2013年12月28日

第104講 「言ん」の慣用句・言い回し W

うちなあぐち

@ 持(む)ちぬ事(くと)お言(い)い置(う)ちょおちゅくとぅやあ。
A どぅまんぐぃとおたくとぅ、又(また)ん言(い)い破(やん)たん
B うっかぬ事(くと)お、言(い)いかんてぃいし、ならんさあ。
C 夫(うとぅ)ぬ事(くとぅ)、言(い)い返(けえ)し返(げえ)しするむんやれえ、自(どぅう)や如何(ちゃあ)がやら、考(かんげ)えてぃんでえ。
D あんすか、人(ちゅ)ぬ事(くとぅ)、言(い)いしったらかしいねえ、にさぶらりやびいんどお。
E 我(わあ)考(かんげ)えや諸(むる)、言(い)い曲(ま)ぎらってぃ、伝(ちて)えらっとおん。
F 今先言(なまさちい)ちゃる事(くと)お言(い)いっ過(くぁ)やくとぅ、言(い)い直(のお)さびいさ。

日本語

@ 財産の事は事は言い残しておくからな。
A うろたえていたので、又も言い損なった
B 借金の事は言いかねるから、どうしようもないな。
C 夫の事をくどくど言うのなら、自分はどうなのか、考えてみて。
D そんなにまで、人の事をけなす(悪く言う)と、嫌がられますよ。
E 私の考えは全部、歪曲されて、伝えられている。
F 先ほど言った事は失言(言い過ぎ)だから訂正します。

【解説】沖縄語の慣用句や言い回しを日本語に訳すと、一見複数の意味があるかのように思えるかもしれませんが、馴れてくれば、言い回し・慣用句の進化の方向(仕方)に差が生じてきたためで、基本的な意味はしっかりしていて、それほどずれてない事に気付く筈です。

例文@ 「持ち」は資産や財産の意味。「言い置ちゅん」は「言い残すん」とも言います。「くとぅ やあ」は「(だ)から なあ」。
例文A 「言い破じゅん」は、例文の意味の他に「下手な言い方をする」、「中傷する」等の意味もあります。
例文B 「うっか」は「借金」、「負債」の意味です。「ならんさあ」は文脈によっては「いやだな」、「どうにもしようがない」の意味にもなります。
例文D 「言いしったらかすん」は「言いしたらかすん」とも言う。「あんすか」は「あんしゅか」とも言います。
例文E 「言い曲ゆん」はここでは文字通り「言った事を歪曲する」の意味ですが、「相手を強引に言葉で押さえ込む」の意味にもなります。
例文F 「言い過」は過ぎれば「失言」に発展します。ひっよとすると、「失言」は「本音の言い過ぎ」の延長?。
  
【応用問題】例文を参考に次の文を別の沖縄語文に直しなさい。
@ あんし、人(ちゅ)ぬ悪(や)な口(ぐち)、言(ゆ)し(せ)えあらんどお。
A 物言(むぬい)い様(よう)ぬ悪(わ)っさぬ、父(すう)なかいけえ呪(ぬら)あったん。
B 彼(あり・)え嘘(ゆく)さあやんでぃち、ばっぺえらっとおん。
答え:
@ あんし、人ぬ事(くとぅ)、言(い)いしったかしいねえならんどお。
A 言(い)い破(やん)てぃ、父なかいけえ呪あったん。
B 彼は嘘さあやんでぃち、言(い)い曲(ま)ぎらっとおん。

日本語意訳:
@そんなに人の悪口をいうものではないよ。
A口の聞き方が悪くて、父に怒られてしまった。
B彼は嘘つきだと、歪曲して言われている。

このブログにおけるうちなあぐちの表記法の方針

◆単語の持つ固有音の長音は母音(あ、い、う、え、お)で表記する。(例語の太字部分)
沖縄語例:とお、あんせえやあ、うしゅめえ。
日本語例:じゃあ、ねえ、おじいさん。
但し、カタカナ表記されている外来語の場合は固有音であっても「―」を使う。
◆臨時的伸ばし音の場合は棒引ち記号「―」を使う。
沖縄語例:いぇえー、しまぶくー。(島袋氏呼ぶ場合の「しまぶく」の伸ばし音)
日本語例:おーい、島袋さーん。(「おい」の臨時伸ばし音)
(したがって、会話体以外(=地の文)においては使われる事は無い)

註:「おもろさうし」「組踊」等のそうであったように日本語の表記法に準じています。

2013年12月01日

第103講 「言ん」に関係する慣用句・言い回しV

うちなあぐち

@ 友(どぅし)ん達皆(ちゃあんな)し、言(い)い合(あ)あち、揃(すり)ゆる日(ふぃい)、決(ち)わみたん。
A あい、あんし、言(い)い欲(ぶ)しゃ勝手(かってぃい)しいねえ、ならんどお。
B 社長なかい、うり(れ)え何(ぬう)んならんでぃ、言(い)い切(ち)らったん。
C 妻(とぅじ)なかい言(い)いちくなあさってぃ、とぅるばとおたん。
D 何(ぬう)んあらなそおてぃ言(い)い立(だ)だんさんでえ思(うむ)やびらに。
E 目病(みいや)みどぅやるむぬ、「目糞(みいくさ)あ」んでえ、言(い)い過(ぐぁ)あやさ。
F 童(わら)ん達(ちゃあ)が、得(い)いり物(むん)、「我(わあ)物(むん)どお」し、言(い)い張(は)とおん。

日本語

@ 友だち皆で、相談して、集まる日を決めた。
A あら、そんなに、言いたい放題言ったら、だめだよ。
B 社長にそれは役に立たないと決め付けられた。
C 妻に言いまくられ、黙っていた。
D 何でも無い事のに、大袈裟な言い方だと思いませんか。
E 眼病に過ぎないのに「目糞野郎」とはひどい言い方だよ。
F 子供達が玩具を「俺のだ」言い張って口論している。

【解説】
 沖縄語の慣用句や言い回しを日本語に訳す場合で複数の候補がある場合は、それぞれを逆訳すると、意味合いが少し異なる場合があります。それらの複数の訳文に共通する「本当の意味合い」に迫る事ができる筈です。

例文@ 「言い合あすん」は、「言って(物事を)合わせる」という意味で、つまりは「相談する」「話って決める」等の意味合いになります。
例文A 「言い欲しゃ勝手」は「言い欲しゃふんでえ(註)」とも言います。
例文B 「何んならん」は「役に立たない」という意味です。「言い切ゆん」の接続態は「言い切っち」。「極言する」、「罵倒する」等の意味もあります。
例文C 「言いちくなあすん」は一応、「言い+ちくなあすん(皺くちゃにする)」という複合語と考えられますが、「言いち+くなあすん(踏み付ける、踏み躙る)」あるいは「息(いいち)+くなあすん」)という複合語である可能性もあります。何れにせよ、「相手に言う隙を与えず言いまくる」の意味合になります。
例文D「言いださん」は「言い立てる(大袈裟に言う)」と関係あります。「言いだてぃ」(大袈裟な言い方、誇張した言い方)という名詞も同じく関係する語です。
例文E 「言い過あさ」は「言い過ぎ」、「ひどい言い方」等の意味です。

【応用問題】
 次の文の太字の部分を右の例文を参考に言い直しなさい。答えは下欄です。
@ 大切(てえしち)な事(くと)お、皆揃(んなすり)てぃ、相談(そうだん)しさびら
A 意地(いじゃ)やあ達(たあ)や、言(い)い欲(ぶ)しゃふんでえそおん。
B あんすか迄(までぃ)、彼(あり)が悪口言(やなぐちい)らんてぃん済(し)みえさに。
答え:
@ 大切な事お、皆揃てぃ、言(い)い合(あ)あさびら
A 意地やあ達や、言い欲しゃ勝手(かってぃい)そおん
B あんすか迄、彼が事、言(い)い切(ち)らんてぃん済みえさに。

日本語意訳:
@大事な事は皆集まって相談しましょう。
A意地の強い人達は言いたい放題言っている。
Bそんなにまで、彼を罵らなくても良いじゃないか。

註: 「ふんでえ(我儘)」の語原は中国語の「皇帝(huangdi)」であるとする実しやかな巷の説がある。社会学者、河村只雄の『南方文化の探訪』(文教出版、第二版、一九七三年)の225頁で宮古語「ぷんたい(本島中南部語の『ふんでえ』に対応)」に対応する古語として「ほんだい」と表示している。但し、小学館の『古語辞典』に「ほんだい」はない。

このブログにおけるうちなあぐちの表記法の方針

◆単語の持つ固有音の長音は母音(あ、い、う、え、お)で表記する。(例語の太字部分)
沖縄語例:とお、あんせえやあ、うしゅめえ。
日本語例:じゃあ、ねえ、おじいさん。
但し、カタカナ表記されている外来語の場合は固有音であっても「―」を使う。
◆臨時的伸ばし音の場合は棒引ち記号「―」を使う。
沖縄語例:いぇえー、しまぶくー。(島袋氏呼ぶ場合の「しまぶく」の伸ばし音)
日本語例:おーい、島袋さーん。(「おい」の臨時伸ばし音)
(したがって、会話体以外(=地の文)においては使われる事は無い)

註:「おもろさうし」「組踊」等のそうであったように日本語の表記法に準じています。

2013年11月17日

第102講 「言ん」に関係する慣用句・言い回しU

うちなあぐち

@ 乞(く)うやあぬ言(い)い戻(むどぅ)しいが参(もう)ちゃん。
A 友(どぅし)とぅあらがあ合(ええ)さしが、けえ言(い)い負(ま)きたん
B 肝要(かんぬう)な事(くとぅ)とぅないねえ、政治家(しいじさあ)あ言(い)いまんぐぁすん
C 「すんすん」し、言(い)い流(なが)し流しさあに何(ぬう)んさびらん。
D でえじな勘鈍者(かんどぅうむん)やんでぃち、言(い)い下(さ)ぎらったんよお。
E 「うりがん何(ぬう)んないみ」でぃ、言(い)いしたらかさったん
F 汝(やあ)が悪(や)な事(くとぅ)、言(ゆ)くとぅ、我(わあ)が言(い)い直(のお)ちゃん

日本語

@ 嫁の申込者が婚約を解消しにいらっしゃった。
A 友だちと議論をしたが、論破されてしまった
B 肝心な事となると、政治家は言い紛らす
C 「やるやる」と、口ばかりで何もしません。
D とても勘が悪い奴だとこきおろされたよ。
E 「それが何の役に立つか」とけなされた
F 君が縁起の悪い事を言うから、僕が良い様に言い直した

【解説】「言ん」に関する慣用句・言い回しは、直訳調の日本語とは意味合が随分、異なります。完全に別の言語のつもりで覚えた方がよいでしょう。当講におけるそれは、例文F以外は良い文句とは言えませんがそれらも言語の一面です。
例文@ 「乞うやあ」は「嫁乞い者」の意味、婿側の親戚がを代表して行く。
例文A 「言い負きゆん」の対句は「言い負かすん」。「あらがあ」は「言い合い」、「議論」等。「あらがあゆん」は「議論する」。
例文B 「まんぐぁすん」は「惑わす」、「紛らわす」等の意味があります。例:「人お、まんぐぁするむぬおあらんどお」で「人を惑わすものじゃないよ」。
例文C 「言い流し流し、し」とも言います。
例文D 「言い下ぎゆん」の例文訳「こきおろす」は「悪く言う」でも良いです。
例文E 「言いしったかすん」とも言います。「うりがん何んないみ」は慣用句として覚えましょう。
例文F 「言い直すん」は例文の意味の他に、「前言と取り消す」という意味もあります。例:「くぬ前、言ちゃる事お、言い直すんどお」(この前言った事は取り消すよ)。

【応用問題】次の文を日本語に訳しなさい。答えは下欄です。
@ 女(ゐなぐ)ぬ親(をぅや)あ、言(い)い戻(むどぅ)さってぃ、けえとぅるばとおたん。
A 弟(うっと)おちゃっさ、言い負(ま)きてぃん、怖(う)じいらんたん。
B 父(すう)や言いまんぐぁさんでぃさしが、母(あんまあ)や合点(がてぃん)さんたん。
C 銭返(じんけえ)すんでぃち、言い流(なが)し流しびけんそおん。
D 歌(うた)ぬ歌(うた)い様(よう)、言(い)い下(さ)ぎらってぃ、ちるだいそおいびいん。
E うっさ、言(い)いしったらかさってぃん、口(くち)んかなあん。
F 彼(あれ)が画(か)ちぇえる絵(いい)や、ちびらあさんでぃ、言(い)ちょおたるむぬ、きっさ、言い直(のお)ちょおん

答え:
@ 女の親は破談にされて愕然としていた。註
A 弟はいくら、論破されても、恐れなかった。
B 父は言い紛らそうとしたが母は納得しなかった。
C 金を返すと言うのは口ばかりで返さない。(意訳)
D 歌の歌い方をこき下ろされて、元気をなくしています。
E あれだけ、悪く言われても、口答えもしない。
F 彼が画いた絵は素晴らしいと言っていたのに、もう、発言を訂正している

註:「とぅるばゆん」は「黙って静かにする」等の意味ですが、「ショックを受けて肩を落とす」等の意味もあります。「とぅりゆん」(凪ぐ)と派生関係にある語と思われます。




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