比嘉 清:作 |
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平成27年3月 | |
見い知らん従姉U 「いぇえあんし」 四郎や、「大ぎい主」んでぃぬ徒名や、宮城史春ぬ村会議員そおたる事んあてぃ、与勝半島ぬ人ん達やれえ、いいくる知っちょおいびいたしが、遠さ離りとおる具志川まんぐら迄、聞かりとおたんでえ思やびらんたん。 麻里子や、四郎がふぃるまさそおる面うちきそおいびいたくとぅ、目笑えどぅさびたる。 「あんせえ、大ぎい主や、我男ぬ親どぅやみせえるむんぬ」 四郎や、うり聞ち、肝内んじえ、大どぅん舞おいさびたしが、首横がち、一けのお、窓ぬ外んかい目向きてぃから、麻里子ぬ面、しょう目さびたん。 ちゅてえや、何んでぃちが、言ち済むらあん分かやびらんたん。あんしいねえ、宮城史春叔父さあや、ゆうべえ[1]ん居いがさびいたら。あらんでえ、ただ、肝浅さどぅあいびいたがやあ。うんな事お、四郎や誰からん何ん聞ちゃる事お、無えやびらんたん。 四郎や、ふぃるましん、何がやら、いふぃえ、肝ぬ何処がなんかい寂っさ思いぬあんねえ、思やびたん。やしが、何ん寂っさする訳ん無えん筈やいびいたん。 如何な何やらわん、「あんせえ、麻里子さん、うんじゅお、大ぎい主ゆうべえぬ子どぅやるい」んでぃち、訊ちゅる事んないやびらん。 長えさ、とぅるばとおちいねえ、異風なあやいびいたくとぅ、四郎や、何がな言る事にさびたん。 「…いぇえいぇえ、あんしいねえよお、うんじゅお、大ぎい主っ子、宮城史春ぬ女ん子どぅなとおるい」 何ん、温ちらし返さあさあに、確かみらんてぃん、済むるむんぬんでぃん、思やびたしが、出じゃち後から、又とぅ飲みやないびたん。 「んん、あんなとおるばあてえ」 「あんしいねえ、我とお、従姉同士どぅなとおせえ」 「んん、あんやるばあてえ」 言ちゃい外ちゃいするうちにん、四郎や又ん色んな事、考えやびたん。 「あっさばよお…。何やふぃるまさが」 四郎や、いいくる、自一人物言いぬ積む合どぅやいびいたる。 「あいなあ、四郎主ん、分からんどぅあたるばあなあ」 「誰からん聞ちん、んだんたっさあ」 四郎達金城ぬ家ぬ、宮城ぬ家とぅ隔み持ちゅんねえなてぃからあ上辺びれえびけんけえなやあに、伸ばがい影見しゆる事ん、いきらくけえなてぃどぅ居たんでぃち、話さんてえまん、麻里子や、ただ、ふぃるまさするうっぴがやたらん分かやびらんたん。 「んちゃ、大ぎい主や、我っ達母、退ちからあ、なあ、我っ達母ぬ話やさんなとおんでぃる聞ちょおくとぅやあ、うんじゅが、分からんてぃん、うりん仕方あ無えらんさ」 あん言ちゃる麻里子やしが、彼女が項お、いふぃえ、寂っさぎさそおいびいたん。 「あらぬよお、大ぎい主やよお、戦ぬばすんじ、自ぬ妻ぬウタぬ、けえ亡あちゃんでぃ、勘違えそおびいたるばあてえ。あんさあに、我母傍んかい、乞ういが来ょおたんでぃよお」 麻里子ぬ話に拠いねえ、戦後、南洋ぬ戦場から戻てぃ来ゃる宮城史春お、自ぬ妻ぬウタぬ米軍ぬ収容所んかい入りらっとおる事ん分からな、戦ぬばすんじ、けえ亡ちゃんでぃ思やあに、戦前ぬなあふぃん、若さたる時分に、一時あ、懇るうなとおたる麻里子ぬ母、「妻」にさんでぃぬ事やいびいたん。 戦ぬばすぬ事やれえ、んちゃ、うんな事んあら筈んでぃ、四郎や思やびたん。 「やしが、我母ぬ、我とぅ、なあ一人ぬ子産ちからどぅやたんどおやあ、大ぎい主や元ぬ妻ぬウタぬ生ちょおる事ぬ分かてぃ、彼女が傍んかい、戻てぃ行じゃしえ。うぬウタん、二十年前んじ、居らんなとおる事お、うんじゅん、知っちょおる通いやさ」 「…」 「大ぎい主んかい如何ぬ様ぬ事情ぬあらわん、我っ達母や、やすんじてぃん、やすんじららな、泣ちどぅ、暮らちょおたしが、産し思ん子ん、二人ん居い、何時迄ん、ゐいるう泣ちいさあに、じゃあまてぃいまし、居る事んならんたるばあてえ」 四郎や、言葉ぬ返し道ぬ分かやびらんたん。 「いいばす、幸えな事に、我っ達や、女姉妹びけんどぅやたくとぅ、宮城ぬ家、継じゅみ、継がに、んでぃぬ問答や、さんてぃん済むたん。やしがよお、我っ達あんまあがる肝苦しいむんやんてえ、女ん子、二人産ちぇえる女身どぅやせえやあ、なあ妻さあん居らな、銭じいらん入っち、ちゅてえや、バーんじ働ちょおたしが、親戚ん達、友ん達ぬ諸なかい、びっすうさったる為なかい、むとぅうしいゆさな、うぬ後からあ、哀りぬだんだんそおたるばあてえ」 うんな事迄え語らんてぃん済みいるするんでぃ、四郎や思とおいびいたしが、なあ麻里子ぬ物語や、止しまりやびらんたん。 「うぬうちなかい、男ぬ連おいが来ゅうんねえ、なたんよお。見知らん男どぅやたしが、我っ達姉妹んかい、ぐま使え小、取らちゃいすたくとぅ、金持ちえ、やたる筈。我ぬん、だあ、銭飢がりどぅそおたくとぅ、銭、得いらさりいねえ、でえじな、いしょうさたんよお。やしが、妹小や、うぬ男、でえじな、はごうさそおたんよお。幼いにいから、母追うやあやたしが、丁度、男ぬ巡てぃ来ゅんねえしなたる時分や、なあだ小学一年生どぅないたしが、あっぱんがれえすんねえし、なてぃ来ゃるばあてえ」 「…」 「やしが、いぇえ、四郎主、とお、聞ち取らしよお。ある日、安慶名ぬ市んかい、大ぎい主ぬ、買おい物しいが、参ちょおたるむぬやしが、ひょうしなむん、うぬばす、我っ達母とぅ、はい行ち遭たるばあ。あっせ、うりからどぅ、我っ達母ん、大ぎい主ん、けえ違たる筈どお。又ん、懇るけえなたるばあてえ。あぬ金持ちぬ男とぅ別りやあによお。あんし、胴易く、男替えらりいるむんがやら…。うりからどぅやんどお、ゆくん、宮城ぬ家から、でえじな、くしさりいんねえしなたしえ。」 うぬばすお、麻里子ぬ母が宮城ぬ家からくしさっとおんでぃぬ話や、麻里子ぬ自一人考えどぅやるんでぃ思てぃ、四郎や、色分きてぃ、肝に掛きやびらんたん。 何んでぃちが、言ち済むらあ分からんたる四郎や、取い屈にてぃ、訊ちゅる事おさびらんたん。 「あんし、うんじゅが母や、かなっとおみせえんなあ」 「んん、今ん、頑丈やんどお。なあ、歳やしがてえ」 「汝がる見考えそおるばあ?」 「んん。やしが、今ん頑丈やくとぅ、何んくぃん、自しどぅすんどお。病んしえ見だんどぅあくとぅ、我ねえ、母、頓着らあさる事んしえ見だんむん」 「あんせえ、上等やさ」 「本当やれえ、母ん、明日ぬ荼毘んかい、来い欲しゃそおたしが、だあ、色々あてぃ、行からんせえ」 「あんでぃちぇえ、無えらんさに、うんなばあびけんや、宮城ぬ家ん、やすんじてぃ取らすぬ筈やしがやあ」 「やてぃん、母や、行かん考えどぅそおるむんぬ…」 「やん?」 「いぇえ、んちゃよお、我っ達母ん、四郎主ぬ事お、良う、知っちょおんどお」 麻里子や、ちゅうちゃん、話、変えやびたん。 「へえ、何んでぃち?、我ねえ、知らなそおてぃ」 「あい、汝っ達母ん、我っ達母事お、良う知っちょおる筈どお。我っ達母名や真鶴んでぃ言くとぅ、汝っ達母んかい、聞ちんでえ」 「だあ、我っ達母ん、此ね間、けえ亡あちょおくとぅよお」 「あい、やたんなあ。分からんたん」 「四十九日にん、くぬ前どぅ、うちなちょおんどお。我っ達母からあ、汝っ達話や聞ちぇえ見だんたっさあ」 四郎や顔振いし見しやびたん。 「我が[2]ろうが、中学生やたるぬばす、西原ぬ村芝居んかいや、我ねえ、母とぅまじゅん、やたせえ」 「やたんなあ、分からんたっさあ」 「あんまあが、うんじゅ見ちよお、『あり、あぬ男童え汝従弟なとおくとぅ、見い知ちょおけえ』んでぃ言たんどお」 「へえ、やたんなあ」 四郎や「だあ、あんせえ、我ねえ、うんにいや、うんじゅびけんどぅ見ちょおたくとぅ」んでえ、当たい前ぬ事、言やりやびいみ。 何ん諸、知らんでぃ、言しん、また、異風なあやいやすたしが、知っちょおん振うなあすしやかやましやんでぃ思やびたん。やしが、麻里子や、うんな事お、何ん、肝に掛きてえ居らんぎさいびいたん。 「やしが、我ねえ、今日や、うんじゅとぅ物語合ぬなてぃ、でえじな、肝ふぃじ、いしょうさぬならんさ」 「我ぬん、行会てぃん見だん従姉ぬ居んでえ、思あんたっさあ」 「我っ達母ん、だあ、親戚んでぃちん、なんぞお居らんくとぅ、我ねえ、でえじな、親戚飢がりどぅそおたる」 麻里子ぬ、「親戚飢がり」んでぃぬ物言い様ぬ面白さぬ、四郎や、其ぬばす、初みてぃ覚らじに、高笑え、けえさびたん。 あんされえ、寂っさる思いん、まあがなんかい、ふぃっ飛でぃ行ちゃびたん。うぬ拍子なかい四郎や思やびたん。 肝ぬ何処がなんかい、麻里子が事、思とおたる筈やいびいたん。やしが、親戚同士とぅしち、物語合そおるうちなかい、ふぃるましむん、恋心持っちょおたる肝ぬ持てぃ成しん、うっ飛っでぃ去ち無えらんなとおいびいたん。 うぬ事くるん、考え様にゆてえ、また、寂しいむぬんやいびいたしが…。 うぬうちなかい、麻里子ぬ安慶名ぬ家ぬ近くぬ大道迄来ゃあびたん。 「とお、くまりかあやさ」 麻里子ぬ合図し、四郎や車停みやびたん。 とおなあ、くりし、麻里子ぬぜえりふぇえりから、逃あらりがすらんでぃ、思いねえ、四郎や、片心許さびたん。うぬばすお、車停みいや、かたくじら、麻里子ぬゆんたくお、ちゅてえや、あった凪るでぃさびたん。 うぬばす、四郎や思やびたん。今日ぬ如し、女ぬぜえりふぇえり聞ちゅしえ、今だ如やいびいたん。ぜえりふぇえりんでぃ言いねえ、麻里子んかい、無礼がないびいらあ。 麻里子や車ぬドア開きやあに、助手席から降りやびたん。 「今日や、なあ、大ぎい主ん、いしょうさしんそおちょおさ」 今先、「我男ぬ親」んでぃ言ちょおたるむぬ、くぬ「大ぎい主」んでぃ言る物言い様や、いふぃえ、他人風儀し聞かりやびたん。四郎ぬ考え過じがやいびいたら。 「とお、あんせえ、汝子ん達ん、待ちかかんてぃいし居る筈やるむんぬ」 四郎ぬ、あん、けえ言ちゃる拍子なかい、麻里子や、またん、口ぱあくう、しいぎさあなやびたん。 「我ねえ、子あ、居らんどお」 「あい、やんなあ?」 「今あ、母とぅ二人どぅ居る」 「あんし、妹お?」 「夫持ち、内地んかいどぅ居んどお」 「やんなあ、あんせえ、汝っ達母とぅ、妹んかいん、沙汰し取らしよお」 「語とおちゅさ。仕えち取らち、にいふぇえどお」 麻里子ぬ手振とおし、見じゃがちいなあ、四郎や、肝内んじえ、焦ちがちし、実ねえ、よおんなあ、アクセル、踏だみやびらん。 「あんせえ、又、明日やあ」 やしが、なあ明日ぬ葬式ぬばすん、四十九日迄ぬ七日七日於とおてぃん、四郎や麻里子とぅ又とぅ話物語する事お無えやびらんたん。葬式ぬばあや措ちん、いやでぃん、七日七日ぬばすお、行ちえ違えがそおたら分かやびたん。やしが、四郎や、なあ、肝に掛きやびらんたん。ただ、世ぬ中んかいや、実に、ふぃるましい事ぬあるむんやんでぃち、ちくじく、思やびたん。 其ぬなあ明日あ、四郎や妻とぅまじゅん、ちがきてぃ、白明かがいぬうるみに起きやあに、宮城史春ぬ荼毘んかい行ちゅる支こういむこういさびたん。 「何が主、あんし気早さる。子ん達や学校んかい遣らちからどぅ、あまんかいや、行かりいるむんぬ」 「んちゃ、あんやたっさあ」 四郎や手かみやがなあ、言い訳さびたん。 妻ぬ智子ぬ、子ん達、学校んかい送てぃからぬ戻いや、いっそうまやかん、にっかけえなとおいびいたん。 今日ぬ出棺ぬんかいや、かき合あしゆさん事お、昨日ぬうちなかい、宮城ぬ米子んかい言ちぇえたるむんぬ、四郎や、何んでぃちが、焦しがちのおりそおたらあ分かやびらんたん。 後ぬうんじゅみ、家から出じたしえ、九時まんぐるどぅやいびいたる。 六十歳まんぐる迄え、村会議員ぬんそおたくとぅ、いちゃっさぬ美ら荼毘がやらんでぃ、四郎や、思とおたしが、宮城史春ぬ葬式え、並どぅやいびいたる。 麻里子や、葬式座んじえ、親戚席んかいや、居いびらんたん。 うりん、仕方あ無えらん事やんでぃ思やがなあ、四郎くるお、自ぬ兄弟姉妹ん達んまじゅん、親戚席んかい座っちょおいびいたん。肝ぬ暇、四郎や、手押合さあ達、一人なあ一人なあ、眺がみやびたん。 きっさ、麻里子ぬ事お、けえ忘りとおたるむぬ、うぬうち、手押合さあぬ一人とぅしち、麻里子ぬ、姿見しやびたん。 又とぅ良う、見じいねえ、いっぺえぬ美ら影やんでぃ、ちくじく、思やびたん。四郎や、彼女ぬ手押合さあちょおる手様足様、ちゃあ、見じいそおいびいたん。やしが、麻里子や、四郎ぬ傍あむさっとぅ、見だんでぃんさびらんたん。 四郎や、うりん済むんでぃ思やびたん。むしか、彼女が目ぬ四郎んかい向かあさりいねえ、四郎ん、目様口様し、応えらんでえならんたくとぅやいびいん。 葬式ぬ終わたれえ、四郎ぬ大兄ぬ夫婦びけんや、金城ぬ家ぬ諸ぬ兄弟姉妹ぬ代わいとぅしち、宮城ぬ家迄え、巡てぃ行かんとおならんでぃぬ事やいびいたん。 葬式後、位牌抱ちゃあぬ家んかい、近親戚ぬ行ちゅる習えや、家んじそおたる昔からぬ葬式ぬしい様ぬ名残いやいびいたん。 戦後、十幾年びけん過りてぃからあ沖縄人ん、葬式会場んじするあたい、いふぇえ、ゆちみ持っちゅんねえなとおるしいじやいびいたん。 「汝っ達、なあ家とぅめえてぃん済むんどお」 んでぃ、大兄ぬ太郎や四郎んかい言やびたん。 「あんしん、済むがやあ」 「へえ、だあ、あまぬ家や、狭ばさんあい、諸ぬ行ちいねえ、却てえ、あま方ん、御取持ちいやしいかんてぃいする筈どお」 「あんやてぃから、とおあんせえ」 四郎や大兄夫婦とぅ別りやあに、臨時駐車場んかい向からんでぃさびたん。 其ぬ臨時駐車場お、四郎が童やるばす迄え、田ぶっくぁどぅやたしが、今あ、田ぬ面影え、むさっとぅ、無えらな、さぼうりてぃ、野どぅけえなとおいびいたる。田やたる所ぬ側傍んかいあたるちゃっさきいぬ美ら松え、いっそうから切り捨てぃらってぃ、コンクリートとぅアスファルトなかい造らっとおる「美ら」大道んかい、けえなとおびいたん。 四郎や、其ぬうち変わとおる景色見ち、大息吹ちょおいびいたん。うぬばす、後から姉ぬ陽子声ぬさびたん。 「いぇえ、四郎、汝っ達や与勝んかいや、まるけえてぃなあどぅ来ゅうるむんぬ、でぃか、我っ達んかい、伸ばがてぃ見だん?」 あん言らりいねえ、嫌あないびらんたん。 「あんせえ、わざわざやるむんぬ、行ちいどぅする」 妻ぬ智子ん、いしょうさそおる風儀やいびいたん。 陽子ぬ側んかいや、夫ぬ森根靖主ん立っちょおいびいたん。「んちゃ、やさ」でぃ、四郎や思やびたん。靖ぬ親ん、宮城主とぅ同ぬ西原人やたくとぅ、大ぎい主ぬ事お、良う知っちょおる筈やいびいたん。 靖ん、四郎ぬ夫婦ぬ、自ぬ家んかい寄ゆる事ぬいしょうさがあたらあ、笑えかんてぃい小さそおいびいたん。彼え、陽子妻にさあに、家立っちからあ、あまくまぬアパートんかい家移いびけえそおいびいたしが、今あ、妻ぬ生まり故郷やる与那城んかい居付ちょおいびたん。 陽子姉ぬ今ぬ宿元お、昔え、馬走らしやたる所やしが、戦後お、ふぃるまさ、うち変わてぃ来ゃる行成ぬあいびいん。 戦前や、馬走らしやたるあたいぬ平原やたる為なかい、戦後ぬ一時あ、中国軍なかい取らってぃ、シマぬ人ん達ぬ「支那陣地」でぃ言ちょおる基地とぅなとおいびいたん。 中国軍や、勝ち国とぅしち、沖縄んかい来ょおたる風儀やいびいしが、うぬ用向ちえ、何がやたら、しかっとお、分かてえ居らん風儀やいびいん。やしが、シマぬ人ん達や、いやでぃん、戦道具そうな物とぅか砲弾でえぬ片付きかちする為えあらにんでぃ、沙汰さおいびいたん。 何がんでえ、彼っ達や、中国内於とおてぃ、内戦ぬ始またる為なかい、引ちなてぃ行じゃるむぬやいびいしが、うぬ跡んかいや、ちゃっさきいぬ軍鉄物ぬ残さっとおいびいたくとぅやいびいん。 まんぐらぬ人ん達かたくじら、与勝半島中から、うぬ鉄物、拾ゆんでぃち、鍬から、ツルハシそうなむん迄、ふぃ提ぎてぃ来ゃあに、地突付ちょおいびいたん。傍から見じいねえ、何がなぬ大普請やてぃん、そおる如おいびいたん。やしが、砲弾ぬんあたくとぅ、うりぬ爆発する乱り事ん、あいびいたん。うぬ故に、童一人ぬけえ亡ちゃる事んあいびいたん。 いいくる、夕さんでぃ前ないねえ、古鉄買おやあぬ馬車ぬ来ゃあに、人ん達ぬ拾い集みてえる古鉄買おてぃ、行ちゃびたん。 うぬうちなかい、古鉄え、釘一本ぬんちょおん、残あらんあたい、みいみいてえ、いっそうから、漁らってぃ、無えらんなとおいびいたん。 四郎ん、なあだ童どぅやいびいたしが、古鉄、売たる銭し、まるけえてぃ、映画[3]見じいが行ちゅる事んないびたん。 古鉄ぬ無えらんなたる支那陣地ぬ跡お、まんぐらぬ童ん達ぬ遊び所とぅなとおいびいたしが、沖縄ん豊なてぃちゃるまん頃からあ、家ぬ建てぃらりいんでえなやあに、今あ、狭ばやあしいちぇえ[4]そおる所んかいけえなといびいん。 此処ぬ実にぬ番地え、旧ぬ勝連町ぬ平安名どぅやいびいたしが、与那城んかいたっくぁあとおる事に拠てぃ、陽子姉達あ住所ん与那城んでぃち、通とおびいたん。 子ん達ぬ校区ん与那城小学校んかいなとおびいたん。自治会ん字与那城んかいどぅ入っちょおいびいたる。 字ぬ境や、行政区ぬ境やあらな、んまんかい住る人ん達ぬ考えとぅか、望みさあに、決まとおびいたん。 又、与那城やてぃん、金武湾表や与那城ぬ地番のおやいびいたしが、照間人ぬ住どおいびいたくとぅ、照間ぬむん風儀なとおびいたん。又、同ぬ金武湾なありいぬ東表ぬ所あ屋慶名人ぬ住どおいびいやたくとぅ、屋慶名ぬ領土風儀なとおいびいたん。実にぬ与那城お、海前なちょおるシマやるむんぬ、うん如うし、海端あ諸、余所ムラなかい取らっとおる風儀なやあに、海ん無えん、陸内ぬシマ風儀なとおいびいたん。 実にぬ住所お、勝連平安名どぅやるむぬ、与那城ゆ地盤とぅそおる市会議員ぬん県会議員ぬん居いびいたん。 やしが、其りにちいてえ、まあぬシマん、互えに、じいぐいひゃあぐい、ごうぐちえさん、習いなとおびいたん。 ようい、ちゅてえ小しいねえ、姉ぬ家んかい、うち着ちゃびたん。 「はいさい、寄しりやびら」 四郎や、玄関ぬ舞戸ぬ側んかいあたる呼び鈴、押すやびたん。家ぬ中からピンポンでぃぬ音ぬ聞かりやびたん。 「あげ、さっていむさってぃむ、家ぬ中んかいや誰ん居ならそおてぃ、呼び鈴鳴らちゃい、挨拶さいすんちんあんな。何ぬてえふぁやくとぅ?」 陽子や、片口笑えさびたん。 「あらん、先じえ、うりん礼儀どぅやる。中んかいや、誰ん居らんてぃん、汝っ達家くるんかい、合図そおるばすどぅやんどお」 「あっさ、あんし異風な物言いやる」 てえふぁさがなあん、四郎や別ぬ事、思やびたん。 家ぬ中んかい、入いねえ、陽子や、直、台所んかい向かやびたん。 「だあ、汝っ達、コーヒーし、済むん?」 言やがちい、陽子や台所ぬ水棚ぬ前んじ、御客ぬ方、とぅん返えやびたん。 「おお、コーヒーどぅましやる」 「手がねえすしんあん?」 智子ん、ソファーから、立ったんでぃさびたん。 「済むさ、智子、座ちょおけえ。支こうゆしえ、たでえまなかいないさ」 近親戚ぬばあや、御客お、いいくる、一番座ぬ畳座やあらな、三番座んかい置かっとおる物食まあテーブルぬ椅子んかい座しらりやびたん。 陽子夫ぬ靖ん西原人やたくとぅ、大ぎい主とぅ麻里子とぅぬ間柄ぬ事ん、良うしいねえ、知っちょおる筈やんでぃち、四郎や思とおいびいたん。 やしが、四郎や靖婿兄から大ぎい主とぅ麻里子ぬ事ぬ他にん、なあふぃん、色んな事、聞かさりいる事んかいなゆんでえ、うぬばすお、思寄ゆやびらんたん。 「知ら!、麻里子んでえ、見ちゃる覚いやあしが、我っ達がん、よねえ、分からんさあ。コザんかい夫持っち行じゃんでぃぬ沙汰迄え、聞ちょおしがよお…。何が、実人ぬ、立ち戻たんでぃ言ちょおたるばあなあ」 湯蒸かすんでぃち、水棚ぬ前んかい立っちょおたる陽子や、四郎ぬ語たる事んかい、あんし、応えやびたん。 「あらぬ、ただ、麻里子や今あ、自ぬ母とぅ二人、暮らちょおんでぃぬ話やたくとぅどぅ、あねえあらんがやあんでぃ言ちょおるうっぴどぅやる」 四郎や、だてん、言らんでえ、今ねえし、勘違えさりゆんでぃ思やあに、言い直さびたん。 「やしが、大ぎい主に取てえ、けえ亡あちから、女とぅか子ぬ事なかい、沙汰さりいんでえ、思ちゃきん無えん事やっさあやあ…」 四郎とぅ陽子ぬ問答、聞ち、義理兄ん、何がな、言らんでえならんでぃ、思とおる面目口そおいびいたん。 「いぇえ、大ぎい主やよお、戦後、二十年前んじけえ亡あちゃる妻ぬウタぬ生ちちょおんでぃ、分かてぃからあ、ウタぬ方んかい戻てぃ来ゃるうっさどぅやんどお」 「汝身があ、戻てぃ来ゃるうっぴんでぃ言しが、女に取てえ、うりやかぬ哀り嘆かさる事お無えらんどおやあ」 水棚、前なちょおる陽子や靖ぬ話んかい耳平みとおる風儀なやあに、直、言葉返さびたん。 「やひが[5]よお」 靖や、いっそう間や、陽子んかい合あち、与那城物言いどぅさびいしが、西原人やる自ぬ弟ん達とぅ話するばあや、西原物言い[6]どぅすしが、女ぬ親あ平安名人やくとぅ、まるけえてぃなあや、あまくまあ、平安名物言いぬ混ちゅる事んあいびいたん。 「我が聞ちょおる話や、汝っ達が、聞ちょおる話とぅん、また、諸っさが沙汰そおる話とぅん、むさっとぅ、裏腹どぅやんどお。汝っ達や、大ぎい主や、色あやんでぃちどぅ聞ちょおる筈やしが、色ぎさそおる影とお、似合らな、でえじな、肝清らん人やたんどお」 他ぬ三人や、眉突合あち、靖話んかい耳広らみやびたん。 「実え、いちゃんだん、大ぎい主や、戦後、妻ぬウタぬ方んかい戻たい、元びれえぬ方んかい行じゃいそおたる訳えあらんどお」 靖ぬ物言い様や、其処んまい居る誰とぅん変わとおんえんそおいびいたん。 「元びれえぬ真鶴とぅ、女ん子、二人産ちゃる事迄え、戦後ぬ乱り故どぅやくとぅ、仕方んならん事やたしが、うぬ段、大ぎい主や、大事なんでぃん、肝痛まち、肝ん肝ならんたる心地やたんでぃどお」 「…」 「何が、うりん、西原んかい居る我っ達主から聞ちゃる話どぅやしがよお。だあ、大ぎい主や、元ぬ妻ぬ所んかい戻てぃ後からん、真鶴とぅ産ちぇえる子ん達ぬ事なかい、家から出じてえ、泣ち泣ちそおたんでぃどおやあ、うふぃぬ男てぃらむんぬ」 うり聞ちち、陽子や、ちゅうちゃん、涙くるくるうなとおる風儀やいびいたん。智子迄ん、目赤なてぃ来ちょおいびいたん。 「やんなあ、はっさ、うぬ事ん又、大どぅんもおいな事やっさあ」 四郎びけんが、応えやびたん。 「あり、とお、コーヒーん、なとおんどお。飲まがちいなあ、話ん出来らせえ」 「にへえどお」 「にふぇえでえびる」 智子びけんや、ししい言葉、使やびたん。 「果報し」 んでぃ、言ちから、靖や、又ん叫びやあさびたん。女二人や、きっさ、涙落とぅすし、けえ忘りとおる風儀やいびいたん。 「汝っ達や、大ぎい主ぬ事お、如何ぬ風儀しが、聞ちょおらあ分からのおあしが、だた、肝浅さんでぃ言ゃあま、沙汰そおしが、我があ、却てえ、大ぎい主がる、肝痛さる」 四郎や、今あ、口があ開ちゃびたん。 「へえ」 「確かに、大ぎい主や若さいにいや、いっぺえ、女ん達なかい、望まってぃん、なあんあらん、まちぶいかあぶいさってぃ、防がらんたしえ防がらんたしがてえ」 うぬばすびけんや、靖や薄笑え小さびたん。 「あっさ、大ぎい主やれえ、童ぬばすから、いちゃっさぬ前男やたくとぅ。彼んかい、うち惚りてぃ、与勝半島びけんからんあらん、かあま具志川まんぐらからん女ん達ぬ、大ぎい主んかい行ち会いが来いまんどおたんどお」 大ぎい主んでぃ言ちん、肥えてえ居らな、うちゃとおる丈程どぅそおいびいたる。六十歳余てぃん、いっぺえ、美ら二才やたる面影ぬ残とおいびいたん。 「妻とぅめえてぃからん、女なかい、持てぃ喰あたあなかい、逃ぎ回いそおたる時期んあたんでぃどお」 「あっさ、汝身え、なあ、人泣けえちゃい、笑あちゃいし、我ってえ、笑てぃが済むらあ、泣ちが済むらあ?」 やしが、森根靖主や、真肝な面目口んかい戻ちょおいびいたん。 「大ぎい主、兄弟姉妹達ん、兄弟姉妹ん達、てえ。だた、勘違えし、はごうささあに、意地ぬしいららな[7]、大ぎい主とお、隔み持っちゅんねえ、なたせえやあ」 「『沙汰ぬ残ゆん[8]』でえ、実に、うぬ事どぅやる筈やあ」 「とお、今日や、いいばす、靖義理兄ぬ話、聞ちぇえさ。いいばす、此処んかい、来ちぇえさ。我ぬん、勘違えそおるまま、家んかい帰えたんどおでえ、なあ、大事すてえさ」 四郎ん、靖話んかい、片心ん諸心ん許さびたん。 「何我ぬん、うんな話や、今迄、誰んかいん、さんたんどお。かたがた、今先、四郎が麻里子ぬ話すたくとぅどぅ、我ぬん、うんな話そおる」 「なあふぃん、うんな話や、前に語れえ済むたるむん」 陽子や、いふぃえ、口尖らちょおいびいたん。 「いいゆい、汝っ達や、我やかん、大ぎい主ぬ近間柄やくとぅ、我やかん、分かとおる話がやらんでぃる思とおたとおてぃ」 四郎や、今迄、長えさ分からんたる事ぬ分かいぎさあ回ゆんねえ、思やびたん。 肝ぬ底ぬ雲ぬ晴り心。 「ふぃるましいむんやしが、大ぎい主が、良いっ人やる事お、村ぬ人ん達はじみ、与勝中ぬ人ん達ん、分かとおたんどお」 靖話や、止しまいぎさあさがやあんでぃ、思いねえ、また、何がなぬ拍子なかい、叫びやあする模様んやいびいたん。 「あひんじる[9]、村会議員ぬん、十年が間んむとぅうとおてえさ。また、家んじ、札入りぬ加勢さあ達、御取い持ちいする女ぬ手がねえさあん、特てぃ、まんどおたんどおやあ」 今ぬまあどお、陽子が、分かたん振うなあさあに、話継じゃびたん。 「大ぎい主や、若さいにいから、村遊びぬ大原按司役さる為なかい、与那城中んじ、名言るっ人けえなやあに、また、聞くぃいん |