第203講「抜じゅん」「脱じゅん」「剥じゅん」などに関係する慣用句・言い回し

うちなあぐち

@ 新贔屓(にいびち)祝儀(しゅうじ)ぬばあや、写真(しゃしん)抜(ぬ)じゃあぬまんどおん。
A どぅく暑(あち)さるばす、肌脱(はだぬ)じゅる御年寄(うとぅす)いんめんせえん。
B いちゃっさ、細(くめ)えきてぃ、算取(さんとぅ)てぃん、当(あ)たらん。
C あったな事(くとぅ)なてぃ、我(わん)ねえ迷(まん)(惑)ぐぃ打っちゃん
D 今(なま)ん、山原(やんばる)舟(ぶに)接(は)じゅる技(わざ)、持(む)っちょおる人(ちゅ)ん居(をぅ)ん。
E 早(ふぇえ)くお着物(ち)のお剥(は)じらんようい、海(うみ)んじ浴(あ)みゆたん。
F 赤子(あかんぐゎ)ぬ臍(ふす)継(ち)じゅし(せ)え、泣(な)き声(ぐぃい)聞(ち)ちからどぅやる。
G 近頃(ちかぐる)お木(きい)ぬ上(ゐい)んかい、やっくゎ架(か)ちゅる人(ちゅ)お居(をぅ)らん。

日本語

@ 結婚祝いの場合は、写真を撮る人が多い。
A あまり暑いとき、半裸になるお年寄りもいらっしゃる。
B どんなに注意深く、計算しても、合わない。
C 急なことで、私はどうして良いのか分からなかった
D 今も山原舟を造る技術を持っている人がいる。
E 以前は着物を脱がずに、海水浴をしたものだ。
F 赤子の臍を切るのは、泣き声を聞いてからである。
G 最近は木の上に、小屋を造る人はいない。

【解説】
 例文@「写真抜じゅん」は「写真を撮る(写す)」の意味です。「結婚」は、他に「根引(にいび)ち」、「新引(にいび)ち」、「女引(にいび)ち」等の表記があります。ちなみに「ふぃち(ひち)」には「縁故、親戚関係、伝手、援助」等の意味があります。
例文A「肌脱じゅん」は「肌脱ぎになる」、「(上半身)半裸になる」の意味です。
例文B「算取ゆん」は「数を数える、計算する」の意味。「さんみんすん」より「本格的」計算に言うようです。
例文C「迷ぎ打ちゅい」は「気が動転して、どうして良いか分からない」の意味です。
例文D「船接じゅん」は「船を造る」の意味です。
例文E「着物剥じゆん」は「着物を脱ぐ」の意味です。
例文F「臍継じゅん」は「臍の緒を切る」の意味。「継じゅん」と「切ゆん」は反対の意味ですが「切る」という語を敢えて、避けた慣用句です。
例文G「やっくゎ」は「木の上等に造る小屋」で、これを造ることを「架(構)ちゅん」と言います。

【応用問題】
 例文や説明文を参考に次文中の()内に最も相応しい語句を左の()内から選びなさい。答えは下欄です。
(継じゅる、切ゆん、抜じゅる、写する、算取たれえ、肌脱がん、衣剥じらん、迷ぐぃ打ちゅん、どぅまんぐぃゆん)

@ ちゃんとぅ、( )、儲きとおる事ぬ分かやびたん。
A 景色ぬ写真や、うゎあちちぬ良たさるばあどぅ( )。
B 赤子ぬ臍( )し(せ)え、かってぃいんかいしみゆしどぅましやる。
C 立ち仕口するばあやてぃん、太陽ぬ強されえ、( )し(せ)えまし。
D ちゅふぃちゃん、泣ち掛かりいねえ、いいくる、( )。
答え:
@ 算取たれえ。
A 抜じゅる。
B 継じゅ。
C 肌脱がんしえ。
D 迷ぐぃ打っちゅん、どぅまんぐぃゆん。

日本語意訳
@ちゃんと、計算したら儲けている事が分かりました。
A風景写真は、天気の良い日に撮るべきである。
B赤子の臍を切るのは専門家にさせるのが良いのである。
C肉体労働する場合でも日差しが強い場合は、半裸にならない方が良い。
D急に泣き付かれると、大抵、途方にくれる。

第202講「くむん」「詰みゆん」「打ちゅん」「詰みゆん」等の慣用句・言い回し

うちなあぐち

@ 昔(んかし)え、さば、今(なま)あ靴(ふや)籠(く)でぃどぅ、学校(がっこう)んかい行(い)ちゅる。
A 母(あんまあ)や帽子(ぼうし)組(く)まあ、御主前(うすめえ)や筵(むしる)打(う)ちゃあやらりいたん。
B 父母(すうあんまあ)や田(たあ)打(う)っち、子(くゎ)ん達(ちゃあ)や、鞠(まあい)打っち遊(あし)どおん。
C 先(ま)ぜえ土手(どふぁ)打(う)っちから、うぬ上辺(うゎあび)んかい桟敷(さんしち)打たな。
D くぬ田(たあ)や返(けえ)ち、あまぬ田や深(ふか)さんでえならん。
E 男(ゐきが)あネクタイはち、女(ゐなぐ)おネックレスはちゅん
F 彼(あ)っ達(たあ)男(ゐきが)ん子(ぐぁ)あ諸(むる)成功(せいこう)し、女(ゐなぐ)ん子(ぐぁ)ん諸、立身(でぃっしん)そおん
G 前男(めえゐきが)てぃらむぬ(の)お、ちゃあ断髪(だんぱち)詰(ち)みてぃ爪(ちみ)ん詰みれえ

日本語

@ 昔は草履、今は靴を履いて学校に行くのである。
A 母は帽子作り、祖父は筵作りをしていらっしいました。
B 父母は田を耕して、子供達は鞠を撞いて遊んでいる。
C 先に土手を築いてから、その上に桟敷を作ろうよ。
D この田は普通に(耕し)、向こうの田は深く耕さないといけない。
E 男はネクタイを、女はネックレスを着ける
F 彼らの男の子は皆、自立し、女の子も皆、嫁に行った
G 良い男たるものは常に散髪をし、爪も切れ

【解説】
 日本語と類似する語句でも沖縄語では日本語の古い用い方或いは慣用的に別の意味で用いている事があります。

例文@「草履、下駄、靴」等を「履く」を「籠むん(込むん)」(首里語では「くぬん」)と言います。
例文A「組むん」は日本語の「編む」とほぼ同じ意味です。筵を作ることを「筵打ちゅん」と言います。
例文B「(田畑を)耕す」を意味する「打ちゅん」は「返すん」、「打ち返(けえ)すん」とも言い、特に荒畑の場合は「漁(あさ)ゆん」、「齧(かじ、かかじ)ゆん」、「切(ち)り割(わ)い割(わ)いすん」とも言います。「耕(たげえ)すん」も用いますが、「田返すん」かも知れません。鞠(まり)については「撞く」の意味に使います。野球での「玉を打つ」はそのまま「球打ちゅん」。
例文C「土手(どぅふぁ、どぅてぃ、あむとぅ)」、「桟敷(さじき)」を「築く、造る」ことにも「打ちゅん」を使います。
例文D「田を耕す」には「打ちゅん」や「返すん」の他に、特に深く耕す場合は「深すん」と言います。
例文E「ネクタイ」等、「首に着けるもの」は「はちゅん」と言います。「はきゆん」とも言います。日本語の「はく」は意味が「広い」ですが、沖縄語は「狭い」意味で使っていると言えるでしょうか。
例文F「成功」は日本語では「商売で成功」、「人工衛星の打ち上げに成功」等と使いますが、沖縄語では「子供が自立できる」、「独立する」等の意味に多く使います。「立身」は「(男の)立身、出世」、「女が嫁ぐ事」に多く使います。
例文G「断髪詰みゆん」は「断」と「詰」は近い意味ですので、「馬から落馬」するような表現になっていますが、慣用的表現です。「詰みゆん」は「切って短くする」の意味ですので「切ゆん」とは厳密に使い分けています。

【応用問題】
 例文や説明文を参考に次文中の()内に相応しい語句を左の()内から選びなさい。答えは下欄です。
(履かすくとぅ、籠ますくとぅ、切ゆし、詰みゆし、深し、打ちゅん、返す、漁ゆん、成功、はきゆくとぅ)

@ 下駄(ぎた)小(ぐぁあ)ん草履(さば)小ん( )、泣(な)くなよや坊主(ぼうじゃあ)小(「大村御殿」)。
A 此処(くま)あ、かわてぃ、ゆび田(た)やくとぅ、能(ゆう)う( )わるないる。
B 父(すう)や長男(ちゃくし)、( )しみてぃ、うみなあくそおん。
C 爪(ちみ)、伸(ぬ)ばしいねえ、うかあさくとぅ、( )えましどう。
D 荒(さ)ぼうりとおる畑(はる)( )でぃち、うたたん。
答え:
@ 籠ます。
A 深し、返し。
B 成功。
C 詰みゆし。
D 漁ゆん、返すん、打ちゅん。

日本語訳
@下駄も草履も履かすから泣かないでおくれよ坊や。
Aここは特に泥深田なので深く耕さなければならない。
B父は長男を一人前にしてほっとしている。
C爪を延ばすと危ないから切った方がよい。
D荒畑を耕そうと疲れた。

第201講「ああたなゆん」他に関する慣用句・言い回し

うちなあぐち

@ なあ、ああたけえなとおい、でぃか、一(ちゅ)てえや憩(ゆく)らな。
A 婆前(はあめえ)ぬああちらひゃあちら、物(ゆ)ゆみ始(はじ)みいねえ、止(や)まん。
B 汝(いゃあ)や肝要(かんぬう)な事(くとぅ)ないねえ、あぬうくぬうどぅすんばあ。
C シマんかい戻(むどぅ)たれえ、あながちさぬ強(つう)さぬ涙(なだ)落(う)ちゃん。
D 彼(あり)え、ああらんかあやくとぅ、ふぃれえ易(やっ)さん。
E あんし、'''飽(あ)ち果(は)いしいしいねえ、しい成(な)しゆさんどう。
F ちゃっさが餓(か)ちりとおらあ、あんしあばらあ食(か)みいし
G あらん縁(いん)結(むし)ぶる事(くと)お、いいくる不為(ふだみ)な事(くとぅ)やん。

日本語

@ もう、くたくたも疲れているし、さあ、一時休もうかな。
A お婆さんがぺちゃくちゃ喋り始めると止まらない。
B 君は肝心な事になれば、しどろもどろになるのか。
C 故郷に帰ったら、とても懐かしいので涙を流した。
D 彼は飾り気のない人なので、付き合いやすい。
E そんなに、嫌々ながらやったら、やり遂げられないよ。
F どれほど飢えているのだろうか、そんなに大食いして
G 縁の無い縁を結ぶ事は大抵、為にならない事である。

【解説】
 今回より、特定の語句に関しないその他の慣用句をご紹介いたします。101講から200講の慣用句で漏れた語句が他の語との組み合わせされている場合もあります。

例文@「ああた」は足が痛みや疲れ等でのびたりぐにゃぐにゃになっている状態のこと。単独では用いず「ああたなゆん」(くたくたに疲れる)、「ああた走い」(よちよち歩き、股を広げて滑稽に歩くこと)等の句で用います。
例文A「ああちらひゃあちら物ゆむん」(首里語は「〜物ゆぬん」)は「ぺちゃくちゃお喋りをする」。
例文B「あぬうくぬう」は「しどろもどろなること」の意味で、日本語では「あのうそのう」。
例文C「あながちさん」は「懐かしい」。「あながちさぬ強さん」で「とても懐かしい」の意味となります。
例文D「ああらんかあ」は「飾り気のない人」、「自然体で遠慮しない人」の意味です。語句というより、単語ですが、幾つかの語から成っていると考えられることから特に取り上げました。
例文E「呆ち果いしい」は「いやいやながらすること」の意味です。
例文F「あばらあ食みいすん」は「大食いする」の意味です。「あばらあ」は「大食い」の意味です。
例文G「あらん縁結ぶん」は「結ぶべきでない縁を結ぶ」の意味です。「あらん」は「でない」、「違う」という意味で且つ存在動詞「やん」の否定形でもあります。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に次文の太字部分の意味に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(飽ち果てぃはいしい、ああたなけえなとおい、あばらあ、ああちらひゃあちら物読まがなあどぅ、あぬうくぬう)

@父(すう)や一(ちゅ)けん倒(とお)りたれえ、叫(あ)び様(よう)んあま言(い)いくま言いどぅする。
A口(くち)ぱあくうあんまあ達(たあ)や井戸(かあ)油断(ゆだん)さがちいどぅ衣洗(ちんあれ)えんする。
B草臥(くた)んてぃ、足(ふぃさ)ん引(ふぃ)からんなとおい、でぃか、憩(ゆく)らなやあ。
C仕口(しくち)え、にりいしいしいねえ、却(けえ)てえ、をぅたい早(べえ)さんどう。
Dやとぅ餓鬼(がち)んかい腹中(わたなか)どぅ食(か)むんどうんでぃ言(ゆ)し(せ)え、どぅくやん。
答え:
@あぬうくぬう。
Aああちらひゃあちら物ゆまがなあしどぅ。
Bああたけえなとおい。
C飽き果てぃしい。
Dあばらあ。

日本語意訳
@父は一度(脳梗塞で)倒れた後は喋り方もしどろもどろになった。
Aお喋りな奥さん方は井戸端会議をしながら、洗濯をするのである。
B疲れて足もうごけなくなったし、さあ休憩しようかな。
C仕事は、嫌々ながらすれば、却って疲れ易いよ。
D大変な食いしん坊に腹半分だけ食べよというのはあんまりだ。



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