2014年09月11日

第119講「命」に関する慣用句・言い回しU

うちなあぐち

@ 今(なま)あ平生(ふぃいじい)から美味(まあ)さ物(むん)ぬまんどおくとぅ、「美味さむん」ぬ積(ち)むええし「命薬(ぬちぐすい)」んでぃ言(い)ちん済(し)みいがすら。
A ちゃあ仕事(しくち)びけんそおくとぅ今日(ちゅう)や命(ぬち)ぬ洗濯(しんたく)すさ。
B 戦世(いくさゆう)、無事(ぶじ)に走(は)い過(くぁ)あち来(ち)ゃしん命(ぬち)果報(がふう)ぬあてえくとぅどぅやる。なあ、命(ぬち)ぬ御祝儀(ぐしゅうじ)んしわどぅやる。
C 若さいにい、命(ぬち)限(かじ)り働(はたら)ちょおたくとぅ今(なま)あ楽(らく)そおん。
D あんすか、命(ぬち)切(ち)り働(ばたら)ちしん、暮(く)らし方(がた)んならん。
E 命捨(ぬちし)たあとぅ耄(ふ)り者(むん)とお似(に)ちょおる所(とぅるま)ぬあん。
F 長(なげ)えさ柔(やふぁ)らちょおたくとぅ、なあ命弦(ぬちぢる)ぬ弱(よう)とおん

日本語

@ 今は普段から美味しいもの多いので、「美味しいもの」の意味で「命薬」といって言っても好いものだろうか。
A いつも仕事ばかりなので、今日は慰労日にするよ。
B 戦争を無事にやり過ごしてきたのも命の運があっての事だ。ここで命の御祝いもせねばなるまい
C 若い頃、一生懸命働いていたので今は楽に暮らしている。
D これほど、死のもの狂いで働いても生活ができない。
E 命知らずと馬鹿とは似ている所がある。
F 長らく、病弱でいたので命が消えかかっている
 
【解説】
 日本語にも「命」に関する慣用句はありますが一部を除き沖縄語のそれは独自の「進化」を辿ってきました。

例文@「命薬」は元々健康や長寿に良いとされる食べ物の意味ですが「とてもおいしい食べ物」の意味に転じています。
例文B「命の洗濯」は日本語からの借用です。「慰労会」を「命の洗濯会」と拡大的に使う例もあります。
文例B「命果報」は「命ぬ報」とも言います。「命果報」は「運良く生きている事」や「命拾いしている事」等の意味があります。「命ぬ報」とも言います。日本語の「命冥加(いのちみょうが)」にも似た意味があります。「命ぬ御祝儀」は「命ぬ御祝え」ともいいます。「なあ」は「もう」、「いまや」等の意味ですが、ここでは文脈から「ここで」と訳しました。
文例C「命限り」は「命がけ」又「命の限り」等の意味です。転じて「一生懸命」という意味にもなります。
文例D「命切り働ち」は「骨身にこたえるような仕事をする事」、「命を削る様な仕事をする事」等の意味です。
文例E「命捨たあ」は「命知らず」という意味で、「命知らず的に実行する事柄」等にも拡張して言います。
文例F「命弦」は「命の緒」又「命の炎」という意味です。

【応用問題】
 次の文の太字部分の意味に近い語句を例文を参考に言い換えなさい。

@ 命(ぬち)ぬ報(ふう)ん、なあ銘々(めえめえ)ぬ心得(くくり)次第(しでえ)やあらに。
A あまぬ二才(にせえ)達(たあ)や諸(むる)、果(は)てぃいやんでぃどお。
B でぃか、あんまあ、いっぺえぬ美味(まあ)さむん、うさがいが。
C くぬ赤(あか)ん子(ぐぁ)あ生(ん)まりてぃ直(ちゃあ)きどぅやしが、なあ死(し)にがたあ回(まあ)とおん
D 命捨(ぬちし)してぃ者(むん)とぅ命(ぬち)とぅ覚悟(かくぐう)そおる人(ちゅ)とお変(か)わゆん。

答え:
@ 命果報。
A 命捨たあ。
B 命薬。
C 命弦ぬ弱とおん。
D 命捨たあ。

日本語意訳:
@命拾いするのも各人の用心する心次第なのではないか。
Aむこうの青年達は皆命知らずとの事だ。
Bさあ、お母さん、とても美味しいものを召し上がりに。
Cこの赤子は生まれたばかりだが、もう命の緒が切れそうである。
D命知らずと命がけの人とは異なる。

2014年09月02日

第118講 「命」に関する慣用句・言い回しT

うちなあぐち

@ 只(ただ)んちょおん、いんちゃさる命(ぬち)、大切(てえしち)に貯(た)ぶら
A 命切(ぬちち)り業(わざ)さあに、命取(ぬちとぅ)たん
B 病院(びょういん)迄(まで)え、やっぱとおたしが、如(ちゃあ)ならな命切(ぬち)りたん
C 消防隊(しょうぼうてえ)や人(ちゅ)ぬ命助(ぬちだし)きする事(くとぅ)がる仕事(しぐと、しくち)やる。
D 昔(んかし)ぬ唐旅(とうたび)え、命(ぬち)とぅ覚悟(かくがあ、かくぐう)やたんでぃぬ事(くとぅ)やん。
E 後窪(うしるくぶう)や命所(ぬちどぅくる)やくとぅ、いちゃんだん、打(う)つな
F 生(い)ちち道(みち)、習(なら)あち取(とぅ)らする人(ちゅ)がる命(ぬち)ぬ親をぅや)やる。
G 命(ぬち)どぅ宝(たから)やる。生(い)ちちょおれえ、良(い)い事(くとぅ)んまんどおん。

日本語

@ ただでさえ短い命、大切に生きながらえよう
A 命がけの仕事命を落とした
B 病院迄は頑張っていたが、どうしようもなくこと切れた
C 消防隊は人命救助が仕事なのである。
D 昔の中国旅は命がけだったそうだ。
E 後頭部は急所だから悪戯に打つな。
F 生きる術(方法)を教えてくれる人こそ命の恩人である。
G 命こそ宝なのだ。生きていれば良い事も多い。

【解説】
 「命どぅ宝」(例文G)には単に「命を大事に」という意味合より戦争に「命を捧げない」、「落とさない」という反戦的意味と「命を守る」という積極的意味があります。明治政府による琉球併合の際、最後の中山(琉球)国王だった尚秦王の「芝居の中の台詞」に由来するとされます。「命」は文語では「いぬち」です。「命語」については、説明無しでも分かるもの、何となく分かるもの、意外な意味合いがあるものもありますが、何れもなるほどと思います。

例文@「命たぶゆん」は「命を貯・溜める」の意味。「命を危険に晒さず惜しむように生きる」の意味合いがあります。
例文A「肝取ゆん」は慣用的に例文の様な意味になります。「命を取る」の意味では「命取(ぬちとぅ)らりゆん」となります。
例文B「命切りゆん」は単に「死ぬ」意味でよいのですが、「伸びきった糸が切れる様に絶命する」等の意味です。
例文C例文では「人ぬ命助き」とありますが、「命助き」は「人の命を助ける」意味で使われます。
例文D「命とぅ覚悟」の「とぅ」は並列を表わす助詞ではなく、「について、に対して」という意味があります。他例:「むんとぅ無礼」(食べ物に対して失礼)。
例文E「命所」は「命に関わる所」という意味です。日本語では「急所」という漢語がぴったりですが、沖縄語には「やまとことば」的な表現が健在だといえます。
例文F「命ぬ親」は「人」に対して使います。単なる「恩人」は「恩(うん、をぅん)ぬあるっ人(ちゅ)」です。
 
【応用問題】
 次の文を太字部分の意味に近い語句を例文を参考に言い換えなさい。

@ 命(ぬち)え粗(す)そおん軽(かろ)おんさんようい、大切(てえしち)にさびら
A 人(ちゅ)ぬ命救(ぬちすく)いねえ、自(どぅ)ん助(たし)きらりゆん。
B あぬっ人(ちょ)お我(わあ)命(ぬち)ぬ恩(うん)ぬあるっ人(ちゅ)なとおん。
C 医者あ自(どぅう)ぬ命(ぬち)ぬ事(くとぅ)ん考(かんげ)えらんぐうとぅうし、うみはまとおん。
D 胴(どぅう)まある(ろ)(胴まあどぅ(ど))お諸(むる)、命(ぬち)とぅ係(かか)わいぬある所(とぅくる)なとおん。

答え:
@ 貯(た)ぶとおちゃびら。
A 命助(ぬちたし)きしいねえ。
B 命(ぬち)ぬ親(をぅや)。
C 命(ぬち)とぅ覚悟(かくぐう、かくがあ)し。
D 命所(ぬちどぅくる)。

日本語意訳:
@命は粗末にせず大切にしましょう。
A人の命を救えば自分も助けられる。
Bあの人は私の命の恩人である。
C医者は自分の命を顧みず頑張っている。
D胴体は全て急所である。註:「胴まある」は『沖縄語辞典』にはありません。

2014年08月27日

第117講 「肝」に関する慣用句・言い回し

うちなあぐち

@ 一方(ちゅかた)あやるっ人(ちゅ)お、かわてぃ肝(ちむまゆ)迷(まよ)いしい易(や)っさん。
A あぬっ人(ちゅ)お、むぬゆまってぃん、わじららあい、実(じゅん)に、肝広(ちむびる)さん
B いいくる、いびらあや肝(ちむ)ぬ狭(しば)さん
C あっ達(たあ)とう腹一(はらてぃい)ちやる事(くと)お、でえじな肝強(ちむじゅう)さっさあ。
D 腸(わた)ぬ手入(てぃいい)りする事(くとぅ)んかいや肝(ちむ)ぬ乗(ぬ)りらん
E 諸(むる)、晴(は)るみたれえ、肝(ちむ)ぬさあざあとぅなたん

日本語

@ 一途な人は、特に心が迷い易い。
A あの人はとやかく言われても怒らないし、本当に、心が広い
B だいたいケチな人は心が狭い。
C 彼らと同胞であるという事は、とても心強いな。
D お腹の手術をする事については気が進まない
E 全てを釈明したら、心が清々した

【解説】
 今回の「肝語」は特に、他の語句と組み合わさって別のニュアンスに転じるという事がなく、比較的、分かり易いものです。

例文@「肝迷い」は文字通り「心の迷い」です。「一方あ」は筆者の当て字です。「凝り性の者」という意味もあります。
例文A「肝広さん」は文字通り「心が広い」の意味です。「むぬゆまりゆん」の「むぬ」は「物」ですが、ここでは悪意味での「噂」又「悪評」等です。「ゆまりゆん」は「読まれる」と関係ある語ですが、ここでは「言われる」の意味です。
例文B場所的に「狭い」意味には「いいばさん」ですが、「肝」「心」についてはこの「しばさん」を使います。
例文C「肝強さん」は「心強い」、「頼もしい」等の意味があります。
例文E「手入り」は花壇・田畑等の手入れに加え「外科的な手術」にも言います。特に切開手術をする事には「割ゆん」と言います。
例文F「さあざあとぅなゆん」の「さあざあとぅ」は「さっぱりと」を意味する副詞で、「さあざあとぅなゆん」で「さっぱりする」の意味となります。

【応用問題】
 次の文を太字部分の意味に近い語句を例文を参考に言い換えなさい。
@ 今(なま)ぬ先生(しんしい)やとぅうかあん無(ね)えん人(ちゅ)やくとぅ、肝上(ちむゐい)やん
A 世界(しけ)ぬ御万人(うまんちゅ)が諸、肝(ちむ)ぬ延(ぬ)びぬあれえ、戦(いくさ)あ起(う)くらん。
B 決わみたる事お、とぅぬうまぬう(註2)んさんようい、しわ。
C 大和(やまとぅ)勤(ぢみ)ん無事(ぶじ)とぅずまてぃ、さっぱちな心地(くくち)なとおん。
D しい欲しゃあ無えんたる参会ぬくんでぃてぃ、うみなあくなとおん。

答え:
@ 肝強さん
A 肝広さあれえ。
B 肝迷い。
C 肝ぬさあざあとぅ。
D 肝ぬ乗りらんたる。

日本語意訳:
@今の先生は分け隔てのない人だから心強い。
A世界の人々の皆が心が広ければ戦争は起きない。
B決めた事は迷わず実行せよ。
C本土勤務も無事に終え壮快な気分だ。
D気が進まなかった宴会が中止になりほっとしている。

註:「肝に関する慣用句・言い回し」は本講で終わります。多くは『沖縄語辞典』にありますが「肝ぬ暮ゆん」等無いのもあります。常識的に分かる句は紹介していません。今後、創作活動等を通して造語句が生まれる事を期待しましょう。
註2:「とぅぬうまぬう」は「戸惑う」「判断に迷う」等の意味があります。『沖縄語辞典』にはありません。




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