2010年07月21日

第41講 接続文「―しながら、―する」Tを表わす「(や)がなあ」

日本語

@ 私はラジオを聴きながら、掃き掃除をします。
A 母は食事をしながら、お喋りしていらっしゃいます。
B 妹は電話をしながら、メモをとっています。
C 父は頭を掻きながら、詫びていました。
            詫びていた。
D 従弟は重いものを持ちながら、体を鍛えています。
E 子どもは叫びながら、走り去った。

うちなあぐち

@ 我(わん)ねえ、ラジオ聴(ち)ちゃがなあ、掃(ほう)ちかちさびいん。
A 母(あんまあ)や、むぬ食(か)まがなあ、ゆんたくしんそうちょおん。
B 妹(ゐなぐうっと)お、電話(でぃんわ)さがなあ、物書(むぬか)ちょおいびいん。
C 父(すう)や頭掻(ちぶるか)ちゃがなあ、言(い)いわきとおみせえたん。
           言いわきとおたん。
D 従弟(いちく)お重物持(んぶむんむ)ちゃがなあ、胴(どぅう)頑丈(がんじゅう)らちょおいびいん。
E 童(わらび)え、叫(あ)びやがなあ、走合(はあええ)なてぃ去(は)いたん。

  
【解説】
 「―しながら」はこの「―がなあ」はじめ複数の言い方があります。「がなあ」の前の動詞は連用形+存在動詞(日本語の形容動詞に似て且つ存在「ある」の意味を含む、参第63〜64講)の連用形「や」が結合したものと考えられます。例えば「さがなあ(しながら)」の「さ」は「しや」が「さ」に、「聴ちゃがなあ」の「ちゃ」は「聴ちやがなあ」の「ちや」から、「飲まがなあ」の「ま」は「飲みやがなあ」の「みや」から「ま」になったと考えられます。そして、例文Eのユン動詞「叫びやがなあ」こそは変形がなく本来の形だと考えられます。「がなあ」について『沖縄語辞典』では「接尾」と説明されていますが接続助詞のような働きもあります。別例:「有いがなあ」の「い」は「や」の変形。

同じような意味を表わす別形、「―がちい、―がしい」は第42講で紹介します。

例文B 「妹」は「うっとぅ」又は「ゐなぐうっとぅ」。参考関連記事71頁及び第96講。
例文C 「いいわきゆん(言い訳ゆん)」は沖縄語では「詫びる」、「謝る」等に転じています。
例文E 「走合なてぃ去いたん(走り去った)」は慣用句です。元々、「走ゆん」(ユン動詞)は、「月ぬ走いや馬ぬ走い」等と人間以外に使います。人間には必ず、「走合なゆん」、「走合すん」等と使います。前者は「走合」を名詞に、後者は動詞の「語幹」にしています。ちなみに、「はゆん」を人間に使う場合は「去る」という意味になります。(この意味としての「はゆん(去ゆん)」は『沖縄語辞典』には載っていません。)

【応用問題】次の日本語文を沖縄語文に直しなさい。答えは下欄です。
@ 彼はお金もありながら、ケチだな。
A 叔母と相談しながら、決めたいと思います。
B 女は時計を見ながら、待っていました。
C 目を閉じながら、片足で立ってごらん。
D よそ見をしながら、運転するものではない。
答え:
@ あり・彼え、じん・銭ぬん、有いがなあ、いやさあやっさあ。(註)
A をぅば叔母まあとぅそうだん相談さがなあ、ち決わみらんでぃ、うむ思とおいびいん。
B ゐなぐ・女おとうちい時計ん見じゃがなあ、ま待っちょおいびいたん。
C みいく目閉やがなあ、かたびしゃ片足し、立っちんでぃ。
D よくみ横見さがなあ、くるま車あ歩っかするむのぬおあらん。

注:「けち」は「いやさあ」と「いびらあ」を良く使いますが、「握(にじ)らあ」、「銭(じん)五十(ぐんじゅう)」等もあります。「握らあ」は金を握り締めて離そうとしない者、「銭五十」とは「五十文(一厘)でも惜しむ事」の譬えからきています。

2010年07月17日

第40講 「―ようい」を使う接続

日本語

@夏は海に行かずに、山へ行きます。
A肉は食べないで、魚をたべましょう。
Bあの子は勉強はしないで、遊んでばかりいるよ。
C三味線は弾かずに、歌だけ歌います。
D自分勝手な事をしないで、人の言う事を聴きなさい。

うちなあぐち

@夏(なち)え海(うみ)んかい行(い)かんようい、山(やま)んか行(い)ちゃびいん。
A肉(しし)え食(か)まんようい、魚食(いゆか)なびら。
Bあぬ童(わらび)え、勉強(びんちょう)やさんようい、ふぃっちい遊(あし)どおさ。
C三味線(さんしん)や弾(ひ)かんようい、歌(うた)びけん歌(うた)やびいん。
D自勝手(どぅうがってぃい)さんようい、人(ちゅ)ぬ言(ゆ)し、聴(ち)けえ。

【解説】
 「―しないで、―する」は、「動詞終止形+ようい、―すん」という形の文になります。第39講の「―な、―」は、主には「原因と逆接的な結果」を表わす文でしたが、本講の「ようい」は、必ずしも「原因と逆接結果」ではないので、少しニュアンスが異なります。文脈によっては何れの文でもよい場合があります。この「ようい」は、『沖縄語辞典』にはなく、那覇はじめ地方では使用頻度が高いにもかかわらず首里語では使用されてない可能性があります。似たような意味に「―ぐうとぅう」があります(参第91講)。

例文@「今度」は沖縄語では「今度」の意味の他に、「今年」の意味にも使われます(参第29講)が、民謡等の文語では、「くとぅし今年むづくい(今年の作物)」という風に、「今年」も使います。ちなみに去年は「くず」ですが、日本古語の「こぞ」と同じです。一昨年は「んちゅ」、「んちゅ」の前の年、つまり四年前は「ゆとぅ」と言います。
例文A「肉」は日本古語そのままです。参考記事27頁。
例文A「―しんそうちょおん」の別形は「そおみせえん」ですが、前者より使用頻度は低いようです。
例文B「ふぃっちい、ひっちい」は「一日、終日」の意味から「しょっちゅう、ずっと」という意味にも転じています。
例文D「どぅ自」は私の当て字です。「胴」から転じてきた語である事から、「胴」を当てる人もいますが、私は、「精神的自分」を意味する場合は、「自」を、「肉体的自分つまり自分の体」は、「胴」を当てています。

【応用問題】
 次の日本語文を沖縄語文に直しなさい。答えは下欄です。
@髪を切らずに、伸ばしています。
A薬はつけずに、傷を治したよ。
B化粧もしないで、行くつもりかね。
  (―いらしゃるつもりですか)
C酒を飲むなら、車を運転しないでおいでなさい。
D意味も分からず、支援(協力)しました。
答え:
@髪詰(からじち)みらんようい、伸(ぬ)ばちょおいびいん。
A薬(くすい)やなしらんようい、傷(きじ)治(のお)ちぇえさ。
B面作(ちらちゅく)らんようい(註)、行(い)ちゅる積合(ちむええ)どぅやんなあ。
  (―行ちゅる積む合やみせえんなあ)目上
(―行ちゅる積む合やみせえびいみ)目上丁寧
(―行ちゅる積む合どぅやみせえみ)
C酒飲(さきぬ)むらあ、車(くるま)運転(うんてぃん)さんようい、めんそおれえ。
D積む合ん分(わ)からんようい、加勢(かしい)さびたん。

註:「面作ゆん」は「面しだすん」でも良いです。

2010年07月09日

第39講 打ち消し助詞「な」を使う逆接文

日本語

@雨も降らず、青野菜が枯れてしまった。
A飯も食わず、痩せてしまった。
B文字も分からず、勉強もできません。
C草も取らず、その畑は荒れています。
D髭も剃らず、老人のようです。
Eお金がなく、何も買えません。

うちなあぐち

@雨(あみ)ん、降(ふ)ら、青葉(おおは、おおふぁ)あ、けえ枯(か)りとおん。
Aむぬん、食(か)ま、けえ痩(よ)うがりとおん。
B字(じい)ん分(わ)から、勉強(びんちょう)んしいゆうさびらん。
C草(くさ)ん取(とぅ)ら、うぬ畑(はる)お、さぼうりとおいびいん。
D髭(ふぃじ)ん、剃(す)ら、年寄(とぅす)いぬ如(ぐと)おいびいん。
E銭(じん)ぬ無(ね)えら、何(ぬう)ん買(こ)ういゆうさびらん。

【解説】
 本講の「な」は打ち消しを表わす助詞です。日本語の「―せず、―する」は沖縄語では幾つかの言い方がありますが、本講では「―(さ)な、―」の言い方を取り上げます。「前文が原因(―なの)で、後文の結果になった」という逆接文ですが、意味的には、必ずしも原因と結果という関係の接続を表わすとは限りません。その例:「雨ん降らな、ちゃあ晴りいそおん」→「雨も降らず、ずっと晴れています」。

例文@ 「青葉」は「葉野菜」という意味の他に「菜っ葉」と意味もあります。
例文D「如おいびいん」は「如おん」の進行形(持続態)かつ丁寧文です。「―ぬ如おいびいん」は古めかしい言い方だと言われていますが、同義語の「―ねえそおん」と共に今だに多く使われています。この例文で、「―ねえん」を使うとすれば、「髭ん剃らな、年寄いねえそおん」となります。
 
 小学館の『新選古語辞典改定新版』には、「な」について、「打消しの助動詞『ず』の古い未然形」と説明されています。本講の「な」とほぼ同じ意味であり、沖縄人はまだ日本の上代語を使い続けているわけです。

【応用問題】
 次の文を打ち消しを表わす助詞「な」を使う文に直しなさい。
@髪(からじ)ん洗(あら)らんくとぅ、いりちかあなとおいびいん。
Aさっくいぬ止(とぅ)まらんくとぅ、病院(びょうい)ぬんかいん行ちゃびたん。
B稽古(ちいく)んさんくとぅ、けえ負(ま)きとおん。
C働(はたら)ちいんさんくとぅ、追(ゐ)い放(ほう)らったん。
D薬(くすい)ん飲(ぬ)まんくとぅ、病(やんめえ)やたった悪(わ)っさなたん。
答え:
@髪ん洗ら、いりちかあ(註1)成とおいびいん。
Aさっくいぬ止まら、病院ぬんかい行ちゃびたん。
B稽古んさ、けえ負きとおん。
C働ちいんさ、追ゐい放らったん。
D薬ん飲ま、病やたった(註2)悪っさなたん。

日本語意訳:
@髪も洗わず、フケだらけになっています。
A咳が止まらず、病院へ行きました。
B練習もせず、負けてしまった。
C働きもせず、追い出された。
D薬は飲まず、病気は余計に悪化した。

註1:「いりちかあ」は「いりちぶったあ」でもよいです。「洗らん」は「洗あん」、「洗あらん」とも言います。
註2:「たった」の代わり「ゆくん」でもよいです。



先頭頁 71