2014年06月20日

第113講 「肝」に関する慣用句・言い回しZ

うちなあぐち

@ 試験前(しきんめえ)に遊(あし)びすしん、肝(ちむ)ぬ余(あま)いどぅやる。
A 祝儀(しゅうじ)ぬ支(し)こういすんち、今日(ちゅう)やひっちい、肝忙(ちむいちゅ)なさん
B 明日(あちゃあ)あ試験やしが、掛かいがすら肝ふぃちゃぎそおん
C 汝(いゃあ)肝当(ちむあ)てぃげえや何(ぬう)ぬ後(くし)当(ゃて)ぃん無(ね)えな、得(い)らりらん。
D 初(はじ)みてぃ車歩(くるまあ)っすくとぅ、でえじな肝だくみちそおん
E 今(なま)から思里(うみさとぅ)ぬ面拝(ちらうが)みいが行ちゅんでぃ、思(うむ)いねえ、でえじな、肝ぶとぅみちそおん
F 孫(んまが)ん達(ちゃあ)や実(じゅん)に、うじらさんあい肝愛(ちむがな)さんあん

日本語

@ 試験前に娯楽を楽しむのも心の余裕というものである。
A 御祝いの準備をするんだと、今日は終日、気忙しい
B 明日は試験だけど、合格するのか不安である
C 君の当て推量は何の根拠もなく信用できない。
D 初めての車を運転するのでとても不安でいっぱいだ
E 今から彼氏に逢いに行くのかと思うと、とても、胸がときめいている
F 孫たちは本当に、美しくもあり心底可愛いくもある

【解説】
 紛らわしい語句もありますが、慣れてしまえば難しいものではありません。

例文@ 「遊び」は「子供の遊び」の意味の他、「歌・楽器・舞踊」等を楽しむ事を言います。
例文A 「祝儀」は「祝い事」の意味。「ひっちい」は「ふぃっちい(首里語系)」とも言います。
例文B 「肝ふちゃぎ」は例文Dの「肝だくみち」より「気掛かり程度」の「軽い不安」を表します。
例文C 「肝当てぃげえ」は、ほぼ同じ意味で「当てぃげえふう」、「さっちゅう」等があります。
例文D 「肝だくみち」は擬音語である「だくだくう(心臓がどきどき、動悸・鼓動がする様)」と関係ある語です。「-みち」は「-する事、-する道。する方法」等を表わす接尾語です。但し「ふとぅふとぅう」は恐怖や不安等で「ぶるぶる」、「がたがた」と「震える様」を表わす副詞です。
例文E 「面拝むん(首里語では「面拝ぬん」)は単に「逢う」としました。「肝ぶとぅみち」の「ぶとぅ」は欲しい物を早めに手に入れたい心情を表わす「ふとぅとぅ」の「ふとぅ」の濁音です。まさに「胸が欲や期待に向かってときめく心情」を表しています。
例文F 単に「かなさん」より、深い愛情を表わす語です。民謡に「肝がなさ節」というのがあります。

【応用問題】
次の文中の太字の語句に誓い慣用句・言い回しを右例文を参考に言い直しなさい。
@ 山道(やまみち)んじハブんかいはっちゃがらあらんでぃ、竦(しか)どおん。
A 大人(うふっちゅ)ないねえ、諸(むる)ぬ事考(くとぅかんげ)えゆるゆちみんありわるやる。
B 察(さっ)ちゅうや、いちゃんだん、しん済(し)むんでぃ言(ゆ)るむぬおあらんどおやあ。
C あんし好ちょおる女(ゐなぐ)やらあ、早(ふぇえ)く妻(とぅじ)にすしどぅましやる。
D 明日(あちゃ)ぬ天気(うわあちち)ぬ事(くとぅ)やれえ、何(ぬう)ん心配(しわ)(註)さんてぃん、済(し)むさ。

答え:
@ 肝だくみちそおん。
A 肝ぬ余い。
B 肝当てぃげえ。
C 肝愛さそおる。
D 肝ふぃちゃぎ。

日本語意訳:
@山道でハブに遭遇しないかと怖がっている。
A大人になれば、皆の事を世話する(だけの)ゆとりを持つべきだ。
B当てずっぽうは、むやみにやって良いというものではないよ。
C心から愛しているなら早く結婚するのがよいのある。
D明日の天気の事なら何の心配も要らないよ。
註:「心配」は「世話(しわ)」からの転用ですが、紛らわしいですので、筆者の場合は「心配」を当てています。

2014年06月04日

第112講 「肝」に関する慣用句・言い回しY

うちなあぐち

@ 御主前(うしゅめえ)や肝(ちむ)ぬ伸(ぬ)びぬあてぃいちゃんだん、わじらん。
A 子(くぁ)ぬ選手(いらびんちゅ)なたくとぅ親(をぅや)あでえじな、肝(ちむ)上(うゐい)やら筈(はじ)
B 客(ちゃく)ぬめんせえいねえ肝(ちむ)煎(い)りぬ御取(うとぅ)い持(む)ちいさびいん。
C 嫁(ゆみ)え立ち戻(むどぅ)いしいびちいどぅがやあんでぃち、肝(ちむ)たとぅるちそおる風儀(ふうじ)やたん。
D 大風(ううかじ)ぬ後(あと)お村中、肝一(ちむてぃい)ちなやあに、片付(かたぢ)きらな。
E 男(ゐきが)ん肝(ちむ)持(む)ち者(むん)やりわる、妻(とぅじ)なやあん居(をぅ)る。
F 肝温(ちむぬる)さくとぅどぅ彼(あり)え(・)仕事(しくち)んとぅめえいゆさんどぅ。

日本語

@ お爺さんは寛容さがあって、むやみに怒らない。
A 子が選手になったので、親はさぞ頼もしい事だろう。
B お客さんがいらっしゃれば心を込めて接待いたします。
C 嫁は、(離縁して)出戻りすべきなのだろうかと、心が定まらない様子であった。
D 台風の後は村中、協力して後片付けをしようではないか。
E 男も人情持ちであればこそ結婚相手もいるのである。
F 不熱心だからこそ彼は就職できないのだ。

【解説】
「肝」に様々な形容詞や動詞それに名詞等と組み合わせる事で、実に多様な表現を可能していいます。今回の「伸び」、「温さん」等と組み合わさった慣用句も面白いです。

文例@ 「肝ぬ延び」という当て字も可能かも知れませんが弾力性のある「心」という意味になる当て字にしました。
文例A 「肝上」については筆者は「心が高い位置にあって、優越感に浸っている心情」と解釈しています。
文例B 「肝煎り」は「心を込めて世話する事」は日本語に似ていますが、「肝煎りとしている人」の意味はありません。
文例C 「肝たとぅるち」は「肝」と「心が迷う」、「心が定まらない」、或いは「祖先の霊に支配される」事を意味する動詞「たとぅるちゅん」の名詞形との合成語です。
文例D 「肝一ち」は第9講の「肝揃い」と殆ど同じ意味です。
文例E 「肝持ち」は単に「心掛け」、「心持ち」という意味ですが、「肝持ち者」は一歩進んで「ちゃんとした心持ちのある者」、「心温かい人」等の意味になります。
文例F 「肝温さん」とは「心」の「熱意」が冷めて温(ぬる)くなってしまったのです。
  
【応用問題】
 次の文中の太字の語句に意味の近い語句を例文の「肝語」を参考に書き直しなさい。答えは下欄です。

@ 何事(ぬうぐとぅ)やてぃん、稽古(ちいく)お念入(にんい)りらんでえ、取(とぅい)い受(う)きゆさん。
A 皆(んな)し、肝(ちむ)揃(ずり)いし、作(ちゅく)いねえ、如何(ちゃあ)ぬ大(だ)てえまあんなゆさ。
B 歌(うた)ん踊(をぅどぅ)いん心入(くくるい)りぬあぬ如(ぐとぅ)し聞(ち)かち又(また)見(み)しりわるなゆる。
C 男(ゐきが)あ意地(いじぁ)あ、女(ゐなぐ)お肝清(ちむぢゅ)らさ
D 人(ちゅ)ぬ伸(ぬ)びでえぬ無(ね)えらんないねえ、煽(おお)合(ええ)ん戦(いくさ)ぬ多(うふ)くなゆん。

答え:
@ 肝温されえ。
A 肝一ちなてぃ。肝一ちなやあに。(他)
B 肝煎り。
C 肝持ち。
D 肝ぬ伸び。

日本語意訳:
@何でも稽古事は熱心にやらないと習得できない。
A皆で協力すればどんな大きなものでも作れるよ。
B歌も踊りも心を込めて、聞かせ、そして見せなければならない。
C男は勇気、女は心の優しさ(温かさ)。
D人が寛容さがなくなれば喧嘩も戦争が多くなる。

2014年05月31日

第111講 「肝」に関する慣用句・言い回しX

うちなあぐち

@ 同(い)ぬ「肝浅(ちむあさ)さん」でぃちん昔(んかし)と今(なま)とお積(ちむ)合(ええ)ぬ違(ちが)ゆん。
A 親(をぅや)ぬ事(くとぅ)んしゆさな、今(なま)あ肝痛(ちむや)まちょおいびいん
B 肝割(ちむわ)てぃ、話(はなし)さんでえ、彼(あり)があ分(わ)かてえ取(とぅ)らさん筈(はじ)。
C 悪(や)な話びけん聞(ち)かさってぃ、肝(ちむ)ん朦朧(もうどう)けえなとおさ
D 今(なま)ぬ先生(しんしい)や肝(ちむ)固(ぐふぁ)い者(むん)やくとぅ、ふぃれえ易(やっ)さん。
E 彼(あり・)え、ちゃっさ言(い)い習(なら)あちん、肝(ちむ)ぬ先(さち)にん掛(か)きらんさ
F 沖縄人(うちなあんちゅ)お、いいくる肝長(ちむなが)さんでぃち、聞(ち)くぃいとおん。

日本語

@ 同じ「浮気である」と言っても昔と今とでは意味が違う。
A 親の事(親孝行)もできず、今は心を痛めています。
B 心を開いて話ないと彼は分かってくれないだろう。
C 嫌な話ばかり聞かされて、心も乱れてしまっているよ。
D 今の先生は良く気配りがするお方だから付き合い易い。
E 彼はいくら言い聞かせても、ちっとも気にしないよ。
F 沖縄人は、大抵のんびりしているとの評判である。

【解説】今回の「肝語」は文字だけでは解釈が難しいかも知れません。ですが、その分、寧ろ記億に残り易いかも知れません。

例文@ 「肝ぬ浅さん」似ていますが、この方は「心が浅い」という意味です。
例文A 「肝痛むん(首里語「ちむやぬん」)」は「肝病むん」とも当てあります。「後悔する」の意味にも用います。
例文B 「彼があ」の「があ」は「が」と「あ」の二重格助詞で、直訳すると「がは」等と、変になりますが、沖縄語では普通に使われています。
例文C 「頭が朦朧としてる」という言い回しは日本語的です?が、「心(肝)が朦朧としている」というのはいかにもは沖縄的です?
例文D 「肝固さん」は「心が固く引き締まり、いかにも、「精神的にしっかりしている」等のイメージがあります。
例文E 「肝ぬ先にんかきらん」は他には「全く動じない」、「何とも思わない」等、良い意味に悪い意味にも使います。
例文F 「聞くぃいゆん」は直訳は「聞こえる」ですが、「有名である」「評判がある」等に発展しています。琉球王府において最高神官であった「聞得大君」(註)の「聞得」もその派生語からの変形です。「おもろ御さうし」では「きこゑ」と開音(合音では「ちくぃい)」で表記されます。権威のある神官や統治者や按司等に枕詞のようにかぶせる語であり、固有名詞ではありません。例:きこゑあおりやえか、きこゑせのきみ、きこゑさすかさ、きこゑあちおそい、きこゑくにおそい、きこゑにしむい、きこゑあらとみ等。

註:聞得大君(ちふぃじん、きこゑ大きみ)は、琉球国の最高神官であり、王の継承にも介入できる程の権力者であった。女は男兄弟の守り神であるする琉球古来の「をなり神信仰」を根とする。

【応用問題】次の文の太字部分を、例文を参考に、別の語句・慣用句・言い回しに直しなさい。
@ 我にん行けえ済(し)むたるむんでぃち、後悔(くうくぇえ)そおん。
A 今(なま)ぬ社長や尻尾振(ずうぶ)しん、何(ぬう)んでぃん思(うま)あん。
B 諸(むる)が事考(くとぅかんげ)えてぃ取(とぅ)らする人(ちゅ)やりわる、ましさりいる。
C まあぬ婆前(はあめえ)達(たあ)ん、年取(とぅしとぅ)てぃがやら諸(むる)、悠々(ゆうゆう)とぅらあさそおん。
D 今(なま)ぬ若者(わかむん)やありましくりましいし、肝(ちむ)ぬ定(さだ)まらん。

答え:
@ 肝痛まちょおん。
A 肝ぬ先にんかきらん。
B 肝固い者。
C 肝長さん。
D 肝浅さぬ。

日本語意訳:
@僕も行けば良かったのにと後悔している。
A今度の社長はごますりしても気にも留めない。
B皆の事を世話してくれる人こそ好かれるのである。
Cどこのお婆さん達も年の所為なのかのんびりしてる。
D今の若者はあれが好きだ、これが好きだと(言って)、落ち着かない。




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