2017年01月18日

第176講「百(むむ、ひゃく)に関する慣用句・言い回しT

うちなあぐち

@ 百事(むむくとぅ)ん御計(うはか)れえぬあくとぅ、何(ぬう)ぬ世話(しわ)ん無(ね)えらん。
A 銘苅子(みかるし)や女(ゐなぐ)ぬ飛衣(とぅんす)、蔵(くら)んかい百隠(むむかく)し隠しそおたん
B 御胴(うんじゅ)なあ達(たあ)ぬ百情(むむなささき)故(ゆい)に、病(やんめえ)ん、諸治(むるのお)いさびたん。
C うずでぃ、百縋(むむしが)い縋いすんでぃ思(うみ)いねえ、肝(ちむ)ん肝ならん。
D 百(むむ)勇(いさ)み勇でぃ、露(ちゆ)程(ふどぅ)ん敵(てぃち)ぬ知(し)らぬ如(ぐとぅ)に。
E 沖縄(うちなあ)んじぬ戦(いくさ)ぬ事(くと)お御(う)万人(まんちゅ)なかい、百(むむ)伝(ちて)えさっとおん。
F うじゃが守(むい)や、百按司(むむじゃな)、首里(しゅい)んかい、移(うつ)さびたん。
G 百年(むむとぅ)何時(いち)迄(までぃ)ん百(むむ)果報(がふう)かみらちうたびみせえびり。

日本語

@ 全ては計画済みであるから、何の心配も無用である。
A 銘苅子は女の羽衣を蔵にひたすら隠していた
B 皆様方のご厚情により、病気も完治いたしました。
C 目覚めて、縋りっ放しになるのかと思うと気が気でない。
D 全力を尽して、少しでも敵に知られないように。
E 沖縄戦は全ての人々によって、数多く語り継がれている。
F 尚真王は、諸候を首里に移住させました。
G 百歳なる迄も御多幸を我に賜れ。

【解説】
 「百(むむ)」は、多くは組踊作家等が好んで使用した「文語」です。「百」は「多くの」、「とても」等の意味を含んでいますが、単に強調の意味しかない場合もあります。造語も容易ですので、話し言葉でも使用していきたいものです。「百」に続く語句が動詞からの派生語(名詞)が繰り返される場合とこれに派生元の動詞が付く場合のそれは副詞となりますが、以外は基本的には名詞となります。例:「百縋い」(名詞)、「百縋い縋い」(副詞)、「百縋い(副詞)縋ゆん」。

例文@「百事」は「色んな事」、「全ての事」の意味です。「御計れえぬあん」は「ご計画がある」の意味です。
例文A「百隠し」は「ひたすら隠す事」。「百隠し隠し」は「ひたすら隠して」の意味となります。
例文B「百情」は「多くの情」、「ご厚情」等の意味になります。
例文C「百縋い」は「(子供等が母親に)縋り続けている事」、「百縋い縋い」で、「縋りっ放しになって」の意味です。
例文D「百勇み」は「大いに勇む事」、「百勇み勇み」で「全力を尽して」、「果敢に」等。例文は「忠士身替の巻」より。
例文E「百伝い」は「沢山聞かせる事」、「多く語り継ぐ事」の意味です。「うじゃが守」は尚真王の神号。
例文F「按司」は「琉球各地に割拠していた豪族」。「百按司」は「諸侯」。
例文G「百年」は「百年、百歳」。同類に「十百歳(とぅひゃくせ)」があります。「百果報」は「ご多幸」、「とても幸せなこと」。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に次文の太字部分に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(百事、百隠し、百勇でぃ勇でぃ、百果報ぬ付ちょおしん、百縋い縋い)

@ あぬ童(わらび)え母(あんまあ)んかい、たっくぁいむっくぁいそおん。
A 汝(やあ)があんし、幸(せえゑえ)いやしん、諸(むる)ぬ御陰(うかじ)どぅやんどお。
B 世(ゆ)ぬ中(なあか)んかい、実(じゅん)に色(いる)んな事(くとぅ)ぬあんやあ。
C 家組(やあぐな)ぬ為(たみ)ねえ、命(ぬち)うみはまてぃ、働(はたら)きわるやんどお。
D 知(し)らしびちいやる事(くと)お、ちゃあ隠(かく)しいし(せ)えならん。
答え:
@ 百縋い縋い。
A 百果報ぬ付ちょおしん。
B 百事。
C 百勇でぃ勇でぃ。
D 百隠し。

日本語訳
@あの子は母親にくっ付いて(ばかり)いる。
A君が幸せになったのも皆のお陰だぞ。
B世の中にはほんとうに色んな事があるね。
C家族の為には、全力で働かなければならよ。
D知らせるべき事をひた隠しにしてはならない。

2016年12月26日

第75講「しょう、そう(性、精、生、質など)」に関する慣用句・言い回しU

うちなあぐち

@ 口(くち)ぬ性(しょう)んありわる、物(むぬ)んまあさる。
A どぅく、恥(は)じかさぬ、面性(ちらしょう)けえ抜(ぬ)ぎたっさあ。
B 人(ちゅ)てぃらむぬお、しょうたましぬありわる実(じゅん)ぬ人(ちゅ)やる。
C 胴性(どぅうしょう)、大切(てえしち)にさんでえ、しょうん立(た)たん
D しょう所(どぅくる)、打(う)っちぇえ無(ね)えらんでえ、支(ちけ)え無えらんさ。
E 性抜(しょうぬ)があサンタクロース、クリスマス前(めえ)に巡(みぐ)てぃ来(ち)ゃん。
F しょう物言(むに)いすくとぅ、しょうさんでえならん。
G 思事(うむくとぅ)ぬ実(じゅん)に、しょうなゆんでえ、思(うま)あんたん。

日本語

@ 味覚もあってこそ、食事も美味しいのである。
A あまりにも、恥ずかしくて、顔色(面目)を失ったよ。
B 人たるものは人間らしさが備わってこそ真の人間だ。
C 健康に気遣いする心を大切にしないと甲斐が無い
D 急所を打ってなければ、大丈夫だよ。
E 慌てん棒のサンタクロース、クリスマス前にやって来た。
F まともな言い方をするので、本気にしなければならない。
G 考えていた事が、本当に、実現するとは思わなかった。

【解説】この講ではひらがな表記の「しょう」は「性」ではなく、「正」の可能性もあるものの、この講で紹介します。

例文@「口ぬ性」は「味覚」、「食物の具合を“味分ける”力」等の意味です。
例文A「面性」は「面目・しっかりした顔つきを保つ力」等の意味です。
例文B「しょうたまし」は「人間らしさ」等の意味です。
例文C「胴性」は「身体・健康を思いやる精神・心」等の意味です。「しょうん立たん」は「効果が無い」等の意味です。
例文D「しょう所」は「急所」等の意味で、「そうどぅくま」とも言います。
例文E「性抜があ」は前講の「性抜ぎゆん」の派生名詞で「慌て者」、「うっかり者」「粗忽者」等の意味で「下性抜があ」とも言います。
例文F「しょう物言い」は「まともな口のききかた」、「ちゃんとした話し振り」等の意味です。「しょうすん」は「本気にする」。
例文G「しょうなゆん」は「実現する」、「本当になる」等の意味です。『正』の可能性が大です。

【応用問題】
 例文・解説文を参考に次文の太字部分に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(胴性、しょう所、しょうたましぬありわる、性抜があ、口性ぬあれえ)

@ 人ぬ事(くとぅ)考(かんげ)えゆる事ぬなゆる人(ちゅ)ぬらあさる人ぬ居(をぅ)りわる人ぬ世(ゆう)やる。
A 命所(ぬちどぅくる)お、あたらさし、かげえらんでえならん。
B 身体(からた)大切(てえしち)にする肝(ちむ)んちょおんあれえ、病(やんめえ)んかいやない難(ぐり)さん。
C 味(あじ)ぬ分(わ)かいねえ、食(か)まりゆしとぅ食まらんしぬ別(びち)ん分かゆん。
D 墨(しみ)筆紙(ふでぃかび)ん持(む)たんようい、学校(がっこう)んかい行(い)ちゅんでえ、粗忽(すくち)な者(むん)やさ。
答え:
@ しょうたましぬありわる。
A しょう所。
B 胴性。
C 口性ぬあれえ。
D 性抜があ。

日本語訳
@他人を思いやる事ができる人間らしさがあってこその人間社会である。
A急所は大事に保護しなければならない。
B身体を大事にする心さえあれば、病気にはなりにくい。
C味覚があれば、食べられる物と食べられない物の区別も分かる。
D文房具も持たずに登校するとは、うっかり者だ。

2016年12月23日

第174講「しょう、そう(性、生、精、質など)」に関する慣用句・言い回し1

うちなあぐち

@ あぬ童(わらび)え、でえじな、しょう入(い)っちょおん
A うかあさる大道(うふみち)んじ遊(あし)ぶんでえ、実(じゅん)にしょうん無(ね)えん
B 近頃(ちぐぐる)お性魂(しょうたまし)性かにん無(ね)えん人(ちゅ)ぬ増(うゎあ)あちょおる風儀(ふうじ)。
C 年取(とぅしとぅ)いねえ、目(みい)ぬ性(しょう)耳(みみ)ぬ性鼻(はな)ぬ性ん無(ね)えんなゆん。
D 年度末(にんどぅしい)ないねえ、どぅく、忙(いちゅ)なさぬ、肝性(ちむしょう)ん思(うま)あらん
E 人(ちゅ)ぬ性分(しょうぶん)のお、ふぃれえてぃ、見(ん)だんでえ、分(わ)からん。
F 性無(しょうま)でぃい、来(く)うんでえ、くぁっちいや当(あ)たらんどお。
G あんし、性抜(しょうぬ)ぎてぃ、食(か)でぃん、味(あじ)ん分(わ)かいがすら。

日本語

@ あの子は、とても、利口でしっかりしている
A 危ない大通りで遊ぶとは、本当に迂闊だ
B 近頃は人間らしさ理性も失った人が増えたよう。
C 年を取れば、視覚聴覚臭覚も衰える。
D 年度末になると、とても忙しくて、頭が混乱する
E 人の性格は付き合って見ないと、分からない。
F 急いで来ないと、御馳走にありつけないよ。
G そんなに、慌てて食べても、味が分かるのだろうか。
 
【解説】
 「性」は同音で「正」(そう物、そう名、そう事)とは別ですが、「しょうぶりむん(全くの狂り者)」等、何れとも判別しがたい語句(また何れでも良い語句)もあります。なお、「性」とは限らない語もありますが、この場合はひらがなで表記します。発音は「しょう」と「そう」の二通りがあります。

例文@「しょう入ゆん」は「小利口になる」、「しっかりする」の意味です。「しょう入らあ」は「しっかりした子」。
例文A「しょうん無えん」は「精神がしっかりしてない」、「心がこもってない」、「甲斐がない」等の意味です。
例文B「性魂」は「精魂」、「精神」等の意味。「性(正)かに」は「精根」、「本性」、「理性・知性」等の意味です。
例文C「目ぬ性」は「視力・視覚」等の、「耳ぬ性」は「聴力・聴覚」等の、「鼻ぬ性」は「嗅覚」等の意味です。
例文D「肝(ぬ)性ん思あらん」は「心身ともに混乱する」「自分を見失う」等の意味。「しょうん無(ね)えん」にも似ます。
例文E「性分」は日本語とほぼ同じ意味で「性質」、「性格」等の意味です。
例文F「性無でぃい」は「『性(魂)』を失うほどに」という意味から単に「早く」という意味で主に地方で使われ、「そうまりい」とも言います。「無でぃい」の使われ方は「親無(うやま)でぃい」(孤児)、「家無(やあま)でぃい」(ホームレス)等。
例文G「性抜ぎゆん」は「『性(魂)』が抜けてしまう」、「肝を潰す」、「慌てふためく」等という意味で「性抜ぎてぃ」は「慌てて」という意味で使われます。 

【応用問題】
 例文・解説文を参考に次文の太字部分に近い語句を左の( )内から選びなさい。答えは下欄です。
(肝性ん思あらん、性無でぃい、性かに、性抜ぎとおたん、耳ぬ性ん無えん、性抜ぎてぃ)

@ 今(なま)ぬ世(ゆう)や並(なみ)ぬ人迄(ちゅまでぃ)ん、かに外(はん)でぃとおるうぬまんどおん。
A 汝(やあ)や、しょうん思(うま)あらんどぅあみ、あんし、どぅまんぎぃてぃ。
B 正月市(しょうぐぁちまち)んじえ、早(ふぇえ、へえ)く、買(こ)おゆしがむぬうどぅやんどお。
C 子(くぁ)ぬあしゅらなとおんでぃぬ話聞(はなしち)ち、母(あんまあ)やどぅまんぎとおたん
D 御主前(うすめえ)や耳(みみ)ん聞(ち)からんがあら、いれらんでぃん、しんしょうらん。
答え:
@ 性かに。
A 肝性ん思あらん。
B 性無までぃい、性抜ぎてぃ。
C 性抜ぎとおたん。
D 耳ぬ性ん無えん。

日本語訳
@現代は普通の人でも理性を失っている者が多い。
A君は混乱しているかね、これほどうろたえて。
B正月市では早く買うのが勝ちだぞ。
C子が迷い子になったと聞いて母は、落ち着きを失っていた。
D祖父は耳が聞こえないのか、返事をしようともなさらない。



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