2013年01月30日

第89講 補助動詞Ⅱ

日本語

① へえ、行って見てみてよ。
② 昔は見た事もない人とも結婚をしたものだ。
③ 友だちと一緒に遊んでくるよ。
④ 髭も剃ってもこないからみっともない。
⑤ 自分の荷物は自分で担いでいくよ。
⑥ 自分の分さえ、持っていこうともしない。
⑦ 仕事もないから、遊んでいるのさ。
⑧ 孫も連れて行ってしまってくれたまえ。
⑨ あちこち回ってみるよ。

うちなあぐち

① んじ、行(ん)じ、見(ん)ち'んでえわ。
② 昔(んかし)え、見(ん)ちんんだん人(ちゅ)とぅん、にいびちすたん。
③ 友(どぅし)とぅ、まじゅん、遊(あし)でぃちゅうさ。
④ 髭(ふぃじ)ん、剃(す)てぃんくうんくとぅ、風儀(ふうじ)ん無(ね)えらん。
⑤ 自(どぅう)ぬ荷(にい)や、自(どぅう)し、担(かた)みてぃいちゅさ。
⑥ 自(どぅう)ぬたましんちょおん、持(む)っちいかんでぃんさん。
⑦ 仕事(しくち)ん無(ね)えらな、遊(あし)でぃる歩(あ)っちょおさ。
⑧ 孫(んまが)ん、連(そ)うてぃはち呉(くぃ)みそおれえ。
⑨ あまくま巡(みぐ)てぃぬうさ

【解説】
 動詞としての本来の意味を殆ど失い、動詞の下に付いて、助動詞のような補助的な役割を担うものを補助動詞とするという概念とその用法は概ね日本語のそれに似ています。
 ただ、どの種の動詞をその範疇とするかについては議論が分かれます。例えば新選国語辞典(小学館)では「生徒である」の「ある」についても補助動詞として扱われています。
 沖縄語のおける補助動詞は説明を付け足さなくてはいけません。例えば、「見ちんんだん(直訳=見てもない)」「食でぃんんだん(直訳=食べてもない)」等の日本語への訳文は、過去形で「見た事ない」、「食べた事が無い」とした方が適切です。
 また、沖縄語独特と思われる「―歩っちゅん」及び「―はゆん(去ゆん、走ゆん)」も補助動詞として扱います。なお、例文としては取り上げていませんが、「行く」「来る」の丁寧語も、またそれらの目上語である「めんせえん」も補助動詞であるといえます。

例文③ 「まじゅん」は、「まじゅい」、「まんな」、「しいてぃい」、「しいてぃいま」という地方もあります。「まじゅん」以外は『沖縄語辞典』にはありません。

  
【応用問題】
 次の日本語文を補助動詞を用いた沖縄語文に直しなさい。
① 三味線は弾いた事がない。
② 母はいまだに、パソコンを使った事もありません。
③ お茶でも飲んでいきませんかねえ。
④ 子供たちも、連れてきなさい。
⑤ 貴方はここで、何をしているのか。(「歩っちゅん」で)
⑥ 買い物をしているのだけど。(「歩っちゅん」で)
⑦ 面はゆいけど、言うだけは言ってみるよ。
答え:
① 三味線(さんしん)や、弾(ふぃ)ちぇえんだん。(三味線やふぃ弾ちんだん)
② 母(あんまあ)や未(なあ)だぐとぅ、パソコン使(ちか)てぃんなあびらん
③ 茶小(ちゃあぐぁあ)やてぃん、うさがてぃめんそおらんなあ。
④ 子(くぁ)ん達(ちゃあ)ん、そ連(そ)うてぃめんそおれえ。
⑤ うんじょゅお、くまんじ、何(ぬう)し、歩(あ)っちょおが。
⑥ 買(こう)い物(むん)しどぅ歩(あ)っちょおしが。
⑦ 面浅(ちらあさ)さあ、あしが、言(ゆ)るうっさあ、言(い)ちぬうさ
註:「面浅さあ、あしが」は「面浅さしが」でもよいです。

2012年12月25日

第88講 補助動詞1「―しておく」の用法

日本語

① 雨がやむ迄はここで、待っておく。
② 子豚が乳離れする迄、買うのは延ばしておいてくれ。
③ 日が暮れるまでは起きていてください。
④ 重いものは天井に下げておかないで。
⑤ この時計はどこに置おいておくかな。
⑥ 友だちが来る迄は休んでおくか。
⑦ 着物は畳んでおいておくものなんだよね。

うちなあぐち

① 雨(あみ)ぬ晴(は)りゆる迄(まで)え、くまんじ待(ま)っちょうちゅん
② 豚小(うわあぐぁあ)ぬあかりいる迄(までぃ)、買(こ)うゆしえ、延(ぬ)ばちょうけえ。
③ 夜(ゆう)ぬゆっくぃゆる迄(まで)え、起(う)きとうちゃびれえ。
④ 重物(んぶむぬ)お、天井(てぃんじょう)んかいや、下(さ)ぎとうかんけえ。
⑤ くぬ時計(とぅちい)や、まあんかい、置(う)ちょうちゅが。
⑥ 友小(どぅしぐぁあ)ぬ来(ち)ゅうる迄(まで)え、憩(ゆく)とうちゅみ。
⑦ 着物(ちん)の畳(たく)でぃるうちょうちゅるむんやんどおやあ。
 
【解説】
 「―し+うちゅん」(動詞等の接続態+補助動詞「うちゅん(置ちゅん)の二語からなる「―しておく」を表わす用法は継続文(関連第71~72講)で説明した通りですが、本講では補助動詞という観点からその用法を見ていきます。
 二語があたかも一体化して機能している場合においては、その否定文及び接続態は補助動詞部分「うちゅん(置ちゅん)」の活用に準じます。
 なお、継続文をつくる動詞と補助動詞「うちゅん(置く)」が一体化せず、「うちゅん」が通常の接続態から接続する形となる場合の否定文は日本語の場合と同じように、主動詞の側で行なわれます。例:例文④の変形「下ぎらん、うちゅん(下げないで、おく)」。「下ぎとおかん(下げておかない)」と「下ぎらんうちゅん(下げないでく)」とでは訳文の通り意味が異なります。

例文① 「雨ぬ晴りゆる迄」は「意味的に変」でも慣用的言い回しです。「雨が止むん」とは言いません。
例文② 「あかりゆん」は、ここでは、「乳離れする」という意味です。親豚にも子豚にも言います。男女の離縁についても言う場合(地域)があります。
例文③ 「ゆっくぃゆん」だけでも「夜が更ける」ですが「夜ぬゆっくぃゆん」は慣用的言い回しです。
  
【応用問題】
 次の文の太字部分を補助動詞を使い継続文に直しなさい。
① 一時小、菓子食でぃ、やあさ直しそおいびいん。
② 頭痛んすくとぅ、憩ら。
③ あちらん、湯や泡吹かんくとぅ、なあコーヒーや飲まん。
 
④ 花木え、水掛きらんでえ、けえ枯りゆんどお。

⑤ 家ぬ上ん壁ん、ペンキ塗いねえ、長持ちすさ。
答え:
① 一時小(いっとぅちゃぐぁあ)、菓子食(くぁあしか)でぃ、やあさ直(のお)しそうちゃびいん
② 頭痛(ちぶるや)んすくとぅ、憩(ゆく)とうか
③ あちらん、湯(ゆう)や、泡吹(あぶ)かんくとぅ、なあ、コーヒーや、飲(ぬ)まんちゅん。(飲まんうちゅん)
④ 花木(はなぎ)え、水掛(みじか)きとおかんでえ、けえ枯(か)りゆんどお。(掛きとうかんあれえ
⑤ 家(やあ)ぬ上(ゐ)ん壁(かび)ん、ペンキ塗(ぬ)とうちいねえ、長持(ながむ)ちすさ。

日本語意訳:
①少しの間、お菓子を食べて一時しのぎしておきます。
②頭が痛いので休んでおこう。
③なかなか、湯が沸騰しないから、もうコーヒーは飲まないでおく。
④花木は水をかけておかないと枯れてしまうよ。
⑤屋根も壁もペンキを塗っておけば長持ちするよ。

2012年11月17日

第87講 形容名詞

日本語

① それだけの大きさがあれば、大丈夫ですよ。
② そのすべすべしたものを、ここに、よこせ。
③ 腹の足しに、食べるものは、無いか。
④ バス停までは、すぐそこなのだから、歩いて行ったほうが良い。
⑤ あれほど遠い今帰仁から、いらっしゃったのかね。
⑥ 今日の喜ばしさは、何にも例えようがない。

うちなあぐち

① うぬまぎさぬあれえ、支(ちけ)え無(ね)えやびらんさ。
② うぬなんどぅるう、くまんかい、なせえ。
やあさ直(のお)しとぅしち、食(か)むしえ、無(ね)えらに。
④ バス停迄(てぃいまで)え、うが近(ちちゃ)どぅやるむぬ、歩(あ)っちどぅ行(い)ちゅる。
⑤ あが遠(とぅ)う今帰仁(なちじん)からどぅ、参(もう)ちゃんなあ。
⑥ 今日(ちゅう)ぬ誇(ふく)らさあ、何(ぬう)にん例(たとぅ)ららん。
  
【解説】
 形容詞の名詞の種類は次の四通りがあります。
1.基本形を名詞として用いるもの(基本形名詞)。例:まぎさ、ぐなさ、高さ、辛さ、寒さ、暑さ、誇らさ等。
2.語幹語尾を長音化したもの(語幹長音名詞): 例:大(ま)ぎい、安(やし)い、高(たか)あ、黒(くる)う、古(ふる)う、悪(や)なあ等。主に特定のものを形容する場合に用います。意味的に具象(あるいは特定できる対象)を形容する機能のあるク活用のみがその対象になります。存在動詞「やん」を付けて「―である」を表わす場合の形容名詞は基本的には語幹長音名詞が用いられます。
3.基本形に名詞を作る「し」を付けたもの: 例:大ぎさし、安っさし、高さし、黒さし、古さし、悪なさし等。主には、未特定のものを形容する場合に用います。この「し」は、動詞、存在動詞及び助動詞等の基本形に付けて名詞にする場合も同じです。ク活用およびシク活用共に成立します。
4.基本形名詞と指示代名詞等と組み合わせてつくる名詞例:あが遠う(あれほど遠く)、をぅが近(これほど近く)、うぬ長、あぬ丈(あん丈、あれほどの丈)等。これらは連体修飾語のように用いられていますが、慣用句化(複合語化)されていて、単独で用いて名詞として扱う事もできます。ク活用に見られます。

【ちゅらん考】日本語の「清い」に関係する語です。一頃、当て字は「清らさん」とすべきという議論がありましたが、起源は「清」であっても、日本語においては、漢字の用い方として、訓読みが基本的には「意味読み」である事を考慮すれば、「美らさん」でも構わない筈です。祈り言葉の中に、「ちゅら拝み」、「御守いぢゅらく」、「ちゅら御通い」、「ちゅら荼毘(盛大な葬式)」等があります。
  
【応用問題】
 文脈から( )内に適切と思われる語を右の《 》内の語から選んで入れなさい。
① 雲(あぬくむ)お、でえじな、( )やるむんなあ。《白(しる)さ、白(しる)う、白(しる)さし》
② なあふぃん、( )や、無(ね)えらに。《なが長さし、なが長あ、なげ長えさ》
③ 何(ぬう)が、くりえ、あんし、( )やる。《悪(や)なあ、悪(や)なさし、悪(や)なさ》
④ くぬ座(ざあ)ぬ( )あ、如何(ちゃ)ぬあたい、あいびいが。《ふぃる広さ、ふぃる広う、ふぃる広さし》
⑤ 暑(あち)さ、( )ん彼岸(ふぃがん)までぃ。《ふぃい寒さ、ふぃい寒さし、かまらさ》
答え:
① しる白う
② なが長さし、長あ
③ や悪なあ
④ ふぃる広さ
⑤ ふぃい寒さ

日本語意訳:
①あの雲は大変白いじゃないか。
②もっと、長いのはないか。
③どうして、これはそんなにも悪いものなのか。
④この部屋の広さはどれぐらいありますか。
⑤暑さ寒さも彼岸まで。




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