゅうあま)てぃん、仕事(しくち)歩(あ)ちょおみせえ(いびい)ん。別形:歩っちみそうちょおん。
C 夏(なち・)え暑(あち)さくとぅ、家(やあ)ぬ戸(はしる・)お諸(むる)わい開(あ)きらっとおいびいん。
D 夕(ゆう)陰(かあぎ)(註)成(な)たれえ、風(かじ・)え凪(とぅ)りとおいびいん。

日本語意訳:
@あなたたちは、どの新聞を購読なさっていますか。
A私たちは新報もタイムスも購読しています。
B向かいのお兄さんは七十歳過ぎてもお仕事をなさっています。
C夏は暑いから、家の戸という戸を開けっぴろげにしています。
D夕方になったら、風は凪いでいます。

註:「夕陰」は日が西に傾いて、辺りが家屋等の構造物や木々等の陰に覆われて涼しくなる時間帯の事。「夕方(ゆうさんでぃ、ゆさんでぃ)」が単に時間帯を表わすのに対し、「夕陰」は視覚的表現です。したがって、「夕方」とは時間的には必ずしも一致するわけではありません。

2011年10月11日

第67講 進行形とその過去文(過去進行形)

日本語

@ 姉さんは一日中、着飾っている。
  姉さんは一日中、着飾っていた。
A サトウキビの葉が燃えて、煙っている。
  サトウキビの葉が燃えて、煙っていた。
B あそこの井戸の水は濁っている。
  あそこの井戸の水は濁っていた。
C 暑いけど、長い時間、我慢している。
  暑いけど、長い時間、我慢していた。
D あの畑は耕さないから、荒れている。
  あの畑は耕さないから、荒れていた。

うちなあぐち

@ 姉(あばあ)や、ふぃっちい、美(ちゅ)らすがいそおん。進
  姉やふぃっちい、美らすがいそおたん。過進
A をぅうじ葉(ばあ)め燃(めえ)えてぃ、煙(きぶ)とおん。進
  をぅうじ葉ぬ燃えてぃ、煙とおたん。過進
B あまぬ井戸水(かあみじ)え、みんぐぃとおん。進
  あまぬ井戸水え、みんぐぃとおたん。過進
C 暑(あち)さしが、長(なげ)えさ、にじとおん。進
  暑さしが、長えさ、にじとおたん。過進
D あぬ畑(はる)お、くなさんくとぅ、さぼうりとおん。進
  あぬ畑お、くなさんくとぅ、さぼうりとおたん。過進

【解説】
 動詞の進行形(持続態)は「接続態+居ん」から進化したものです。今でも元の形は生きていて、進行形と併存しています。進行形は単に持続状態を表わすものですので直接過去と間接過去の別はありません。

文例@ 右の文が進行形で左の文が過去進行形です(以下同じ)。
文例A 「煙ゆん」→「煙とおん」→「煙とおたん」。「をぅうじ」は「サトウキビ」。単に「黍」には「まあじん」。
文例B みんぐぃゆん→みんぐぃとおん→みんぐぃとおたん。「井戸」は「かあ」ですが、「川、河」も同音。「かあ皮」も同音ですが、前者等が上げ声(音)なのに対し下げ声。何れも開音は「かわ」で、合音では語中のwが脱落し、「わ」が「あ」に変化します。例:おきなわ→うちなあ、なわ→なあ、苗代→なあしる、泡盛→ああむい。瓦→かあら等。
文例C にじゆん→にじとおん→にじとおたん。
文例D さぼうりゆん→さぼうりとおん→さぼうりとおたん。「はる畑」は「はたき(畑)」ともいいます。「くなあすん(耕す)」と同じ意味の語に、「けえすん」、「うちけえすん」等の語もあります。なお、「くなさっとおん」は「鍛えられている」という意味になります。
  
【応用問題】
 次の進行形を過去文(過去進行形)に直しなさい。
@ 童えガムかなちょおん。
A きっさ、夜ぬゆっくぃとおん。
B あぬっ子あ、でえじな、しょう入っちょおん。
C 我っ達犬のお、生ちちょおん。
D 汝歌あ成とおんどお。
答え:
@ 童(わらび)えガムかなあちょおたん
A きっさ、夜(ゆう)ぬゆっくぃとおたん
B あぬっ子(くぁ)あ、でえじな、しょう入(い)っちょおたん
C わ我ったあいん・達犬のお、い生ちょちょおたん
D 汝歌(やあうた)あな成(な)とおんたんどお。

日本語意訳:
@子供はガムをかんでいた。
Aとっくに、夜が更けていた。
Bあの子はとてもおりこうさんにしていた。
C私たちの犬は生きていた。
D君の歌は、ちゃんとしていたよ(出来ていたよ)。

2011年09月17日

第66講 否定文の過去表現

日本語

@ 砂浜ではガラス片が危ないから裸足にならなかった。
A 孫の家には、手ぶらでは行けなかった。
B ゴルフ仲間は雷が鳴っても、逃げなかった。
C 夜中に熱を出したが、何でもなかった。
D 呼んだけど、誰もいらしゃらなかった。
E 腹が減っていましたが、何も食べませんでした。
F 昔は真昼間には、何もなさらなかった。
G 低姿勢で頼んでも、聞いていただけなかった。
H 伯母は、体をゆすっても、起きませんでした。
I 先に点を取られても動揺しなかった。

うちなあぐち

J 砂浜(しなはま)んじえ玉(たま)ぬ割(わり)ぬうかあさぬ空足(からびさあ、からびしゃあ)さんたん
K 孫(んまが)ぬ家(やあ)んかいや、空胴(んなどぅう)しえ、行(い)からんたん
L ゴルフしんかあ、雷(がんない)ぬ鳴(な)てぃん、逃(ふぃん)ぎらんたん
M 夜中(ゆなか)、熱出(にち)じゃちょおたしが、何(ぬう)んあらんたん
N 呼(ゆ)だしが、誰(たあ)んもうらんたん
O やあさそおいびいたしが、何(ぬう)ん、食(か)なびらんたん
P 昔(んかし)え、まあふっくぁんじえ、何(ぬう)んしんそおらんたん
Q 折(をぅり)り倒(とお)りしん、聞(ち)らたぼうらんたん
R 伯母(をぅば)まあや胴(どぅう)をぅうてぃん、起(う)きみそおらんたん
S 先(さち)に点取(てぃんとぅ)らってぃん、肝(ちむ)お、あまがんたん

【解説】
 否定文の過去表現には、動詞や助動詞の種類に関係なく、直接過去と間接過去の別はありません。
 否定文の過去は否定文(未然形+否定や打消を表わす助動詞「ん」)に過去を表わす助動詞「たん」が付く形となります。
 直接的な動作を表わす動詞の過去には直接過去と間接過去の別がありますが、存在状態を表わす存在動詞や、形容詞(第80〜87講)の過去についても直接過去と間接過去の別はありません。
 そこで、次のように纏める事ができます。

●能動的動作を表わす動詞には直接過去と間接過去の別がある。非能動的動詞(「あん」、「居ん」等)にはその別がない。
●単に状態を表わす存在動詞、形容詞の場合は直接過去と間接過去の別はない(但し、形の上では間接過去)。
●否定文は動作が行なわれなかった事を表わすものであるから直接過去と間接過去の別はない。
 以上から、直接過去表現は「能動過去」、間接過去は「状態過去」又は「客観過去」だとも言えます。
例文A 「空(んな)胴(どぅう、るう)」は「何も持たない」という意味の慣用句で「空の体」という意味ではありません。

例文G 「折(うう)り倒(とお)り」は「頭を折り腰を倒し」等の意味で、頼み事や物乞いをしたりする卑屈な様を表わす言葉。
例文I 「あまじゅん」は人に対する場合は「動揺する」、植物や物に対する場合は「揺れる」の意味。

【応用問題】
 次の文を否定過去文に直しなさい(意味的に動詞のみ直すわけではありません)。
@ 我ねえ、ミリキン粉、ああちゃん。
A 恩納ナビイや森ん押し退きらんでぃさん。
B 肌着しぶいびけえ着ち、鼻しち成たん。
C 流りゆる水に、桜花浮きたん。
D 汝っ達母や、子びちいやん。
答え:
@ 我(わん)ねえ、ミリキン粉(ぐう)、ああさんたん。
A 恩納(うんな)ナビイや、森(むい)押(う)し退(ぬ)きらんたん
B 肌(はだ)しぶいびけえ、着(ち)ちん、鼻(はな)しち成(な)らんたん
C 流(なが)りゆる水(みじ)に桜花(さくらばな)浮(う)きらんたん
D 汝(い)っ達(たあ)母(あんまあ)や子(くぁ)びちいあらんたん

日本語意訳:
@私はメリケン粉を練らなかった。
A恩納ナビは森を押しのけようとしなかった。
B肌着だけ着けても風邪をひかなかった。
C流れる水に桜花を浮けなかった。
Dあなたがたのお母さんは親ばか(子びいき)でなかった




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