2013年11月06日

第101講 「言ん」に関係する慣用句・言い回しT

うちなあぐち

@ 童(わら)ん達(ちゃあ)んかい、良(ゆ)う、言(い)い習(なら)あしよおやあ。
A うぬ事(くとぅ)し、諸(むる)なかい、けえ言(い)いくじらったるむん。
B 彼(あり)が事(くと)お、誰(たあ)んかいん、言(い)い広(ふぃる)ぎらんきよお。
C 先生(しんしい)や生徒、(しいとぅ)言(い)い入(い)りゆんでぃち、やっぱとおいびいん。
D 何(ぬう)んあらなそおてぃ、あんし、言(い)い立(た)てぃてぃ
E くぬ前(めえ)ぬ約束(やくすく)お、なあ言(い)い返(けえ)すくとぅ、許(ゆる)ち取(とぅ)らし。
F 彼(うり)え、都合(ちごう)ぬ悪(わ)っさぬ、言(い)い回(まあ)らさんでぃそおん。

日本語

@ 子供たちに、良く、教えてちょうだいね。
A その事で、皆にけなされてしまったものだ。
B 彼の事は誰にも言い触らさないでよ。
C 先生は説得しようと、頑張っています。
D 何でもないのに、そんなに、大袈裟に言って。
E この前の約束はもう取り消すのでごめんなさい。
F 彼は都合が悪いので、誤魔化そうとしている。

【解説】沖縄語の言い回しは、独自に発達してきたものが多いです。「言ん」に関する言い回し、慣用句にも独特のものがあります。

例文@ 「言い習あすん」は「言って教える」。「言ち習あすん」に言い換えることもできます。
例文A 「言いくじゆん」は「言ん」と「くじゆん(穿る、抉り出す、皮肉る)」から成ります。概ね、「くじい物言いすん」と重なります。
例文B 「言い広ぎゆん」は「言い触らす」、「吹聴する」等の意味。「叫びたっ加あすん」の言い方とも重なる部分もあります。
例文C 「言い入りゆん」は「説得する」、「言い聞かせる」等の意味。「言ち聞かすん」とも重なります。
例文D 「言い立てぃゆん」は「必要以上に言い騒ぐ」、「誇張する」、「大袈裟に言う」等の意味。勿論、「言ち騒じゅん」、「うふ物言いすん」等、別の言い方もできます。
例文E 「言い返すん」は「約束等取り消す」、「前言を翻す」等の意味。
例文F 「言い回らすん」は「のらりくらり言い逃れる」、「言い誤魔化す」等の意味。「あり言ちゃいくり言ちゃいし、ばばくぁあすん」という表現する事もできます。

【応用問題】次の文の太字の部分を下の慣用句で言い直しなさい。
@今先(なまさち)あちれえたるむぬお、なあ、済(し)まびいさ。(言い返すん)
A彼女(あり)が事訊(くとぅち)ちちん、彼(うり・)え、別(びち)ぬ物言(むぬい)いどぅさびいる(言い回らすん)。
B行(い)くなんでぃち、ちゃっさ言(い)ちん、聞(ち)ちゃびらん。
C太郎(たるう)や次郎(じらあ)なかい、叫(あ)びらってぃ、面白(うむく)ん無(ね)えんたん(言いくじゆん)。
Dうっぴ小(ぐぁあ)ぬ事(くとぅ)ん、あんすか、叫(あ)びやあ叫びやあし(言い立てぃゆん)。

答え:
@言い返さびいん。
A言い回らしいどぅさびいる。
B言い入りてぃん聞ちゃびらん。
C言いくじらってぃ。
D言い立てぃてぃ。

日本語意訳:
@先ほど注文したものは取り消します。
A彼女の事を訊いても、彼は誤魔化すのです。
B行くなと、いくら説得しても、聞きません。
C太郎は次郎に皮肉られて、面白くなかった。
Dそれだけの事で、そんなに大袈裟に言われて。

このブログにおけるうちなあぐちの表記法の方針

◆単語の持つ固有音の長音は母音(あ、い、う、え、お)で表記する。(例語の太字部分)
沖縄語例:と、あんせ、うしゅめ
日本語例:じゃあ、、おじさん。
但し、カタカナ表記されている外来語の場合は固有音であっても「―」を使う。
◆臨時的伸ばし音の場合は棒引ち記号「―」を使う。
沖縄語例:いぇえー、しまぶく。(島袋氏呼ぶ場合の「しまぶく」の伸ばし音)
日本語例:おい、島袋さーん。(「おい」の臨時伸ばし音)
(したがって、会話体以外(=地の文)においては使われる事は無い)

註:「おもろさうし」「組踊」等のそうであったように日本語の表記法に準じています。

「はなしことば」、「?かきことば」及び「?文語」の区別に関する考え方(異なる意見があることは承知いたしおります)。?
◆?「はなしことば」=会話調のことば。語尾に感嘆詞「ねえ」、「?よ」、「?さ」を頻繁に用いる。同じ事を繰り返したり文法(語順)が乱れがちだが、話し手、聞き手とも気にしなくて済まされる世界。また、それらを「単にメモったもの」。
?
例:きよーわねー、天気がいーじゃない。だからさー、みんなで、うんどーこーえんにいこーよー。
?
◆「書きことば、文章にすることば、文章語」=?感嘆詞を取り除いた澄まし言葉で成り立つ。無駄な語を省き、文法(語順)や文の流れを気を気にして書く。したがって概ね起承転結が明確である。
? 
例:今日は、天気が良いので、皆で、運動公園に行こう。
?
◆「文語」=辞典上では二通りの意味がある。一つは「書きことば」や「文章ことば」の意味。二つには、江戸時代までの書きことば。したがって、「古語」とは意味が重なる部分がある。
?
 現在、「書きことば」のつもりで流行している棒引き記号「ー」?を使う文章は、固有長音と伸ばし音の区別されてなく、「はなしことば」をそのまま「メモ書き」に直したようなものの域をでない。ことばを「書いたもの」だからといって、イコール「書きことば」とはかぎらないのである。
?
日本語表記である「ひらがら」を借用するのであれば、その使い方(歴史的慣習ルール)もセットで借用すべきであると考える。
? ちなみに、日本語のひらがな使用のルールは、
1.単語の固有長音(太字部分)は母音(あ、?い、う、え、お)で表示する。したがって、日本語辞書にはカタカナで表記される外来語以外は「ー」を使う単語はない。
  例:それじゃ、またね、おじさん、おばさん。
2.伸ばし音(臨時的)対しては、「ー?」を使う。
  例:おーい、ひろしくーん、こっちへ、きてよー。(「おい、ひろしくん、こちへきてよ」の臨時伸ばし音)
3.但し、外来語などカタカナで表記される語については「ー」使用もありうる。

2013年10月19日

第100講 接続詞・接続助詞

うちなあぐち

 あんせえ、接続詞(しちずくし)にちいてぃ語(かた)ら。
 やしが、接続詞ぬわ分きい様(よう)にちいてえ、色々(いるいる)とぅあん。
 やくとぅむしか、顔(かあ)振(ぶ)いする所(とぅくる)ぬあらあ、延(ぬ)びてぃ取(とぅ)らし。
 接続詞え、言(い)いどぅんせえ、自(どぅう)や前(めえ)ぬ文(ぶん)ぬんかい、後(あとぅ)ぬ文ぬんかいんたっ加(くぁ)あてえ居(をぅ)らんしが、二(たあ)ちぬ文(ぶん)、?(ちな)じゅる語(くとぅば)ぬ事(くとぅ)。
  あんしまた、文たっ加(くぁ)あさあ。やせええやしが、接続助詞とお如何(ちゃ)ぬ風儀(ふうじい)し違(ちが)ゆが。
 助詞(じゅし)え、「―くとぅ」、「―しが」ねえし、文末(ぶんしい)んかいたっ加(くぁ)あてぃ、接続(しちずく)しみゆる語。むっとぅん、二ちぬ意味(ちむええ)や似(に)ちょおん。
 うりかあぬ品詞(ひんし)ぬ考(かんげ)え様や日本語(やまとぅぐち)ん同(い)ぬむんやん。
 やくとぅんでぃち、諸同(むるい)ぬむんやる訳(わき)えあらん。例(たとぅ)れえ「ゆうしいねえ」、「後(あとぅ)ぬうじゅみ」、「ちゃあそおてぃん」、「言いどぅんせえ」、「言ちいちいねえ」、「何がんでえ」んでえや、接続詞がやら文がら、あらんでえ別(びち)ぬむんがやら、意見(かんげえ)ぬ分かりゆん。
 やしが、接続詞くるが文から変形(ひんきい)・派生(はしい)・独立(どぅうたっちい)し来(ち)ょおるむんやんでぃち考えらりいん。
 やてぃ、意見ぬ違てぃ心配(しわ)んさんてぃ済(し)むん。また日本語ぬ「-て」や接続助詞どぅやしが、沖縄語(うちなあぐち)於(をぅ)とおてえ接続態(しちずくてえ)んでぃる言(い)ちょおる。言いどぅんせえ、沖縄語とぅ日本語とおに似ち、また似らんむぬんやん。
 とおなあ、話ぬあま曲(ま)がいく曲がいし、何(ぬう)ぬ話しがやたら、やまちりとおいぎさん。やしが、御主(ぐすう)よう、文章(ぶん)んでぃせしえ、どぅくだら、接続詞使(ちけ)え強(ぢゅう)されえ、後ぬうじゅみ却(けえ)てえ、風儀(ふうじ)ん無(ね)えらんなゆくとぅ、とぅてぃん、思(うみ)い切(ち)っとぅ外(はん)ち、読者(ゆまあ)んかい悟(さとぅ)らすせしえまし。やてぃ、言語(くとぅば)ぬ先生(しんしい)かたくじら生徒(しいとぅ)ん達(ちゃあ)や、いふぃえ肝掛(ちむが)きり。
 あんややてぃんちゃあそおてぃん、使(ちか)らんでえならんばそすお使らんでえならん筈(はじ)やしまた、悪(や)な文(ぶん)書(か)ちゃあぬ我(わあ)が言い入りらんでぃさんてえまん、取(とぅ)い受(う)きぐるさる筈(はじ)やしが
  

例文の日本語意訳

 では、接続詞について話そう。しかし、接続詞の篩い分けについては様々な考えがある。
 だからもし、首を傾げるような事があればご容赦願いたい。
 接続詞は、いわば、自らはその前の文にも後の文にも付かないが二つの文を?ぐ語の事。そしてまた、文をくっ付け役。だがしかし、接続助詞とはどのように違うのか。助詞は、「―(だ)から」、「―けど」のように文末に付いて接続させる語。もっとも二つの意味は似ている。
 そのような品詞の分類は日本語も同じである。だからといって、全て同じという訳ではない。例えば「ひっよとすると」、「結局」、「どうしても」、「いわば」、「つまりは」、「なぜかといえば」等は接続詞なのか文なのか、あるいは何れでもないのか、意見が分かれる。
 だが、接続詞自身が文から変形・派生・独立したものであるとも考えられる。よって、意見が違っても心配しなくもよい。また、日本語の「-て」は接続助詞なのであるが、沖縄語では接続態と称している。言わば、沖縄語と日本語とは似て、また非なるものである。
 さて、話が脱線し何の話題がだったか混乱しているようだ。しかし、読者のみなさん、文章というのはあまりにも接続詞を使い過ぎると、結局、むしろみっともなくなるから、いっそのこと、思い切って言外に隠し読者の読解力に任せる方が良い。よって、言語の先生はじめ生徒の皆さん方は少しは気にして欲しい。
 そうではあっても、どうしても、使わなければならない場合は使わなければならないだろうが。それに悪文家の私が言っても説得力はないだろうけど。
  
【解説】太字が接続詞及び接続助詞の一部です。例文にはありませんが、「やいびいしが(ですが)」、「あんさびいねえ(それでは)」等、用言から派生した接続詞にはその丁寧語(形)もあります。
  
【応用問題】右の沖縄語文から接続詞を整理しすっきりした文にしてください。答えは各自の感性にお任せいたします。

2013年10月19日

第99講 諸言い回し、否定文の係り結び、「まじゅん」他

日本語

@お金がないからこそ、奢らないのだよ。
A嫁と一緒に買い物しに行った。
B夫と一緒に、訪ねてお出で。
C子供は寝た振りをしている。
Dしようにも、できもしない事をするもんじゃない。
E足を痛めて、歩きかねている。

うちなあぐち

@銭(じん)ぬ無(ね)えらんどぅ(無えんどぅ)、てぃでえらんどぅ
A嫁(ゆみ)とぅまじゅん(まじゅい)、買(こ)うい物(むん)しいが行(ん)じゃん。
B夫(うとぅ)しいてぃい(しいじい、しいてぃいま)、巡(みぐ)てぃ来(く)わ。
C童(わらび)え寝(に)んたん振(ふう)うなあそおん。
Dさららんしいや、すなけえ。
E足痛(ふぃさや)まち、歩(あ)っちいかんてぃいそおん。
  
【解説】
使用頻度の高い慣用的な言い回しを幾つかまとめてみました。
◆「否定文+どぅ」:強調を表わす助詞「どぅ」又はその清音「る」は基本的にはどの語にも付き、これに係る肯定文は、通常は連体形で結びます(第3講参照)が、例文@、Aのように否定文に接続する場合は文末が「んどぅ」又はその清音「んる」となります。様々に解釈できますが、否定助動詞の「結び形」と考えられます。否定文の連体形は終止形も同形ですが、結びの場合だけ語尾部分が「んどぅ」となるという解釈です。
◆まじゅん、「まじゅい:「一緒」という意味の名詞。「名詞+とぅ+まじゅん」という使い方をします。「まじゅん、行か(一緒に行こう)」という場合は副詞となります。「まじゅい」は『沖縄語辞典』にはありません。
◆しいてぃい、しいてぃいま、しいじい:「と共に」、「と一緒に」という意味。名詞に直接付いて用いますので、「まじゅん行か」のように副詞的に「しいてぃ行(い)か」という使い方はできません。何れも『沖縄語辞典』にはありません。
◆「ふうなあ」:「振り」、「真似」という意味の名詞。動詞(接尾語説有り)に「すん」を付けて、「振りをする」となります。類語の「なじき」、「なじきい」、「なじきゆん」については前講参照。
◆「動詞未然形+らん+動詞連用形」で、「―できない、やり」等と直訳ではチンプンカンプンな意味となりますが、「―しようにも、やりづらい」、「できもしないのに、する(やる)」、「いやいやながら、する」等の意味合いで用いられます。
例:「生(い)ちからん生(い)ちち」(生きようにも生き難い)。「実(な)ならん実(な)い」(みの実ろうにも実り難い)。
◆「かんてぃい」:動詞連用形に付く接尾語で「―しかねる」の意味になります。
例:「言いかんてぃいそおん」(言いかねている)、「食みいかんてぃいすん」(食べかねる)。
  
【応用問題】
次の文を( )内の語句を使う文に直しなさい。
@勉強さんくとぅ、試験ぬんかい掛からん。(どぅ)
A孫んそ連うてぃ、めんそおれえ。(まじゅん)
Bどぅし友ち連りてぃ、泳じいが行じゃん。(しいてぃい)
C勉強しいなじきいし、漫画見ちょおん。(ふうなあ)
D書ちかんてぃいそおれえ、書くな。(書からん書ちい)
Eなあ、仕事、辞みる積む合やん。(―ちやん)

答え:
@勉強(びんちょう)さんどぅ、試験(しき)ぬんかいか掛からんどぅ。
A孫(んまが)とぅまじゅん、めんそおれえ。
B友(どぅし)しいてぃい、泳(ゐい)じいが行(ん)じゃん。
C勉強そおん振(ふ)うなあし、漫画(まんが)見(ん)ちょおん。
D書(か)からん書(か)ちいやすな。
Eなあ、仕事(しくち)、辞(や)みゆんちやん。

日本語意訳:
@勉強しないから試験に落ちるのだ。
A孫と一緒にお越しください。
B友だちと一緒に泳ぎに行った。
B勉強しているふりをして漫画を読んでいる。
D書こうにも書けないなら書くな。
Eもう仕事を辞める積もりだ。




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