2012年02月14日

第74講 可能文「―する事ができる」、「―できる」

日本語

@ その赤ん坊はもう、立つ事ができる。(立てる)
A 僕でさえ、ペンキを塗る事ができるよ。(塗れる)
B 芭蕉衣を織る事のできる人は少ない。(織れる)
C 彼でも、車の運転ができるのか。
D あの医者こそが手術できるのであって、誰もできない。

うちなあぐち

@ うぬ赤(あか)ん子(ぐぁ)、なあ、立(た)ちゆすん。(立っちいすん)
A 我(わあ)がんちょおん、ペンキ塗(ぬ)いゆすんどお。(塗いすん)
B 芭蕉(ばさあ)衣織(じんう)いゆする人(ちゅ)おいきらさん。(織いする人)
C 彼(あり)がん、車(くるま)ぬ運転(うんてぃん)しゆすてぃから。
D あぬ医者ぬる割(わ)いゆする、誰(たあ)がんしゆさん。

【解説】
 可能を表わす接尾語的な動詞です。
 動詞+ゆ(又は「い」)+すん(又は「しゅん」)の三つ語からなります。
 例文Cの「―すてぃ」は一応、接続態の形をしていますが、イ、助詞「から」に接続する、ロ、「言い切りの形で確認疑問の意味を持つ等、その機能は限定的であり、他の動詞の接続態とは大きく異なります。
 「てぃ」自体が動詞の一部でなく、接続助詞の可能性もある事から接続態の形を以って動詞を分類する方法はできません。
 「―する事ができる」、「―できる」は、沖縄語では日本語からの直訳調である「する事ぬ成ゆん」等を含め複数の言い方が可能です(もっとも、前述の日本語直訳調は現在はすっかり沖縄語の言い回しとしても馴染んでいます)。
 「ゆすん(又は「いすん」)」は「ゆうすん」と伸ばす場合が多いようです。なお、一部地方では「いふん」となります。

例文A 「ゆすん」に感嘆詞が付く場合の例です。「塗いゆすさ」で「塗れるさ」、「塗いゆすっさあ」で「塗れるなあ」、「塗いゆすんてえ」で「塗れるんじゃない」のニュアンス。「塗いゆすんどお」で「塗れるよ」。「我がん」の「がん」は「でも」の意味。「ちょおん」は「でさえ」。文語には「でんし」という語もありますが、口語では使用されません。
例文C 例文のように、本来、接続すべき文がない言い切りの「―しいゆすてぃから。」は、文脈にもよりますが、「できるものか」、「できるのであれば」等のニュアンスになります。接続文がある場合は、「―できるのであれば、―」の意味にもなります。「から」は本来、「―(どこ)から」を表わす助詞なのですが、例文のような尻切れの言い方で、疑問のような意味になります。
例文D 「医者ぬる」は「医者がる」でも良いです。「割ゆん」は文脈から「手術する」の意味になります。本来の「割る」という意味から転じて使われています。 
 
【応用問題】
 次の文を必要な部分のみ可能文に直しなさい。
@ 我(わん)ねえ、自(どぅう)し、断髪(だんぱち)すぬ事(くとぅ)ぬ成(な)いびいん。
A 汝(やあ)や、芝居(しばい)ん成(な)ゆんなあ。
B 若(わか)さいねえ、ハブ掴(かち)みゆる事(くとぅ)ぬなゆたしが、今(なま)あ、恐(うとぅ)るさぬならん。
C 如何(いか)な何(ぬう)やらわん、あが遠迄(とぅうまで)え、泳(ゐい)じゅる事()くと)おならん。
D くぬ靴(ふや)あ、狭(いば)さぬ、くむる事(くと)おならんさあ。
答え:    
@ 断髪しゆさびいん
A 芝居しゆすんなあ。
B ハブ掴ちゆすたしが
C 泳じゆうさん。
D くみゆさんさあ。

日本語訳:
@私は自分で散髪できます。
A君は芝居もできるか。
B若い頃はハブを掴まえる事もできたが、今は恐くてできない。
Cいくら何でも、あんな遠い所迄は泳げない。
Dこの靴は狭くて履けないさ。

2012年01月27日

第73講 回想文「―てえん(―だったんだ)」

日本語

@ 彼らは大抵、野原で遊んでいたのだった。
A おやおや、クーラーも、かけていたんだね。
B あのバッターも良く、打っていたんだなあ。
C 彼の歌をずっと、聞いていたわけなんだ。
D 君もハワイに行っていたんだって。
E この着物はお母さんのものだったんだ。

うちなあぐち

@ あっ達(たあ)や、いいくる、原(もう)んじどぅ遊(あし)どおてえる
A あいなあ、クーラーん、かきてえてえさやあ。
B あぬバッターん、良(ゆ)う、打(う)っちょおてえっさあ。
C 彼(あり)が歌(うた)、ちゃあ、聞(ち)ちいそおてえるばあやさ。
D 汝(やあ)ん、ハワイんかい、行(ん)じょおてえてぃから。
E くぬ衣(ちん)のお、母(あんまあ)むんどぅ、やてえさ。

【解説】
 過去の出来事を思い出して発する文で、動詞、存在動詞、助動詞及び形容詞の基本形(終止形の語尾「ん」を省いた形)に「てえん」が付いたものです。
 会話体では、殆ど、「さ」、「さあ」、「どお」、「やあ」等の感嘆助詞や、その連体形「てえる」に「ばあなあ(訳か)」、「ばあてえ(訳さ)」、「ばあやさ(訳なんだ)」、「てぃ から」等を付けて使われます。
 活用形は終止形「てえん」、連体形「てえる」、補助連用形(接続態)「てえてぃ」以外は殆ど用いられません。例文Dのように、接続態を用いる場合、本来は助詞である「から」を添えると、確認疑問文(―だって?)のような表現になります。

例文@ 終止形の言い切り形で用いる事は少ないので、話者にはなんとなく、パンツをはき忘れたような心もとない感じのする表現ですが、使用頻度が少ないだけです。
例文@ 強調助詞「どぅ」を受けて「遊どおてえん」が連体形「遊どおてえる」で結ばれています(第6講参考)。「原」は、多くは「毛」という当て字が当てられています(「万座毛(まんざもう)」、「毛(もう)遊(あし)び」等)が意味は「原」です。
例文A 完了保存文に「てえん」が付いたものです。完了保存「かきてえん」+回想「てえん」。
例文B、C 進行文に「てえん」が付いたものです。
例文D 「てぃ から」の「てぃ」は接続態の語尾(あるいは接続助詞?)であり、助詞「から」と組み合わさって確認疑問文を作ります。確認疑問文は疑問詞を用いているわけでもないのに疑問文であるかのように振舞う文です。
例文E 「やてえん」は存在動詞「やん」を回想文にしたもの。
  
【応用問題】
 次の文を回想文を用いた表現に直しなさい。答えは下欄です。
@ あぬ人お、うぬ病んかい、ちゃあ罹かいそおん。
A くぬ前や、足どぅ痛まちぇえたんなあ。
B あぬ二才ん、我とぅ、同ぬちるみいどぅやっさあ。
C 昔え、沖縄んかいん、田ぬまんどおたん。
D 昔ぬ景色え、なあふぃん、美らさたん。
答え:
@ あぬっ人(ちゅ)お、うぬ病(やんめえ)んかい、ちゃあ罹(か)かいそおてえん
A くぬ前(めえ)や足(ふぃさ、ひさ)どぅ痛(や)まちぇえてえてぃから。
B あぬ二才(にいせえ)ん、我(わん)とぅ同(い)ぬちみるいどぅやてえさ。
C 昔(んかし)え、沖縄(うちなあ)んかいん田(たあ)ぬまんどおてえん
D 昔(んかし)ぬ景色(ちいち)え、なあふぃん、美(ちゅ)らさてえん

日本語意訳:
@あの人はずっと、その病気に罹っていたのだ。
Aこの前は足を痛めていたんだって。
Bあの青年も僕と同い年だったのだ。
C昔は沖縄にも田んぼが多かったのだ。
D昔の景色はもっと、美しかったんだ。

2012年01月16日

第72講 継続文関連のその他の構文

日本語

@ 私は居間で休んでおきます。
A 無駄なものは覚えておかない。
  覚えておきません。
B 落とさないように、ずっと、掴まえておけ。
C お婆さん、裏座でお休みになさっておいてください。
D それは、知らん振りしておいた方がよいではないか。

うちなあぐち

@ 我(わん)ねえ、なかめえんじ、ゆくとうちゃびいん
A ゆうちらん無(ね)えらんむぬお、覚(うび)いとうかん。否定。
  覚いとうちゃびらん。丁寧否定
B 落(う)とぅさんねえし、ちゃあ、かちみいそうけえ。
  ちゃあ、かちみいそうき。命令
C 婆前(はあめえ)、くちゃんじ、憩(ゆく)とうかれえ。命令、目上
  憩とうかり。憩とうちみそおり。憩とうちみそうれえ。
D うりえ、知(し)らん振(ふ)うなあそうちゅしえ、ましえあらに。
  
【解説】
 継続文に関連する構文です。
 継続文を構成する補助動詞「―うちゅん(―おく)」の活用は動詞「置ちゅん(置く)」と同じです。したがって、否定や命令等も同じ形になります。
 丁寧文は「うちゅん(置く)」の丁寧文と同じで、「―うちゃびいん」となります。否定文は「うちゅん」の否定文と同じ形で、「―うかん」、さらにその丁寧文は「―うちゃびらん」となります。
 命令文は、「うちゅん」の命令文と同じ形で、「―うき」、「―うけえ」(例文B)等となります。

例文A 「ゆうちらんね無えらん」は例文のように慣用句として使います。「ゆうちらあ無えん」とも言います。「ゆうちら」は憶測するに、元々は「有益」という意味だったのでしょうか。
例文C 「くちゃんじ」の「くちゃ」は「裏座」ですが、実質的には「夫婦の寝室」です。首里城正殿の「みこちゃ」という部屋は「御くちゃ」の事で「控えの間」の事でしょうか。
  
【応用問題】
次の文を、日本語に訳しなさい。
@ 薬(くすい)や、飲(ぬ)どうかんてぃん、済(し)むさ。
A 車(くるま)あ、くまんかい、停(とぅ)みとうけえ。
B 今日(ちゅう)や、ふぃいさぬ、家籠(やあぐ)まいそうちゃびいん。
C ちゅら花(ばな)やれえ、咲(さ)かちょうけえ。
D なかみ(註)ぬ吸(し)い物(むん)や、何時(いち)やてぃん、食(か)まりいんねえし、煮(た)じらちょうちゅさ。
答え:
@ 薬は飲んでおかなくても、良いよ。
A 車は、ここに停めておけ。
B 今日は寒くて、家に閉じ籠もっておきます。
C 美しい花なら、咲かしておいて。
D なかみの吸い物は何時でも、食べられるように、煮ておくよ。

註 「なかみ」は、沖縄では主に豚の小腸を具とする汁物料理で元々は祭祀用やお祝い用ですが、最近はスーパーでもパックで売られています。




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