2011年12月16日

第71講 継続文「―しておく」

日本語

@ 紛失しないように、見える所に置いておく。
           (置いておきます)
A これは重いから、私が頭に乗せておく。
B あら?、欲しいものは貰っておいて。
C お客さんが来るまでは掃き掃除をしておくよ。
D お金は貯めておくように、考えておいてよ。

うちなあぐち

@ 無(ね)えんなさんねえし、見(み)いゆる所(とぅくる)んかい、
置(う)ちょうちゅん。(置ちょうちゃびいん
A くりえ、重(んぶ)さくとぅ、我(わあ)が、かみとうちゅん
B 何(ぬ)が?、欲(ふ)しゃるむぬお、得(い)いとうけえ。
C う客(ちゃく)ぬ来(ち)ゅうる迄(まで)え、掃(ほう)ちかちそうちゅさ。
D 銭(じん)のお貯(た)ぶとうちゅる如(ぐとぅ)、考(かんげ)えとうきようやあ。

【解説】
 進行文(第67〜68、70講)は動作が現に行なわれている事を表わすに対し、継続文は現に動作が行なわれているかどうかに関係なく、動作を継続させる意思を表わすものです。
 日本語の「―しておく」に殆ど対応する文であり、文の構成も、元々は動詞の接続態と補助動詞「うちゅん(置ちゅん)」を組み合わせたものが音韻的に発達したものです。例えば、「―そうちゅん「(「―しておく」)の元形は「―し、うちゅん」。

例文@ 「無えんなさんねえ(し)は、「無くさないように」という意味。「無えらんなさんねえ(し)」とも言います。例文の寧文の形は「―うちゃびいん」です。文末に「どお」、「さ」、「さあ」、「てえ」、「やあ」等の感嘆詞が付くと、それぞれ、「―うちゃびいさ」、「―うちゃびいんどお」、「―うちゃびいっさあ」、「―うちゃびいんてえ」、「―うちゃびいんやあ」等となります。特に、「さ」や「さあ」が付く場合は用言語尾の「ん」が略又は促音便化されます。
例文A 「かみゆん」は、布切れや縄等で作った「がんしな」という輪状のクッションを頭に乗せ、その上にさらに、運ぶ目的で荷を乗せる事を言います。
例文D ここでは、継続文の例が「貯ぶとうちゅん」と「考えとうちゅん」の二つあります。「貯ぶとうちゅる ぐとぅ如」の「如」の日本語訳は「ように」ですが、沖縄語では名詞です。ですから、「貯ぶとうちゅん」は連体形「貯みとうちゅる」となります。「考えとうき」は命令文です。「よお+やあ」は感嘆詞が二重に付いたものです。「貯ぶとうちゅるぐとぅ」は「貯ぶとうちゅんねえ(貯めておくよう)」または「貯ぶとおちゅんねえし(貯めておくように)」とも言います。なお、「貯ぶゆん」の同義語に「た貯みゆん」があります。

【応用問題】
 次の文を( )内の文に直しなさい。必要に応じて語句も訂正しなさい。
@ 煙草お止みとうちゅしえ、ましえあらに。(丁寧)
A あんまさくとぅ、寝んとうちゅん。(丁寧)
B 畑んじ、鎌持っち、立っちょうきよお。(目上)
C なあ、汝や何時迄ん、わじとおけえ。(目上)
答え:
@ 煙草(たばく)お、止(や)めみとうちゅしえ、ましえあいびらに。
A あんまさくとぅ、寝(に)んとうちゃびいん。
B 畑(はる)んじ、鎌(いらな)持(む)っち、立っちょうちみそおれえ。
C なあ、うんじゅお、何時(いち)迄(までぃ)ん、わじとうちみそおれえ。

日本語意訳:
@煙草は止めておいたほうがよくはないですか。
A身体の調子が悪いので寝ておきます(「あんまさん」は「気分が悪い」という意味もあります)。
B畑で鎌を持ってお立ちになっていてください。
Cもうあなたは何時までもお怒りになっていてください。

2011年11月27日

第70講 進行及び完了保存の否文

日本語

@ 父は今はもう、働いてない。(ないです)
A 父は今はもう、働いていない。(いません)
B お祝い用の御馳走はまだ、作ってない。
C お祝い用の御馳走はまだ、作っていない。
D 祖父はもう、農業はしてない。
E 祖父はもう、農業はしていない。
F あの子はどこも怪我してないよ。
G あの子はどこも怪我していないよ。(いないなあ)
H まだ、何も決めてないわけよ。
I まだ、何も決めていないけど。(いないけどねえ)

うちなあぐち

@ 父(すう)や、今(なま)あ、なあ、働(はたら)ちぇえ無(ね)えらん。(無えやびらん
A 父や今あ、なあ、働ちぇえ居(をぅ)らん。(居いびらん
B 祝儀(しゅうじ、すうじ)ぐぁっちいや、なあだ、すがてえ無(ね)えらん
C 祝儀ぐぁっちいや、なあだ、すがてえ居らん
D 御主前(うすめえ、うしゅめえ)や、なあ、畑(はる)お、しえ無(ね)えらん
E 御主前や、なあ、畑お、せしえ居(をぅ)らん
F あぬ童(わらび)え、まあん、痛(や)まちぇえ無えらんどお。
G あぬ童えまあん、痛まちぇえ居らんさ。(居らんさあ)
H なあだ何(ぬう)ん決(ち)わみてえ無(ね)えらんばあてえ。
I なあだ何ん決わみてえ居(をぅ)らんしが。(居らんしがやあ)

【解説】
 言い切り形が「―おん」で表わされる進行形は、「動詞接続態(補助連用形、以下同じ)」+をぅ居ん」から発達してきたのもので、同じく言い切り形が、「―えん」で表わされる完了保存(第69講)は、「動詞接続態(補助連用形)+あん」の形から発達してきたものと思われます。
 その否定文は何れも、「動詞接続態+ヤ系係助詞の『え』+ね無えらん(または『無えん』)」あるいは、「動詞接続態+ヤ系係助詞『え』+をぅ居らん」で表わします。
 進行形は「―居ん」の否定であるから、「―居らん」、また、完了保存は「―在ん」の否定であるから、「―無えらん(無えん)」なのではないかと考えられがちですが、実際には、両者は表記上の差異ほど意味的差異は無く、何れを用いてもかまいません。理屈よりも実際です。なお、この文の丁寧文は例文@、Aの( )内の通りです。

文例B 「御主前」(祖父)の事を士族語では「たんめえ」ですが、首里近辺では「ぷうぷう」との呼称もあったようです。

【応用問題】
 次の文を否定文かつ丁寧文にしなさい。必要な場合は適当な語を挿入しなさい。
@ 十五夜ぬ月ぬ、ぬしかとおん。
A 我ねえ妻とぅめえてえん。
B あぬ人お年取てぃ、うてぃ返とおん
C 赤ん子寝んしてえんどお。
D あぬ二才や女んかい手ぬしきとおん。
答え:
@ 十五夜(じゅうぐや)ぬ月(ちち)え、なあだ、ぬしかてえ無(ね)えやびらん(居《をぅ》いびらん)
A 我(わん)ねえ、妻(とぅじ)え、とぅめえてえ、無(ね)えやびらん(居《をぅ》いびらん)
B あぬっ人(ちゅ)お、年取(とぅしとぅ)てぃん、うてぃ返(けえ)えてえ無(ね)えやびらん(居《をぅ》いびらん)
C 赤(あか)ん子(ぐぁ)、なあだ、寝(に)んしてえ無(ね)えやびらんどお(居《をぅ》いびらんどお)
D あぬ二才(にいせえ)や女(ゐなぐ)んかい、手(てぃい)ぬしきてえ無(ね)えやびらん(居《をぅ》いびらん)

日本語意訳:
@十五夜の月はまだ、出ていません。
A私は結婚していません。
Bあの人は年とっても、子供返りをしていません。
C赤子をまだ、寝かしてないです。
Dあの青年は女に、ちょっかいを出していません。

2011年11月10日

第69講 完了保存文とその過去

日本語

@ 父さん、豆腐チャンプルーを炒めてあるよ。
  父さん、豆腐チャンプルーを炒めてあったよ。
A 大事なものは箪笥に隠してある。
  大事なものは箪笥に隠してあった。
B 庭の掃き掃除はしてある。
  庭の掃き掃除はしてあった。
C 子供たちのオモチャは机の上に置いてある。
  子供たちのオモチャは机の上に置いてあった。
D 美味しいものは、とっくに、食べてしまっているさ。
  美味しいものは、とっくに、食べてしまっていたさ。

うちなあぐち

@ 父(すう)、豆腐(とうふ)チャンプルー、炒(いり)ちぇえんどお。
  父、豆腐チャンプルー、炒ちぇえたんどお。
A あたらさるむぬお箪笥(たんし)んかい隠(くぁっくぁ)ちぇえん
  あたらさるむのぬお箪笥んかい隠ちぇえたん
B 庭(なあ)ぬ掃(ほ)うちかちえ、せえん
  庭ぬ掃うちかちえ、せえたん
C 童(わら)ん達(ちゃあ)ぬ得(い)いりむぬお机(しく)ぬ上(ゐい)んかい置(う)ちぇえん
  童ん達ぬ得いりむのぬお机ぬ上んかい置ちぇえたん
D まあさむのぬお、きっさ、うちゅ食(くぁ)てさ。
  まあさむのぬお、きっさ、うちゅ食てえたさ。

【解説】
 完了した動作の結果が持続している様子を表現する「―せえん(―せえいびいん)」は日本語の「―している(―しています)」にほぼ対応します。この文形は主には、意味的に成立する他動詞に使われますが、話者の感覚により、意味的に成立する場合は自動詞にも使われる場合もあります。
 進行形が動作の進行を表わすのに対し、完了保存は動作は終了しているが、その結果や影響が持続している事を表わします。「動詞接続形(補助連用形)+あん」の形から発達してきたものと思われます。なお、完了保存の過去文には進行形同様、直接過去と間接過去の別はありません。

例文@ 右の文が完了保存で、左の文が完了保存過去です(以下同じ)。炒りちゅん(終止形)、炒りちょおん(進行形)、炒りちぇえん(完了保存)、炒ちぇえたん(完了保存過去)。以下同じ順に表示します。
例文A 隠すん、隠ちょおん、隠ちぇえん、隠ちぇえたん。「隠すん」は「隠す」、「隠(かく)すん」は「秘密にする」の意味。
例文B 掃うちかちすん、掃うちかちそおん、掃うちかちせえん、掃うちかちせえたん。
例文C 置ちゅん、置ちょおん、置ちぇえん、置ちぇえたん。「得いりむん」は「貰い物」や「おもちゃ」の意味。
例文D うちゅ食ゆん、うちゅ食とおん、うちゅ食てえん、うちゅ食てえたん。「うちゅ食てえん」の「うちゅ」は、「―してしまう」を表わす接頭語で、他に「食むん」、「飲むん」等に対して使います。
 
【応用問題】
 次の文を過去文に直しなさい。
@ 仕事え、とぅずみてえんどお。
A なちょうら、煎じてえくとぅ、飲みよお。
B 運転免許やれえ、取てえしが。
C 熱え、冷まちぇえさ。
答え:
@ 仕事(しくち)え、とぅずみてえたんどお。
A なっちょうら(*)、煎(し)じてえたくとぅ、飲(ぬ)みよお。
B 運転免許(うんてぃんみんちょ)やれえ、取(とぅ)てえたしが。
C 熱(にち)え、冷(さま)ちぇえたさ。

日本語意訳:
@仕事は終わらせてあるよ。
A海人草を煎じてあったから、飲んでね。
B運転免許なら、取ってあったけど。
C熱は冷ましてあったさ。(*「なちょおら」は虫下しの薬となります)




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