2012年03月20日

第77講 受動文「れる、られる(―りいん)」

日本語

@ ダメなやり方をすると、人に笑われるよ。
A 今日はもう、父に小言を言われる事になるよ。
B 近頃は昔、原っぱだった所にも家が建てられている。
C 君のお菓子は全部、子供たちが、持ち去っていった。
D 悪い事をして、母に怒られています。

うちなあぐち

@ 悪(や)なしい、しいねえ、人(ちゅ)なかい、笑(わら)ありいんどお。
A 今日(ちゅう)やなあ、父(すう)なかい、叫(あ)びらったるうちやさ。
B 近頃(ちかぐる)お、昔原(んかしもう)やたる所(とぅくる、とぅくま)んかいん、家(やあ)ぬ建(た)てぃらっとおん。(「建てぃらりいん」)の進行
C 汝(やあ)菓子(くぁあし)え、諸(むる)、童(わら)ん達(ちゃあ)なかい、持(む)っち走(は)らっとおん。(「持ち走ゆん」)の進行
D 悪(や)な事(くとぅ)さあに、母(あんまあ)なかい、ぬらっとおいびいん。(「ぬらありゆん」)の進行

【解説】
 動詞の受動態を使う文を受動文といいます。
 受動態を作る動詞は、一種の複合動詞で、種類はラ行ユン・ティ動詞(第29講)です。
 但し、通常、ユン動詞は終止形等が「ユン」ですが、受動態動詞の場合の終止形は、殆ど「イン」となる事から、ここでの例文はすべて「イン」になっています。勿論、「ユン」でも構いません。

例文@ 「悪なしい、しいねえ」は、本来は「悪なしいしいねえ」と表記される事が望ましいです。目的助詞「ゆ」が省略される口語においては、目的語と述語を明確にするために「、」で切り離しています。但し、論文調でかつ長文の場合で、どうしても目的助詞「ゆ」を用いないと、スムーズな文解釈できないと思われる場合は、「ゆ」を用いましょう。
例文A 「叫びらったる」は「叫びゆん」の受動態「叫びらりいん」の連体形で名詞「うち」にかかります。「や」は存在動詞「やん」の「ん」が略された終止形です(「やん」の語尾「ん」は感嘆助詞「さ」が付く場合には、略又は促音便化されます)。「―うちやさ」は、例えば、「褒みらったるうちさや」とは、「すぐらったるうちやさ(なぐられるよ)」、「ぬらったるうちやさ」等と、他人を非難がまし言う場合に使う事が多いです。

 日本語もそうですが、沖縄語においても、使役と受動からなる複合動詞もあります。例えば、「笑あさりいん」は「笑ゆん」から出発して受動態「笑ありいん」、さらにその使役態「笑あさりいん」まで行き着きます。個々の動詞等について文法論を読むより、散文を多く読まれる事をお薦めいたします。
  
【応用問題】
 次の日本語文の太字部分を受動文にして、沖縄語文に直しなさい。
@ 雨漏りがしたこの屋根も、もう修理されている。
A 沖縄語は一つの言語だと考えられます。
B 女の子は赤い靴を履かされ、うれしがっていた。
C 酔っ払いはみんなに、嫌がられるよ。
D こんなに爪を伸ばして!もう爪を切られる事になるよ。
答え:
@ 雨漏(あまむ)いすたるくぬ家(やあ)ぬ上(ゐい)ん、きっさ、くうさっとおん
A 沖縄語(うちなあぐち)え一(てぃい)ちぬ言語(くとぅば)やんでぃち考(かんげ)えらりやびいん
B 女(ゐなぐ)ん子(ぐぁ)あ、赤靴(あかふや)、くまさってぃ、いしょうさそおたん。
C 酔(ゐい)っちゃあや諸(むる)なかい、にさぶらりいんどお。
D かんし爪伸(ちみぬ)ばち!、なあ爪詰(ちみち)みらったるうちやさ。

2012年03月18日

第76講 「―させる」(スン・チ使役文U)

日本語

@ 母は子供たちに本を読んで聞かそうと頑張っています。
A 父は釘で穴をあける。
B 今年は君に褒美をあげるよ。
C 早く、コーヒーを飲ましてくれ。
D どうか、雨を降らしてください。

うちなあぐち

@ 母(あんまあ)や、童(わら)ん達(ちゃあ)んかい、書物(しゅむち)読(ゆ)でぃ、聞(ち)かすんち、やっぱとおいびいん。
A 父(すう)や釘(くじ)なかい、穴(みい)ふがすん
B 今度(くんど)お、汝(やあ)んかい、褒美(ふうび)取(とぅ)らさ。
C 早(ふぇえ、へえ)く、コーヒー飲(ぬ)まち、取(とぅ)らえ。
D どうでぃん、雨降(あみふ)らたぼうり。

【解説】
 同じ使役文でも、今回は主に通常の動詞の未然形に「すん(スン・チ動詞、第25講参照)」(首里語では、一部の動詞終止形が「シュン」)を付けて作る使役文の例です。否定形は「―さん」、直接過去表現は「―ちゃん」、間接過去表現は「―すたん」、丁寧文は「―さびいん」等となります。いわば複合動詞ですが、動詞の種類としてはスン・チ動詞となります。
 但し、「見じゅん(見うん)」、等は、例外的に「見だすん」ではなく、「見しゆん」になります。「んだすん」は「出させる」という意味の「出じゃすん」(一部の地方では「んだすん」)と間違いやすいからでしょうか。
 同様に、「しいぶしゃん(したい)」という語句との混同を避けるため、「知りたい」は「知いぶしゃん」ではなく、「分かいぶしゃん」となる例があります。

例文A 「みい」は本来「小さな穴」の意味で、「欠損・欠点」にも言います。貫通した穴や、比較的大きめの穴(貫通してない穴)は「あな」です。「釘なかい」の「なかい」は手段等を表わす助詞で「釘し」でもよいです。
例文B 「今度」は転じて「今年」の意味なのですが、元の意味の「今度、今回」の意味にも使用されます。「ちゅらさっさあ」における「さあ」は感嘆詞「―よ」の意味ではなく、「―だな」等と独り感動、一人合点する場合の感嘆詞です。なお、「―さっさあ」における「っ」は「―さん」の「ん」が促音便化したものです。
   
【応用問題】
 次の使役文を日本語に訳しなさい。また、使用されている使役動詞の元となる動詞終止形を示しなさい。
@ 彼(あ)っ達(たあ)、わじらさんえ、ましどお。
A 我(わ)っ達(たあ)や、悲(な)ちかさぬ、涙落(なだう)とぅちゃん。
B くら暗さくとぅ、あ明かがらせえ。
C 喉(ぬうでぃい、ぬうりい)んかい魚(いゆ)ぬ棘(んじ)かからち、ちいちいかあそおん。
D 映画(かあがあおどぅい)見(み)しいが、連(そう)てぃ行(い)ちゃびたん。
答え:
@ 彼らを怒らせない方がよいよ。(わじゆん)
A 私たちは悲しくて涙をながした。(落てぃゆん)
B 暗いので明るくして。(明かがゆん)
C 喉に魚の骨をかからせて詰まらせている。(かかゆん)
D 映画を見せに連れて行きました。(見じゅん、見うん)

註:問題@の「わじらさんしえ」は動詞「わじゆん」の使役形「わじらすん」の否定形(及びそれの終止形)に、名詞化する助詞「し」が付き、さらにヤ形係助詞「え」が付いたものです。この場合、係助詞「え」につられて前語尾の「し」はその係助詞と同じエ段音つまり「せ」となります。

2012年03月03日

第75講 「―させる」(ラ行ユン・ティ使役文T)

日本語

@ 大晦日には、子供に拭き掃除をさせる。
A お年寄りはゆっくり、歩かせよ。
B 運転免許取ってから、運転はさせる。
C 一日中、私に難儀させないでくれ。
D お金を握らせてから、仕事はさせるのだよ。

うちなあぐち

@ 年(とぅし)ぬ夜(ゆるう)や童(わらび)んかい、拭(す)すいかちしみゆん
A 御年寄(うとぅす)いやようんなあ、歩(あ)っかしみりわ。(歩っかしみれえ)
B 運転免許(うんてぃんみんちょ)お、取(とぅ)てぃからどぅ、運転しみゆる
C ふぃっちい、我(わん)にんかい、難儀(なんじ)、しみらんけえ。
D 銭(じん)のお、掴(かち)みらちからどぅ、仕事(しくち)え、しみゆんどお。

【解説】
 動詞等の使役態を使う文を使役文といいます。使役態といっても、使役を意味する独立した動詞であり、「―しみゆん」の形をとる使役動詞は、すべて、ラ行ユン(イン)・ティ活用です。終止形がユン(イン)、否定形がラ行、接続態を表わす補助連用形がティの形をとる動詞の事をいいます。
 使役文には二つの形があります。
一つは、本講で紹介する「―しみゆん」(又は「―しみいん」)の形です。語幹には、主に「運転」、「難儀」、「仕事」等の動詞化できる名詞、動詞「成ゆん」の語幹及び形容詞基本形(例:「ちゅらさん」だと「ちゅらさ」の部分)等がなります。
その二つは、動詞未然形に「すん」が付くものです。これについては第76講をご参照ください。
又、通常の動詞の場合でも、動詞未然形に前述の「しみゆん」が付く形をとる事があります。例:「歩っかしみゆん」。そして、それらの形をした使役動詞もすべてユン・ティ動詞に分類されます。

例文@「年ぬ夜」は慣用句で「大晦日」の意味です。特に「夜」という意味ではありません。
例文A「歩っかしみりわ」は「歩かしみゆん」の命令形ですが、「歩っかしみれえ」や「歩っかしみり」とも言います。なお、歩っかしみゆん」は次講(使役文U)で説明する「歩っかすん」とも言います。
例文C「しみらんけえ」は禁止形(第58講)の一つ。「しみるな」、「しみんな」、「しみな(古形)」等の形もあります。
  
【応用問題】
 次の語句を使役動詞に直しなさい。
@ いそうさん。(嬉しい)
A あふぁあな成ゆん。(ずっこける)
B きっちゃき。(躓き)
C ふぃいさん。(寒い)
D てぃい手ようふぃさ足よう。(手振り足振り)
E りっしん、でぃっしん立身。(註)
F ちゅふぁあら(満腹、大いに)
答え:
@ いそうさしみゆん。(嬉しがらせる)
A あふぁあ成しみゆん。(ずっこけさせる)
B きっちゃきしみゆん。(躓かせる)
C ふぃいさしみゆん。(寒がらせる)
D 手よう足ようしみゆん。(手振り足振りさせる)
E 立身しみゆん(嫁に遣る、嫁がせる)
F ちゅふぁあらしみゆん(満腹させる、おおいにさせる)

【註】「立身」は日本語の「立身」の意味の他に、「嫁ぐ」の意味にも転用されています。関連すると思われる語の「立(た)ち前(めえ)」は「嫁入り前」。「立(た)ち戻(むどぅ)い」は「出戻り」の意味。「立ち仲(なあか、なか)」は「つれあい、配偶者」の意味。




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