弟95講「だから」、「なのに」、「のに」、「ものを」を表わす「むぬ(むんぬ)」、「(とおてぃ)、「(そ)おてぃ」、「でむぬ」

日本語

@ 太陽も出ないのに洗濯物が乾くものか。
A この子はいくら言っても、野菜はたべないのだから。
B 私も行くのだから、ご一緒に行きましょう。
C 二十歳はまだだのに、もう、夫を持つわけ。
D 皆行くのだから、君も行けば(いいのに)。
E 私にもできないのに、あの子にも、できるものか。
F ドラマでの話なのだから、気にしないでよ。

うちなあぐち

@ 太陽(てぃだ、てぃいだ)ん照(てぃ)らんむぬ、洗(あれ)えむんぬ乾(かあ)らちゅみ。
A くぬ童(わらび)え、ちゃっさ言(い)ちん、野菜(やせえ)や食(か)まんむぬ
B 我(わん)にん、行(い)ちゅるむんぬ、御(う)まじゅん行(い)ちゃびら。
C 二十歳(はたち)え、未(なあ)だやとおてぃ、いな夫(うとぅ)とぅめえゆるばあ。
D 諸行(むるい)ちゅとおてぃ、汝(やあ)ん行(い)ちいどぅする。
E 我(わあ)がん、ならなそおてぃ、あぬ童(わらび)ぬん、なゆみ。
F ドラマんじぬ話(はなし)でむぬ肝(ちむ)にかきらんけえ。

【解説】
 「むぬ(むんぬ)」は第47講で扱いましたが本講では「とおてぃ」、「そおてぃ」、「でむぬ」等と比較するために改めて取り上げています。

◆むぬ、むんぬ、むん:第47講参考。例文Aのように言い切る形で使われる場合もあります。
◆とおてぃ:「―のに」「―から」を表わす接続助詞ですが、言い切る形でも用います。この語は『沖縄辞典』には載っていませんが「邊野喜(びぬち)節」の歌詞「わみもいじゅやとて(ワミンイジュヤトオティ)」の「とて」は口語の「とおてぃ」です。用言の基本形(活用部分を除いた形)や否定文(未然形+否定を表わす助動詞「ん」)に付きます。
◆そおてぃ:主には否定文(用言未然形+否定を表わす助詞「な」)について、「―(でない)のに」、「―(ない)から」等の意味の接続助詞ですが、言い切りの形でも使われます。例:取らなそうてぃ(取らないのに)、あらなそうてぃ(でないのに、違うのに)、さなそうてぃ(しないのに)等。『沖縄辞典』には載っていません。
◆でむぬ:多くは文語で用いられる接続助詞で「―だから」、「―のに」、「―ものを」の意味。言い切りの形でも使います。「―どぅ+やる+むぬ」(強調助詞+存在動詞連体形+むぬ)の約まったものと考えられます。日本語の「だもの」説もあります。

【応用問題】
次の文を( )内の語を使って言い換えなさい。
@ あんどぅやてぃから、仕方(しかた)んなゆみ(とおてぃ)。
A まあん触(さあ)らんしが、痛(や)むんばあなあ(そおてぃ)。
B 連(そ)うてぃん、来(く)らなそおてぃ、ぞうい、来(ち)ゅうみ(むぬ)。
C でぃか、野原(ぬはる)んじ遊(あし)ば、春(はる)やるむぬ。(でむぬ)
D 里(さとぅ)とぅ我(わ)が仲(なか)、語(かた)らんむんぬん、我(わ)が落(う)てぃ着(ち)ちゅみ(そおてぃ)(花笠節より)
答え:
@ あんどぅやとおてぃ、仕方んなゆみ。
A まあん触らなそおてぃ、痛むんばあなあ。
B そうてぃん、来(く)うんむぬ、ぞうい、来(ち)ゅうみ。
C でぃか、野原んじ遊ば、春でむぬ
D 里とぅ我が仲、語らなそおてぃ、我が落てぃ着ちゅみ。
  
日本語意訳:
@そうであるなら仕方あるまい。
Aどこも触らないのに痛むのか。
B連れて来もしないで、とうてい、来るものか。
Cさあ野原で遊ぼう、春なのだから。
Dあなた(男恋人)と私の仲を語ろうともしないのに落ち着けるものか。

第94講 「-ほど、-ぐらい」を表わす「か」、「さく、しゃく」、「あたい」

日本語

@ 先ほど迄仕事をしていて、厭になるほど疲れている。
A お爺さんは君の事を頭にくるほど嫌っています。
B 声が出なくなるほど叫び(喋り)ました。
C 働けば働くほど、お金が貯まります。
D その程度で良いのだ(適当である)。
E 彼は誰もが褒めるほど良くできる人です。
F 足が痛むほど歩きました。

うちなあぐち

@ 今先迄(なまさちまでぃ)、にりる、仕事(しくち、しぐとぅ)さあに、うたとおん。
A 御主前(うすめえ、うしゅめえ)や、汝事(やあくとぅ)、わじる、はごうさそおいびいん。
B 声(くぃい)ぬ出(ん)じらんなる、叫(あ)びやびたん。
C 働(はたら)ちいねえ、働ちゅるさく、銭(じん)ぬ貯(たま)まやびいん。
D うぬあたいどぅ、いいさくやる。
E 彼(あり)え、誰(たあ)がん褒(ふ)みゆるあたい出来(でぃき)やあやん。
F 足(ふぃさ)ぬ痛(や)むるあたい、歩(あ)っちゃびたん。(足ぬ痛むか歩っちゃびたん)(「痛むる」は首里語では「痛ぬる」)

【解説】
 「か」、「さく(しゃく)」、「あたい」等については、他講の例文等でも断片的に示してありますが、本講ではそれらを用例を比較しながら改めて取り上げるものです。

◆か: 「―ほど」という意味。『沖縄語辞典』には接尾語とされていますが、用言の連体形やその変形(註)、連体形語尾「る」を略した形等に付く事から名詞としても成立します。なお、「否定文+なるか」という形(この場合も「なる」という連体形に付いています)は慣用的に「―であるか、でないかほど」、「わずかしか―ない」等という意味になります。この「―であるか、でないかほどの」の関連話題(小那覇舞天の漫才から抜粋)が第24講にあります。
◆さく(首里語「しゃく」):「ほど」、「程度」、「量」という意味の名詞。「尺」という語と関係あるのでしょうか。
◆あたい:「ほど」という意味の名詞。

例文C 「―ねえ、―さく」は、「―すれば、―するほど」という意味の慣用句です。

註: 例文A、B及びFにおける動詞の連体形は本来、各々「にりゆる」、「わじゆる」、「痛むる」なのですが、この「か」が付く場合は「にりる」、「わじる」、「痛む」となっています。この形はどの活用形にも当てはまりません。「か」が名詞であれば本来の連体形をとる筈であり、『沖縄語辞典』の接尾語説あるいは接続助詞説の何れかだとしてもなぜそのような形になるのかは謎です。筆者は「か」を「あたい」と同じく名詞として扱い、これに付く活用形は「―する」の場合が連体形(応用問題@参照)のままである事を手掛りに連体形の「慣用的な変形」として考えています。
  
【応用問題】
 次の文を( )内の語句を用いて書き換えなさい。
@ 幽霊(ゆうりい)話聞(ばなしいち)ち、諸毛(ぶりき)立(だ)ちするあたい、竦(しか)どおいびいん。(か)
A 耳(みみ)ぬ聞(ち)からんなゆるあたい、みんちゃさん。(か)
B うぬ山道(やまみち)やれえ、にりるか歩(あ)っちゃびたん。(あたい)
C 手(てぃい)ぬだりるか、手業(てぃいわざ)さびたん。(あたい)
D ちゃあ扇(おう)じいしいねえ、すがりやびいん。(ねえ、さく)
答え:
@ 幽霊話聞ち諸毛立ちする竦どおいびいん。
A 耳ぬ聞からんなる、みんちゃさん。
B うぬ山道やれえ、にりゆるあたい、歩っちゃびたん。
C 手ぬだりゆるあたい、手業さびたん。
D 扇じいねえ、扇じゅるさく、すがりやびいん。

日本語意訳:
@怪談話を聞いて身の毛のよだつほどびくびくしています。
A耳が聞こえなくなるほど喧しい。
Bその山道ならうんざりするほど歩きました。
C手がだれるほど手作業しました。
D扇げば扇ぐほど涼しいです。

第93講「多い」等を表わす「まんどおん」、「多さん」、「ちゃさきい」、「ちゃっさん」、「くさきい」、「うさきい」

日本語

@ お菓子ならお店にたくさんある。
A どうして、ここはバラが咲き誇っているのか。
B 道端には這う蔓草から縋る蔓草まで多んだって?。
C 御馳走なら、たくさんありますよ。
D 砂糖はどれぐらい多ければよいのか。
E 彼らの仲間は不平不満が多い。
F 塩は、あまり、たくさん(そんなには)は入れないで。
G 魚なら、海にいくらでも(たくさん)いる。
H これだけ(それほど)多くの藁をどこから持ってく来るのか。

うちなあぐち

@ 菓子(くぁあし)やれえ、店(まちや)んかい、まんでぃぐぁさぐぁさ。
A 何(ぬう)があんし、くまあ長春(ちょうしゅん)ぬ咲(さ)ちまんどおる
B 道端(みちばた)あ、這(ほ)うやあ草(ぐさ)から縋(しが)やあ草ぬまんどおてぃから?。
C くぁっちいやれえ、ちゃっさきいあいびいんどお。
D 砂糖(さあたあ)や、ちゃっさきいやれえ、済(し)むが。
E あっ達(たあ)しんかあ、くぬうまぬう(くいはい)ぬ多(うふ)さん
F 塩(まあす)お、どぅく、ちゃっさんや、入(い)りんなけえ。
G 魚(いゆ、ゆう)やれえ、海(うみ)んかい、ちゃっさん、あん。
H くさきい(うさきい)ぬ藁(わら)あ、まあから持(む)ち来(ち)ゅうが。

【解説】
 数量が多い事を表わす語として、「まんどおん」(動詞)、「多さん」(形容詞)、「ちゃっさきい」(副詞・名詞)等があります。他講の例文では断片的に使用しましたが、本講ではそれらの語の用例等を比較してみます。

◆まんどおん:「多くある」という意味。否定は「まんでえね無えん」、「まんでえ居(をぅ)らん」となります。『沖縄語辞典』に「持続態のみを用いる」とあるほど珍しい動詞です。但し「まんでぃ」(接続態、文例@)、「まんどおる(連体形、文例A)」があります。文例Bの「まんどおてぃ」は接続態ではなく、その「てぃ」は接続助詞の可能性があります。
◆うふ多さん:「多い」という意味の形容詞です。使い方は「まんどおん」と重なる部分もあります。
◆ちゃっさきい:「多く」という意味の名詞で副詞にもなります。例:「ちゃっさきい、持っちょおん(たくさん、持っている)」。「ちゃっさ(どれぐらい、どれほど)」という語と関係があります。
◆ちゃっさん:「いくらでも、かぎりなく」という意味の副詞です。
◆くさきい、うさきい:前者は「これほど多く、こんなにたくさん」、後者は「それほどたくさん、「それほどたくさん」等の意味の名詞で、何れも「なあ」を付けて副詞としますが、付けなくても副詞的も用いる事ができます。
 
【応用問題】
 次の文を(まんどおん、まんでぃぐぁさぐぁさ、ちゃっさきい、ちゃっさん、ちゃっさきいなあ)から適切な語を選んで言い換えなさい。
@ 図書館(とぅしゅかん)ぬんかいや書物(しゅむち)ぬ多(うふ)くあん。
A 芋(んむ)やれえちゃっさやてぃんあん。
B 腸(わた)ぬ満(み)い食(か)みいねえ、腸(わた)破(やん)じゅんどお。
C 薬(くすい)や、多(うふ)くお、飲(ぬ)まんしえまし。
D うさきいなあ生(み)いとおる草(くさ)あ、けえ刈(か)らな。
答え:
@ 図書館ぬんかいや書物ぬまんどおん
A 芋やれえ、まんでぃぐぁさぐぁさ
B ちゃっさきい、食みいねえ、腸破じゅんどお。
C 薬や、ちゃっさん、飲まんしえまし。
D ちゃっさきいなあ生いとおる草あ、けえ刈らな。

日本語意訳:
@図書館には本がたくさんある。
A芋ならあふれるほどある。
B腹いっぱい食べたらお腹を壊すよ。
C薬は多くは飲まない方がよい。
Dたくさん生えている草は刈り取ってしまおう




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