第110講 「肝」に関する慣用句・言い回しW

うちなあぐち

@ うんじゅが加勢(かしい)し取(とぅ)らしいねえ、肝強(ちむじゅう)さいびいさ
A 肝清(ちむじゅ)んっ人(ちゅ)お、御(う)万人(まんちゅ)ぬ事(くとぅ)ん良(ゆう)うすん。
B 知らん国(くに)んじ、肝(ちむ)とぅん体(てえ)とぅんかなん風儀(ふうじ)やたん。
C 肝(ちむ)ぬ思(うみ)いがやたら、見(ん)ちゃる覚(うび)いぬあたしがどぅ。
D うぬ童(わらび)え(・)、肝弱(ちむよお)さぬ人(ちゅ)ぬ前(めえ)んかいやならんでぃんさん。
E 隣(とぅない)ぬ御主前(うしゅめえ、うすめえ)や肝(ちむ)しっぷうさぬ如何(ちゃあ)んなやびらん。
F 姑(しとぅ)とぅ嫁(ゆみ)え(・)互(たげ)えに肝(ちむ)ぬゆちゃゆんねえ、しわるなゆる。

日本語

@ あなたが協力してくれたら心強いですよ。
A 心優しい人は多くの人たちの面倒見も良い。
B 知らない国で途方に暮れている様子だった。
C 気のせいだったのか、見た覚えがあったのに。
D そこの子は気が弱くて、人前には行こうともしない。
E 向こう隣のお爺さんは片意地でどうしようもない。
F 姑と嫁は互いに心が通じる合うようにすべきである。

【解説】
 本講の「肝語」も文字と各合成語を見れば概ねその意味が理解できます。普段は頭の中は日本語に占領され、なかなか思いつかないですが、積極的に使っていきたいものです。

例文@「肝強いさびいさ」は「安心です」と訳する事もできます。
例文A「肝清さん人」は慣用的な以下で、「肝清らさるっ人」でも間違いではありません。「肝清らさん」には「恵深い」という意味もあります。「良うすん」は、「良くしてくれる」の意味ですが、意味合い的には訳文通りの意味になります。
例文B 「肝とぅん体とぅん叶(敵)あん」は文字通り、「心も体もかなわない」ですが、訳文通りの意味合いです。
例文C「あたしがどぅ」は「あたしがる」でも良いです。「どぅ」は前語を強調する助詞ですが、ここでの意味合いは訳文の通りです。
例文D 「ならんでぃんさん」の直訳は「なろうともしない」ですが、慣用的には例文の他、「出ようともしない」等の意味になります。
例文E 「肝しっぷう」は「肝」と「しぶとい、強情」等を意味する「しっぱ」との合成語です。「なやびらん」は「ないびらん」の少し古い形ですが、地方ではやや優勢、首里・那覇では混在しています。
例文F 「肝ぬゆちゃゆん」は「肝」と「気が合う、馴染む」等を意味する「ゆちゃあゆん」の合成語です。「しとぅ(姑)」は「しゅうと」にも「しゅうとめ」にも言いますが、普通は「しゅうと」について言います。

【応用問題】
前の例文を参考に次の文中の語を意味が同じか又は近い語に直しなさい。
@ あぬ美童(みやらび)え平生(ふぃいじい)からうゑんださんあい、うふ安っさん。
A 英語口(いんじりいぐち)ぬ分からな、とぅぬうまぬうさびたん。
B あぬっ人(ちゅ)お、誰(たあ)とぅん肝(ちむ)ぬ違(たが)あらんさ。
C いっ達主(たあすう)や、頑固(ぐぁんく)なてぃ、ぞうい、当(あ)たらん。
D だあ、あぬ男(ゐきが)あ肝(ちむ)小(ぐう)さぬ、けえ飽(あ)ちゃがらっとおさ。
 
答え:
@ 肝美(ちむじゅ)らさん。
A 肝(ちむ)ん体(てえ)ん無(ね)えやびらんたん。
B 肝(ちむ)ぬゆちゃゆさ。肝ぬゆちゃとおさ。
C 肝しっぷう者(むん)なてぃ。肝しっぷうなてぃ。
D 肝弱(ちむよお)さぬ。

日本語意訳:@あの娘は普段から心優しい。A英語が分からず途方に暮れました。Bあの人は誰とも心が合うよ。Cあんたんち(君たち)の親父は偏屈で、とても付きあい難い。Dほれ、あの男は小心者だから飽きられてしまったよ。

第109講「肝」に関する慣用句・言い回しV

うちなあぐち

@ ちゅうちゃん、子(くぁ)ぬ居(をぅ)らんなてぃ、母(あんまあ)や肝(ちむ)ちい返(けえ)らちょおん
A 世話事(しわぐとぅ)ぬあくとぅる、肝ん取合(とぅやあ)あさんでぃそおる
  やしが、むさっとぅ、肝ん取合あさらびらん
B 先(さち)ぬ事考(くとぅかんげ)えねえ考えゆるしゃく、肝迷(ちむまゆ)いすん
C あんすかなあんでぃん、肝ん無(ね)えんしい様(よう)しいねえ、にさぶらえりゆんどお。
D 彼(あり・)え肝小(ちむぐう)さぬ、口(くち)ふぃんけえん、しいゆうさん。
E 汝(いゃあ)が悪(や)な事(くとぅ)すくとぅ、さっこう、肝障(ちむざわ)いそおさ
F 皆(んな)し肝揃(ちむずり)いし、しいねえ、何(ぬう)やてぃんなゆさ。

日本語

@ 突然、子が亡くなり、母親は気が動転している
A 心配事があるからこそ心を整理しているのです
 だけど、全く考えがまとまらず途方にくれています
B 今後の事を考えれば考えるほど心が迷う
C それほどまでに、心無い(冷淡な)やり方をすると、嫌がられるぞ。
D 彼は小心者なので、口答えもできない。
E 君が悪い事をするから、とても気に障っているよ
F 皆で心を合わて(協力して)やれば、何でもできる。

【解説】
 本講の「肝語」は文字を見れば、意味はある程度、想像がつくと思います。

例文@ 「肝ちい返らすん」は文字通り、「肝(心)がひっくり返る」の意味です。「パニックに陥る」、「狂ったように冷静さを失う」場合等を表現します。「ちい」は「―してしまう」の意味を表わす副詞で、「いしゆん(据える、据え置く)」、「はちゅん(首に掛ける)」等の動詞に対して用います。多くの動詞に対しては「けえ」が付きます。例:「けえ倒りゆん(倒れてしまう)」、「けえ笑ゆん」等。「喰ゆん」、「食むん」、「飲むん」等の動詞には「うちゅ」が付きます。例文A 「世話」は「心配」の意味に転じていますで、「心配」を当てる場合も多いです。

例文B 「あんすかなあんでぃん」は「あんすか(あんしゅか)」、「なあ」、「ん」、「でぃん」から成ります。文章にするとくどいですが、会話では普通の言い方。文章語では「あんし」、「あんすか」等と簡潔にしてもよいでしょう。

例文D 例文の日本語を逆訳すると、「彼え肝(ちむ)小者(ぐうむん)やくとぅ、―」となります。

例文E 主には悪い意味で使う「さっこう(とても)」を単独で「さっこうやっさあ」と使う場合は、「ひどいな」、「あんまりだな」等の意味になります。

例文F 最近は日本語の影響で「心合(くくるあ)わちょおてぃ」という言い方も耳にします。

【応用問題】次の文中の語語句を右の例文の「肝語」を参考に言い換えなさい。
@ あったな事(くとぅ)なてぃ、けえどぅまんぎぃとおん
A あっ達話聞(たあはなしち)ちちねえ、癪(しゃく)さわゆっさあ
B 何(ぬう)が、し、済むらあ、考えぬ纏まらん
C あんし、人(ちゅ)うせえ物言(むに)いやさんてぃん済(し)みええさに。
D 心打(くくるう)ち合(ゃ)あち、作(ちゅく)てぃんだな。

答え:
@ 肝ちい返えらちょおん。
A 肝障しすっさあ。
B 肝ん取合あさらん。
C 肝無えん物言い。
D 肝揃いし。

日本語意訳:
@急な事で、気が動転している。
A彼らの話を聞けば癪にさわる。
B何をしていいのか、考えを纏める事が事ができない。
Cそんなに、人を馬鹿にした言い方はしなくてよいだろうに。
C協力して作ってみようよ。

第108講 「肝」に関する慣用句・言い回しU

うちなあぐち

@ 歳取(とぅしとぅ)てぃがやら、近頃(ちかぐる)お夜中(ゆなか)んじ、肝早(ちむべえ)さぬならん。
A 基地(ちち)ぬ事(くとぅ)にちいてえ、沖縄(うちなあ)とぅ本土(やまとぅ)とお肝違(ちむたがあ)あてぃ、ふしがらんむん。
B あん小(ぐぁあ)や思里(うみさとぅ)ぬ本土(やまとぅ)んかい去(は)ち、毎(めえ)が毎日(めえにち)、肝(ちむ)ちゃあ悲(がな)さそおん。
C 童(わらび・)え親(をぅや)ぬ家(やあ)んかい帰(けえ)えてぃからあ、肝(ちむ)とぅめえとおん。
D 戦世(いくさゆう)んじ、親(をぅや)までぃいなたる童(わらん)ん達(ちゃあ)や肝(ちむ)ぐりさん。
E 停電(てぃいでぃん)さあに、蝋燭点(ろうとぅぶ)ちゃしが、あいゆかん、肝暗(ちむぐら)さん。
F 今迄習(なままでぃなら)たる事(くと)お忘(わ)っしらねえし、肝掛(ちむが)きてぃ呉(くぃ)り。

日本語

@ 歳の所為なのか、近頃は夜中に目覚め易くて嫌だ。
A 基地問題については、沖縄と本土では考えが合わず、どうしようもないな。
B 乙女は、愛しい彼氏が本土に行ってしまい、来る日も来る日も、うらがなしい思いをしている。
C 子は実家に帰ってからは落ち着きを取り戻している。
D 戦争で親を失った子供達は本当に不憫である。
E 停電して、蝋燭を点したが、とても滅入るように薄暗い。
F 今迄習った事は忘れないように心掛けて欲しい。

【解説】引き続き「肝語」です。日本語とかけ離れた表現もありますので、慣用句として覚えたいです。
例文@ 「―ぬならん」は、「―でならぬ」等の意味ですが、ここでは「意に反する」等の意味合いがある事から「嫌だ」にしました。地方ではあまり使われませんが、同じ意味で「心早さん」ともあります。
例文A 「防がらん」は、「防じゅん」の受動文で、主には「どうしようもない」という意味で使われます。「肝違あゆん」には、「考え方が一致しない」、「誤解する」及び「分かり合えない」等の意味があります。
例文B 「思里」の「思」は「愛しの、愛しい」等の意味合いがあります。「毎が毎日」は『沖縄語辞典』にはありませんが良く使われますので、慣用句として覚えたいです。
例文C 「肝とぅめえゆん」には「我に返る」、「自分を取り戻す」等の意味があります。
例文D 「までぃい」は「失う事」の意味。
例文E 「肝暗さん」は単に「暗い」のではなく、「滅入るような暗さ」や「心細い暗さ」等を表します。
例文F ここでの「呉り」は文字通り「呉れ」ですが、「―して欲しい」の意味合いもあります。

【応用問題】次の文を「肝語」(前講含む)を使って言い直しなさい。下欄は答えです。
@ 今(なま)ぬうちなかい、落(う)てぃ着(ち)かさんでえならん。
A 松明(てえ)ぬ明(あ)かがいびけんしえ、暗(くら)さぬ如何(ちゃあ)んならんむん。
B 知(し)らん人(ちゅ)やてぃん、情掛(なさき)りわるやんどおやあ。
C 車(くるま)あ良(ゆう)うし、歩(あ)っかさんでえならん。
D 彼(あり・)え、うっさぬ重荷(うぶにい)持(む)たさってぃ、哀(あわ)りやん。

答え:
@ 今ぬうちなかい肝とぅめえらさんでえならん。
A 松明ぬ明かがいしけんしえ、肝暗さぬならんむん。
B 知らん人やてぃん、肝呉りわるやんどおやあ。
C 車あ肝掛きてぃ、歩っかさんでえならん。
D 彼え、うっさぬ重荷持たさってぃ、肝ぐるりん。

日本語意訳:@今の内に落ち着かせておかねばならない。A松明の明かりだけでは、心細い暗さだ。B知らない人であっても、情けを掛けてやるべきだよねえ、C車は気を付けて運転しなければならない。D彼はそれだけの重荷を持たされて可哀想だ。




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