比嘉 清:作 | トップページへ |
平成18年12月28日 | |
戦場ぬヨネ 今度お我あんまあヨネぬ七回忌んかい当たゆん。 あんまあぬ事お自ぬ親どぅやくとぅ、当たい前ぬ事、いるいるとぅ覚いてえ居ん。やしが、我ねえ九人兄弟姉妹ぬ中んじえ戦後生まりぬ六番目どぅやくとぅ、我が生まりらん前ぬあんまあぬ事お知らん。やてぃ近頃お我が知らんヨネぬ事、分かい欲しゃんでぃぬ思いぬ強くなてぃちょおん。あんし、我にん年取てぃが居ら、兄弟模合んでえうとおてぃ、あばあやっちい達んかい、いいくるあんまあぬ事訊ちゅる事ぬ多くなてぃちょおん。ヨネぬ童ぬばすから戦世頃迄ぬ話や聞ちゅるかじ、諸新くに聞ちゅる話なやい、ゐいりきさんあしが、ひるまさる話んまんどおん。 我ねえあんまあが生ちちょおるばすに、なあふぃん、あんまあとぅたんかあなてぃ、いるんな物語合小そおけえ済むたるむんでぃ思いんすい、何が何んでぃち、うんなゆちみん無えらんたがやんでぃありくり考えゆる事んあん。童ぬばすお確かにあいゆかぬ貧乏なやい、物喰えじくぬ事びけんどぅ考えとおたる、家組同士ぬ物語合小やなんずかあ、すぬゆちみえ無えらんたぬ覚いぬあん。又自が家庭持ちなやい、親から離りてぃ暮らすんねえしなてぃ後からん、親とお、いち逢ゆるかじ、今前ぬ世間話小どぅすたる、あんまあが若さるばすぬ話んでえや、しえやあんでぃゆぬ考えやむさっとぅ無えらんたん。 うんなくんなぬ訳ぬあてぃ、今からぬ話や大概やあばあやっちいから聞ちゃる話どぅやる。特てぃ戦ぬばすぬ話や実人からあ聞ち苦さるあたい、悲ちかさる話やん。 やしが、くぬ話すぬ前なかい、言い訳そおかんでえならん事ぬあん。 ヨネやまる平生やゆんたくしみいねえ、実に昔ん人ぬ如、重らあさ物言いすたしが、大和口あびらしいねえ、三才なやあ童ぬ如、てえてえ物言いどぅすたる。子守やあさがちい、まるけえてぃなあどぅ、小学校ん通とおたんでぃぬ事やくとぅ、大和口んうら覚い小どぅそおたる事お仕方ぬ無えらん事やたん。やてぃヨネぬ事、語ゆるばすお必じまでぃ、うちなあぐちし、さんでえならんばすやん。 ヨネや明治四十四年なかい与那城村字西原ぬ伊禮門家んじ生まりたん。隣村ぬ字与那城ぬ前比嘉全功主とぅにいびちさしえ、ヨネが 二十歳ぬばすやたん。翌年、長男ぬ全太郎ぬ生まりたん。うぬ後、ひるましむん必じ三年越しいなかい、男ん子四人、女ん子四人生まりたるばすやたん。やしが、全太郎が小学校四年ぬばす、病なかい、くぬ世うしなたるばすお、ヨネや四十九日までえ泣ちどぅ暮らちょおたんでぃぬ事やん。 四男ぬ全清が二才やたるばすぬ話どぅやる。寒さん暑さん無ん四月半らやたん。六年前、戦ぬあたんでえ思あらんあたい長閑な昼やたん。ヨネとぅ全清が家んじゆくとおたん。隣ぬ我如古チルが巡てぃ来ゃあいヨネとぅゆんたくし始みたん。ちゅてえ小しから、ちゅうちゃん村屋ぬ鐘ぬ何がな、そう抜ぎとおる如、ちゃあ鳴いさん。うぬ後から村ぬ男ぬ一人が走合さがなあ、道なありいあびとおたん。 「アミリカーど、アミリカーぬ来ょおしが」 「如何しえ済むが、チル」 ヨネやどぅ迷ぎぃてぃ色青ざあなとおたん。 「ヨネ、早く戸ん窓ん諸閉みらんあれえ」 チルや落てぃ着ちょおたん。二人し家ぬ戸とぅ格子窓ぬあるっさ閉みたん。チルや意地ゃあやたるはじ。戸ぬ穴小から外ぬ様子、すう見そおたん。ヨネや仏壇ぬ前んじ全清抱ちふとぅふとぅうそおたん。あんし、何時ぬ間がやら、右手なかい全清ぬ口覆とおる事に気に付ちゃん。あんし、六年前、壕ぬ中んじん収容所ぬ中んじん同ぬ事そおたる事、思い出じゃちょおたん。 区長や暁から村中巡てぃ歩っちょおたん。門口んじ、箒かちそおたるヨネ見ち舌早く語たん。きっさ、アミリカ軍が読谷まんぐらんかい上陸そおんでぃぬ話やたん。ヨネやとぅんもうてぃ、御主前起くちゃん。前比嘉家ぬ家ぬ事お御主前ぬ肝に掛かやあやたん。 年明きてぃから沖縄守備隊ぬ予備兵とぅし召集さったる夫ぬ事が一番しわやたしが、今ぬ暇おヨネや肝ふぃちゃぎそおたん。戦ぬ来いねえ、年いかん三人ぬ童ん達や如何し、かげえてぃ行けえ済むが。又腹ぬ中んかいや、子ん持っちょおん。何がちゅうちゃんちん、恐まさる事んかいけえなてぃ。ヨネやただ首横んかい振やあ振やあどぅそおたる。 御主前や初めえ、まんぐらぬ人ん達とぅ同ぬむん、島尻んかいや逃ぎらんようい、自なあ達ぬ墓ぬ中んかい隠ゆる積合そおたん。 「平安名んかいあぬいがろう大墓まんぐらあ、高所なとおくとぅ艦砲ぬ当たい易っさあねえらんがや。やしが艦砲や高所んちん窪んちん無えらしはじや」 御主前や独一人物言いさがちい、未だ肝迷いそおいぎさたん。大息しからヨネんかい訊にたん。話やありくり聞ちから決わみゆる積合がやらん分からん。 「あんし、区長ぬ話や如何ぬふうじやたが」 「区長や、前やれえ山原んかい避難すしがるましやたるはじやしが、今からやれえ、去年から、なあ前々し、掘てぃうちぇえる壕んかい逃ぎゆしるましんでぃ言ちょおみせえたっさあ。今日明日ぬうちなかいんでぃて」 与那城んじえ、前ぬ年ぬ十月十日ぬ空襲ぬ後、誰がが初みたるむぬやら分からんしが、大概ぬ家庭が村ぬ近くぬ山んじ防空壕堀てぃうちぇえたるばすやん。 「あんし友軍や如何ゆうな考えそおんでぃぬ話やさんたるばすい」 「だあ、区長ん、そう抜ぎてぃる居みせえたくとぅ、友軍ぬ話やしんそおらんたしが」 「いいゆい、友軍やくぬ前から諸、島尻んかいでぃち家移いどぅそおしえ。なあ勝連、与那城んかいや部隊や残てえ居らんはじど。まんぐらぬ話どぅやくとぅ、実にがやら」 姑ぬカマが傍からあびたん。 「やしが今でぃいから、友軍ぬ後追うてぃ、あが遠島尻んかいでえ、うりん又、じょういならんあいや」 御主前や決わみかんてぃいし、腕組どおたん。ヨネや夫ぬ言ちゃる事思い出じゃち御主前んかい面向きたん。 「御主前、大道原んかい掘てぃうちぇえる壕んかいやましえあいびらんな」 全功やヨネが大腹んそおい、又うっさぬ童ん達添うてぃ、どぅく遠さんかい逃ぎいねえ、却てえ哀りなむんやくとぅ、なるびちえ家ぬ近くんかい避難すしえましんでぃ言ち、大道原んかい御主前とぅ弟ぬ全六とぅまじゅん壕掘てぃうちぇえたるばすやたん。 「区長ん、なあ前々し考えりんでぃ、みそおちょおるあたいやくとぅ、いがろうやいがろう考えさびやい、でぃちゃ、大道原んかい参やびらな。子ん達んまんどおい、近くどぅましやいびいんどたい、御主前」 「ヨネがうっさぬ子とぅ腹ぬ中ぬ子ぬ事しわし、うぬ考えそおれえ、なあうりどぅましやるはじ。良う考えいねえ、んちゃ大道原どぅましやらはじや。行ちい易っさいあい、窪なとおくとぅ、アミリカー達が通てぃん、分かい苦さる所やしえや」 ようやく、避難先ぬ決わみらったん。 「とおあんしえなあ、今日ぬうちなかい、行ちゅる考えし、しこうりわ」 皆肝ひじょおる如とおたん。しこういむこういぬ初またれえ、又皆戦ぬ事おけえ忘りてぃ、だたぬ家移い支度そおる如、けえむさげえとおたん。今度十六才なてぃ直きぬヨネぬ義弟ぬ全六や、五体ぬまんでぃ、特てぃ気掛きとおたん。声ん又あび大ぎさたん。 「大道原やれえ、裏原どぅなとおくとぅ、アミリカーや通らんはじやい、いがろう畑ん近くんかいまんどおくとぅ、艦砲射撃ぬ暇々なかいや芋堀いがん行かりいぬはじ。いいばすやさ」 やしが、御主前やけえ笑たん。 「あきさい全六、汝が気掛きとおしえ分かゆしが、うわば事お考えらんけ。戦ぬばすなかい、畑業ちんないみ、違てえうらに」 「あらぬ、暇々、うんな事んないがすらんでぃぬ話どぅやる。むさっとぅ何んならんでぃちえ無えらんさに」 「早くしこういむこういしわ。実え我ぬん、大道原がるましやんでぃ思とおたんよ。山なかい囲まあってぃ、川ん泉ぬんあくとぅ水ぬしわあ無えらんあい、隠どぅくまとぅしえ、上等やさ」 「父よ、同ぬ事我が言いねえ、ぬらてぃ、畑んかい行ちゅしん、泉んかい水汲みいが行ちゅしん、同ぬむんどぅやとおてぃ」 荷しこうゆんち、前比嘉ぬ家組あ、ぱったらげえやあなたん。御主前や前予にてぃしこうてえたる黒砂糖ぬ入っちょおるぐな樽ニちオーダーなかい包だん。 「何が御主前、砂糖や樽一ちし、ちゅふぁあらあらに」 カマやひるましむん見うんねえし、夫ぬ方見ちゃん。 「何や無えらんなてぃん、砂糖ぬあれえ、やあさあさんてぃん済むるはじど。砂糖や腐いらんあい、うりがる一番やる。別ぬ食みむん持っち行じん、壕ぬ中んじえ物おすがららんどや」 やしが、カマや台所んかい降りてぃ行じゃあに、生芋、大根、人参そうなむん、かしがあんかい入りてぃ、なあひん、入りいびちいやる食み物お無えらんがやんでぃち、目やとぅざなてぃとぅめえとおたん。 「あっさいよ、いぇえ、カマ、うさきなあ重物持っちん、行かりいみやひゃあ。うりやか鍬鎌持っち行ちゅしがるましえあらに」 「汝がる艦砲ん、弾ん飛でぃ来ゅうる中、畑んかい行からんでぃ話そおたるむんぬ。あんやれえ持たりいるうっさあ、持たなんでぃ思てぃるやる」 「やみ、あんしえ、持たりいぬうっさや」 御主前や、なあ思い流ちゃん。 ヨネやくぬ前、三年忌うちなちゃる全太郎ぬ元祖うちゅくいんかい包どおるとぅくるやたん。カマがうり見ち、ひるまさそおたん。 「ヨネ、あんし一大事なばすに、元祖持っちゅるゆちみんあんな。壕んじ暮らし方ないぬむんびけんどぅ持っちゅる。元祖おまあんかいやてぃん、かじみとおちゅしえましえあらに」 「我がる持ちゃびいるむんぬ、何ん重物ぬんあいびらなそおてぃ」 「あらんよ、いひやてぃん、役立つしどぅ持っちゅる。ただんちょおん、ありん持つな、くりん持つなんち、御主前とぅおおええ問答どぅそおるむんぬ」 「やいびいくとぅ、持っちびちいやしえ、諸持っちゃびいん。何が元祖てぃらむん灰ぬ軽、何ん邪魔ないるむのおあいびらん」 傍んじ、鍋道具片付きとおたる御主前や妻ぬカマぬ方、向かやいあびたん。 「何がカマ、ヨネが持っち欲されえ持ったしいるする。だあなあ急がんでえ。だらあくゎらあそおる暇あ無えらんどお。夜ぬゆっくぃてぃからあ大道原んかいや行からんしが」 御主前や全太郎が、けえ亡あちゃるばす、ヨネがじまま泣ち暮らち、肝んとぅやあさらんたる事、良う覚いとおたん。 「あんしえ、全太郎元祖ぬ事お汝がる分かいる。ましやんねえしせえわ」 あん言ち、カマや自ぬ事さるばすやん。 「かふうしやいびいどなあ婆前」 ヨネや全太郎ぬ元祖、うちゅくいなかい包むる前なかい、手押合ちゃん。うぬばす何がな夫ぬ事が思い出じゃさったん。 「全太郎、男ぬ親ぬ事ん、子ん達ぬ事ん、又皆ぬ事ん見守どおってぃ呉りよや」 全太郎ぬ元祖ぬ事くじたるカマやいやすたしが、自ぬ親ぬ家から持っち来ぇえる衣やでえじなあたらさるむんやたくとぅ、後ぬうじゅみ、いちゃっさきいある衣ぬうちから四、五着びけんや持っち行ちゅる事にさん。夫ぬ樽郎御主前やカマがしこうゆし、傍んじ見ちょおたしが、おおええ問答すぬ肝ん無えらな、やすんじとおたん。カマや明治二十三年なかい勝連村平安名ぬ東浜家んじ生まりたん。東浜家んでぃ言いねえ、代々ヌウルそおたるゆかっちゅやたん。あんすくとぅ、彼女が衣のお諸そうらさるむんやたん。 「なあ、諸しこうたがや。暗くならんうちなかい壕んじん、すぬ事ぬあしがる」 御主前や自ぬ荷とぅまじゅん、きっさ門口んかい立っちょおたん。 ヨネやちゃっさん持っちゆうさんたん。二才ないぬ全三添うてぃ、童ぬ衣から長男ぬ元祖、うちゅくいんかい包でえし持っちょおるうぴどぅやたる。かさぎてぃから八ヵ月びけんなとおたくとぅやたん。 全六やカマがしこうてえる食む物ぬ他なかい鍋まかい道具物から鍬鎌そうな物までぃかしがあんかい入りやい担みたん。全次や自ぬ衣とぅ水容りてえる八ちぬ水筒、帯んかい提ぎとおたん。やしが保ちぬ悪っさたくとぅ水筒やなあ前々が持っちゅる事んかいなたん。全次や莚五ちびけんどぅ持っちゃる。 小学校んかい上がたる直やたる信子やようやく自が持っちゅる荷しこうゆる事ぬなたん。教科書ん持っち行ちい欲しゃあたしが、ぬらありがすらんでぃ思てぃ、うぬまま箪笥ぬ中んかい置ちぇえたん。やしが、ヨネが「信子、教科書持っちん済むんど、早く、うぬうちゅくいんかい包めえ」んでぃ言ちゃくとぅ、いそうさそおたん。 「とお早く行かなや」 門口んじ待ちかんてぃいそおたる樽郎御主前やあぎまあちょおたん。 「あんちゃ、忘りとおたさ。全六、汝みえ足ぬぐるさくとぅ村屋までぃ行じ、区長んかい、『前比嘉しんかあ、大道原ぬ壕んかい非難さびいんど』でぃち語てぃ来わ。我ってえ先なとおちゅくとぅ後から追うてぃ来わ」 全六や自ぬ荷持っちょおるまま、村屋んかい走合なたん。 「くぬ家んかい当分のお来ららんさや」 ヨネやくうてん小、涙落とぅちゃん。門から出じいねえ、隣ぬ人ん達んかい、はっちゃかたん。目切我如古ぬ家組やたん。 「あいヨネ、我ったあん今どぅやしが」 面洗ゆる暇ん無んがあたら、我如古ぬ嫁ぬチルや面いっぺえ鍋ぬひんぐぶったあそおたん。やしが歯びけんや白さたん。 「我ってえなあ近くんかいどぅやんど、大道原んかいんちてえ。あんし、うんじゅなあ達やまあんかいやくとぅ」 「我ってえ、かまさ原ぬ大墓んかいちるやしが。大道原やれえ、まんぐらどぅやしえ」 「かまさ原ん良い所やんどや、窪小なてぃ。あんし、自なあ達墓んかいちるやんな」 「あらぬよ、畑ぬ側ひらんじ前予にてぃ掘てぃうちぇえたる壕んかいちるやんど」 「いぃえうりえ、ましやさ。又いってえ、うっさぬしんかなてぃや」 「うんじゅなあ達ん、ゆうし参りよや。とおあんしえや」 大道原お与那城ぬ西むてぃんかいあたん。道中やあまくま、艦砲弾ぬ落てぃたる跡ぬあたん。松ぬ木ん、幾ちがな倒りてぃ焼ち焦がりとおたん。見じゅるうっぴしん、恐るしんむんやたん。 カマや兵隊んかい取らったる自ぬ子ん達ぬ事どぅ思とおたる。ヨネぬ夫やる長男全功初み四人ぬ男ん子ぬ事。次男ぬ全徳びけんや南洋ぬテニアンんかい出兵そおたん。 「あんまあ、父や無事やがや」 信子やヨネがうっちんたあなてぃ、歩っちょし見ち、声掛きたるばすやん。 「無事どぅやる、当たい前てえ」 ヨネや笑てぃ見しらんでぃそおたしが、夫ぬ話なたれえ却てえ、涙ぬ落てぃらんでぃるそおたる。 畑道ぬ左むてぃんかいや前比嘉家ぬ田ぶっくゎぬあたん。田ぶっくゎあ山なかい囲まってぃ、又田と山ぬ間あ畑小なとおたん。うぬ畑小前なち、山ぬ斜面んかい前比嘉家ぬ壕や掘らっとおたん。やしが田んかいん、艦砲弾ぬ跡ぬ幾ちんあたん。 「大道原ぬ壕や奥んかい深く掘てえくとぅ、何ん支え無えらんさ」 夫ぬ声ぬ耳んかい残とおたん。皆畑道ぬ横んかいあたるぐま道、降りてぃ行じゃん。うりから、又いふぃ小上いねえ、ぐな畑ぬあやい、壕やうぬ直ぐ側んかいあたん。 全六や一時ん早くんでぃ思やい、村屋んかい向かたん。戸ん窓ん未だ開きらっとおたん。 「区長、親泊主、前比嘉しんかぬ全六どぅやいびいしが」 区長ぬ親泊主や開ちょおたる窓から首ねえてぃ面見したん。全六が荷持っちょおし見ち、直ぐに避難ぬ連絡どぅやるんでぃ悟たん。 「前比嘉しんかあ、まあんかいちやが」 「我ってえ大道原んかいちやいびいしが」 「あは、あまんましやらはじや。いっ達嫁ぬヨネや大腹どぅそおい、あま走いくま走いんならんくとぅ、いいばすやさ」 言やがちい区長や区民避難簿んかい書ち留みとおるふうじやたん。 「あんしえなあ、ゆうし行きようや。御主前ん婆前やかなとおみせえさに」 「あっせ、あぬ二人やてぃから、我っ達やか頑丈やらりいんよ。あんし親泊主達や何時え避難しみせえんちやいびいがや」 「明日どぅないぬはじや。だあ、村屋ぬ事ん構らんでえならんあい、未だ連絡ぬ来うん家庭んあい、村巡らんでえならんはじやい」 「忙さみせえさや。我ってえ先ないびらい」 大道原んかい向かとおる畑道んかいや避難すぬ人ん達ぬ姿ぬ見ゆたしが、なんずかあ居らんたん。全六ぬ家組あきっさ、壕ぬ前んかい立っちょおたん。全六が坂から降りてぃ来ゅうる足音聞ち御主前がとぅん返えたん。 「全六、区長やいち逢あらりいたんな」 「いち逢たんど」 「与那城ぬ人ん達や、いいくるまあんかい、避難そおがや、大道原んかい向かとおる人ん達や、あんすかあ居らんねえそおしが」 「うんな話すぬゆちみえ無えらんたんど。ただ連絡びけんどぅさる」 「やたみ。とおあんしえ全次、汝から入っち、うぬ莚敷けえ」 御主前が壕ぬ中、見ちから言ちゃん。 壕ぬ中んかい入ゆる細穴あ六尺びけえ長さたん。中あ十畳びけんやあいぎさたん。 「入り口ぬ前まんぐらぬ中じんかいや座らんきよ。艦砲ぬかきぬ飛でぃ来ゅうるばすんあるはじやくとぅ」 「良う造らっとおっさや」 全次が莚敷ちゃれえ、座らしくなたん。ヨネや肝ひじょおたん。奥んかいや砂糖樽から道具物ぬあるっさ置ちきらったん。日ぬ長さくとぅんでぃち、樽郎とぅ全六お壕ぬ蓋造ゆるたみなかい近くぬげえみんかい、鎌とぅ鉈持っち行じゃん。木ぬ枝とぅ薄刈やい、壕ぬ前んかいかやあち来ゃん。 「枝とぅ枝、束ゆる綱持っち来れえ済むたるむんや、御主前」 「だあ、なあ今々なてぃる来ょおくとぅ、不足ぬあらわん、仕方あ無えらん。何が枝ぬ皮剥がちん使あらりいしえ」 入り口え細穴小どぅやたくとぅ、なんずかあ手間あかからんたん。 砲弾ぬ音ん遠さんじるそおたくとぅ、ヨネとぅカマや畑んかい行じゃん。 「今ぬうちなかい、採らりいるむのお諸採とおかなやんでぃ思てぃ。いいばす畑道具もっち来ぇえさ」 やしが、なあ夜やゆっくぃらんでぃそおたくとぅ、芋大根そうなむんやいふぃ小どぅ採らりいたる。壕うとおてぃぬ初みてぃぬ夜お家から持っち来ぇえる芋煮とぅ黒砂糖どぅ食だる。味噌汁ん飲み欲しゃあたしが、火使ゆるくとお御主前が応さんたん。 樽郎御主前や明治十二年ぬ生まり。若さるばすおハワイんかい働ちいが行じょおたん。安手間小どぅやいやすたしが、くめえきやあなてぃ、家んかいちゃっさきいなあぬ銭送たるばすやん。二十才半らんじ、ハワイから戻てぃ来ゃるばす、樽郎や自が儲きてぃ送てえる銭や諸貯みらっとおるはじんでぃ思とおたん。やしが彼が送たる銭や諸、弟ぬ兼輔ぬ学費とぅなてぃ残てえ居らんたん。樽郎やちるだいそおたんでぃぬ事。弟お学校ぬ先生なてぃ後、西原ぬゆかっちゅ宮城家ぬ婿とぅなてぃ栄ん人なとおたん。樽郎や先妻とお男ん子一人や産ちえたしが、短気我強うなてぃ、別かりゆる目とぅなたん。カマとぅめえたるばすからあ又んはまやあなたるばすやたん。 壕ぬ中うとおてぃぬ初みぬ二、三日びけんや、近くんじ砲弾ぬ音んさんあい、食むしんあたくとぅ、やあやあとぅ暮らちょおたしが四日目まんぐらからあ近くんかいん砲弾ぬ飛だい落てぃたいすぬ音ん大ぎくなてぃ、地んゐいちゅんねえしなてぃちゃん。又銃弾ぬ音んまるひっちい聞かりんねえしなてぃちゃん。弾ぬ飛ぶる音おひゅうないひゅうないし、実に風吹ちぬぐとぅどぅあたる。 前比嘉ぬ家組あ、なあ壕から一足ん出じゆる事んならんなとおたん。夜なてぃん、何時が艦砲弾ぬ飛でぃ来ゅうらんでぃ思いねえ、どぅく恐るさぬ寝んじゅる事んならんたん。又食むしん黒砂糖びけんけえなてぃ、童ん達や、やあさ思いし泣か泣かそおたしが、「泣ちいねえ、外んかい出じゃすんど」んでぃ言しが御主前ぬ口癖なとおたくとぅ、諸とぅるばてぃうっちんたあどぅそおたる。 やしが、全三びけんや時々大泣ちさん。うぬかじヨネが抱ち守い寝しんらんでぃさしが泣ち止むるくとお無えらんたん。 「口強う強うとぅ覆らに」 強く覆いねえ全三やゆくんちじどぅないたる。御主前やくさみちょおたしが、如何んないるむのおあらんたん。 幾日が過じたら、黒砂糖びけん食みいねえ、水ぬ欲しくないくとぅ、たでえまなかい飲むる水ん無えらんなたん。夜んゆっくぃてぃ、諸、喉ぬ渇きとおたん。誰んなあ、にじゆるくとおならんなとおたん。 「御主前、我のお水汲でぃ来ん済むがや」 全六があん言ちゃれえ、御主前や何でぃん言やんようい、諸が水筒集みたん。 「今、外んかい出じいねえ、射りくじらりいんしが、一時あ待っちょおけえ」 やしが、御主前や諸が水筒、胸んかい抱ち外んかい出じてぃ去ちゃん。 「あいな御主前」 カマがあびたしが、きっさ夫ぬ姿あ見いらんなとおたん。うぬばす、あったに照明弾ぬ明がてぃ、まんぐらあ昼ぬ如なとおたん。 「一大事なとおっさあ」 全六お壕ぬ細穴から首出じゃちぬばがたん。照明弾なかい照らさってぃ、動ちいねえ、射りくじらりいしが。樽郎や一時間びけんしから戻てぃ来ゃん。外てえる着物なかいや芋大根ぬ包まっとおたん。諸ぬ水筒んかいや水ぬ満っちょおたん。樽郎や笑え誇とおたん。 「いいばす、明がとおたくとぅ、畑までえ行じ、田ぬ側ぬ溝んじえ、浴みてぃ来ゃさ」 「はっさいよ、汝みえ、なあ物ん思まあん」 カマや涙落とぅちょおたん。 うぬ後、まるけえてぃ、畑んかい行ちゅんねえしなたしが、二十日びけえ経っちゃる頃、なあまんぐらぬ畑んかいや採いる物お無えらんなとおたん。やしが、全三やどぅくようがり強さぬ骨とぅ皮とぅなやい、腹びけんや膨っくぃてぃ来ょおたん。あいゆかん、栄養失調なとおるふうじやたん。物食むる力ん無えらんなてぃ、時々大泣ちびけんどぅすたる。弾、砲弾ぬ音お、くぬ前やか遠さなとおたしが、止むる事お無えらんたん。やしが、いちゃさきいぬ弾ぬ壕ぬ前ぬ畑んかい射りくじらったるばすいや、とおなあ、近くまでぃアミリカ兵がる来ょおるんでぃ思まありいたん。 壕んかい入っちからやがてぃ一ヶ月びけん過じたるばすぬ事やたるはじ。外あ明う暗うなとおたん。全三や又ん大泣ちし、ヨネがちゃっさ口覆てぃん、なあふしがらんたん。樽郎や立ち上がい、ヨネが抱ちょおたる全三、ちゅうちゃん、取いあぎてぃ抱ちゃん。ヨネや肝ちい返らちゃん。樽郎が全三外んかい、出じゃする積合やるはじんでぃ思とおたくとぅやん。 「御主前、どうでぃん、許ち呉みそおれ」 「うり一人ぬたみなかい、諸が殺さりいねえ、じゃへえやしが。なあ全三や腹ん膨っきとおい、死ぬしえ時間ぬ問題どぅやくとぅ、我がまあがらんかい置ち来ゅうさ。諸ぬたみどぅやくとぅ、許しようや、ヨネ」 あん言いねえ、樽郎や全三、抱ちゃるまま、外んかい出じたん。ヨネやそう抜ぎてぃ外んかい出たん。あんし、御主前ぬ腕から全三くん取たん。ただんちょおん、よおがりとおたるヨネどぅやたしが、くぬ一ヶ月が間なかい、ゆくんけえようがりとおたん。男から赤ん子、取い返するあたいぬ根気ぬ残とおたがやんでぃ思てぃ樽郎や驚ちゃん。 「許ち呉ぃみそおり御主前。我ねえ、うぬ子が肝苦さぬないびらん。肝ん忍ばりやびらん。自し、まんがらんかい置ち来ゃあびいくとぅ、どうでぃんうぬ子我ぬんかい」 あんし、壕とぅん返えたん。 「信子、全次、いっ達や、くまんかい居とおきよや。あんまあや一時行じ来ゅうくとぅ」 あん言しとぅまじゅん、ヨネや前ぬ畑道、走合なたん。大腹どぅそおたしが、足あぐるさるあたる。暗さんあい、御主前や追い付ちゅる事んならんたん。 やがてぃ、砲弾ぬばんない落てぃ来ゃん。弾ん嵐ぬ如、飛ばあ飛ばあそおたん。直ぐ側んかい砲弾ぬ落てぃてぃ、炸裂さるばすお、ヨネやなあうりまでぃどぅやるんでぃ覚悟さん。田ぬ側ぬ土手んかい長這いし、産子抱ち、腹苦さぬ涙ぬ止まらんたん。うぬ目どぅやてぃから仕方んないみ。 「我とぅまじゅんやくとぅ何ぬしわんねえらんどおや全三、父ん一目や見じ欲しゃたんや。やしが信子ん全次ん如何がないら」 何ちがやら、全三やうぬばす泣ち止だん。 「あんまあ」 「今、『あんまあ』んでぃる言ちゃるい全三。あんまあがる抱ちょおんど」 うぬばす直ぐ近さんかい砲弾ぬ落てぃやい、魂抜ぎるか大ぎ音ぬさん。「あようい」、ちゅてえや耳ぬ崩りとおいぎさたん。全三や又ん大泣ちさん。ヨネや全三まん抱ちゃん。 「うやふじん達ぬ前んかい行ちゅる、何ぬしわん無えらんどおや、全三」 童ぬばすからぬ事ぬ思い出じゃさったん。 まあふっくゎどぅやたる。トミあんまあや、我ぬんかい子守やあしみゆんでぃち、目やとぅざなてぃ、とぅめえてぃ歩っちょおたん。 「ひるましむんや、まあんかいが去ちゃら。今先までぃ、前ぬ大道んじる遊どおたぬはじやしが、姿ぬ見いらんなてぃ。くぬヨネよ」 今ん、あぬばすぬあんまあ声ぬ耳ぬ側んじ聞かりいる如どぅあたる。トミやどぅく、うふあびいんならな、うぬまま、我が学校んかい行ちゅし逃あらする他あ無えらんたん。又小さいにいぬある日、男ん達とぅまじゅん草刈いが行かさったるばす、隣ぬ男ぬ鎌刃がヨネぬ目んかい当たたるばすんあたん。うにいから片目や見いらんなとおたん。ちりみぬ全功から乞うらってぃ、にいびちさしん昨日ぬ如どぅある。全功やいへえ、肝弱さぬとぅくるんあたしが、我事お、でえじなかなさそおたん。全太郎ぬ生まりたるばすいや、あいゆかんいそうさぬならんたん。うぬ時分から夫お儲きいんがんでぃち、大阪ぬ鉄工所んかい、働ちいが行ちゅる事んかいなたん。まるけえてぃ、夫んかい手紙書ち送たいさしが、大和口え、なんぞおならんたくとぅ、手紙書ちゅるかじ、『オゲンキデスカ、コチラモミンナゲンキデス』んでぃち、同ぬ事びけん書ちゃるむぬやたん。家仕事ぬ暇々お、子ん達添うてぃ親ぬ家んかい、いいくる遊びいが寄しりたるむぬやん。 暗くなやい、砲弾ぬ音ん遠くなてぃ、まんぐらあ静かになてぃ来ゃん。ゆうしいねえ、助かいがすらんでぃヨネや思たん。やしが、うんな事ん一時小どぅやたる。何がなぬ音ぬ聞かりゆん。ヨネやくうてのお面うちゃぎたん。音お、くうてん小なあどぅやしが、次第に大ぎくなてぃ来ゅうん。足音やいぎさん。ひるましむん、人がやら、生物がやら。ヨネや目し確かみゆるたみなかい胴横がち、なあひん面うち上ぎたん。暗さああたしが、土手ぬ彼方から人やいぎさるむんぬ向かてぃ来ゃあぎいん。ヨネや肝だくみちし、全三まん抱ちゃん。むしかアミリカ兵やれえ、如何すが。足くんぱてぃ逃ぎてぃん、射りくじらりいるびけんどぅやるはじ。ヨネやしぐ側ぬげえみぬ中んかい隠たん。 うぬばす、全三が又ん泣ち始みたん。ヨネや片手し思ん子ぬ口覆たん。 足音ぬ主え、きっさ近くまでぃ来ちょおいぎさたん。立ち止まやい、くまぬ様子窺とおるふうじやたん。違たる事んかいなたるむんでぃヨネや思たん。 「友軍どぅやしが」 声ぬ主えぐな物言い小さん。アミリカ兵やあらんむん。ヨネやいへえ肝強くなたん。 「まあぬ誰がやみせえら」 声ぬ主え、なあひん近ゆてぃ来ゃあぎいん。うぬばす又ん全三ぬ泣ちゃん。 「いぃえ、うぬ声やヨネやあらに」 聞ちゃる覚いぬあぬ声やたん。 「全功、全功どぅやるい」 全功や走合なてぃヨネぬ傍んかい来、あんし足まんちいし、ヨネぬ面抱ちゃん。 「あきさい、うん如おる事んちん、あがや、全功。無事やたんなあ、まあん怪我しえ居らに、まあん痛まちぇえ居らに。あんし、生ちち、いち逢ゆる事んなてぃ、でえじな、いそうさぬならんむん」 ヨネや夫ぬ面んでえ腕んでえ触やあ触やあさがなあ、涙ぬ落てぃてぃふしがらんたん。 「何がなあ全三とぅ、くまんかい居る」 「全三が壕ぬ中んじ、どぅく泣ち強さぬる出じてぃ来ゃる」 ヨネや、御主前ぬ肝障いぬたみなかい壕から出じゃさったんでえ言やんたん。うんなばす、夫わじらちん、ゆうちらん無えらん。 「あんどぅんやれえ、でぃか、あぬギンザヤ洞窟んかい一時あ行じょおかな」 あい言る洞窟あ壕ぬ近くんかいあたん。自然ぬ洞窟なてぃ、三、四人ぐれえどぅ入らりいたる。岩壁なてぃ掘てぃ大ぎくすぬ事お、ならんたん。ひっちい畑すぬばすお、ゆくい所とさあい早こお、使とおたしが、一けんハブぬ出じてぃからあ使らんなとおたん。 「あまあハブ所どぅやしが」 「支え無えん、うっさ艦砲ぬ落とぅさっとおてぃ、まあがらんかいやてぃん、逃ぎてぃ居らんはじど」 三人やギンザヤ洞窟んかい行じゃん。全功や上着ぬポケットから缶詰取てぃ見したん。アミリカ物やたん。 「道んかい落てぃとおしる拾てぃ来ゃる」 全功やあん語たるむぬやしが、本当や死じ倒りとおたるアミリカ兵ぬリュックから取たるむんどぅやたる。全三や缶詰食でぃ、泣ち止どおたん。 「やしが全功、汝みえ如何し、くままでぃ、来ゃくとぅ」 全功や自ぬ部隊が全滅さあい、与那原から這うやあ這うやあし来ゃる事言ちゃん。 「平生やれえ、一日し来らりいしが、這うてぃるやくとぅ四日かかたんてえ」 「あんし、全栄、全一や如何なたが」 「弟ん達とお部隊ぬ違いくとぅ、分からんさあ。あぬ二人が事お我ぬんしわやさ。うりえ、済むしが、でぃか全三や泣ち止どおい、大道原んかい戻らな。食むしんあい」 歩っちがちい、全功や島尻んじぬ事語たん。 「いいばす、いが家組あ島尻んかい行かんてえさ、あまんじえ、あいゆかぬ戦場なてぃ、亡あちょおる人ぬまんどおたっさあ」 「やんな、やしが、いがろう家や如何がなたらや。ぬばがいるゆちみえ無えらんたんな」 「じょうい、うんなゆちみぬあみ」 ひるましむん、夜中どぅやしが、壕ぬ上ぬ薄原んかいや、まあからが逃ぎてぃ来ゃらあ、馬ぬ立っち草喰とおたん。全功や壕ぬ入り口んじ、ぐま物言いさん。 「御主前、我どぅやしが、全功どぅ。ヨネん全三んまんなどな」 あんされえ、御主前が入り口まで這うてぃ来ゃあい、ぐま物言いさん。 「あきさい、確か全功どぅやるい。何ん支え無えらに」 樽郎や何がやら、怖るさそおいぎさたん。 「何ん支え無えらんしが、何がなあ」 「いぇえ、今先、壕ぬ上辺んかいアミリカーぬ居たしが、如何なとおが」 全功や、いへえ驚ちゃしが、ゆうさんでえ、馬ぬ事どぅやるはじんでぃ思やい笑たん。 「いいゆいなあ、上辺んかい居しえ馬どぅやしがる」 「馬、あっし、やな馬小ひゃあ、人驚かち」 樽郎ん笑たん。ヨネ達三人や壕ぬ中んかい入っちゃん。全功や自が如何し、与那原ぬ前戦から逃ぎてぃ来ゃがんでぃ言る事、又道中んじ全三抱ちょおたるヨネとぅはっちゃかたる事語たん。ヨネとぅ全三ぬ事、しわそおたる壕ぬ家組あ、諸うみなあくなたる思いそおたん。子ん達ん諸いそうさし、じまま泣ちょおたん。樽郎んヨネんかい謝たん。 「とおなあ、静かにさんでえ」 今度お全功があん言ちゃん。 「やしが、全功、あぬ馬、如何がな殺ち食むる事おならに」 「あっさ、如何な、やあさあらわん、物ん言んねえしる言る、御主前。くんな戦場んじ、馬殺ちゃい、炊ちゃいんないてぃから」 あん言ちから、全功んかい缶詰入りてえたる事、覚い出じゃち、皆んかい配じゃん。 「アミリカ兵達や、あんすかまあさむん食どおるばあな」 皆ゐいりきさいぎさたん。 「やくとぅよ」、全功や語い始みたん。「食み物ん違ゆい、日本軍とお、じょうい、比びららんど。あっさ、いぃえ、うひぬ海いっぺえ、諸アミリカぬ艦隊どぅやんど。なあ、日本が負きゆしえ、時間ぬ問題どぅやる」 「うりえなあ、初みから分かとおる事」 ハワイんじ六年が間、暮らちょおたる樽郎やアミリカが物資豊かやる事、良う知っちょおたん。 「日本がんでえ、アミリカなかい、じょういかねえみ」 うぬ日から又幾日が過じたら分からん。起きいねえ、壕ぬ傍ひらあ、何がやら、むさげえとおたん。 外んじえ幾十人がやらアミリカ兵達が何がな、あびとおたん。壕ぬ中あ、ちゅうちゃん、わさみちゃん。樽郎や立ち上がやい、あんし壕ぬ入り口んかい行じ這うたん。 「如何すが御主前」 友軍なかい何ぬ事ぬあらわん、降参しえならんでぃち習あさっとおたる全功や色青じゃあなとおたん。樽郎や落てぃ着ちょおたん。 「とお、今ぬ暇お、何しいびちやがんでぃ言る事お、我が良う分かとおん。皆我がすんねえしるすんどおや」 樽郎や壕から出じてぃ、二ち手高々とぅ上ぎやい、アミリカ兵んかいあびたん。 「ヘルプアス、プリーズ」 あんし、前比謝家ぬ人ん達や南風原ぬ収容所まで添うらってぃ行じゃん。やしが、全功びけんや、兵隊すがいそおたるくとぅなかい、別ぬ所んかい添うらってぃ行ちゅる事んかいなたん。 「我事おしわさんてぃん済むんど」 全功とぅヨネや又ん別りいる事んかいなたるばすやん。ヨネ達前比嘉家ぬ家組が南風原ぬ収容所んかい着ちゃしえ、きっさ夕さんでぃなとおたん。うぬ収容所お周いや金網なかい囲らってぃ、中んかいやテント小屋ぬ幾ちん並どおたん。一番大ぎテントぬ側んかいや、ちゃっさきいなあぬ荷まじでえるアミリカ軍用トラックぬ停まてぃ、幾人がなぬアミリカ兵ぬ立っちょおたん。あんし一人が何がなあび始みたん。大和口やいぎさたん。 「何んでぃ言ちょおくとぅ」 ヨネとぅカマや大和口え、受き取いゆうさんたん。 「食む物配じゅくとぅ並びんでぃ」 トラックぬ前や、ちゅうちゃん、わさみはん。うぬ夜からまあさ物食むる事ぬなやい、収容所ぬ人ん達や、でえじな、いそうさそおたん。昨日迄ぬ戦がる夢がやたら、今やあやあとぅそおる事がる夢やら。誰んでぃん無えらん、うぬばすお収容所ぬ人ん達や皆、アミリカ軍、褒みてぃる居たる。 収容所んかい入りらってぃ三日目ぬ夜ぬ事やたん。中ぬ人ん達や、いっそうから、歯ぎしまあするかくさみちゅる事んかいなたん。 夕飯ぬん済まち、大概ぬ人が寝んだでぃそおたるばす、幾人がなぬアミリカ兵がテント小屋ぬ中巡てぃ歩ちょおたん。手んかいや小銃持っち、目やとぅざなてぃ、女とぅめえとおたん。一人ぬアミリカ兵が、ヨネぬ隣んかん居たるみやらび、手し手招ちそおいぎさたん。うぬみやらびや何がら悟たるふうじなてぃ、大あびいさるむぬやん。 「我ねえ嫌やしが、あんまあ」 やしが、うぬみやらびやアミリカ兵なかい、手引かってぃ添うらってぃ行じゃん。 なあ一人ぬ兵隊が、今度おヨネ見ち同ぬぐとぅ手招ちさん。ヨネやどぅく恐るさぬ思らじに、手し全三ぬ口覆とおたん。恐るさぬ事ぬあるばすいや、童ぬ口覆ゆる慣りいがなとおたらあ分からん。うぬアメリカ兵や大あびいさあい、ヨネぬ手引ち、ひっ立てぃらんでぃさるむぬやしが、樽郎がうぬアミリカ兵んかい何がなあびたん。うぬ兵隊やヨネが大腹そおる事ぬ分かやい、手けえ離ちゃん。やてぃ、ヨネやけえどぅ返りたん。「あよいな」、地んかい腰強う強うとぅ打っち、ヨネや、ちゅてえや、立っちいさんなとおたん。 うぬ日やテントぬ中から八人ぬ女が添うらってぃ行じゃん。男ん達や初めえ、わさみちょおたしが、アミリカ兵達や小銃どぅ持っちょおくとぅ、てえんたたりいみ。腸苦しゃ思いさがなあん、ただとぅばてぃる座ちょおたる。ニ日後ん、又別ぬアミリカ兵達がテント巡いしいが来ゃん。 今度お、樽郎がにじゆる事んならな、又ん英語し何がなあびたっ加あちょおいぎたん。やしが、樽郎や一人ぬアミリカ兵なかい押し転ばさったん。やてぃ、かあま奥ぬ方んかい居たる別ぬアミリカ兵が気に付ち走合なてぃ来ゃん。あんし、うちなあぬ女添ういが来ょおたるアミリカ兵達やうぬ夜お、やな口さがちい、帰てぃ去いたん。 「ヨネ、今、アミリカーが三人、家ぬ後から門口んかい向かとおるとぅくまやさ」 外すう目そおたるチルがぐま物言い小さん。 「あねとお、去いたん。やしが、ちゅてえや、うぬままそおきよ」 「あっさ、チル、童ぬ口覆いねえ、戦ぬばすぬ事どぅ思い出じゃすっさあ。なあ今からあ平和世んかいがなてぃ行ちゅらんでぃ思とおたしが、今ん戦世ぬ如るあるむんな。沖縄や如何がなてぃ行ちゅら。やあ全清」 全清や涙くるくるうなとおたるあんまあ見ち、手拳突ち上ぎやい振い回ちゃん。 終
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