沖縄タイムス「唐獅子」掲載 提供 有限会社 南謡出版
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むんとぅぶりい  (掲載2007.4.13)
日本語版 うちなあぐち版

小学校に入学するまでに耳にしたことのある日本語と言えば、流行歌の「お富さん」や二、三の軍歌ぐらいであった。「お富」の歌詞にある「クロベー」とは、「黒ん坊」のことだと、長らく勘違いしていた。そんな世代同士でも通じないうちなあぐち「慣用句」がある。

「むんとぅぶりい(ないん)ど」は、父の口癖のようなものであった。食卓に「白いごはん」が乗せられるようになったのは、小学校三年ごろだったと記憶している。訳すれば、「ものに対して失礼(無礼)だぞ」。この場合の「むん」とは、「食べ物」に限定される。一粒でも食べ残すと、父はその言を必ず口にした。

二年前のある宴会でのこと。出席者は、皆がうちなあぐち世代である。酒だけが消費され、テーブルには、ご馳走の残骸。一人、二人と夜道に消えていく。ついに座には四、五名を残すのみとなった。私は、オードブルを指差して、「むんとぅぶりいあらに」と叫んでしまった。全員の視線が一斉に私に向いた。酒ボケなのかと思ったが、誰も聞いたことがないのだという。わが家だけの慣用句だったのだろうか。昔のことをしつこく聞ける唯一の人物だった母も七年前、父の元へ旅立ってしまった。

宴会といえば、郷里の与那城では、(きっと、今でも)中座するときは、きまって、「家とぅめえら」と言う。「家んかい帰らい」とは言わない。数年前、南風原町のあるサークルで、話題にしたところ、誰も耳にしたことがないという。郷土出版の新垣光勇氏が、「『家を探し求める』とは、奥ゆかしい表現だね」と言ってくれた。

日本語の慣用句でうちなあぐちに直訳したら、おかしなうちなあぐちになるものをリストアップして遊んだことがある。「足を運ぶ」に目をつけた。直訳は、「足かやあすん」。足を肩に担ぐのか、それとも、両手で持つのかなどと、その動作を想像しながら、誰もいない部屋で一人笑いをする。ある集まりで、受けを狙って話題にした。糸満市会議員のI氏は、ごく普通の表情で返してくれた。「足かやあすん?、足しげく行ったり来たりすることさ。よく使うよ」。

愕然としつつも、新しい知識を得た喜びで、ニヤケ面から真顔に切り替わった。

 
注:字数等ぬの関係で「唐獅子」と文言が違うところが若干あります。


 小学校(しょうぐゎっこう)んかい入学すぬまでぃなかい聞(ち)ちゃるくとぅぬあぬ日本語(にふんぐ)んでぃ言いねえ、流行歌ぬ「お富さん」んでえ、二(たあ)ち、三(みい)ちぬぬ軍歌ぐれえぬむんどぅやたる。「お富」ぬ歌詞んかいあぬ「クロベー」んでえや、「黒人(くくじん)」ぬくとぅやるんでぃ、長(なげ)えさ勘違(かんちげ)えそおたん。うんな世代同士(どうさあ)やてぃん通じらんうちなあぐち「慣用句」ぬあん。

「むんとぅぶりい(ないん)ど」や、父(すう)ぬ口癖(くちぐし)ねえそうなむんやたん。食卓んかい「白米(しるめえ)」ぬ乗(ぬ)しらりいんねえしなたしえ、小学校三年(さんにん)ぐるお、あらんたがやんでぃ、うら覚(うび)いそをん。訳しいねえ、「むぬんかい無礼(ぶりい)ど」。くぬばあぬ「む(ぬ)ん」んでえ、「食(か)み物(むん)」ぬくとぅどぅやる。一粒やてぃん食み残(ぬく)しいや、父や、必(かんな)じあん言ちゃるばすやん。

二年前(ににんめえ)ぬある宴会んじぬはなし。出席者あ、皆(むる)うちなあぐち世代やたん。酒(さき)びけんが消費さってぃ、テーブルんかいや、くゎっちいぬ残いむん。一人(ちゅい)、二人(たい)んでぃち夜道んかい、をらぅんなてぃいちゅん。とおなたれえ座(ざあ)んかいや四、五人がる残とをたる。我(わん)ねえ、オードブル指(うぃいび)差ち、「むんとぅぶりいあらに」んでぃち、けえあびたん。諸(むる)ぬ目玉(みんたま)が、いっそうから我はたんかい向きらったん。酒ぬゆいがやらんでぃ思たしが、(うぬ慣用句や)誰(たあ)ん聞ちゃるくとおねえらんでぃぬくとぅやたん。我ったあ家(やあ)びけんぬ慣用句がやたら。昔(んかし)ぬくとぅやれえ、まあまでぃん訊ちるくとぅぬないたる唯一人(ただちゅい)ぬ人やたるあんまあん七年前(しちにんめえ)父ぬはたんかい旅立ちゃん。

宴会(さんけえ、参会)んでぃいいねえシィマぬ与那城(ゆなぐしく)んじえ、(いやでぃん、今ちきてぃ)中座すぬばすお、いいくる、「家とぅめえら」んでぃ言ん。「家んかい帰らい」んでえ言ゃん。数年前、南風原(ふぇえばる)町ぬあるサークルんじ、うぬ話しされえ、誰ん聞ちゃるくとぅぬねえらんでぃぬくとぅ。郷土出版ぬ新垣光勇主が、「『家を探し求める』とは、奥ゆかしい表現だね」んでぃ、あびてぃ呉ぃたん。

日本語ぬ慣用句ぬうち、うちなあぐちんかい直訳しいねえ、いふうなうちなあぐちんかいないぬむんリストアップさあい、遊(あし)だぬくとぅぬあん。「足を運ぶ」んかい目(みい)ちきたん。直訳や、「足かやあすん」。足、肩んかいどぅ担(かた)みゆがや、あらんでえ、両手(たあちでぃい)しどぅ持(む)っちゅがやんでぃち、うぬ動作、想像さがなあ、誰ん居らん座うとをてぃ独一人笑(どぅうちゅいわれ)えさん。ある揃(すり)んじ、うぬ話し、笑あすんちやたん。糸満市会議員ぬI主や、笑えんさんようい、いれえてぃ呉ぃたん。「足かやあすん?、足しげく行ったり来たりすることさ。よく使うよ」。

ちるだいさしが、新知識分かたるゐいりきさ。みい笑え小そおたるむぬお、真肝(まじむ)な顔(ちら)んかい替わたん。

 
注:字数等ぬぬ関係なかい「唐獅子」とぅ文言ぬ違ゆるとぅくるぬくうてん小あいびいん。