2012年10月19日

第86講 形容詞の接続用法

日本語

@ 針の穴は、小さくて、糸は通しにくいです。
A 外は寒くて、家に籠もっていまます。
B 風が多くて、戸はすべて、閉めました。
C 蝉の鳴き声はうるさくて、どうしようもありません。
D 恥ずかしくて、穴があれば、入りたいなあ。

うちなあぐち

@ 針(はい、はあい)ぬ穴(みい)や、ぐまさぬ、糸(いいちゅう)や通(とぅう)しぐりさいびいん。
A 外(ふか)あ、寒(ふぃい)さぬ、家籠(やあぐ)まいそおいびいん。
B 風多(かぞ)うさぬ、戸(はしる)お諸(むる)、閉(く)うやびたん。
C さんさなあぬ鳴(な)ち声(ぐぃい)やみ、みんちゃさぬ、ふしがらりやびらん。
D 恥(は)じかさぬ、穴(あな)ぬあれえ、ふぇえりんちい欲(ぶ)さっさあ。

【解説】
 接続用法については、第47講はじめ他講でも断片的に触れている通りですが、形容詞基本形(語幹+さ)の接続助詞「ぬ」を使う場合について、改めて取り上げているものです。日本語の接続助詞「て」の機能に似ています。(ただし、日本語の「て」は形容詞連用形に付きます)。
 なお、この用法が左例のように、口語において、言い切る形で、あたかも終止形のように用いられる場合は余韻用法といいます。(第80講参照)
例:「あっさびよお、まあさぬ(ああ、美味しくて)」、「ヤマトお、遠さぬ(本土は遠くて)」、「あい、うかあさぬ(ほら、危ない)」、「はあなあ、かしまさぬ(ああもう、うるさくて)」等。

文例B 「風多さん」は、「風が絶え間なく吹く様子等」を言いますが、必ずしも強風ではありません。「閉うゆん」は「(戸、窓、目、口等を)閉じる」で、「しみゆん」は「(帯等を)締める」の意味になります。
文例C 「みんちゃさん」は、音等「耳障りのするうるさい様」を言います。単に「うるさい」は「かしまさん」、ひどくうるさい場合は「ゆんがしまさん」と言います。
文例D 「ふぇえりんちゅん」は「閉じられた空間等に入りこむ」の意味です、単に「入ゆん」とは趣が異なります。
  
【応用問題】
 次の文を形容詞接続用法を用いた表現に直しなさい。
@ 白浜んじえ目光らさくとぅ、黒眼鏡かきらんでえないびらん。
A やあ灸や熱さくとぅ、しみい欲しゃあ無えやびらん。
B 突がい物やうかあさくとぅ、赤子ぬ居る所んかいや、置くなけえ。
C 汝商えぬしい様やはんたさくとぅ、さんしえましえあらに。
D くぬ晴着え、狭ばされえ、なあ、着らりやびらん。
答え:
@ 白浜(しらはま)んじえ、目光(みいふぃちゃ)らさぬ、黒眼鏡(くるがんちょう)かきらんでえないびらん。
A 灸(やあちゅう)や、熱(あち)さぬ、しみい欲(ぶ)しゃあ無(ね)えやびらん。
B 突(とぅ)がい物(むん)や、うかあさぬ、赤子(あかんぐぁ)ぬ居(をぅ)る所(とぅくる、とぅくま)んかいや置(う)くなけえ。
C 汝商(やああちねえ)えぬしい様(よう)や、はんたさぬ、さんしえましえあらに。
D くぬ晴着(うわあじ)え、狭(い)ばさぬ、なあ、着(ち)らりやびらん。

日本語意訳:
@白浜では眩しくて、サングラスをかけなければなりません。
Aお灸は熱いのでさせたくありません。
B突起物は危ないので、赤子の居るところには置くな。
C君の商売のやり方は危なっかしいので、しない方がよいのではないか。
Dこの晴着は狭くて、もう着けれません。

2012年09月17日

第85講 形容詞の連用修飾法(副詞的)V

日本語

@ 珍しいほどに、変化したこの沖縄。
A 伊集ぬ木の花は、そのように美しく咲くし。
B 面白、可笑しく、作ってみようよ。
C あらまあ、ひどく、驚きましたよ。
D この着物は、長らく、着けているよ。

うちなあぐち

@ ひるまさ、変(か)わたる此(く)ぬ沖縄(うちなあ)。
A 伊集(いじゅ)ぬ木(き)ぬ花(はな)や、あんちゅらさ、咲(さ)ちゅい。
B 面白(うむ)さ、可笑(うか)さ、作(ちゅく)てぃ見(ん)だな。
C あいええなあ、うすまさ、とぅんもおやびたっさあ。
D くぬ着物(ちん)のお、長(なげ)えさ、着(ち)ちょおんどお。

【解説】
 連用修飾用法は形容詞を副詞のように使う用法です。
 形は第87講等で取り上げる形容名詞と同じです。形容名詞は形容詞連用形の否定(第81〜82講等)に用いる場合にも用いられますが、副詞的に使用する事によって、通常の連用形と同じような機能を持たせています。

例文@ 民謡「時代の流れ」(嘉手苅林昌)より借用。例文の「ひるまさん」は原詩のまま。「ふぃるまさん」とも言います。復帰前に作られたものですが、表記法は語形保存表記を含めこの講座の表記とほぼ同じです。
例文A 「辺野喜節」から借用しました。「あんちゅらさ」の「あん」は「そのように」、「それほどに」という意味の接頭語です。「あんし」、「あんすけ」、「あんすか」等の語とも関係があります。この「あん」は、「あんちゅらさゆかてぃ」(稲まづん節)、「あんちゅらさ生(ま)りばし」(八重山民謡「安里ユンタ」)にもみる事ができます。
例文B 「作てぃ見だ」の「見る」は補助動詞(第88〜89講参照)です。
例文C 「あいええなあ」は驚きを表現する感動詞。どちかといえば、否定的な場面で使います。「とぅんもおゆん」は単なる「驚く」ではなく、文字通り「飛び舞うように驚く」の意味です。「大(うふ)どぅんもおい」は「びっくり(仰天)」。
例文D 「長(なが)さん」が日本語の「長い」に対応するのに対し、「長(なげ)えさん」は「時間的に長い時が流れた、久しい」という意味です。「長えさやあ」は「久しぶりだな」、「長えさやいびいん、長えさなとおいびいん」で「お久しぶりです」の意味になります。実際に逢って挨拶する場合に使う語ですが、最近は日本語の影響なのか、メール類でも使用される事が多くなっています。

【応用問題】
 次の文を、別の言い回しに直しなさい。答えは下欄です。
@ うぬ早(ふぇえ)さ、来(ち)ょおるばあなあ。
A あぬっ人(ちゅ)お、聖高(しいだか)さ、生(う)まりとおん。
B むぬお、まあさ、支(し)こうれえ。
C あんまあや、うすまさ、大叫(うふあ)びいそおいびいん。
D 風(かじ)ん涼(しだ)さ、吹(ふ)ちゅい。

@ うぬ早く、来ょおるばあなあ。
A あぬっ人お聖高生まりそおん。(聖高く生まりとおん)
B むぬお、まあく、支こうれえ。
C あんまあや、うすましく、大叫びいそおいびいん。
D 風ん涼く、吹ちゅい。

日本語意訳:
@そんなに早く、やって来たわけかね。
Aあの人は高貴な生まれをしている。
Bご飯は美味しく作れ。
C母はひどく叫んでいます。D風も涼しく吹くし。

2012年08月30日

第84講 形容詞の連用修飾用法U

日本語

@ 今年の夏は、とても、暑くなりそうだな。
A 足早に歩くと、後で、苦しくなるよ。
B 髪の毛を黒く染めると、若く見えるよ。
C 暗くすると、見えにくいです。
D 難しく書けば、読みかねる。

うちなあぐち

@ 今度(くんどぅ)ぬ夏(なち)え、さっこう、暑(あち)く、ないぎさあやっさあ。ク活
A ぐるく、歩(あ)っちいねえ、後(あとぅ)から、あんましくなゆんどお。前者ク活、後者シク活
B 髪毛(からじぎい)、黒(くる)く、染(す)みいねえ、若(わか)く、見(み)ゆさ。何れもク活
C 暗(くあら)くしいねえ、見(ん)じいぐりさいびいん。ク活
D 難(むちか)しく書(か)ちいねえ、読(ゆ)みいかんてぃいすん。シク活

【解説】
 形容詞連用形については、一部、第81講でも説明している通りですが、本講では否定文以外の連用修飾用法を紹介します。この用法は慣用的な言い回し以外は比較的、日本語の形容詞の用法に似ているといえます。

例文@ 「さっこう」は「ちゃんとしてないもの」を表わす名詞であるが、「よくない事を表わす」場合について、文例のように副詞的にも用いられます。「ない ぎさあ」の「ぎさあ」は「ぎさん(らしい)」という接尾語の名詞形です。形容詞の形をしていますが単独では用いません。「ぎさる」という連体形も持っています。例「行ちぎさる人(行きそうな人)」。以下の例は「慣用句」として覚えたいです。
例:「ち来いぎさん(来そうだ)」、「や悪なあ やいぎさん(悪いもののようだ)」、「あち暑くないぎさん(暑くなりそうだ)」、「ましやいぎさん(良いようだ)」等。
例文A 「ぐるさん」は「足等が速い」の意味に使われます。
例文B 「髪毛」は単に「からじ」とも言います。文語では「かしら(頭)」で「代用」される事もあります。例:「かしら結うてぃたぼり、我親がなし(髪を結うてください、私の親様)」(民謡「てぃんさぐぬ花」より)。
例文C 「―ぐりさん(―しがたい)」も「ぎさん」同様、形容詞もどき接尾語です。以下の例は慣用句として覚えたいです。例:「飲みいぐりさん(飲みにくい)」、「取いぐりさん(取りにくい)」、「覚いぐりさん(覚えにくい)」等。
例文D 「かんてぃい」も接尾語で、「しかねる事」の意味です。動詞にする場合は「すん(しゅん)」、丁寧文にする場合は「さびいん」を付けます。これも慣用句として覚えたいです。例:「歩っちいかんてぃいすん(歩きかねる)」、「降りいかんてぃいそおん(降りかねている)」、「運転しいかんてぃいそおいびいん(運転しかねています)」等。

【応用問題】
 次の文を日本語に訳しなさい。
@ 天(てぃん)ぬ暗(くら)くないねえ、やがてぃ、雨(あみ)ぬ降(ふ)やびいん。
A 物(むん)ぬ値(でえ)や、たった、高(たか)くなてぃ来(ち)ょおん。
B 家道具(やあどうぐ)ぬ多(うふ)くないねえ、座(ざあ)や狭(いば)くなゆんどお。
C 堅(か)とうにしいねえ、しょうらあしくないびいさ。
D 我(わあ)コーヒーや濃(かた)く作(ちゅく)てぃ、取(とぅ)らし。
答え:
@ 空が暗くなると、やがて、雨が降ります。
A 物価はますます、高くなってきている。
B 家具が増えれば、部屋は狭くなるよ。
C 堅固にすれば、しっかりしたものになりますよ。
D 私のコーヒーは濃く作ってちょうだい。




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