2013年04月25日

第92講「-らしい」を表わす「―ぎさん」、「―らあさん(らあしゃん)」

日本語

@ 叔父は強面そうで、怖ろしいそうだった。
A だけどまた、彼の子供はとても可愛らしい。
B 歌もうまく、叔父の子らしくもない。
C 母親は笑い上戸で、冗談好きのようだ。
D あの家族の話は面白そうだけど、そうなのか。
E 本当のようですよ。

うちなあぐち

@ 叔父(をぅざ)さあやはちこうらあさぬ、あくとうらあさたん
A やしがまた、彼(あり)が子(くぁ)あでえじな、うじらあさん
B 歌(うた)いうじらあさぬ、叔父(をぅざ)さあぬ子(くぁ)ぎさん無(ね)えん。
C 女(ゐなぐ)ぬ親(をぅや)あ笑(われ)えうじらあさぬてえふぁあやいぎさん
D あっ達(たあ)家人数(やあにんず)ぬ話(はなしい)やゐいりきしぎさしが、当(あ)たとおみ。
E 実(じゅん)にやいぎさんどお。
  
【解説】
「ぎさん」と「らあさん(首里語では『らあしゃん』)」は形容詞を作る接尾語です。

◆ぎさん:動詞や形容詞等の用言に付くと、「―らしい」、「―そうだ」等と推量を表わします。名詞に付くと「その名詞の表わす意味にふさわしいもの」の意味にもなります。意味はともかく、品詞は形容詞の仲間です。
名詞、代名詞および一部の副詞(名詞にもなりえる副詞)に付く例:「童+やい(存在動詞連用形)+ぎさん」(子供のようだ)」。「あん+やい+ぎさん」(そうであるようだ、そうらしい)。原則的には存在動詞を介して付きますが、存在動詞を略して直接接付く事もあります。
名詞に直接付く例:「ゆくし+ぎさん」(うそっぽい)、「かじい+ぎさん」(粘り強そう、負けず嫌いそう)等。
名詞に存在動詞を介して付く例:「ゆくし+やい+ぎさん」、「かじい+やい+ぎさん」等。
副詞に付く例:「ようんなあ+やい+ぎさん」(ゆっくりのようだ)、「ふぃっちい+やい+ぎさん」(一日中のようだ)等。
動詞に付く例:「ち来い(動詞連用形+ぎさん)(来そう)、「な鳴いぎさん」(鳴るようだ)等。
形容詞に付く例:「はごう+ぎさん」(汚なそう)、「やあさ+ぎさん」(ひもじそう)等。
◆らあさん(らあしゃん):名詞や代名詞のみに付き、「―らしい」という意味の形容詞を作ります。
例:「沖縄らあさん」(沖縄らしい)、「嫡子らあさるしいよう」(長男らしいやり方)等。
なお、「名詞+ぎさん」は「名詞+らあさん」でも殆ど同じ意味になります。例:「ちゅ人らあさん」=「ちゅ人ぎさん」。
   
【応用問題】
 次の文を「ぎさん」又は「らあさん」を用いた文に直しなさい。
@ 泣(な)か泣かあそおる童(わらび)ぬ居(をぅ)ん。
A 先生(しんしい)ぬ如(ぐとぅ)、歌(うた)てぃ、聴(ち)ちしゅうらさたん。
B あぬ人(ちゅ)ん達(ちゃあ)や諸(むる)、ゑえきんっ人(ちゅ)やいぎさたん。
C 聞(ち)ちゃれえ、あねえあらん筈(はじ)やたん。
D なあ、やあさぬ、死(し)にいがたあまあとおしが(註)。
答え:
@ 泣ちぎさそおる童ぬ居ん。
A 先生らあさ歌てぃ、聴ちしゅうらさたん。
B あぬ人ん達や諸、ゑえきんっ人らあさたん
C 聞ちゃれえ、あねえあらんぎさたん
D なあ、やあさぬ、死にぎさそおしが。

日本語意訳:
@泣きそうにしている子供がいる。
A先生らしく歌って聞きごたえがあった。
Bあの人たちはみな、金持ちみたいだった。
C聞けば、そうではなかったようだ。
Dもう、ひもじくて死にそうなのだけど。

註:「死にいがたあ まあとおん」は「死にそうにしている」の意味の慣用句です。同じ意味で「死な死なあそおん」というのもあります。

2013年03月30日

第91講「-(の)ごとし」「-せず」等を表わす「ぐとぅ(如)」、「ぐとおん(如とおん)」、「ぐうとぅう」 

日本語

@ 君の(仕事等)は、思い通りにできているか。
A 友だちと同じように、勉強しなくてはいけないよ。
B そんなに旨いものは、食べた事がありません。
C 沖縄語は少しは、日本語のようです。
D 貴様のような奴、道理も知りもせず。
E あそこには行かないでここにお出でなさい。
F 何もせず、ここで待っておこう。

うちなあぐち

@ 汝(やあ)むのぬお、思(うみ)いが如(ぐとぅ)なとおみ。
A 友(どぅし)とぅ同(い)ぬ如(ぐとぅ)、勉強(びんちょう)さんでえならんどお。
B うん如(ぐと)おる旨(まあ)さむぬお、食(か)だる事(くと)お、無(ね)えやびらん。
C 沖縄語(うちなあぐち)え、いふぃえ、やまとぅぐちぬ如(ぐと)おいびいん。
D 汝(やあ)如(ぐと)おりいや、物(むぬ)ん知(し)らん。
E あまんかいや行(い)かんぐうとぅう、くまんかい来(く)わ。
F 何(ぬう)んさんぐうとぅう、くまんじ、待(ま)っちょうかな。
 
【解説】
◆ぐとぅ:「―のごと(く)、―のよう(に)」の意味で、「―ねえ(―のよう)」と同じ意味です。「ねえ」に「し」が付く「ねえし」(のように)は、「如し」(ごとく、のように)の意味になります。
◆ぐとおん:「―のようだ」の意味で、「―ねえそおん」と同じ意味です。前述の「ぐとぅ(如)」と関係ある語です。「如(ぐとぅ)あん」については、実際には「如どぅある」等と強調助詞を混ぜて使うために、ピンとこない人もいるかも知れませんが、実在する語句で、意味は「如おん」と同じです。
◆ぐうとぅう(註1):「―しないで、―せずに、」という意味の否定文の中で用いられる語句です。「―否定文+ようい」(第40講参考)とほぼ同じ意味になります。

例文B「うん如おる」に関連する語として、「うんな」、「うぬゆうな」、「あねる」、「あんねえる」、「あんねえたる」もあります。同様に、「くん如おる」の類語である「くんな」、「くぬゆう(な)」、「くぬ如おる」等があります。
例文F「待っちょうか」は「待っちょうちゅん(待っておく)」の未然形で意思を表わします(参第71、88講)。これに付く「な」も意思を表わす助詞です。
 
【応用問題】
 次の沖縄語文を「如、如おん、ぐうとぅう」を使う文に直しなさい。
@ 今(なま)あ、那覇(なあふぁ)ぬ町(まち)え、ヤマトゥねえそおん。
A 父(すう)とぅまじゅん、居(をぅ)とおちゅんねえ、考(かんげ)えてぃ取(とぅ)らし。
B 腸心地(わたぐくち、はらぐくち)ぬ悪(わ)っさんねえ、そおっさあ。
C あんしいねえ、何(ぬう)ん食(か)まんようい、薬(くすい)びけえん飲(ぬ)どおちゅしえましえあらに。
D 宜(ゆた)しく(註)、御願(うにげ)えさびらやあ。
答え:
@ 今あ那覇ぬ町え、ヤマトゥぬ如(ぐと)おん。(如どぅある)
A 父とぅまじゅん、居とおちゅる如(ぐとぅ)、考えてぃ取らし。
B 腸心地ぬ悪っさる如(ぐと)おっさあ。
C うん如(ぐとぅ)うやれえ、何ん食まんぐうとぅう、薬びけん、飲どおちゅしえましあらに。
D 良(ゆ)たさる如(ぐとぅ)、御願えさびやらあ。

日本語意訳:
@今は那覇の町は日本本土みたいだ。
A父と一緒にいておくように取り計らってくれ。
B腹具合が悪いようだな。
Cだったら、何も食べずに、薬だけ飲んでおくのが良いのではないか。
Dよろしく、お願いしますよ。

註:「ゆたしくうねげえさびら」という言い回しは間違いで「ゆたさるぐとぅ、うにげえさびら」が正しいという説がありますが、「ゆたしく」という語自体は『沖縄辞典』の「hadamuci(肌持ち)」の例文に、「肌持ちぬゆたしくなとおん」(原文はローマ字表記)と存在します。

2013年02月26日

第90講「とき」と「場合」を表わす「ばあ」、「ばす」、「ちわ」

日本語

@ 計算する場合は、集中して頑張れよ。
A これは本当に、どういうわけか。
B 君も一緒に、行くわけ。
C 注意散漫の場合は何もしない方が良い。
D おお、ちょうど、いいときに居合わたね(来たね)。
E それを売るなら今がそのとき(機会)だよ。
F 祖父が亡くなる際は、どうすればよいだろうか。

うちなあぐち

@ さんみんするばあや、ちゅかたなてぃうみはまりよお。
A くりえ、実(じゅん)に、何(ぬう)やるばあが。
B 汝(やあ)ん、まじゅん、行(い)ちゅるばあ
C しょう入(い)っちぇえ無(ね)えらんばすお、何(ぬう)んさんしえまし。
D とお、いいばす、来(ち)ぇえさ。
E うり売(う)ゆるむんやらあ、今(なま)ぬばすやさ。
F 御主前(うしゅめえ、うすめえ)ぬばすお、如何(ちゃあ)し、しえ済(し)まびいがやあ。

【解説】
 「ばあ」と「ばす」は意味が殆ど重なりますが、「ばす」の意味は少し広いです。

◆ばあ:時、機会、場合、頃合、わけ等を表わす名詞。疑問助詞ではありませんが、文末にきて、尻上がりに言うときは、疑問文のように使います。これに続く用言は連体形となるのが普通ですが、慣用的に終止形となる事も多々あります。例:「やんばあなあ(であるわけかい)」、「行ちゅんばあ?(行くわけ?)」等。
◆ばす:時、機会、場合、頃合、わけ、特に不幸の折などを表わす名詞。但し、「場所」の琉球読み(ばしゅ)となる場合もあります。なお、次の使い方については、意味的な差はないとする説がありますが、現実には気にする人もいますので注意を要します。
「いいばあやさ」=「(否定的な行為に対して)いい気味だ」。多くは悪い事をした人に対して悪い意味で使います。
「いいばすやさ」=「ちょうど、良いタイミングだ」「(肯定的な行為に対して)よかった」。良い意味で使います。
◆ちわ:「きわ際」、「とき」という意味の文語。「ばす」、「ばあ」と重なります。例:「ん出ぢた立ちゅるちわ際やわか別りぐりしゃよ」(「ニ見情話」より)。
例文C 「そう(しょう)入ゆん」は子供等に対して言う場合は、「おりこうさん」ぐらいの意味に使われ、大人に言う場合は「しっかりしている」等の意味に使われます。「精」「性」等が当てられる場合が多いです。

例文F 「死亡する際」の「死亡する」という表現が略されています。年配世代は人の死亡を口にするのは忌み嫌う習慣があります。この世代の消滅とともに、おそらくはこの文例の用法も消えるのでしょうか。
  
【応用問題】
 次の沖縄語文を日本語文に直しなさい。
@ うんなばあどぅ、行逢(いちゃ)あらりいる。
A いいばす、語(かた)てぃ取(とぅ)らちぇえさ。
B 汝(やあ)や、いいばあやさ、や悪(や)な事(くとぅ)すくとぅ。
C あんまさるばすお、けえ憩(ゆく)れえわ。
D うったてぃどぅ、やんばあ(註)。
答え:
@ そんなときにこそ、逢えるのだ。
A よく、語ってくれたよ(言ってくれたよ)。
B 君は、いい気味だよ、悪い事をしたんだもの。
C 気分が悪いときは、休んでしまってよ。
D わざとなのかい。

註:「やんばあ」は連体形を用いて「やるばあ」とする事もあります。




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