2017年02月27日

第179講「家(やあ)、屋(やあ)」に関する慣用句・言い回しU

うちなあぐち

@ 家普請(やあぶしん)家造(やあづくい)い入(い)るみ支(し)こうらんでえならん。
A 家小(やあぐぁあ)やてぃん、家無(やあま)でぃいやかやましどぅやる。
B 今(なま)あ外(ふか)んじ仕口(しくち)する人(ちゅ)ぬまんでぃ、家(やあ)や投(な)ぎらっとおん
C 家葺(やあふ)ちいや、家(やあ)ん旋毛(ちじ)からすし(せ)え、まし(せ)えあらに。
D 目(みい)ぬ病(やんめえ)や目屋(みいやあ)んじ、歯(はあ)ぬ病や歯屋(はあやあ)んじどぅ治(のお)する。
E 昔(んかし)え長男(ちゃくし)ぬ家人数(やあにんず)お、いいくる、親(うや)とぅ家一(やてぃい)ちやたん。
F 芭蕉衣(ばあさじん)や昔(んかし)え家(やあ)から着(ち)やあどぅやしが、今(なま)あ値高(でえだかあ)やん。
G 家(やあ)しいちん、なあんあらん、家割(やあわ)い迄(までぃ)すんちんあみ。

日本語

@ 家屋建設建築費用を準備しないといけない。
A 小さな家でも宿無しよりはましである。
B 今は外で仕事をする人が多く、家は留守状態である
C 家葺きは、屋根の天辺からしてくるのがよいではないか。
D 眼病は眼科で、歯病は歯医者で治療するのである。
E 昔は長男家族は、大抵、親と同じ家で同居した。
F 昔は芭蕉衣は普段着だったが、今は高級である。
G (苦情で相手の家に)押しかけても足りず、家を壊す事までするのか。

【解説】琉球語(沖縄語)と日本語は祖語を同じくするというのが「定説」ですが、中国を起源とする漢語(亜日本語)に依存していった日本語を尻目に、琉球語の場合は、語彙だけでなく、その言い回し・慣用句などは独自に発展しきています。とりわけ、生活語である「家」も、その使い方において、日本語とは大きなへだたりが感じられます。

例文@「家普請」は「家屋の建築」の意味で「普請」は日本語漢語からの借用語。「家造い入るみ」は「家屋の建築費用」の意味です。参:80講「家造い」。
例文A「家小」は「小さな家」、「小屋」、「家無でぃい」は「宿無し」、「ホームレス」の意味です。
例文B「家投ぎゆん」は「家を留守にする」の意味です。
例文C「家葺ちい」は(主には茅葺の場合の)「屋根葺き」。「家ん旋毛」は「屋根の天辺」の意味です。
例文D「目屋」は「眼科の診療書・病院」、「歯屋」は「歯科の診療所・病院」の意味です。
例文E「家人数」は「家族」の意味で、「家組(やあぐな)」とも言います。「家一ち」は「同じ家で同居すること」。
例文F「家から着やあ」は「普段着」で、「家着(やあち)やあ」とも言います。
例文G「家しいちゅん」は「(苦情を言う為に)家に押し入る」の意味。「しいちゅん」は「押し入る」、「押す」の意味。「家割い」は「家を壊すこと」。「家蹴り割いすん」という文句もあります。
 
【応用問題】
 例文・解説文を参考に箇条文の( )に入る語句・文を次行の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(家投ぎゆる、家や一ち、家着やあ、家組、歯屋)

@ 歯肉(はあしし)ぬ痛(や)でぃ、くぬ前(めえ)から( )んかいどぅ通(かゆ)とおいびいる。
A ( )ばす(そ)お、締(し)まいや頑丈(がんじゅう)らさんでえならんどお。
B 彼(あ)ってえ、夫婦別(みいとぅんだわか)りしからん、( )どぅやんどお。
C 我(わ)ってえ( )ぬまんでぃ、まぎ家(やあ)んかいどぅ住(し)まとおる。
D ちゃっさ美(ちゅ)ら衣(じん)やらわん、古(ふる)みいねえ( )どぅないる。
答え:
@ 歯屋。
A 家投ぎゆる。
B 家や一ち。
C 家組。
D 家着やあ。

日本語意訳
@歯茎が痛くて、この前から歯医者に通っているのです。
A家を留守にする時は戸締りはしっかりしないといけによ。
B彼らは離婚してからも同居しているんだよ。
C私たちは家族が多くて、大きい家に住んでいるのだ。
Dどんな一張羅でも、古くなれば、普段着になるのだ。

2017年02月21日

第178講「家(やあ)、屋(やあ)」に関する慣用句・言い回しT

うちなあぐち

@ 「家習(やあなれ)えどぅ外習(ふかなれ)え」でぃぬ文言や国(くに)んかい同(い、ゆ)ぬ如(ぐとぅ)、当(あ)たゆん。
A 家意地(やあいじゃ、やあいざ)あや、いいくる、外(ふか)んじえ、ゑんださん。
B 家番(やあばん)のお家籠(やあぐ)まやあんかいしみれえ。
C 昔(んかし)え長男(ちゃくし)ぬ他(ふか)あ親(うや)ぬ家(やあ)から家(やあ)立(た)たんでえならんたん。
D 家立(やあた)ちゃあや、家持(やあむ)ち尽(ずく)ぬ事(くとぅ)ん分(わ)かりわるやる。
E 家借(やあか)やあ家(やあ)ぬ主(ぬうし)んかい、家(やあ)ん代(でえ)、払(ばら)あんとおならん。
F 家(やあ)ぬ名(なあ)や昔(んかし)からぬシマんかいや今(なま)ちきてぃ、あん。
G 新家(みいやあ)んかい家移(やあうち)いするばあや味噌(んす)・塩(まあす)から持(む)っち行(い)き。

日本語

@ 「家での習慣が他でも出る」という文言は国にも当て嵌まる。
A 内弁慶は、大抵、外では、大人しい。
B 留守番は、家に引き籠りがちな者にさせよ。
C 昔は長男以外は実家から独立しなければならなかった。
D 家を独立する人家計の事も知らなければならない。
E 借家人家主に、家賃を払わなければならない。
F 屋号は古くからの集落(地域)には、今も残る。
G 新しい家引っ越しする時は味噌・塩から持って行け。

【解説】「家・屋」に関する慣用句・言い回しは多くありますが、ここでは分かり易い語句や日本語的な語句は省きます。

例文@「家習れえどぅ外習え」は「家での(悪い)習慣・躾が外でもつい出てしまう事」。良く知られた「諺」です。
例文A「家意地あ」は「内弁慶」の意味です。
例文B「家番」は「留守番」の意味で「家(やあ)ん番(ばん)」、「家ぬ番」とも言います。「家籠まやあ」は「家に籠もっている者」。その動詞は「家籠(やあく)まゆん」です。
例文C「家立ちゅん」は「(実家)から「独立して世帯を持つ」の意味で、「家(やあ)立(た)っちゅん」とも言います。参:81講「家分かやあ」。「親ぬ家」は「実家」で「親(うや)ん家(やあ)」とも言います。
例文D「家立ちゃあ」は例文C「家立ちゅん」の名詞。「家持ち尽」は「家計」、「家政」の意味です。
例文E「家借やあ」は「借家人」の意味でその動詞は「家借(やあか)ゆん」です。またその対句は「家(やあ)貸(か)らすん」です。
例文F「家ぬ名」は「屋号」の事。「家(やあ)ん名(なあ)」とも言います。所属等を表わす助詞「ぬ」はよく「ん」に変形します。
例文G 「新家」は「(造ったばかりの)新しい家」、「新居」の意味。「家移い」は「引越し」の意味です。「殿内移い」は「士族などの屋敷の引っ越し」の意味の他、「家移い」の敬語、つまり「お引っ越し」の意味でもあります。

【応用問題】
例文・解説文を参考に箇条文の( )に入る語句・文を次行の()内から選びなさい。答えは下欄です。
(家立っちゅん、家籠まいしどぅ、家移い、親ぬ家、家ん番)

@ 今(なま)ぬ童(わらばあ)達(たあ)や、外(ふか)んじえ、遊(あし)ばな、( )、遊どおる。
A ( )のお、三(みい)ちなあやがあ、ぞおい、しゆさん。
B 今(なま)あ長男(ちゃくし)あらんてぃん、妻(とぅじ)とぅめえいねえ、いいくる( )。
C ( )するばあや、うゎあばな荷(にい)や捨(し)てぃゆし(せ)えまし。
D 妻(とぅじ)え、変気(ふぃんち、ひんち)さあに、( )んかい、走(は)いたん。
答え:
@ 家籠まいしどぅ。
A 家ん番。
B 家立ったんでえ。
C 家移い。
D 親ぬ家。

日本語訳
@今の子供は外では遊ばず、家に籠もって遊ぶのである。
A留守番は三歳児には絶対無理だ。
B今は長男でなくても結婚したら独立しなければならない。
C引越しする場合は余計な荷物は捨てた方がよい。
D妻は機嫌を損ねて、実家へ戻ってしまった。

2017年01月24日

第177講「百(むむ、ひゃく)に関する慣用句・言い回しU

うちなあぐち

@ 三(さ)味(ん)線(しん)ぬ稽古(ちいく)お百重(むむかさ)に重にさんでえ、取(とぅ)い覚(う)びららん。
A ハブんかい、はっちゃかてぃ、百屈(むむかが)ん屈んしちゃん。
B 戦(いくさ)ぬばす(そ)お、諸(むる)ぬ沖縄人(うちなあんちゅ)ぬ百(むむ)ぬ苦(くり)しゃしみらったん。
C 平生(ふぃいじい)から体大切(からたてえしち)にしいねえ、百(むむ)命(ち)延(ぬ)ばする事(くとぅ)んなゆん。
D 平和(ひいわ)ぬむとぅうとおる事(くと)お、実(じゅん)に百孵(むむし)でぃどぅやる。
E うぬ回(みぐ)い者(むん)や、百(むむ)脅(うどぅ)し脅(うどぅ)さってぃん、怖(う)じいらんたん。
F 彼(あ)っ達(たあ)や百一(ひゃくいち)いどぅやとおてぃ、ぞうい、積(ち)むららん。
G 百歳(ひゃくせ)ぬ後(あとぅ)ぬ事(くと)お、何(ぬう)ん世話(しわ)あ、さんてぃん済(し)まびいさ。

日本語

@ 三味線の稽古は何度も繰り返さないと、習得できない。
A ハブに出くわして、縮み上がった
B 戦争の時は全ての沖縄人が、ひどい苦しみを味わされた。
C 普段から身体を大事にすれば、大切な命を長らえる事もできる。
D 平和が続いている事は、本当にありがたい事である。
E その活動家はどんなに脅迫されても、怯まなかった
F 彼らは嘘つきなので、とても、当てにならない。
G 死後の事は何の心配もしなくて良いですよ。

【解説】
 例文GとHは「百(ひゃく)」ですが、例文以外の一般的な「百」に関する語句は慣用的な使い方は殆どありませんので、略します。 

例文@「百重に重に」は「幾度となく」、「何度も」、「繰り返し」等の意味です。
例文A「百屈ん屈んすん」は「縮み上がる」。なお、「屈(かが)まゆん」には「うずくまる」の意味もあります。
例文B「百ぬ苦しゃ(百ぬ苦さ)」は「多くの苦しみ」、「ひどい苦しみ」等の意味です。
例文C「百命」は「大切(大事な)な命」の意味です。
例文D「百孵でぃ」は「とてもありがたい事」の意味です。
例文E「百脅し脅すん」は「さかんに威嚇する」、「脅迫する」、「大いに脅す」等の意味です。
例文F「百一い」は「百回に一回しか本当の事を言わない人、つまり嘘つき」の意味です。
例文G「百歳ぬ後」は慣用的には「死後」ですが、寿命が延びた現代では文字通り「百歳の後」との解釈も追加しなければならないかも知れません。「済まびいさ」は「済なびいさ(首里語)」とも言います。

【応用問題】
例文・解説文を参考に次文の太字部分に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(百命、百ぬ苦しゃ、百勇でぃ勇でぃ、百一い、百孵でぃ)

@ 沖縄人(うちなあんちゅ)お戦後(いくさあとぅ)ん、今(なま)ちきてぃ、哀(あわ)りぬ段々(だんだん)しみらっとおん。
A あたら命(ぬち)、失(うし)ゆる事(くとぅ)やかん、なちかさる事んあみっさ。
B 沖縄語(うちなあぐち)え大概(てえげえ)に済(し)まさんようい、うみはまてぃ、しいなさりいびちい。
C 沖縄語え昔(んかし)からぬ書物(しゅむち)ぬ残(ぬく)いまんどおくとぅ、有(あ)り難(がて)え事(くとぅ)やん。
D 嘘物言(ゆくしむに)いぬ言し(せ)え、厳(じん)重(じゅう)ならん。
答え:
@ 百ぬ苦しや。
A 百命。
B 百重に重に。
C 百孵でぃ。
D 百一い。

日本語訳
@沖縄人は戦後もいまだに多くの苦しみを味わさている。
A大切な命を失う事より、悲しいことがあるものか。
B沖縄語は大概にはせず、努力を重ねて完成させられるべき。
C沖縄語は昔から文献が多く残されているので有り難い事である。
D嘘付きの言う事は信用が置けない。




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