2014年08月22日

第116講 「肝」の冠する慣用句・言い回し]

うちなあぐち

@ 付(ち)ち肝(じむ)ぬ愛(かな)しゃぬありわる親子(をぅやっくぁ)やる。
A あっ達(たあ)や我(わ)っ達(たあ)んかい、さっこう悪(や)な肝(ちむ)持(む)っちょおん。
B 彼(あり)が真肝(まじむ、まあじむ)やくとぅどぅ、一(ちゅ)まなやびたる。
C あぬっ人(ちゅ)お選(いら)ばってぃんうせえらん、肝変(ちむが)わい者(むん)やん。
D 年取(とぅしとぅ)いねえ、なあ肝(ちむ)ぬ暇(ふぃま、ひま)んありわるやしが…。
E 肝(ちむ)さあさあそおるばすお、落(う)てぃ着(ち)ち考(かんげ)えり。
F 若(わか)さるさら万(ばん)事(じ)え、肝(ちむ)さくさんあくとぅ、良(ゆ)う言(い)い入(い)らんでえならん。

日本語

@ 愛しく思う心があるからこそ親子なのである。
A 彼らは、我々に対してとても悪意を抱いている。
B 彼が正直者だからこそ一緒になったのです。
C あの人は当選しても威張らず、心掛けが違う人だ。
D 年取ればもう心配事がない方がよいのだけど…。
E 気が高ぶっているときは、落ち着いて考えよ。
F 思春期は心が折れ易いので、よくよく言い聞かせてやらねばならない。

【解説】「肝語」を構成する各語の意味が分かれば、句の慣用的な想像できる場合もあれば、別の意味合いを持つ事があります。

例文@ 「付ち肝ぬ愛しゃ」とは例えば、「母親を恋しがる子の心」や「祖母に懐く孫の心」等を表します。
例文A 「悪な肝」は「悪肝」とも当てます。「嫌な心」や「厭らしい悪意」等のニュアンスがあるので、私の初期の散文作品は多く「嫌」を当てています。
例文B 「真肝」は「正直者」の他には「真面目」等のニュアンスもあります。「一緒になる事」の意味では「一(ちゅ)ま」は『沖縄語辞典』にはありません。
例文C 「肝変わい者」又「肝変わいい者」は普通は好い意味で用います。
例文D 「肝ぬ暇」は「考える事が無くなった事」では誤解を招きますので、「心のゆとり」や例文通りの解釈がよいでしょう。
例文E 「肝さあさあ」は「気が高ぶって落ち着きが無い様子」を表します。
例文F 「肝さくさん」は「肝」と「脆い」や「壊れ易い」等を意味する「さくさん」からなる句です。

【応用問題】】次文の太字の語や句に近い意味を持つ語句を例文の語から選びなさい。答えは下欄です

@ 人(ちゅ)んかいぬ愛想(ええそう)や犬(いん)ぬるまんどおる筈(はじ)。
A あっ達(たあ)や何(ぬう)ぬ世話事(心配事)(しわぐとぅ)ん無(ね)えらんでぃぬ事(くとぅ)やん。
B 悪(や)なだくまやれえ直(し)ぐに分(わ)かゆくとぅ、如何(ちゃあ)ん無(ね)えん。
C 怖(うとぅる)さ思(うみ)いやくとぅ、あぬ女童(ゐなぐわらび)えはんてぃ事(ぐと)おさん。
D 彼(あり)がまっとうばやんでぃぬ話(はなし)えはごうりいむんやん。

答え:
@ 付ち肝ぬ愛しゃ。
A 肝ぬ余いぬあん。
B 悪な肝。
C 肝さくとぅ。
D 真肝。

日本語意訳:
@人へ懐く心は犬の方がより勝っているだろう。
A彼らは何の心配事の無いとの事です。
B悪巧みなら直ぐにばれるからどうって事ない。
C怖がりだからあの娘は冒険はしない。
D彼が真っ当であるという話は大袈裟である。

2014年07月31日

第115講 「肝」に関する慣用句・言い回し\

うちなあぐち

@ 家(やあ)んかい誰(たあ)ん居(をぅ)らんないねえ肝(ちむ)しからあさぬならん。
A 面(ちら)あ笑(わら)とおしが、肝内(ちむうち)え、くさみちょおる筈(はじ)やん。
B 待(ま)ちゅるがな待っちん思里(うみさとぅ)や来(く)うん。肝(ちむ)どぅ暮(く)りゆる
C 今(なま)あ昔(んかし)とお段(だん)ぬんならんでぃ肝覚(ちむうび)いしわるなゆる。
D 弟(うっとぅ)ぬ自(どぅう)転(くる)びそおんでぃぬ事(くとぅ)やくとぅ肝(ちむ)ぬ忍(しぬ)ばらん。
E うりが如何(いかな)な自故(どぅうゆい)やらわん、肝(ちむ)加勢(がしい)しわるなゆる。
F 彼(あり)と愛想(ええそう)固(ぐふぁ)さぬ肝(ちむ)ぬ解(とぅ)うきらん。

日本語

@ 家に誰も居なくなると心寂しくてどうしもない。
A 顔では笑っているが、内心は腹が立っているだろう。
B 待つだけ待っても彼氏は来ない。気だけが滅入る。
C 現代は昔とは大違いだと肝に銘じておかねばならない。
D 弟が孤独であるという事で居ても立っても居れない。
E その事が幾ら自業自得でも慰め励ましすべきである。
F 彼とは性が合わないから打ち解けることができない。

【解説】
 既にお馴染みの句もあれば、目新しい句もありますが、訳文通り覚える事をお薦め致します。
例文@ 「肝(心)」と「しからあさん(寂しい)」からなる慣用句です。
例文A 「肝内」は文字通り「内心」又「心の中」という意味です。
例文B 「気が滅入る」、「心が暮れる」等の意味を表わす慣用句「肝暮りゆん」の「肝」に強調助詞「どぅ」を付けると「暮りゆん」は自動的に連体形で結ばれます。「気だけが滅入る」は意訳です。
例文C 「肝覚い」は文字通り「心覚え」。「肝に銘じる」、「心に記億しておく事」等の意味としても用います。「段ぬんならん」は「格段の差がある」「圧倒的な差」「比較にならない程の差がある事」等の意味です。
例文D 「肝ぬ忍ばらん」は「聞くに又見るに忍びない、耐えない」等の意味です。
例文E 「それがいくら自己責任(自分の所為)でも精神的援助をしなければならない」と訳す事もできます。自分を表わす「どぅう」は『沖縄語辞典』では「胴」になっていますが、筆者の場合は肉体的自分には「胴」を精神的自分には「自」を当てていますの要注意。
例文F 「釈然としない」、「気が進まない」、「乗る気がしない」等と訳する事もできます。

【応用問題】
次の沖縄語文の太字の部分を例文に適切な句に変えなさい。
@ 約束(やくすく)やんでぃちん、しい欲(ぶ)しゃあ無(ね)えらんむん、如何(ちゃあ)し同(どぅう)ゆが。
A 夫(うとぅ)ぬ家(やあ)んじ自持(どぅうむ)ちぐりさそおんでぃぬ話(はなし)や聞(ち)ちゅしん胴(どぅう)ぐりさ思(うむ)ゆん
B 男(ゐきが)あ、わあ、女(ゐなぐ)お愛想(ええそう)持(む)ちがるましやんでぃち、覚(うび)いとおちゅん。
C いちゃっさ、うみはまてぃんからん、しいゆさな、ちるだいそおん。
D あっ達(たあ)あ腸(わた)ぬ内(うち)え誰(たあ)がん分(わ)からん。

答え:
@ 肝ぬ解うきらん。
A 肝ぬ忍ばらん。
B 肝覚いそおちゅん。
C 肝暮りとおん。
D 肝内

日本語意訳
@約束だといってもやる気がしないのに、どうして同意できるのか。
A夫に家で居づらくしているとの話は聞くに耐えない。
B男は度胸、女は愛嬌持ちが良いのだと肝に銘じておく。
Cどんなに努力しても出来ないので気が滅入る。
D彼らの胸の内は誰にも分からない。

2014年07月20日

第114講 「肝」に関する慣用句・言い回し[

うちなあぐち

@ 旅立(たびだ)ちゅる日(ふぃい、ひい)、月読(ちちゆ)ん日読(ふぃいゆ)んし肝(ちむ)わさわさそおん
A 肝わさみちそおるばすお車(くるま)あ、ゆうし歩(あ)っかする如(ぐとぅ)。
B 早(ふぇえ、へえ)くなあ、仕事(しくち)とぅめえゆしがる我肝(わあちむ)願(にげ)えやる。
C ちゃっさ、肝(ちむ)あしがちしん、前足(めえあ)掻(が)ちえならんあい…。
D 地下(じじ)から離(はなり)んかい橋(はし)ぬ架きらってぃ諸肝誇(むるちむふく)いそおん。
E 沖縄(うちなあ)やうっさぬ基地(ちち)突(ち)ち被(かん)しらってぃ肝(ちむ)いちゃさん
F 悪(や)なっ人(ちゅ)とぅ頭(ちぶる)がっぱいさんがあらんでぃ肝騒(ちむさわ)じすん。

日本語

@ 旅立ちの日を指折り数えて心がうきうきしている
A 心が浮き立っている場合は気を付けて運転する事。
B 早く仕事を探す事こそが僕の心からの願いなのだ。
C いくら苛立(いらだ)っても、前に進めるものではないし…。
D 本島から離島に橋が架けられ皆、歓喜している。
E 沖縄はこれだけの基地を押し付けられて気の毒に思う。
F 嫌な男と鉢合わせになりはしないかと胸騒ぎがする。

【解説】
 「聞く沖縄語」に対応できるよう、様々なバージョン(言い方)に慣れましょう。

例文@ 「わさわさ」は単独では「騒がしい様」を表わす擬音語です。「肝」と組み合わせる事によって、「心が騒がしくなる様」つまり「うきうきする様」を表します。
例文A 「肝」と「わさわさ(ざわつく)」と「みち(様子)」から成る語です。「みち」のついては前講をご参照ください。
例文B 「肝願え」は「心からの願い」、「悲願」等の意味になります。
例文C 「あしがち」は「焦り」の意味ですが、「肝」を被せる事によって「苛立(いらだ)ち」に発展します。地方によっては「あさがち」となります。
例文D 「喜ばしい」を意味する「誇らさん(誇らしゃん)」に「肝」を被せて「心から喜ばしい」の意味になります。 
例文E 「いちゃさん」には「失う事が惜しい」、「(人が)痛々しい、苦しそう」等の意味があります。これに「肝」を被せて「心が痛む。気の毒に思う」等の意味になります。
例文F 文字通り「心が騒ぐ」意味になります。
 
【応用問題】
 次の文中の太字部分を例文を参考に近い語句に直しなさい。
@ 復帰前(ふっちめえ)や早(ふぇえ、へえ)く日本(にほん、にふん)復帰(ふっち)する事(くとぅ)がどぅ沖縄人(うちなあんちゅ)ぬ望(ぬず)みやたる。
A 思(うむ)やあ小(ぐぁあ)んかい行逢(いちゃ)いが行(い)ちゅんでぃち、肝(ちむ)ふとぅふとぅうそおいびいん。
B 何事(ぬうぐとぅ)やてぃん、はたはたあし、しいねえ、取(とぅ)い破(やん)じゅんどお。
C 子(くぁ)ん達(ちゃあ)ぬ諸(むる)、立身(りっしん、でぃっしん)しいねえ、親(をぅや)あ、いっぺえ、いしょうさんてえ。
D 肝通(ちむどぅう)いしいゆさんたる童(わら)ん達(ちゃあ)や肝(ちむ)ぐりさぬないびらん。

答え:
@ 肝願え。
A 肝わさわさ。
B 肝あさがち。
C 肝誇いやん。
D 肝いちゃさぬ。

日本語意訳:
@復帰前は早く日本復帰する事こそが沖縄人の悲願であった。
A恋人に逢いに行こうとうきうきしています。
B何事も焦ってやると失敗するよ。
C子供達が立身すれば親達はとても嬉しいだろうねえ。
D思い通りにできなかった子供達は気の毒でしようがありません。




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