比嘉 清:作 |
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平成27年3月 | |
見知らん[1]従姉 比嘉 清 新暦ぬ十一月んでぃ言ちん、昼間あ、未だ、暑さいびいん。十月ぬ初み頃迄え、要用やたる扇風機[2]ぬ要らんなゆるうっぴどぅやいびいる。 十月ぬ半らから十二月初み頃迄え、真夏ぬ如し、ふみちぇえ居らんくとぅ、凌じいやっさしえ当たい前ぬ事がやらん分かやびらん。 やしが、四郎や思やびたん。考えてぃ見いねえ、童ぬばすお、十月ぬ終わいまんぐるからあ寒くなやびたん。学校ぬ衣替えい、待たんようい、寒くなゆたくとぅ、朝あ、寒さがたがたあさがなあ、学校んかい行じゃる覚いぬあいびいたん。 うんなある日ぬ高昼間、金城四郎ぬ携帯電話ぬ鳴やびたん。鳴らちょおしえ、彼が与那城ぬ親ぬ家んかい住どおる兄ぬ太郎やいびいたん。 「あぬよ、四郎、今日ぬ朝てえ、大ぎい主ぬけえ亡あちょおんでぃよお」 「あい、やんなあ。また、ちゅうちゃんやさやあ」 「ああくとぅよお」 「うぬ宮城主や病どぅそおたがやあ」 「知らなあ、だあ、近頃お、宮城ぬ音沙汰ん聞かんくとぅ」 四郎や、前々から、与那城ぬ親ぬ家や、西原[3]ぬ宮城ぬ家とお隔み持っちょおたる事お、粗々、分かとおいびいたん。 「あひよお、汝ってえ、うが遠からあ、やしが、ないれえ、早く、あまぬ家んかい行ちゅんねえしすしえ、ましえあらん?」 四郎や、自営業そおたくとぅ、彼処走い此処走いや、胴軽っさ、する事ぬないびたん。 「おお、あんしすさ」 字与那城お、宮城ぬ叔父さあぬ村とお隣字同士やいびいたん。やしが、四郎びけんや、他ぬ兄弟姉妹とお変わてぃ、かあま南城市どぅ宿元とぅそいびいたる。 「おお、なあ、あんしすさ」 「考えてぃ取らしよお。だあ、我ぬん、ちゅてえ小しから、すがてぃ佐知子とぅまじゅん、先なとおちゅさ」 佐知子んでえ、太郎ぬ妻やいびいたん。 四郎や、仕事んかい行じょおたる妻ぬ智子ぬ携帯電話鳴らちゃあに、語やびたん。 「あぬよお、我母弟ぬ宮城史春叔父さあぬ、今日ぬ朝、けえ亡あちゃんでぃよお」 「やんなあ。又急った事やっさあやあ」 「やくとぅ、我のお、今から、行じ来ゅうくとぅ、汝身え、家んじ待っちょおけえ」 「やんなあ、あんし、今日や自一人し、行ちゅるばあ?」 「へえ」 「あんしいねえ、明日ぬ事お、如何なとおが」 「行じ見だんでえ、分からん」 「あんせえ、行じっ来、後から語れえわ」 四郎ぬ、西原ぬ宮城ぬ叔父さあぬ家んかい、うち着ちゃしえ、うりから一時間びけん過じてぃからやいびいたん。きっさ、夕さんないがたあなとおいびいたん。 宮城家ぬ屋門や石門やいびいたん。石門や戦前迄え、あまくまんかい残とおたんでぃぬ事やしが、戦後お、なあ古でぃ、うかあさくとぅんでぃち、いいくる壊さっとおるむぬやいびいたん。今ちきてぃ、残とおしえ、ふぃるましむんやいびいたん。 うぬ石門や、見ちん重らあさんあいびいたくとぅ、巡てぃ来ゅうる御客ん達や、いいくる、「ちゃめ」んでぃち、叫びやびたん。 大ぎい主んでえ、宮城史春ぬ徒名なとおいびいたん。実名やか、言い易っさんあたくとぅがやたら、村ぬ人ん達ん、親戚ん達ん、彼が同士ん達ん、諸、「大ぎい主」んでぃる言ちょおいびいたる。 彼っ達世代や必じ、徒名し呼だい合図さいする慣りどぅやいびいたくとぅ、当人くるお、嫌でぃん応でぃんないびらんたん。 大ぎい主や、六十前頃迄え、村会議員ぬんそおたる事んあてぃ、彼ぬ亡あちゃる其ぬ日、御悔やみ言いが参る御客お、入り違あい違いし、まんどおいびいたん。 「あい、四郎。汝身え自一人どぅやん?」 四郎ぬ、声枯らあんかい、とぅん返えたれえ、後あんかい、立っちょおたしえ、史春叔父さあ長女ぬ米子やいびいたん。 米子や自ぬ父ぬけえ亡あちん、びってえんなとおる風儀えあいびらんたん。彼女が意地ゃあやんでぃ言しやか、父ん、なあ、逝ちゅる時分どぅやるんでぃち、やすんじとおる風儀どぅやいびいたる。 「んん、我一人どぅやんどお、だあ、我っ達智子や、仕事ぬ憩ららなよお。やしが、明日あ、まんな、来らりいさ。あんし、出棺や何時にやが」 「明日朝ぬ九時なかいや出棺やんでぃどお」 「うぬ早くなあ。我っ達智子や、子ん達、学校んかい添おてぃ行じからどぅ来らりいくとぅ、十二時まん頃どぅないる筈」 「おお、あんやてぃん、済むんどお。汝ってえ、あが遠からやるむぬ」 「汝っ達位牌抱ちゃあや、大兄ぬるすんなあ」 「へえ、あんやしが、彼え、明日どぅ内地から帰ゆる」 「いぇえ、正敏や内地んかいどぅ居んばあなあ」 「あまんじ、建築関係そおんよお」 「あんせえ、内地からやれえ、にっかないんてえ」 「朝一番ぬ飛行機やくとぅ、火葬んかいや、かき合あゆる算段そおしが」 「やれえ、上等やさ」 仏壇ぬ前んか置かっとおる棺桶箱[4]ぬ中んかいや宮城主ぬ寝んしらっとおいびいたん。四郎ぬ前んかいや、二人ぬ婆前ぬ、彼見ち、涙くるくるうし、手巾さあに涙、拭やあ拭やあそおいびいたん。二人共に、大ぎい主ぬ従姉やいびいたん。 「あいええやあ、大ぎい主、なあ目や開き能さんばあなあ。汝身え、なあ、うっさどぅ、物お、食むんな?」 うぬ後、うぬ婆前ぬ言ちゃる事ぬ可笑さぬ、まんぐらぬ男ん達や、笑えかんてぃい、けえ、そおいびいたん。諸、声出じゃち、笑ゆしんにじとおる風儀やいびいたん。 「あっさみよお、大ぎい主、死に顔迄、肌欲しゃぎさそおる面うちきしい喰てぃ。汝身えなあ、肌あ欲しゃあ無えらんどぅあんばあなあ」。 また、なあ一人ぬ婆前や、 「あいええ、大ぎい主、汝身え、なあ案内無しく、去いんばあなあ。やしがなあ、汝身んやがてぃ八十やせえ。良いさくどぅやんどお、大ぎい主。却てえ、汝家組[5]、煩らさんようい、だでえまなかい、命落とぅいそおくとぅ、しょう入っちょおさ。何ぬ心配んさんようい、逝りよおやあ。汝妻ぬウタん、あまんじ、男飢がりさあに、待ちかんてぃいそおる筈やるむんぬ、とお、早まりい、逝ちみそおれえ」 うぬ大ぎい主二人ぬ従姉婆前にちいてえ、四郎や見ちゃる覚いやあたしが、だてえん、話さる覚いや無えやびらんたん。 うぬ一人ぬ婆前ぬ、とぅん返えたれえ、四郎ぬ居る事んかい気に付ちゃる風儀やいびいたん。 「あいなあ、うんじゅお、前金城ぬ四郎やあらん?」 前金城んでえ、金城四郎ぬ親ぬ家ぬ家号やいびいたん。 「うう、やいびいんどおさい」 「あっさ、あんし見い遠さる。大人けえなてぃやあ。とお、我っ達大ぎい主、見ち取らしえ、うり」 婆前二人や四郎ぬ事お、良う知っちょおる風儀やいびいたん。棺桶箱ぬ側から離りゆしとぅまじゅん、今先迄、しっくぇえはっくぇそおたる二人や、ちゅうちゃん、笑え顔んかいけえなやびたん。 四郎や、二人ぬあった変わい様んかい、いふぇえ、可笑さ思いんさしが、にじてぃ、棺桶箱ぬ中んかい面伸ばがらち向きやびたん。あんし、手押合さびたん。 傍んかいや、大ぎい主長女ぬ米子ぬ坐ちょおいびいたん。大ぎい主妻ぬウタあ、二十年前ぐれえんじ、けえ亡あちょおいびいたん。 「あが遠、那覇から来取らち、果報うしどお、なあ」 「あらん、我のお、島尻、南城市からどぅやんどお」 此まりかあぬ人ん達にとぅてえ、南部方まんぐらあ、諸、纏みてぃ「那覇」でぃち、片付きとおる風儀やいびいたん。くめえきてぃ、一ちなあ一ちなあぬシマぬ名、言しえ、煩れえ事やいぎさいびいたん。 「あい、やたんなあ。御無礼なとおさ」 だあ、んちゃ、四郎やてぃん、まる平生や、くまぬ人ん達とお、なんぞお、ふぃれえ事んしえ居らんどぅあくとぅ、くまぬ人数ぬ四郎達ぬ事、くめえきてえ分からんてぃん、ふぃるましい事お、あいびらんたん。 四郎や後んかい居たるたん前とぅ替わゆんでぃち、後しんちゃあさびたん。其ぬたん前や、棺桶箱ぬ中、伸ばがてぃ見あびたん。泣ちいやさんぐうとぅう、大ぎい主とぅ物語小する如おいびいたん。 「普通やれえ、寒くないるばすんじどぅ、いいくる血ぬ巡いぬ、悪っさなてぃ、脳溢血んでえなかい、けえ亡あするむぬやしが、あっさ、汝身え、温ばあっとるばすに、けえ亡あすんでぃんあんなあ」 うり聞ち、米子ぬ声枯ら声し、大ぎい主ぬ代わい、応えやびたん。 「あらんどお、うんちゅうさい、我っ達主や、温ばあっとおくとぅどぅ、けえ亡あちょおいぎさいびいんどお。昨日や、かわてぃ、温ばあっとおたしえやあ、やくとぅ、我った主や、『うんなばあや、庭ぬ草刈らんでえ』でぃちゃあま、草刈いかちそおたる風儀やしが、どぅくまた、汗ぬ走い強さぬ、日ぬ熱負き、なやあにどぅ、けえ倒りとおたる風儀やいびいんどお。あっさ、実に、庭んじ物吐ち、ゐんちゃてぃ、倒りとおみせたんでぃ。隣ぬカジャア[6]うんちゅうぬ、しょう脱ぎてぃ、助き起くちゃるばすお、なあ、気湿ったとおみせえたんでぃさ。救急車呼でぃ、病院ぬんかい連おてぃ、行じゃるむぬやしが、だあ、一けぬんちょおん、目ん覚みらんぐうとぅう、今日ぬ明き方、けえ亡あちゃるばすどぅやみせえんどお」 「いぇえ、あんどぅやたん?。んちゃ、昨日や、温ばあとおたくとぅやあ」 「暑さん無えらん、寒くん無えらんでぃ思てぃ、油断どぅんしいねえ、んちゃ、大事ないっさあやあ」 米子や、其ぬうんちゅうとぅぬ言ちゃい外ちゃい済まちゃれえ、四郎ぬ側向かやびたん。四郎ぬ兄弟姉妹あ、高昼間まんぐるなかい、伸ばがてぃから、きっさ、家んかい戻てぃ去ちゃんでぃぬ話やいびいたん。あんやんでぃち、分かたれえ、四郎や、長居やならんでぃち思やびたん。 よういいふぃ小、経っちから、四郎や、米子んかい向かやびたん。 「とお、あんせえ、我のお、家とぅめえらんでえないびらん。又明日、来ゅうさ」 四郎や、うち回るう、そおたる御悔やみさあ達んかい、御礼さがなあ立っちゃびたん。 「果報しどお、なあ、四郎。又明日ん、難儀し取らしよお」 うぬばす、四郎や、ちゅうちゃん、いふぃえ、異風なあ思やびたん。 親ぬ家とぅ此まぬ宮城家とお、何んでぃち隔み持っっちゅんねえなたがやあ。 やしが、四郎ぬ、ありくり、考えてぃん、分かゆるむぬおあいびらんたん。ただ、四郎が童ぬばす、大概、十年ぐれえが間、四郎ぬ母かたくじら男ぬ親とぅ大ぎい主が何がなぬ事なかい、剋やたる事ぬ覚いや、胸内深くんかいあいびいたん。 祝儀ぬ支こういぬ事なかいがやたら、ユタ事なかいがやたら、あらんでえ又、政治んでえ札入りぬ事なかいがやたら、二人ぬ親ぬ、けえ亡あちゃる今なてぃから、何ん分かゆるむぬお、あいびらんたん。 ただ、あいゆかんぬ酒いやたる四郎ぬ男ぬ親ぬ、まるけえてぃなあ、酒飲みがちいなあ、大ぎい主んかい、ごうぐちひゃあぐちする事ん又、肝ぬ覚いぬあいびいたん。 家とぅ宮城ぬ家ぬ事にちいてぃ、四郎んかい言ち聞かする家組あ、誰ん居いびらんたん。何ぬ事にちいてぃぬ高足遣えがやいびいたら。 くぬ前、居らんなたる四郎ぬ母、世音や、西原んかい住どおる自ぬ妹二人ぬ側んかいや、四郎が小さいにいや、いいくる遊びいが連おてぃ行ちゅたるむぬやしが、何がやら、弟ぬ史春ぬ側びけんかいや、連おてぃ行かったる肝ぬ覚いや、なんずかあ、無えやびらんたん。 四郎ぬ男ぬ親とぅ剋やたんでぃ言しやか、却てえ、母とぅが剋やたらあ、今とぅなてえ、なあ分かやびらん。 「とおあんせえ、明日やあ」 声枯らあ米子や、あん言ち、従弟ぬ四郎、門口迄、仕えさびたん。 門口ぬ傍んかいや、四郎ぬ見ちゃる覚いぬある女ぬ立っちょおいびいたん。 一目、見じいねえ、歳え、分かい難さたしが、いやでぃん、三十半らぐれえや、あらんがあらんでぃ思ありいやびたん。婦人風儀んやしえやいびいたしが、また、ゆゆ美らさんあたくとぅ、なあだ若女ぬ如んあいびいたん。やしが、後から聞ちゃる話なかいや、実ねえ、四十余いやたんでぃぬ事やいびいん。 肌色ん白さぬ、さじりとおる鼻あ、高ねえいし美らさい、黒スカートから出じとおる足ん黒ストッキング履ちょおいびいたしが、若女ぬ足ぬ如、さじりとおいびいたん。 女ぬ色香あ、四郎ぬ目鼻んかい、やふぁやふぁとぅ入っち来ゅうる如おいびいたん。 やしが、一てえ小しいねえ、四郎や、うん如おる女、見ちゃる覚いぬあんでぃしえ、勘違えがやたらあ分からんでぃ思ゆんねえないびたん。何時ぬ間がやら、四郎や、女ぬ後風儀[7]、ちゃあ眺みいそおいびいたん。 いやでぃん、学生時分とぅか、別ぬ所ぬ女とぅるばっぺえとおる筈んでぃ、思やがなあ、女ぬ面あ見だん振うなあさあに、石門から出じらんでぃそおたるばすやいびいたん。 「はいさい[8]」 美ら声なかいする合図ぬ聞かりやびたん。声ぬ主え、うぬ見い知らん女ぬ物やいびいたん。 四郎や、いちゃっさ、とぅぬまぬうそおいびいたがやあ。思あじふらあじ、同ぬ如、 「あい、はいさい」 んでぃち、応えやびたん。 「うんじゅお、与那城ぬ前金城ぬ四郎どぅやみせえさに」 「やんどお」 「我ねえ、高江洲麻里子んでぃ言ちょおいびいさ、見知っっちょおてぃ呉みそおれえ」 四郎やふぃるまさ思いさがなあ、いふぃえ、どぅまんぐぃてぃが居たらん分かやびらんたん。 見知らん女どぅやる筈やしが、何んでぃち、自ぬ名知っちょおがやあ。 「初みてえ、あいびらんどお」 んでぃち、麻里子や、「んふふ」んでぃち、目笑えさびたん。 四郎や、ゆくん、とぅぬうまぬうさびたん。みったい、まあぬ誰がやたら。 女お、四郎ぬ、とぅぬうまぬうそおる面目口見ち、今度お、薄笑えさびたん。 「かあま早くに、くまぬ十五夜ぬ村遊びぬばすに、いいくる、行逢あてえ見あびらんたん?」 覚らじに、四郎や面々あとぅ、女見あびたん。 あんし、だでえまなかい、まるまるうとぅ、思い出じゃさびたん。肝内んじ、「あっはあ」んでぃ、叫びやびたん。 「あい、思い出じゃちゃさあ。行逢いや、さしが、うんにいや、話さる覚いや無えらんたしがるやあ…」 確かに、うんにいや、四郎や中学校ぐれえどぅやたい、また、あいゆかんぬ知らん人んやたくとぅ、他所ジマぬ人とぅ話する存分ぬある訳え、無えやびらんたん。 「あんやたしが、我ねえ、良う覚いとおたんどお」 「いぇえ」 「なあ、家んかいどぅやんなあ」 「だあ、なあ家とぅめえらなんでぃ思てぃどぅ、立っち、来ょおしが」 「あんし、うんじゅお、家や、何処やくとぅ?」 「かあま南城市どぅやしが…」 「あが遠なあ、やしがあんせえ、安慶名あ道しがらどぅやせえ、とお、我、汝車んかい乗してぃ取らさらんなあ」 四郎が車持っちょおる事お、当たい前ぬ事とぅしち、考えとおる風儀やいびいたん。 やしが、安慶名や、道しがらあ、あいびらんたん。四郎や島尻んかい向かゆるばあや、いいくる勝連城址ぬ側ぬ道から沖縄[9]市ぬ泡瀬ぬ大道んかい降りてぃ、与那原往還なありいどぅ行ちゃびいる。安慶名や遠回いどぅやいびいたる。 やしが、当たい前ぬ事、うんな事んでえ言いねえ、折角、乗してぃ取らしんでぃ言ちょおるむぬ、無礼なやびいん。あらぬ、無礼んでぃ言しやか、四郎や、何がやら、うぬ女とぅなあふぃん、物語小しい欲しゃん、あいびいたん。 「おお、おお、済むんどお、とおあんせえ」 四郎車あ、悪な中古車小どぅやいびいたしが、エンジンや、いそうしゃぎそおる音立てぃとおいびいたん。 「やしがまた、うんじゅお、実に、我事、良う覚いとおてえさあ」 本当や、四郎や、先じえ、麻里子とぅ宮城史春主とお、如何ぬ様な間柄なとおがんでぃ、訊かんでぃるそおいびいたしが、うぬ分別え、頭から飛でぃ去ち無えやびらんたん。 「んふふ」 麻里子や、実え、「だああんせえ、うんじゅお、うんにいや、村遊びえ、見だな、我びけんどぅ、見じゃあ見じゃあそおたるむぬ」でぃ、言る代わい、銜ん笑え小どぅさびたる。 「あんし、四郎主や、今ん、芝居とぅか組踊そうなむぬお、好ちやん?」 「好ちやんどお」 「やしが、なあ、村遊びそおなむぬん、組踊そおなむぬん、うんにいやか、けえ廃りてぃやあ」 「やくとぅよお、実に沖縄中が、あんしゅかんでぃん、うち変わてぃ、いっそうから、大和慣いけえおし…」 四郎や、うぬ女、初みてぃ、見ちゃしえ、確か中学時分やたる筈んでぃ思やびたん。 うんにいぬ西原ぬ村遊びんじ、四郎や、美童やたるばすぬ其ぬ女ぬんかい、目惚りけえそおいびいたん。 自ぬ村んかいや居らん風儀ぬ面影んそおい、服ん、香ばさい、美らさんあいびいたん。何んでぃちん、ふぃるまさしえ、彼女が容貌え、まあにん無えらん風儀やる事やいびいたん。 やしが、今あ、四郎や大人なやあに、妻んとぅめえとおる身ぬ上。今やれえ、何ぬ上辺事ん考えらんようい、肝据してぃ、物語合する事んないびいん。 「あんし、うんじゅお、正安慶名ん人どぅやるい」 安慶名んでぃ言いねえ、与勝半島から、具志川中ぬ市なとおいびいたん。 かわてぃ与勝半島ぬ童ん達や、親から「でぃか、安慶名んかい連おてぃ行か」でぃ言らりねえ、でえじな、いしょうさ[10]ぬないびらんたん。 金城ぬ家組あ、いいくる七月・正月ぬ買い物のお安慶名んじする習やびいたん。尤ん、正月買い物ぐれえや、まるけえてえ、那覇ぬ平和通りんかい、行ちゅるばあんあいびいたしが…。 安慶名ぬ市場[11]んかい、入りんちいねえ、何時やてぃん、必じ、旨さ香ばぬさびたん。うぬまあさ香ばあ、夜中迄ん残とおいびいたん。親ん、旨さ香ばんかい、にじららんがあたらあ、また必じ、天麩羅買おてぃ、子んかい食なさびいたん。当たい前ぬ事、親くるん、食なびたん。 「ましやあ、安慶名んでぃ言いねえ、市場んかいや、旨あさ物ぬんまんどおい」 「あらんどお、安慶名ん人やてぃん市場んかいや、まるけえてぃなあどぅ行ちゅんどお」 「いぇえ、やんなあ。やしが、毎日、市場から旨あさ香ばぬ来ゃあに、良い塩梅やあらんなあ」 「あっさ、何が金城主や、あんし餓鬼まい物言いし」 女お片口笑え、けえさびたん。 「やしが、我ねえ、元からぬ安慶名ん人おあらんどおやあ」 「へえ、あんせえ、まあん人やくとぅ?」 「元お安勢里」 「へえ、やんなあ」 やくとぅどぅ、面木目ん、美ら作いそおるんでぃ、四郎や思やびたん。安勢里ん人んでぃ言いねえ、津堅ん人とぅ同ぬむん、琉球んかい、かあま、あまん世から居たる先住民なとおいびいん。同ぬ人ん達や、今帰仁、本部、糸満、先島んかいんまんどおいびいたしが、津堅人、安勢里人ぬ影え、一目見じいねえ、和蘭がやらんでぃ思ありゆるあたい、色分きてぃ変わとおい、誰がん分かやびいん。 其ぬ他ぬ人ん達や、多さ、いきらさあ、あしが、琉球んかい後から来ゃる大和人とぅか、大陸ん人、東南アジアん人とぅ混んちゃあ、けえなやあに、少らくけえなとおるむぬやいびいん。 其んな人ん達ぬ事、知っちょおたる四郎や、学者あ、あらんたしが、沖縄人お、ただ縄文人、大陸風儀や弥生人んでぃゆる色分きぬしい様んかいや、いふぃえ、違てえ居らんがあらんでぃ思いとおいびいたん。 琉球んかいや、弥生人とぅ縄文人びけえのおあらな、先言ちゃる安勢里・津堅人とぅか、湿ったい耳ん人[12]とぅかねえぬ別ぬ先住民ぬ居たんでぃち、思とおびいたん。 四郎ぬ中学校一年生やたるばすぬ十五夜祭ぬ三日目ぬ日やいびいたん。学校からぬ戻やあ、かたがた、大信座ぬ宣伝車ぬ四郎ぬ村、回とおいびいたん。 「ゴ当地ノ皆サン、コチラハ、大信座ノ宣伝マイクデゴザイマス。来ル○○日、夜7時ヨリ、与那城映画館ニテ、…」 沖縄芝居や諸、沖縄語なかいどぅ、そおたるむぬやいびいしが、宣伝マイクぬ村回いびけえんや、ヤマトゥ口さあにそおいびいたる。 うり聞ちょおたる道端ぬ大人同士ぬ、 「あっさ、あっ達芝居しいやかん、ぞおい、村芝居ぬる面白さる。特てぃ、西原ぬ大ぎい主達ぬ、そおる大原城ぬる面白さる」 四郎や、自ぬ叔父さぬ、あんし、聞くぃいぬ高さがやあんでぃ、思いねえ、いしょうさぬないびらんたん。 自ぬ村びけんやあらんようい、まんぐらぬ村んじ、あんし、沙汰さりゆるあたい、西原ぬ村芝居や音に響まっとおいびいたん。 十五夜ぬ初みぬ夜お、自ぬ村ぬ村芝居、見ち、二日目や、四郎ぬ祖母ぬ生まり故郷やる平安名ぬ村芝居、見じいが行ちゅる慣りなとおびいたん。 十五夜祭ぬ末ぬ日、四郎や、いっそうまぬ年ぬ如、母ぬ世音なかい、「西原ぬ村遊びんかい連おてぃ行ちゅくとぅ、支こうとおき」んでぃ言らりやびたん。 やしが、四郎や肝ぬ乗りらりやびらんたん。母とぅまあがなんかい、行ちゅしやか、友ん達とぅ遊ぶしえまし。 「あんまあ、我のお行かんどお」 「あい、何が」 「行ちい欲しゃあ無えらんとおてぃ」 同ぬ物言い様さあに、四郎ぬ兄姉ん達ん、諸、中学生ないねえ、母とお、何処んかいん、行かんなとおいびいたん。うぬ事ん、んちゃ、子ん達ぬ大人なてぃ行ちゅる徴どぅやら筈やんでぃん思いんさしが、母や、目笑えさあに、言やびたん。 「今度びけんどぅやくとぅ、まじゅん、行じ取らしえ」 母ぬ寂っさぎさる声聞ち、四郎ん、母が肝苦しくなやあに応えやびたん。 「あんせえ、今度迄びけんどぅやんどお」 「何が、友とぅ何処がなぬ村芝居やてぃん見じいが行ちゅる積む合どぅやたんなあ」 四郎や何処ぬ誰とぅん、まじゅん、何処がなんかい行ちゅるくぬみえ、しえ居いびらんたん。ただ、何がやら母とぅまじゅん、行ちゅしえ、いふぃえ、面恥じかさんでい思ゆる年頃どぅなとおたる筈やいびいたん。 隣村ぬ西原あ、母ぬ生まり故郷んやい、彼女が親ぬ家ぬある所やくとぅ、四郎や、でえじなぬ小さいにいから、折目・節日ぬばすお、いいくる、母なかい連おらってぃ行ちゅる所んやいびいたん。 やくとぅ、西原あ四郎にとぅてえ、当たい前ぬ事、自ぬ村ぬ如、隅々てえでえ、知っちょおいびいたん。 四郎や、母ぬ親ぬ家んかい行じ、仏壇ぬんかい手押合あちょおる間、西原ぬ村屋んかい、伸ばがやびたん。ないれえ、母から離りい欲しゃんあたくとぅやいびいん。 村屋んじえ、村ぬ二才達、女小達が、今日すぬ芝居ぬ稽古そおびいたん。 なあだ中学生どぅやたくとぅ、四郎や組踊言葉あ、粗々どぅ分かゆる、大概や分かやびらんたん。 やしが、うりん、また、当たい前ぬ事やいびいたん。 組踊言葉んでぃしえ、実に、平民ぬまる平生使とおる言葉とお、あい変わてぃ、うちなあぐち風儀し叫びとおるびけんぬ大和口ぬ混んちまんでぃ、大概や作い言葉どぅなとおたくとぅんやいびいん。 四郎が小学生から中学生ぬばす迄え「方言撲滅運動」ぬ万事やいびいたくとぅ、大概ぬ、親ん達ん他ぬ大人ん達ん、子ん達、童ん達んかい、芝居言葉、習あするっ人お、むさっとぅ居いびらんたん。 やてぃん、ういんにいや、うぬ事お、当たい前んでぃが思あっとおたらあ、大人ん童ん、共に誰ん肝に掛きゆる人お、居いびらたんらん。 さてぃ、夕さんでぃなてぃ、村屋んかい人ぬ揃い始みやびたん。 四郎や、芝居や、なれえ、母から離りてぃ、見じゅる事にそおいびいたん。母や、生まり故郷やる西原んじ夫とぅめえてぃ、んまんかい住どおたる自ぬ妹二人とぅ、ちゅまなやあに、村屋ぬ庭んかい敷かっとおる筵ぬ上辺んじ、姉妹物語そおびいたん。 母妹ん達や、四郎ぬ、まじゅんあらん事んかい、いふぃ小や肝掛かいそおる風儀やいびいたん。 「だあ、汝っ達、四郎や」 「んまりかあいんかいどぅ居る筈どお」 「なあ、んちゃ、親から離り欲しゃる年頃んやくとぅやあ」 「寂っさあないる筈えやしが、世音よ、うりえなあ仕方あ無えらん事どぅやんどお」 四郎や、自一人、村屋ぬ庭ぬ大ぎ木ぬ側んじ、立っち、芝居見ちょおいびいたん。 うぬうちなかい、組踊「大原城」ぬ始まやびたん。 大原按司え、戦なかい負きやあに、敵なかい、かちみらってぃ、胴回る大綱さあに縛らりやびたん。 やしが、大原按司え、片膝起てぃてぃ、何どぅくぃいどぅんでぃ、叫びやがなあ、起てぃてえる片足、上ぎたやがあんでぃ思いねえ、舞台ぬ床んかい、パンみかち下すしとぅまじゅん、うぬ大綱、二ち腕し、引っ切やびたん。うぬ所ぬどぅ、其ぬ組踊ぬ一番ぬ見所やいびいたん。 毎年、うぬ見所ないねえ、見物人のお、必じ、諸いっそうから、手ぱちぱちさびたん。うぬ所びけんや、婦人方ん、ゆんたく、措ちゃあに、舞台どぅ見詰きとおいびいたる。 世音とぅ彼女が妹ん達や、自ぬ弟が大原按司ぬ |