2014年02月28日

弟107講 「肝」に関する慣用句・言い回しT

うちなあぐち

@ 子(くぁ)大和(やまとぅ)んかい遣(や)らちゃしが如何(ちゃあ)がそおら肝(ちむ)ん肝ならぬ。
A うんじゅが歌聴(うたち)ちいねえ、肝潤(ちむうら)らきらりゆさ
B 哀(あわ)りそおる人(ちゅ)ん達(ちゃあ)んかい肝呉(ちみくぃ)てぃ取(とぅ)らしよおやあ
C 肝(ちむ)ふずる迄(までぃ)、食(か)でぃん済(し)むんどおやあ、童(わら)ん達(ちゃあ)。
D 彼(あり)ぬ事聞(くとぅち)ちいねえ、肝(ちむ)あまじし、物(むぬ)ん食(か)まらんむん。
E でぃか、まじゅん、酒小(さきぐぁあ)やてぃん飲(ぬ)でぃ、肝直(ちむのお)さな
F 女(ゐなぐ・)お子(くぁ)ぬ居(をぅ)らんなてぃから今(なま)ちきてぃ、肝抱(ちむだ)ちょおん

日本語

@ 子を本土に行かしたが、どうしているのかしのびない
A あなたの歌を聴けば、心が癒されるよ
B 哀れな人々に哀れんでおくれよね。
C 満足するまで食べて良いよ、子供たち。
D 彼の事を聞けば、動揺し、飯も喉をとおらないのだ。
E さあ、ちょっと酒でも飲んで、機嫌を直そうではないか。
F 女は子を失ってから、いまだに悲しみに呉れている

【解説】
 「肝」は「肝臓」、「食べ物としての肝臓」としての意味の他、「心、心情、情け、精神」という意味があります。「心(くくる)」も同じ意味を持ちますが、「肝」の方が多く使われます。その関連句は「肝語」と称される事があります。「肝語」は他の慣用句・言い回しより数が群を抜いて多いです。これも琉球民族の心情の反映なのでしょうか。

例文@ 最近は「肝ん肝ならぬ」は「肝ん肝ならん」が普通です。「心が落ち着かない」、「心も心にならない」等の意味があります。「大和」は「薩摩」を意味し、日本全体は「大大和(うふやまとぅ)」とされていますが、ここでは古い『辞書(沖縄語辞典等)』にこだわらず、使用実態に重きを置き、「日本本土」という意味で使用します。
例文A 例文の句は「心を洗い流す、洗い清める」等の意味です。「うらあきゆん」は単独では「水に浸す」、「潤す」等の意味です。
例文B 例文の句に日本語訳は「情を掛ける」の意味でもよいのですが、その逆訳である慣用句の「情掛きゆん」よりはもっと重みが感じられます。
例文C 「肝ふじゅん」の「ふじゅん」は例文にある句のみに用いられ、単独では用いられません。
例文D 「あまじゅん」は、「揺れ動く」等の意味です。「愛の雨傘」という民謡の歌詞に「我肝(わちむ)あまがする悪魔女(あくまゐなぐ)(私の心を動揺させる悪戯女)」というのがあります。
例文F 「居らんなゆん」は「居なくなる」ですが、慣用的に「死なれる、(失う)」の意味にも使われます。『沖縄語辞典』にはその意味の慣用句としてはありません。また、「肝抱かりゆん」と受動態にすると、「悲しみに閉ざされる」等の意味となります。

【応用問題】
次の文を日本文に直しなさい(意訳でもよいです)。
@ 婆前(はあめえ)や肝抱(ちむだ)かってぃ、物(むぬ)考(かんげ)えんならんなとおん。
A 諸(むる)が肝(ちむ)ふじゅんねえし、配(は)じ取(とぅ)らさんなあ。
B 初(はじ)み(め)え、肝(ちむ)あまじさしが、半(なか)らから慣(な)りてぃちゃん。
C 人(ちゅ)ぬ事思(くとぅうむ)ゆる肝(ちむ)ぬあれえ、肝呉(くぃ)ゆる事(くとぅ)んなゆん。
D 孫(んまが)ん達(ちゃあ)とぅ遊(あし)びいねえ、肝(ちむ)どぅうらあきらりゆる

答え:
@ お婆さんは悲しみ暮れて、頭も混乱してしまっている。
A 全員が満足のいくように分配してくれないかね。
B 最初は動揺したが、途中から慣れてきた。
C 人の事を考える心があれば、人を哀れむ事もできる。
D孫たちと遊べば、心も清らかになれる(意訳)。

2014年02月07日

第106講 「かきゆん」に関する慣用句・言い回し

うちなあぐち

@ 着物(ちん・)のお、くまんかい掛(か)きとけえ
A 庭(なあ)ぬ花(はな)んかいん、水(みじ)掛(か)きらい
B 銭賭(じんか)きてぃ、勝負(しゅうぶ)そおん。
C あまくま掛きてぃ、なあ、うたとおさ。
D 沖縄(うちなあ)や大和(やまとぅ)なかい掛きらっとおん
E 書ちかきたれえ、後(あと)お、さあらないなたん。
F 秤(はかい)かきれえ、重(うぶ)さぬ分(わ)かゆさ。

日本語

@ 着物はここに掛けておけ
A 庭の花に水を掛けようね
B 金を賭けて勝負している。
C あちこち掛け持ちして、もう疲れたよ。
D 沖縄は日本に支配されている
E 書き始めたら、後は、スムーズにいった。
F 秤にかけると、重さが分かるよ。

【解説】
 「かきゆん」が前講の「かかゆん」と同じように多くの意味を持っている事は、これらに対応する「かく、かける」や「かかる」日本語も場合も同じです。「電話かきゆん」等と日本語同様に転用も進んでいます。ここでは、代表的な意味と特に留意したい意味の例文を紹介するに止めます。とりわけ例文Dにおける「支配する」という意味としては沖縄語独自の意味あるいは転用ではないかと思われます。
 中国との冊封関係の無かった日本語が漢語を取り込む事によって強固な日本語を作り上げる一方、漢語(註1)に依存する「体質」になっていったのに対し、冊封関係のあった琉球の言語の方が漢語より「手持ちの言葉」を転用しながら、独自の発展を遂げていった様子が垣間見えます。

例文@、A 「かきゆん」の一般的な使用例です。
例文B ここでは「掛きゆん」と「賭きゆん」の意味は転用関係にあるとして、「同一」に扱っています。
例文C 日本語では「掛け持つ」となりますが、沖縄語では、そのまま「かきゆん」であり、「掛き持ちゅん」という句は使いません。
例文D 「かきゆん」には「支配する」、「統治する」、「領有する」等の意味があります。
例文E 「-(し)始めている」という意味を持つ事は日本語も同じです。
例文F 「秤かきゆん」は「秤にかける」、「量る」の意味です。慣用句として覚えたいです。
  
【応用問題】
次の文を日本語に直しなさい。
@ 大国(たいぐく)(註2)ぬ弥勒(みるく)、沖縄(うちなあ)にいもち御掛(うか)き栄(ぶ)さみしょり。
A 今(なま)あ離(はなり)りえ、橋(はし)ぬかきらってぃ、渡(わた)い易(や)っさなとおん。
B 昼寝(ふぃんに)そおる童んかい、着物掛(ちんか)きとおけえ、あんまあ。
C 妻(とぅじ)んかい情掛(なさきか)きらんたる事(くとぅ)がる肝掛(ちむが)かいやる。
D ちゃあ、値(でえ)や掛きらっとおんでぃ思(うむ)ゆし(せ)えまし。

答え:
@ 大国の弥勒様、沖縄にいらっしゃって、お治めくだされ。
A 今は離島は橋が掛けられ渡り易くなっている。
B 昼寝している子供に着物を掛けておいて、。
C 妻に情けを掛けなかった事こそ気掛かりなのだ。
D 殆ど、値段は掛け値だと思っていた方が良い(意訳)。

註1 琉球語と日本語の違いはさて置き、筆者は漢語肯定派です。私見では漢字は人類が生み出した文字の中では最も文明の香りがします。象形文字から発展し、画数こそ複雑ですが、その分、文字の意味が深いので文は簡潔で済みます。それに造語力は他の文字を圧倒しており、和製漢語が清代の中国に「輸出」された経緯もあります。

註2 喜舎場永cは自書『八重山古謡下』の中で「大国(taiguku)」は「安南のこと」と記述しています。安南は現在のベトナム。『沖縄語辞典』には「teekuku〔大国〕 中国を大国として尊敬する語」とあります。

2014年01月16日

第105講 「掛かゆん」に関する慣用句・言い回し

うちなあぐち

@ 帽子(ぼうし)ぬ釘(くじ)んかい掛(か)かとおん。
A 二階(にいけえ)プウぬ船(ふに)ぬ港(んなとぅ)んかい掛かとおん。
B 太郎(たるう)や今(なま)ぬまあどぅぬ試験(しちん・)ぬんかい掛かとおいぎさん。
C 昔(んかし)ぬ童(わら)ん達(ちゃあ)や、昼間(ふぃるま)あ家(やあ)ねえ掛からんたしがる。
D 人(ちゅ)ぬ口舌(くちしば)んかい掛かゆる事(くと)お、さんし(せ)えましどお。
E 汝(やあ)や大人(うふっちゅ)なてぃん親(をぅや)んかいどぅ掛かかとおんなあ。
F うっさ銭(じん)ぬ掛かとおるばあなあ。

日本語

@ 帽子がぬ釘にかかっている。
A 蒸気船が港に停泊している。
B 太郎は今回の試験には合格したようだ。
C 昔の子供達は家にいる事はなかったのに。
D 人の噂に上るような事はしない方が良いよ。
E 君は大人になっても親の厄介になっているのかい。
F こんなにお金がかかったわけねえ。

【解説】
 「掛かゆん」は日本語の「掛かる」に対応する語です。日本語にも元々、多様な意味がありますが、漢語等他の語に置き換えられて、その使用は狭められている感があります。沖縄語においては古風な使い方もまだ健在です。日本語にある「かかれ=襲え、攻めろ」や「敵の手に掛かる=敵の手に落ちる、処分される、殺される」等の意味は、沖縄語では廃れてしようされなくなったのでしょうか?

例文@ ここでの意味は例文Fの場合と同じく、最も普通に使われる例です。
例文A 「二階プウ」は「蒸気船」を表わす俗語です。大抵二階建てのビルのようで、出港等の際に「プウ」という汽笛を鳴らした事からこの名が付けられたようです。『沖縄語辞典』にはありません。ここでは「かかゆん」は「停泊する」の意味です。
例文B 「太郎」は平民は「たらあ」。士族は「たるう」だったとの事ですが、地方では厳密ではなかったか、平民家系の筆者の実家ではずっと、叔父の名は「たるう」です。
例文C 「家ねえ」の「ねえ」は位置を表わす助詞「に」と係助詞「え」の合成語で「には」という意味です。「我ねえ」の「ねえ」とは一応別の語です。
例文D 「口舌」は「うわさ」、「評判」等の意味で悪い意味で使われます。
例文E 「掛かかとおん」は日本語文では「厄介になる」になっていますが、「頼っている」の意味であります。
例文F 「銭かかゆん」と「銭てえすん」との違いは、後者は「金を費やす」の意味です。

【応用問題】次の日本語文を沖縄語で表わしなさい。
@ いいくる春(はる)まんぐるからあ、湿掛(しちがか)かいすん。
A 言(ゆ)しどぅかかゆる。
B ちゃあ、親(をぅや)ぬ事(くとぅ)ぬ肝掛(ちむがか)かいし、ないびらん。
C あんすか、掛(か)かい縋(しが、すぃが)いさりいねえ、ふしがらんしが。
D 今日(ちゅう)や、ふぃっちい、家んかい掛(か)とおきよお。
E 諸(むる)し、しいち掛(か)からりいねえ、恐(うとぅ)るさるならんさあ。
F しんかぬ達(ちゃあ)や、仕事(しぐとぅ)、し掛(か)かたん。

答え:
@ およそ、春頃から湿気を帯びてくる。
A 言う人にこそ頼む(べきだ)。
B いつも親の事が気かがりでなりません。
C そんなに纏わり付かれると、やりようがないけど。
D 今日は、終日、家にいておけよ。
E 皆に詰め寄られると(押し掛けられると)、恐くてしょうがないなあ。
F 中間達は仕事に取り掛かった。




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