2012年06月22日

第80講 形容詞T

日本語

@ 雨降り後の泥道は、滑りやすい。
A 今日は一日中、気分がすぐれません。
B お爺さんの三味線は、大変、立派だった。
C 孫が訪ねてくれば、嬉しいね。
D 裏座の敷物はカビが生えて、汚くて。
E 彼はあまりにも、悲しかったので泣いていました。

うちなあぐち

@ 雨降(あみふ)い後(あとぅ)ぬ泥道(どぅるみち)え、なんどぅるさん
A 今日(ちゅう)や、ふぃっちい、あんまさいびいん。丁寧
B 御主前(うすめえ、うしゅめえ)三味線(さんしん)や、でえじな、しょうらさたん。過去
C 孫(んまが)ぬ巡(みぐ)てぃ、来(ち)いねえ、いしょうさんやあ。感嘆
D くちゃぬ敷(しち)なあ、黴(こうじ)ふち、はごうさぬ。余韻
E 彼(あり)え、どぅく、なちかさたくとぅ、涙落(なだう)とぅちょおいびいたん。接続

【解説】
 形容詞は終止形語尾部分が「さん、しゃん」となるのが特徴です。例文Dのように、「―さぬ」という、「言い切り」の文(註)がありますが、「ぬ」を接続助詞とする後続の文が略されたものです。通常の終止形で言い切る文にはない余韻が残る用法になっています。そうした接続文のない用法を余韻用法といいます。(参第86講)
 形容詞の活用は動詞ほど複雑ではなく、否定形(次講)に係助詞を使用したり、一部の形容詞の連体形については、変則的な部分があったり、また、一部が日本語的になったりする(例:あんましい事、またしい者、うふやしい子)等の他は概ね日本語の形容詞の活用に近いです。
 丁寧文は「―さ いびいん」、過去文は「―さ たん」、接続は「―さ くとぅ」、「―さ ぬ、」の形となります。
註:「うかあさぬ、行ちいんならん(危なくて、行けない)」、「暑さぬ ふしがらん(暑くてどうしようもない)」、「にいさぬ ならん(まずくて、嫌だ)」等。

例文@ 「なんどぅるさん」から派生した語に、「なんどぅるう(すべすべしたもの)」、「なんどぅってんそおん(すべすべしている)」等があります。
例文B 「御主前三味線」は「おじいさんの三味線」です。沖縄語では所有を表わす助詞には「ぬ」や「が」がありますが、その使用について概ね以下の基準があります。一人称、二人称、人名には用いず、三人称代名詞には用います。
用いない例:わあむん我物、やあむん汝物、あんまあちん母着物、いったあむん達物(あなた達のもの)、彼等物(あったあむん)、兄考(やっちいかんげえ)、太郎物(たるうむん)等。
用いる例:彼(あり、くり、うり)が物(むん)。
例文D この例文は余韻用法(参第86講)の例。「こうじ(黴)」は「ふちゅん」と言い、「み生いゆん」とは言いません。
例文E 接続の例。「どぅく」は「とても」、「あまりにも」の意味です。「なちかさん」は「悲しい」。
  
【応用問題】
 次の文を形容詞を使う沖縄語文に直しなさい。
@ 夜明けごろは、眩しい。
A 私の従姉は自分は霊感があるといってます。
B それぐらいなら、やりやすいよ。
C メリケン粉はとても、細かいよ。
D 石油不足だから、値段が高騰している。
答え:
@ 夜明(ゆあ)きぬうるみえ、目(みい)光(ふぃちゃ)らさん。
A 我(わあ)従姉(いちく)お、自(どぅう)や、聖高(しいだか)さんでぃ、言(い)ちょおいびいん。
B うぬあたいやれえ、どぅうやっささ。
C ミリキン粉(ぐう)や、でえじな、うろうさんどお。
D 石油(しちたんゆうう)ぬうるさくとぅ、値(でえ)ぬ上(あ)がとおん。

2012年05月17日

第79講 非可能文「―もできない(―んならん)」

日本語

@ その道は泥だらけで、歩く事もできない。
A 私の歯は入れ歯なので、固いものは食べる事もできません。
B ペンキは長らく使わないと、固くなってしまって、塗る事もできないよ。
C その赤ん坊はあまりにも泣き過ぎるので賺す事もできないよ。
D 氷は冷えて、掴む事もできなかった。

うちなあぐち

@ うぬ道(みち)え、泥(どぅる)ぶったあなてぃ、歩(あ)っちいんならん
A 我歯(わあはあ)や抜(ぬ)じ挿(さ)しやくとぅ、固物(くふぁむん)のお、食(か)みいんないびらん
B ペンキえ、長(なげ)えさ、使(ちか)らんでえ、けえ固(くふぁ)てぃ、塗(ぬ)いんならんどお。
C うぬ赤(あか)ん子(ぐぁ)あ、どぅく、泣(な)ち強(じゅう)さぬ、賺(しか)しいんならんさ。
D 氷(こうり)え、冷(ふぃ)ずりてぃ、掴(か)ちみいんならんたん。

【解説】
 「なゆん」(日本語の「なる」および「できる」に対応)はラ行ユン・ティ動詞(第29講)の一つであり、使用頻度の高い語で、これまでの例文でも断片的に紹介しましたが、その動名詞に否定形が付く文を本講であらためて取り上げているものです。
 「ならん」は例えば、「やあさそおてえ、戦あ、ならん」(腹が減っては、戦はできない)のように、名詞+係助詞に付いて、「―はできない」という意味を表わしますが、動名詞+並列を表わす助詞「ん」(日本語の助詞『も』に対応)+「ならん」となる場合は「―する事もできない」の意味になります。

例文A 「抜じ挿し」は「抜いたり填めたりできるもの」。ここでは「入れ歯」。『沖縄語辞典』には載っていません。

●「な成ゆん(ないん)」の慣用的使用例:「なんくるないさ(どうにかなるさ)」、「なとおんどお(できているよ、よくできているよ)」、「如何(ちゃあ)んならん(どうにもできない)」、「何(ぬう)なとおが(どうなっているんだ)」、「汝(やあ)があ、ならん(君にはできない)」、「彼(あり)がんないみ(彼にできるものか)」、「何(ぬう)んならん(役に立たない、何もできない)」、「ないれえ、なれえ(できれば)」、「ないぬ事(くとぅ)やれえ(できることなら)」等。なお、「なゆん」の他動詞「なすん」には、「する、なる」の意味の他、「寄こす、移動させる」等の意味もあります。例:「うり、くまんかいなせえ」(それをここに寄せて)。
  
【応用問題】
  次の文を「―んならん」を用いた文に直しなさい。
@ うに荷(にい)や、重(んぶ)さぬ、かみゆる事(くとぅ)んないびらん。
A うぬ添具(、しいぐ、小刀)お、鈍(なま)りてぃ、切(ち)ゆしんならん。
B 太陽(てぃだ、てぃいだ)あ、目光(みいふぃちゃ)らあさぬ、見(ん)じゅる事(くとぅ)んならん。
C 天(てぃん)ぬ諸星(ぶりぶし)え、数(ゆ)むる事(くとぅ)んならん。
D しらあ後(くさあ)、諸敵(むるてぃち)なてぃ、逃(ふぃん)ぎゆる事(くとぅ)んならん。
答え:
@ うぬ荷や、重さぬ、かみいんないびらん
A うぬ添具お、鈍りてぃ、切いんならん
B 太陽あ目光らあさぬ、見じいんならん
C 天ぬ諸星え、数みいんならん
D しらあ後あ、諸敵なてぃ、逃ぎいんならん

日本語意訳:
@その荷物は重くて頭に載せて運ぶ事もできません。
Aそのナイフは鈍って切る事もできません。
B太陽は眩しくて見る事はできません。
C天の群れ星は数える事もできません。
D四面楚歌、全て敵で逃げる事もできません。

語句:添具=ナイフ、小刀。しらあくさあ=前後左右。諸星=読み方は「ぶりぶし、むるぶし、むりぶし」等。

2012年04月11日

第78講 受動的可能文「―できる(りいん)」

日本語

@ この抜け道からも行けるよ。
A 腐れ芋でも、食べられるかい。
B 癌は、今はだいたいは治せる病気である。
C 昔物は売れるが、現代物は売れない。
D 兄弟喧嘩すると、親父に叱られます。

うちなあぐち

@ くぬくんちり道(みち)からん、行(い)かりいんどお。
A しい芋(んむ)やてぃん、食(か)まりいんなあ。
B かくお、今(なま)あ、いいくる治(のお)さりいる病(やんめえ)なとおん。
C 昔物(んかしむぬ)お、売(う)らりいしが、今前(いまめえ)ぬ物(むぬ)お、売(う)ららん。
D 兄弟煽合(ちょうでえおおええ)しいねえ、父(すう)なかい、しちきらやびいん。

【解説】
 受動を表わす「―りいん」を用いる文は、意味的には可能文の一種です。
 第74講の可能文は、働きかける主体(能動主体)の能力を指すのに対し、受動的可能文におけるそれは、どちらかといえば、受ける側の能力を指します。例えば、例文Aの場合、食べる人の能力より、食べられる芋の可能性について言っています。
 なお、受動を表わす動詞がすべてラ行ユン・ティ動詞(第29講)である事は、前講で紹介した通りですが、終止形については「ユン」ではなく「イン」となりますので、例文はすべて、「イン」にしてあります。
 また、次例のスン・シ動詞の受動的文の殆どは「-さりいん」を付けても、可能文とはなりえません。
 可能文にするには「スン・シ動詞基本形+なゆん(ないん)」の形にしなければなりません。
 例:「ほうちかちすん(掃除する)」→「ほうちかちなゆん(掃除できる)」、「運転すん(運転する)」→「運転なゆん(運転できる)」等。それぞれについて、「掃除さりいん」、「運転さりいん」と受動文を作っても、受動的可能文にはならないのです。

例文@ 「くんちり道」は「ちゃんとした道」ではなく、「通ろうと思えば物理的に通れる所」に過ぎません。
例文B 「かく」は「癌」。「治さりいる」は「治さりいん」の連体形。「なとおん」は「やん」に置きかえても同じ意味です。沖縄語は慣用的に「である」を「やん」に替えて「なとおん」を使う事が多いです。例:「我ねえ、うぬ子ぬ親やいびいん」を「我ねえ、うぬ子ぬ親なとおいびいん」等。また、自己紹介する場合でも、「我ねえ、比嘉やいびいん」にかえて、「我ねえ、比嘉なとおいびいん」とする人もいます。「かえて」と述べましたが、「やいびいん」が「なとおいびいん」を逆転しているというのが実のところです。日本語との対比が頭に浮かんでしまうのかも知れません。
例文D 「しちきゆん(しつける)」は首里語と言われていますが、地方でも使われています。「ぬらゆん」が単に「叱る」の意味であるのに対し、「躾ける」の意味合いが濃くなります。

【応用問題】
 次の文の太字部分を受動的可能または「なゆん(ないん)」を使う沖縄語に直しなさい。
@ この字は小さくても、読める。
A 歌なら、遠くからでも聞こえます。
B 悪い道では、かけっこできません。
C この荷物はどこまで運べるか。
D この着物は狭くて、もう着けられません。
答え:
@ くぬ字(じい)や、ぐまさてぃん、読(ゆ)まりいん
A 歌(うた)やれえ、遠(とぅう)さからやてぃん、聞(ち)かりやびいん
B 悪(や)な道(みち)んじえ、走合(はあええ)ないびらん
C くぬ荷(にい)や、まあまでぃ、かやあさりいが
D くぬ着物(ちん)のお、狭(い)ばさぬ、なあ着(ち)らりやびらん




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